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その7  「ずいぶんとまぁやり込んだんでございまさぁねぇ姫様」 「追加の課金してくれてるかなぁ?」 「そこ、彼ら持ちなんですね。しかし姫様、なにやら只ならぬ空気みたいですよ……」

 引き続き、姫と赤鼻の道化悪魔。

「悪ぃわりぃ、怒鳴ったりして」

「だって、あんなとこにずっと閉じ込められてたんだもん……」

「……そのわりには、色々注文してきたよな、姫さんよ。やれ部屋が薄暗いだの、風通しが悪いだの、もっと景色が見たいだの……、おかげで立派な建物を建築させやがって」

「夜になって窓から顔を出して見る星空は格別だったよぉ♪」

「姫さん、どっかの村の宿屋限定で宿泊客の夢に出演してなかっただろぉな?」

「え、何の話?」

「いや、気にせんでいい」

「あたしの涙はしょっぱいだけだよぉ?」

「知らんがなッ!」

「あとは……、そぉだねぇ、まぁ、魔物さんたちとお喋りしてたっけな。あのときは」

「まぁ、なんにせよ、辛い思いをさせて、すまなかったな」

「ううん。楽しかったよぉ。……パーティー全員が裸で五つ首竜を討伐とか、装備禁止縛り攻略したときとか」

「そっちッ? なに皆でゲームしてンのッ? オンゲの醍醐味だけども!」

「いやでも、みんな良い魔物さんだったから、怖くなかったよ。……ねぇねぇ、そういえば、みんなちゃんと元気? 鬼子ちゃんとか、ドラゴンパパさん、ゴーレムくんは?」

「……あ、ああ、それなんだがな」

「どぉして赤鼻だけ来たの? ……あれ? そもそも何の用だっけ?」

「いや、だから、オマエに頼みがあるンだよ、姫さん、いいか?」


 と、

「ちょっとちょっとー! アンタぁ! いつまで話してるんスかーッ!」

 急に女声が辺りに響き渡った。

 ……ああ。

 聞き覚えのある声だ。

 姿は見えなくても、姫にはそれが誰なのか、すぐに分かった。

 でもやはり見えないので、なんとなく頭上を見渡しながら、姫は明るく返事をする。

「あ、鬼子ちゃんだ、やっほ~ぅ」

「姫ちゃん、やっほ~っス。お久しぶりっスねぇ」

 懐かしい声に、姫はその姿を思い浮かべた。それは、赤鬼娘、と呼びたくなるような姿。しかも、羨ましくなるほど、たわわな感じの。

「……って、それどころじゃないっスよ! 奴らがすぐ、そこまで来てるっス!」

「え、なになに? 何の話?」

 なにやら緊迫した気配だが、鬼子は声だけなので、姫には状況が把握出来ないでいた。

「まぢかッ! やっべぇな。奴ら、もう、ここが分かったのか……ッ?」

 道化悪魔には伝わったようだ。その焦燥感を姫は察する。

 ひめは おもった!

 ……なにコイツらの、意志疎通。このふたりってそぉいう仲だったっけ? ちょっ、やめてくんな~い、いや、まぢで~……。

「ちょっとちょっと~ぉ、ねぇ、なになにーぃ? なんなのぉふたりぃ? 鬼子ちゃん、赤鼻と、どーゆーご関係~?」

「黙れ、金パツ縦ロールッ!」

「……ひぃぃッ!」

「あ、いや、すまん、姫さん。……って、何をそんなに震えてンだ?」

 やった!

 ひめは おびえている!

「べ、べべべ、べつにッ、なんでもないもん……ッ!」

 ……それはもはやちょっとしたトラウマのようだった。

「てか、ダベってたら、まぢで時間が来ちまった!」

「ちょっとぉ、なんなのよぉ、も~ぉ」

「いいか? もう、姫さんしか、いないンだ……」

 どうけあくまは しんけんな まなざしだ!

「これ頼むのは……、気が引けるンだが……」

「……うん?」


「魔王様を助けてくれ……ッ!」


「…………?」

 意味が、分からない。

 だが、姫は考えた。自分で足りないと思っていたその頭だけど、必死に回転させてみる。

 ――ひめは おもった!

 魔王を、助けろ……? 誰が……? このあたしが……? いや、魔王って、魔族の王で、あたしたち人間を襲って来た魔物たちの主で――、……人間を襲う? 誰かが、戦う……? ――ああ、そうだ。魔王は……、魔王は、勇者様を……。

「魔王様は、チカラを失くして、この世界のどこかに、飛ばされちまったンだ……!」

 目の前の道化が、らしからぬ必死の形相で何かを訴えていた。

 だが、姫は辿り着こうとしていた。

「だって……だって……まおうは……勇者様を……」

「――ちがうッ!」

 道化が姫のそれを遮った。

「魔王様は、そんなことはしていないッ!」

「……うそ……?」

「魔王様は勇者を、――殺してなんかない」

 何かが途切れてしまいそうだった。

「でも、みんな、……でも、みんなが、あたしに……」

 姫も必死に戦っていた。

「みんなッ、勇者様は、もう……いないって……ッ!」

「頼む、信じてくれ! 勇者は、勇者は……」

 姫は道化に腕を掴まれた。

 しっかりと、両の掌がつながれる。


「――勇者は生きているッ!」


「生きて……、勇者様が……」

「ああ、そうだ。勇者は今も戦ってンだよ。暴走した魔王様の抜け殻を止める為にな」

「…………」

 ひめは おもっていた。

 ……手、あったかいんだ……、こいつ、あくまなのに……、ここ、夢の中だったはずじゃ……。

「だから、魔王様の本体を探し出して、勇者と共に、あいつを……」


???「裏切り者どもが、こんなところにいたとはね……!」


「うおおおお、ヤバい、ヤバいっスよおおおッ!」

 謎の声がして、赤鬼娘の焦りが伝わった。

「まぢか! 仕方ねぇ、逃げッぞ!」

 道化の腕が、足が、姿が、消えて行く――ッ!

「ちょっと待って! ねぇ! 赤鼻ぁ!」


手下A「魔法陣だと? ……貴様ら、ここで何をしていた?」

手下B「今この場で、吐かせちまいますか……?」

???「べつに。どぉでもいいさ。あとでゆっくり聞いてやろうよ」


「いいか? 頼んだぜ、姫さん。魔王様を探して、助けてやってくれ……ッ!」

「姫ちゃん、魔王様を、頼んだっスよおおおッ!」

 声が、ぐるぐると渦を巻き、やがて全てが闇に染まっていく――、


「赤鼻ーぁッ! 鬼子ちゃーんッ! ねぇ! 待ってよぉ! ワケがわからないよぉーッ!」


 ――静寂。


 ひめは めをさました……。

 手のひらに ぬくもりだけが のこっていた。


 つづく!

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