その6 「この物語はフィクションです!」 「え、なによぉ? いきなり……」 「大事なことなので、姫様もご一緒に。はい、もう一度……せ~のッ!」 「「――この物語はフィクションですッ!」」
「あれ……? ここ、どこだろ……? あたし、寝てたんじゃ……?」
姫は目を覚ました。
が、そこは自分の寝室ではなかった。
薄紅色のもやが掛かった不思議な空間だった。
気が付いたらそこで座っていた。
「いや、ここはまだ夢の中だぜ、姫さんの、な……」
と、声がして、もやの中から、それが姿を現す。
「あっ、……赤鼻じゃーん! やっほ~ぅ」
「やっほーじゃねぇよ!」
姫に赤鼻と呼ばれたのは、派手な格好をした細身の悪魔。確かに赤い球状の付け鼻をしている。まるで道化師そのものだった。羽根と尻尾のおまけ付きだ。
そいつが続けて怒鳴る。
「てかよぉ、なんちゅう夢見てンだ、オマエはッ!」
「いやん……っ!」
……ぽっ。
「頬を赤らめるなッ!」
「だって、だって~ぇ! 勇者様ったら、あんなに大胆なんだもんッ♪」
「知らンがなッ!」
「それよりも気になるのは、あいつだよ……!」
ひめは しんけんな まなざしだッ!
「あたしの勇者様を、めろめろのぬもぬもに……、あんな目に合すなんて……!」
「いや、知らンってば。なんだよ、ぬもぬもって、どぉいう状況だ?」
「あたし、負けてられないよぉッ!」
「なんの決意だッ?」
「あんな――、銀髪ロン毛の角付き野郎なんかにぃッ!」
「いや、だから、もう知らン――――ってか、やっぱそれウチの魔王様だろぉッ?」
「え、なんだって? くわしくききたいって?」
ひめの ひとみが あやしくひかるッ!
「聴きたくないわッ! 調子に乗るな、この縦ロールがっ!」
「……ちぇっ」
「バカタレ! ダベってる場合かッ! 時間無いンじゃ、こっちはよぉッ!」
「あ、そぉなんだ。……で、なぁに、赤鼻?」
「おいおい、姫さんよ」
「ん? どしたの赤鼻? 急いでるんじゃなかったっけ?」
「まぁ聞けよ。 いいか? 俺っちをそんな変な呼び方すンなってぇの。なんだ、その、あかはなって……?」
「だって、あんたのお鼻、赤いじゃん。ピエロみたいに」
「まぁ、確かに、みんなからは道化悪魔とか言われてっけどさぁ……。だがな、俺っちがこの姿でいるのは、ワケがあンのよ。俺っちは、魔王様より全てを欺く禁断の魔術を……」
「いいじゃ~ん。似合ってるよぉ、赤鼻」
「オィィィィ! 俺っちがまだ話してる途中でしょうがッ!」
「うんうん、わかるよ~ぉ、え……っと、なんていうの、こう……、かいようちょうほうぶたいのとくしゅこうさくいん的な、アレでしょ?」
「ちょっ、やだ、なに、この姫さん、怖いんですけどーッ!」
間。
「…………で?」
「…………え?」
「こんなとこまで何の用? またあたしを、さらいに来た?」
「いや、……そうじゃない。そうじゃなくてだな……」
どうけのあくまは しんけんな まなざしだ!
「姫さんに頼みがあるっ!」
「あたしに……? たのみ……?」
「そうだ。頼れる人間が、姫さんしかいないンだよ」
「え……?」
「俺っちが、あの勇者以外で、唯一、まともに関わった人間、それが姫さん、オマエなんだよ」
「関わったって……、あーッ! そーいえばーさぁ、赤鼻ぁっ!」
「おい、姫さん、まだ俺っちの話が……」
「ちょっとーぉ、あんたね~ぇ、あのときーぃ、あたしぃ、ちょー怖かったんですけどーぉ?」
「えッ、あ、いや、あの、その……!」
「なんか~ぁ、いきなりぃ? 連れ去られたり~ぃ、閉じ込められたり~ぃ?」
「いやいやいやいやッ! 悪ぃ、わるかったって! まぁ、あンときゃ、なんつーか、そのぉ……、そう! ありゃぁ魔王様の命令でだな。姫さんをさらっちまえば、人間どもがこれ以上調子に乗らないンじゃね? って、なってだなぁ……!」
「そんで~ぇ、まいにち~ぃ、あんな所じゃぁ、な~んもすることなくて~ぇ。すっごい退屈だったんだからね! ……もうオンゲしかやることなかったし」
「……え、なんだって?」
「全職カンストしちゃったし~ぃ、全特訓も完了だし~ぃ」
「ちょ、おまっ、なにやってンのッ? お姫さまだよね? なのに、なにやってンの、まぢでッ!」
「てかぁ、アクセも全種そろったし~ぃ、合成も全部に理論値が整ったし~ぃ」
「廃人がここにいたぞおおおおッ!!」
「……あ、あたしのキャラ、エルフなんだけど、ちゃんと残ってる?」
「知らんがなッ!」
「追加の課金してくれてるよね?」
「だから、知るかバカタレーーーッ!」
つづく!