その5・5 幕間
兄貴「腹ぁ、減ったな……」
弟分「そぉでやんすねぇ、あにき」
夕暮れ時。どこかの街はずれ。公園のベンチに座る二人の人物。
兄貴と呼ばれたのが童顔の男性。以下、兄。
もうひとりは毛むくじゃらのチビ。弟分。以下、弟。
兄「最後に飯食ったの、いつだ……?」
弟「おとといの夜くらいじゃないでやんすかねぇ」
兄「なに、喰ったっけ……?」
弟「たしか、あにきが薬草で、あっしが毒消し草でやんすよ」
兄「草って、オマエ。…………くさって……、オマエ……」
弟「空腹が最高のスパイスってホントでやんすねぇ」
兄「苦味オンリーだったけどな……」
弟「意外といけるもんでやんしたね」
兄「まぁ、いいや。……んで今、いくらあるっけ……?」
弟「えー……っと。あっ、見てくださいよ、あにき! ばんそうこうが二枚もあるでやんすよ!」
兄「……答えになってねぇよ」
弟「いやいや、あにきのことだから、うっかりしてまた転んぢゃうかもしれないでやんすよ?」
兄「んだとぉ……! おいコラてめぇ、バカにしてんのか……?」
弟「なに言ってるでやんすか? あのときコケて、有り金ぜんぶ落としたのは、あにきでやんしたよね?」
兄「……ああ、そうだったな……、いやぁ、うっかりうっかり、あっはははーッ!」
弟「あはははでやんすね~」
兄「まぁ、あんときは、そのぉ、なんつーかぁ、こう……、すみませんでしたーッ!」
弟「いいでやんす、頭を上げてくださいでやんすよ、あにき。にんげん誰しもミスはあるってもんでやんす」
兄「オマエぇ……、優しいな~ぁ」
弟「おなかが空いても、こうして笑ってられるほうが、生きてる価値があるってもんでやんすよ~、にんげんとして!」
兄「まぁ、人は空腹でも死ぬけどなー、あっははははー」
弟「そうでやんしたね~、あはははでやんす~」
兄「あと、いっこ、いいかな~?」
弟「なんでやんすか、あにき~?」
兄「……オマエ、人間じゃないだろ?」
弟「ぎくぎくぎくぎくーッ!」
兄「それ、口で言うヤツ初めて見たぞ」
弟「ちょ、まっ……、えっ、いや、なっ、なに言ってんでやんすか、あにきー! もー、冗談はやめるでやんすよ、あにきー!」
兄「いや……、だってほら、オマエ不自然に、二・五頭身だし」
弟「ぎくーッ!」
兄「なんか毛むくじゃらっつぅか、全身毛皮っぽいし」
弟「ぎくぎくーッ!」
兄「耳、頭の上に生えてたし」
弟「ぎくぎくぎくーッ!」
兄「しっぽ、生えてるし」
弟「やんすーーーッ!」
兄「どぉ見ても人間じゃないよな?」
弟「なんば言っとーとでごわすかッ! おらぁにんげんでおまっしゃろがじゃッ!」
兄「おい、待て、不自然な方言はよせ。てか、俺ら、初登場なんだから、キャラを崩すな」
弟「あにきが変なこと言うからでやんすよー!」
兄「………………」
弟「? ……あにき? どしたでやんすか?」
兄「よし、オマエを売りとばそう!」
弟「あにきぃッ?」
兄「金貨二枚分くらいにはなるよな?」
弟「ちょっ、まっ、で、やんすぅぅぅ~~~ッ!」
兄「ウソだよ、ウソ! まぁ、その、なんてーか、こう……、正直に言ってくんねぇかな? 気になっちまって腹が鳴り止まねぇんだよ」
弟「うぅぅ……、そりゃ空腹のせいでやんすよ……。ま、でも、たしかにあっしは、にんげんじゃないみたいでやんす……」
兄「ほらみろ、どぉもおかしいと思ってたんだ」
弟「でも、あっしは……、自分が何者なのか、よくわからんでやんす……」
兄「ほほぅ、人外ってことは認めるんだな。……たぬき型モンスターってことで、おk?」
弟「……あ、もしもし? 空腹だけどそれ以外は比較的健康そうな成人男性の内臓っていくらで買ってくれるでやんすかね……?」
兄「すんませんしたーぁッ! 俺が悪かったーッ! てか、どこと通信してんのーって、言うより、そのファンタジー世界に在り得ない機器はなにーぃッ!?」
弟「スマホでやんすよ」
兄「え、なんだってッ!?」
弟「素のままに魔力を保つ、と、まぁそんな感じの魔導機具でやんす」
兄「よし、売ろう! いい値になりそうだ」
弟「ダメでやんすよー!」
兄「なんで? いいじゃん、減るもんじゃないし」
弟「減るでやんすよ! てか、通り越して無くなるでやんす!」
兄「いいか? 世の中、等価交換だろ?」
弟「そりゃそうでやんすけど! 話がズレてるでやんす!」
兄「あ、悪ぃわりぃ、いつもの癖だ」
汚「もぉー、でやんす。……とにかく、あっしは自分が何者なのか知る旅の途中なのでやんすよ」
兄「それが、どぉして盗賊なんてやってんだか……、ったく」
弟「そりゃぁ、この姿でやんす。生き延びるためには選んでらんないでやんすよ」
兄「…………」
弟「あっしは、いつどこで生まれたのかも分からず、住む場所もなく、毎日ぎりぎりで生きてきたでやんす。あのとき、――魔物どもに絡まれたとき、あにきたちに助けてもらってなければ、こうして生きていられなかったでやんすよ」
兄「違ぇよ。姿なんて、関係ないさ」
弟「……あにき?」
兄「俺だって、もともと孤児だ。親に捨てられて、どこぞでゴミ箱漁ってた毎日だ。御頭に拾われてなきゃ、とっくに野垂れ死んでたさ。オマエと同じなのさ」
弟「あにき……」
兄「そんな顔すんなって」
弟「……へへへッ、ハイ、でやんす」
兄「おう、オマエにゃ暗い顔は似合わねぇからな」
弟「……それにしても、おかしら、どこ行っちゃったんでやんすかねぇ」
兄「さぁな……」
弟「おかしらが、いきなりいなくなって、仲間のみんなもバラバラになっちまったでやんすね」
兄「テメェらもう十分だろ、そろそろ自立しろっ、……てことだろ? たぶん」
弟「あっしがこんな姿でも、おかしら、何も言わず仲間に入れてくれたでやんす」
兄「ああ、良い人だったよな、御頭は。……あのさぁ、オマエ」
弟「? なんでやんすか、あにき?」
兄「その、なんつーか、こう……、いいんだぜ?」
弟「? ――ああッ! はいはい、そうでやんすね。……もしもし? パスポート無しで行ける遠くの国での労働希望者が見つかりましたので、つきましては、仲介料っておいくらになるでやんすかね?」
兄「ちょいちょいちょいちょーい! 待て待て待て待てッ!」
弟「え? なんでやんすか、あにき?」
兄「俺を売りとばそうとするなーッ!」
弟「覚悟、出来たでやんすよね?」
兄「違うわッ!」
弟「……ちっ」
兄「舌打ちされただとーぅッ?」
弟「まぁ、冗談でやんすよ」
兄「うろぉぉぉおん……、弟分に売られそうぉになったよおぉぉ……」
弟「で、なんでやんすか? ああもぉ! 泣きやむでやんすよ」
兄「うぅぅ……、そぉじゃないんだよぉ。……オマエ、俺なんかについて来なくたって、いいんだぜって、言いたかったのぉ……ッ!」
弟「何言ってンでやんすか! あっしはあにきの子分でやんす! あにきの夢は、あっしの夢でやんす!」
兄「お、オマエぇ……ッ!」
弟「あにきも、おかしらみたいな、立派なギゾクってやつに、なるでやんすよね?」
兄「お……、おぅさッ! まかせろッ! ――義賊キングにッ、なるよッ、俺ッ!!」
弟「いよッ! あにきッ! ……聞き飽きたパクリ台詞だろうと、なんとなく雰囲気で、カッコイイでやんす!」
兄「一言うっさいよ、オマエ!」
弟「あっしもなるでやんすー!」
兄「てか、もう夜になったじゃねぇか……。まずは自分らの飯なんとかしねぇと、義賊する前に、ホントに野垂れ死んじまうぞ……」
弟「あにき、あにき。さっきそこの張り紙を見て、思いついたんでやんすけど」
兄「ん? なんだよ? なになに? ――生誕祭、近し……?」
弟「とりま、お姫様かっさらって、身代金要求するでやんす!」
兄「ちょ、それ、なんか理想の義賊っぽくないから、やっちゃダメーッ!」
つづく!