その5 「ほほぅ、姫様も、ようやくそちらにお目覚め、と……」 「え、何の話ッ?」 「だが小娘、その道を甘く見てると、痛い目に合うぞぉッ!」 「ねぇだから何の話なのぉ……ッ?」
それは真夜中のこと。
どこから ともなく こえがする……。
「お……い……ひめ……き……こえ……る……か? ……ゆ……………………る……ッ!」
「……う~ん……う~ん……」
だがしかし ひめは ねむっている!
*
「……姫さん、うなされてンなぁ」
「……ここんとこ、毎晩っスもんねぇ」
暗く薄気味の悪い場所だった。
明かりはいくつかのロウソクだけだ。床には大きな魔法陣。その中央に、眠る姫の姿がぼんやりと映し出されていた。
取り囲む、二つの影。
そのひとつから、女性の声がした。
「まぁ、寝てたら変な声がするって、そりゃぁまさに悪夢っス。うなされもするってもんスよね」
「いや――」と、もうひとつの影が答える。
「違うね」
こちらは細身の男性のようだった。
「え……ッ?」
「誰かが俺っちの邪魔をしてンのさ」
「まぢッスか!」
「まぁ、人間どもの城だしな。結界が張られてても、おかしくねーな」
その言葉に驚愕する女性の影。
「どどど、どーするんスか……ッ!」
たわわに、ぶるるんッ、と、させながら。
「ばっきゃろう、落ち着けってンだ! ――ほら見ろよ、今夜は満月だッ!」
と、男性の影が指す先、浮かぶ映像の中には、寝室の窓から見える大きな丸い月があった。
「おおー、フルムーンッ! 我ら魔族がその魔力を最大限に発揮出来るというワケっスね!」
「おぅよ! 俺っち、生粋の魔族っ子を舐めんじゃねぇッ!」
「……その言葉だけ聞くと、生まれながらの変態さんのようっスね、きっすいのまぞっこ、って」
「行ッけーッ! うおぉぉおお……ッ!」
細身の男性の影は、両手をかざし、映像に向け、念を込める。
「おおッ! まぞっこはともかく、普段チャラ男っぽくて道化のようなアンタが、いつになくやる気に溢れているっス! かっこいいっス! 頑張るっス~!」
「ひめに、とどけ! 俺っちの、想い……ッ!」
それは、ありったけの魔力を送り、姫との通信を試みているのだった……。
*
どこから ともなく こえがする……。
「……ひ、め、き、こ、え、る、か……?」
「…………う~ん、う~ん、……あ……ッ!」
「おぉ……ッ! ようやくつながったか……? おい、ひめさん、きこえていたら……、返事を、してくれ……!」
「…………あっ、ダメだよぉ、……勇者様ったら、……こんなところで、そんなッ……ッ!」
「ん? ……おい、姫さん、きこえてンのか?」
「…………ああぁっ、勇者様ぁ……みんなが見てるよぉ……ッ! ……はぅぅ……ッ!」
「ちょ――、待て。おいおい、姫さんよ、寝言か? ぜんぶ寝言なのか、それ?」
「…………えっ、誰? ……誰なの、そいつ……? ……うそ、なんで、そんな奴と、……勇者様が……?」
「お~い、もーしもーし、姫さ~んよ~ぉい?」
「…………勇者様ぁダメぇ……ッ! ……あたしという者がありながら、そんな奴と、そんなッ! ……ああ、なんて言うの、こう……、はげしくみだらでのうこうなかんじで……ッ! ……そんなこと、そんなことってぇぇぇ……ッ!」
「おいコラ、このバカ姫ぇぇええッ! そろそろ起きンかーーーいッ!」
「…………どぉして、銀髪ロン毛の角付き野郎なんかと……ッ!」
「――それ、ウチのご主人様じゃねッ!?」
だが ひめは まだ めを さまさない……!
「…………ああ、でもなんだろう、この気持ち。見ていてすっごくドキドキするよぉ……ッ!」
「ちょいちょいちょいちょーい! そっちじゃない! そっちに目覚めちゃダメだからーぁッ!」
つづく!