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その4 「姫イド……、ロングコートの中年男性に向かい風で叫んでいただきたいですね。では、ご一緒に~、せーのッ!」 「「――おのれ、ひめいどぉぉッ!」」 「……え、なにコレ? なるた

 誰だろう? どこかで声がする。

「……め………………おい、……ひ……さん……」

「……う~……ん~……」

 ひめは うなされている!

「……おい……ひめ…………、いい……か? ……ゆ……しゃ……は、い…………いる……ッ!」

 だがやはり、届かない。

 もやが掛かって、前にも進めない。




「――ッ! あたし、寝ちゃってたっ?」

「ああ、おはよう、ひめさま」

 姫は自分のベッドで目を覚ました。そこには黒縁眼鏡の少年が本を読んでいた。

「ど、どんくらい、寝てた……の?」

「ん? 三十分くらいかな。このまま起きなかったらどうしようかと思った」

 少年ははにかんだ。経験値多めに上げちゃいたくなるくらいベストなスマイルだった、なんか悔しいけど。

 そして魔道士の少年は、人差し指を立て、くるっと回して見せた。

「癒しの魔法を掛けておいたよ」

 ……ああ、どおりでスッキリするはずだ。疲れも無くなっている。だけど……、

「でも、うなされてたよ。大丈夫? 怖い夢でも見たの?」

「…………」

 ひめは おもった!

 ……怖い、とは、どこか違う。なんだろう、この気持ち。頭とか身体とかは元気なのだけど、なんだか、ずっと奥のほうが、もやもや、する……。

「悪いけど、やっぱりあたし、まだ疲れてるみたい。用が無いなら、はやく出てって」

「そっか。ゴメンね」

 少年は分厚い本を閉じ、席を立った。壁に掛けていた黒い不思議な杖と、真紅のマントを手に取る、と、

「…………あ、あのっ、黒ぶちメガネッ!」

「ん? なんだい、ひめさま」

「お父様とは、もう、お話しした?」

 ……自分で出て行けと言ったのに、何言ってんだろ、あたし……。

「うん。国王陛下にご挨拶なら、一番に済ませたよ」

「お父様はなんて?」

 少年はどこか言いづらそうに言葉をつづけた。

「あー……、国を挙げて、魔族と戦うしかない、と」

「……そぉ」

 どうでもいい、とは言い切れないが、もやが掛かったままの姫だった。

「ここのところ、魔物たちの動きが急に活発になってさ。僕が見て来た遠くの国なんか、だいぶ苦戦していたよ」

 黒縁眼鏡の少年は窓枠を背にし、ちらりと外を見た。

「今まで各地で好き勝手に暴れていただけの魔物が、急に組織化を始めたんだ」

 静かな町並みがそこにはあった。

「やはり、本格的に侵略を開始したのかもしれない。そう、勇者亡き後の今だから――」

「黒ぶちメガネッ!」

 姫が叫んだ。

 今までのそれとはまったく違う、悲痛の声だ。


「……勇者様は死んでなんかない……ッ!」


「ひめさま……。きみは、まだ、そんなことを言うの……?」

「黙って! あんたも一緒ッ! そんなウソばかり言うッ!」

「僕は見たんだッ!」

 少年も叫んだ。

「勇者が、魔王によって、消される瞬間を」

「そんなの……ウソだもん……」

 涙は出て来なかった。不思議だ。ただ、ただ胸が、苦しい。

 少年は語り出す。まるで朗読劇のように、感情が宙に舞い出した。

「僕は、あのとき討伐隊に参加していたんだ。何人もの隊員が傷つき倒れ、最深部へ到達するころには、わずかな人数しかいなかった。そこで勇者は、激戦を繰り広げていた。ヒト型ではなく、巨大な魔獣に変化した魔王とね。僕らは、まるで戦力にならなかった。道中で隊がほぼ全滅するくらいだからね。勇者は精霊の加護があるから、ひとりでもあんなに戦えたんだ。でも、追い詰められた魔王だったモノが、最後に放った一撃……、その威力は凄まじかった。あれでは、さすがに勇者だって……。あそこで、魔力の残っていた僕だけが、辛うじて脱出できたんだよ」

「…………」

 ひめは ただジッと こらえている!

 胸のもやは少しも晴れない。濃さを増していくばかりだった。

 ややあって、少年が問い掛ける。

「その、なんて言うか、こう……自分だけ生き延びて――、とか、言わないの?」

 どうせなら、責めて欲しかったのか。

「魔法使いは、常に冷静じゃなきゃいけないんでしょ。黒ぶちメガネ、昔あんたが自分でよく言ってたんじゃん」

「ああ、そうだね。子供のころ、読んだ書物にあったな。懐かしいなあ」

「黒ぶちメガネは、間違ってないよ。……うん、すごいよ」

「そうかな?」

「目の前で仲間が倒れるのを見て、自分だって傷ついて、それでもみんなと必死に戦ったんだもん。誰も、あんたを責められないよ。国とか姫とか関係ない。同じ人間として、誇りに思うよ?」

「そう言ってもらえると、僕もうれしい」

「うん……」

「でも、安心して、ひめさま。僕だってあれからまた修行をしたんだよ。世界中を旅して、いっぱい呪文を覚えて、強くなったんだ。もう、負けないよ。ひめさまは、僕が守るから……!」

「……ありがと」

「ひめさまの生誕祭、もうすぐだね! それまでは僕、どこにも行かないからさ」

「うんッ!」



 だが、しかし!

 ひめは おもった!


 ――でもね、あたしは、信じない……!

 この目で、自分で、全てを確かめるまでは……ッ!





 そして――、

 おや? 廊下に一人、人影が……。


「やれやれ。姫様、あそこは、――長いよッ! Aボタン連打だよッ! スキップ機能つけろよぉッ! って、全力でツッコむところでしょうが……、ったく、小娘が」



 つづく!

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