その10 姫と、メイドと、ときどき盗っ人。~そして脱出へ~
それは ひめが 十五歳になる
たんじょう日のことで あった……。
「おきなさい。おきなさい、わたしの、かわいい、ひめさまや」
「う……ん?」
声がして、姫は目を覚ました。
どうやらメイドに起こされたようだ。
ベッドの傍らで、メイドが優しく微笑んだ。
「おはよう、姫様。もう、朝ですよ」
「え……ぇ? ……もぉ、あさなの……?」
寝ぼけまなこでふと見れば、窓の外はまだ薄暗かった。
「あれぇ……? ねぇ、今なんじ?」
「午前、四時、ですよ」
「早すぎるよ~ぉッ! 体感的には、まだ十四歳最後の夜、だよ!」
「今日は、とても、大切な日。この日のために、姫様を、ゆうかんな女の子に、育てあげたつもりです」
「ええええ……、ちょっとぉ、無視なのぉ? それに、もぉ、なにその、喋り方ぁ?」
「さぁ、ワタクシに、ついてらっしゃい」
「つうかぁ、あんたに育てられた覚えはないんですけどぉ……。あんたウチ来たの、わりと最近だし」
「さぁ、ワタクシに、ついてらっしゃい、この、こむすめが」
「ええええッ! ちょっ、着替えくらいさせてよぉ……!」
間。
「ちょっとちょっとぉ、どこ行くのよぉ?」
メイドに連れられて、姫は城内を歩いていた。正確には、ひたすらに階段を下りて、地下へと向かう。
「でも、なぁんか、妙に、静かじゃない? まぁそりゃ、みんな寝てるよねぇ、こんな時間だし。あたしもぉ、まだねむいんですけど~ぉ」
ふあぁぁぁ~っと、姫はあくびをしたが、
「ええ、はい。一服盛りましたから」
さらっととんでもないことを言う、メイド。
「ええええッ! どゆことっ!?」
メイドの ひとみが あやしくひかる!
「昨晩のお食事に睡眠薬を混ぜたのですよ。私お手製ですので、みなさん、快く受け取ってくださいましたよ、うふふふ♪」
「……ひぃッ!」
しかし ひめは にげられない!
そして、通路を進み、別の棟へ。いくつかの扉を抜け、遂に辿り着く。
「さぁ、姫様。こちらです」
メイドが案内した先、そこは鉄格子で囲まれた部屋がいくつも並ぶ場所だった。
「ここって……」
「そう、――牢屋ですね」
自分の住むお城の中に、そんな場所が本当にあるとは思いもしなかった。
そこが、罪人を閉じ込めておく空間だってことくらいは分かるけど、自分が生まれて十五年間、一度だって使われたことなんか無いはずだ。あるいは、自分だけが知らされていなかったのか。
そりゃぁ、外には魔物だっているけど、ここは小さな国だし、悪いヒトなんて見たことないし、今のところは平和、と姫は思っていた。
メイドは一番奥の個室の前で止まった。姫もそれに恐る恐る続く。
その鉄格子の向こう、暗い部屋の中に、誰かがいる!
「……まさかホントに、お姫様の登場とはね……」
中から男の声がして、それにメイドが答えた。
「お待たせしましたね。さぁ、準備は良いですか?」
「ああ、いいぜ……、いつでも、な? 姫さんよ」
「え……っ」
いきなりのことで姫は唖然とする。だが、メイドは静かに頷く。
そして男が、立ち上がった。
「はっはっは! 俺様は、盗賊団『黄金の月』のひとり――、疾風のダーツ様だッ!」
「………………」
「………………」
「ちょ……ッ、おいッ?」
「………………」
「………………」
「なぁっ! なんか反応ねぇのかよっ、オマエらぁ!」
「…………ねぇ、あれ、言ってて恥ずくないのかなぁ? ……ひそひそ」
「…………まぁ、なんと言いますか、こう、――厨二乙! って感じで、おk? ……ひそひそ」
「なに、やってんのッ? てか、口で言ってんじゃん、ひそひそって! ぜんぶ丸聴こえなんですけどッ!?」
「てゆっか、ここに来ていきなりの固有名詞? ねぇそれ、だいじょうぶなの?」
「あらあら、姫様。ではでは、言っておきますか?」
「うん、そぉだね、言っとこっか、……せーのっ」
「「――この物語はフィクションです!」」
「うおおおおい! 怖いわッ! オマエら、誰に向かって喋ってんだよぉッ!?」
「えっ、決まってるでしょ、なんつーの、こう……」
「ですよねぇ、姫様……」
「「……私たちを見守る神々に?」」
やった!
ひめさまの きょういくは かんりょうだ!
「ちょいちょいちょいちょーい!」
つづく!