その9 「ざんたて。……戻して、斬新な縦ロール。増やして、斬新な縦穴式ロール……」 「てか、縦ロールには、もともと穴が開いてるよぉッ!」
「うふふふっ、ようやく、いつもの姫様らしくなりましたね」
メイドは やさしく ほほえんだ!
「え……ッ?」
「ここ最近の姫様なんて、まるで見ていられなかったものですので。もぉなんて言いますか、こう……、『ウチの姫様が残念なのに金パツで縦ロールだから見てらんない』――略して、『ざんたて。』――でしたもの」
「……あっ」
ひめのほおが みるみる あかく そまっていく!
「もぉぉ~~ッ! だから、そぉいうの、やめてよねっ!」
「あらあら、姫様ってば、可愛らしいですわねぇ」
「だ~か~ら! そぉいうの、やめーぇ!」
「うふふふ、楽しい♪」
「ちょっとぉ、あんたさぁ、ホントにあたしのメイドなの?」
「ええ、姫様。もちろんでございます。ワタクシは姫様の忠実なる召し使い。姫様の為ならば、その全てを捧げることが私の使命です」
「そのわりにはぁ、あたしぃ、おちょくられてるようにしか見えないんですけど~ぉ?」
「私は姫様の教育係も任されておりますゆえ」
「今までのこれ教育なのッ?」
「なにを今さら。おっほっほっほ」
「わっ、笑うなーぁッ!」
「さて、姫様に元気が戻ったところで」
「通り越して、げんなりだよぉ」
「私は姫様のメイドではありますが、まぁその、お城のメイド長としては、どぉやら失格のようですねぇ」
「うん、そぉ思う。てか、色々失格だと思うよ、なんつーの、こう……、人として?」
「思うんかーいッ! 人として失格なのかーいッ!」
「いや、いいから。いちいち大声上げなくて、いいから! ほらほら、話、進まないからぁっ!」
「こほん。いいですか、姫様? ――なにもかも捨てる勇気が姫様にありますか?」
「え……っ? あんた、急に、なにを……?」
メイドは しんけんな まなざしだ!
「私を、ただのメイドだとお思いでしたか?」
「うん。ただ者じゃないことは知ってたよ、なんつーの、こう……、色々と残念なヒト? みたいな?」
「思ってたんかーいッ! 残念なのかーいッ!」
「はいはい、そぉいうのも含めてね。……いい加減にしないと、怒られる、ってか、飽きられるよ?」
「はっ! そ、それはッ、私たちを見守る神々にですかッ? それはいけませんッ!」
「だったら真面目にやんなさいよぉ」
「ですがっ! 私の中にいる中学二年生が叫ぶのです! おいおいお~い、もっと悪ふざけしたほうが面白いんじゃね? ……とっ!」
メイドは しんけんな まなざしだ!
「……あたしは、げんなりだ」
「私はずっと姫様のおそばにいたのですよ? 姫様の悩みのひとつやふたつ、私が気づかないとでも思いましたか?」
「おっと、急に話を戻して来たよぉ、このメイドさん!」
「姫様のことなら、なんでもお見通しです。そう、真夜中にうなされた挙句、一晩中延々と独り言を言ってた夜のこととか!」
「えええええッ! あたし、あの夜のあれ、口に出しちゃってたのおおおッ!?」
「ええ、はい。もはや寝言を通り越して、会話していましたね、誰かと。まるで夢遊病のように」
「うわああああ! 恥ずぃよおおおおお~~~ッ!」
ひめのほおが みるみる あかく そまっていく!
しかし ひめは おもった!
「いや、でも、あたし、ちゃんと鍵を掛けて寝てたはずなのに……ッ?」
「姫様に夜這いしようと忍び込んだら、思わぬ収穫でしたよ、……くっくっく」
「うおおおおい! 変態がここにいるぞおおおおッ!」
「さて、姫様。お答えください。ご自分の地位も、この国の民も、愛する家族さえも捨てて、信念を貫く勇気が、あなたにありますか?」
「話が急すぎるよおおおおッ!」
「黙って答えろ、残念縦ロールがっ!」
「……ひぃッ! って、どっちだよぉ! 黙ってたら答えらんないよぉッ!」
「お答えください、姫様。すべてを捨てても、信念を貫く勇気が、あなたにありますか?」
「しっ、信念を貫く、勇気……」
「自分が信じるもの、果たすべき使命に、生きる覚悟がございますか?」
→ はい
いいえ
姫はこくりと、うなづいた。
「あるよ。うん。あたし、やっぱり行かなきゃならないんだ。きっと、あたしにしか出来ないことだから。自分で確かめなきゃならない。なにが本当なのか、なにが正しいのか」
「ならば姫様、もう私は止めません」
「うん、ありがと」
「ではでは……、あ、そ~れ、――ぇってらっしゃぁす~ぇッ!」
「軽ぅーッ! いきなり軽いよぉ! 軽っかるだよぉッ!」
「あら? 止めませんって言ったでしょう、私」
「ぶち壊しだよぉ! 色々とッ!」
「なにを今さら?」
「そうでしたねッ!」
「さぁ、姫様、お逝きなさい」
「意味が変わってくるから、それ!」
「もとい、お行きなさい。ご自分の使命を果たすために――」
「うんッ!」
「…………で? どぉやってお城から抜け出せばいいの?」
「…………あっ!」
つづく!