その1 プロローグ。
「ね~ぇ、いいでしょー? お願いだからーぁ!」
「こらこら、姫様。わがままを言ってはいけませんよ?」
とある小国。その王宮の一室にて。
お姫様と、ひとりの女性使用人が、なにやら揉めているようだった。
「え~~~ッ! いいじゃーん! ちょっとだけだから~ぁ!」
「いけません、姫様」
「すぐ帰って来るって~! おーねーがーいーッ!」
「ダメですよ、姫様」
「あたしは、外に出たいの~ぉ! ちょっと見逃してくれればそれでいいから~ぁ!」
「ちょっともなにも、ダメなものはダメです、姫様」
むぅ~……ッ! っと、唸り声を上げ、今にも噛みついて来そうな、そのおてんばな姫様。
それに対し、しれっと涼しい表情を崩さす、相手にする気が微塵もなさそうな、このメイドさん。
「――ふたりはとっても仲良しでした」
「どこがよッ? てか、いきなりなに言ってんのアンタっ?」
「いえ、なんて言いますか、こう……、私たちを見守る神の声? に」
「変なもん受信しないでよッ!」
ふぅっと嘆息するメイド。
「姫様、いい加減なさい。私だって暇ではないのですよ」
「だ~ぁか~ぁら~ぁ!」
姫は地団駄を踏んで声を荒げた。
「アンタはあたしがこっそりお城から抜け出すのを、見逃してくれればいいからぁ!」
「いいえ、それはなりません、姫様」
「そんなこと言わないでぇ、見逃して! ね? ね?」
「いいえ、それはなりません、姫様」
「そんなこと言わないでぇ、見逃して! ね? ね?」
「いいえ、それはなりません、姫様」
「そんなこと言わないでぇ、見逃して! ね? ね?」
「いいえ、それはなりません、姫様」
「そんなこと言わないでぇ、見逃して! ね? ね?」
「いいえ、それはなりません、姫様」
「そんなこと言わないでぇ、見逃して! ね? ね?」
「いいえ、それはなりません、姫様」
「そんなこと言わないでぇ、見逃して! ね? ね?」
「いいえ、それはなりません、姫様」
「そんなこと言わないでぇ、見逃して! ね? ね?」
「いいえ、それはなりません、姫様」
「そんなこと言わないでぇ、見逃して! ね? ね?」
「いいえ、それはなりません、姫様」
「そんなこと言わないでぇ、見逃して! ね? ね?」
「いいえ、それはなりません、姫様」
「そんなこと言わないでぇ、見逃して! ね? ね?」
「いいえ、それはなりません、姫様」
「そんなこと言わないで………………って、どれだけ粘るのーーーッ! 疲れるしッ!」
てか、手抜きだと思われるでしょーがッ!
「あら? もう根をあげるのですか? だらしないですねぇ、姫様は」
「違うよぉッ! もうこれ絶対、無限ループだよぉッ!」
「そうですね、このへんにしておかないと、なんだか怒られそうな予感がしますし」
だが しかし!
とても なつかしい かんじがしたっ!
はぁはぁと息を切らせる姫を、呆れた様子で見守るメイド。
ややあってから、それでも姫は再び駄々をこね始めた。
「もーぉ! どーしてダメなのーッ?」
「だから姫様、ダメなものはダメなのですって」
「ちょ……、あんたさ~ぁ? たかがメイドでしょ~ぉ?」
おや、姫様の態度が、若干変わったようだぞ。
「あんたぁ、あたしを誰だと思ってるの~ぉ? ったく、身分わきまえなさいよねぇ~ッ。これだから平民出身は嫌なのよねぇ、おーほっほっほっ!」
「…………」
「なっ、なによ、なんで急に黙るのよ? なんとか言いなさいよっ!」
「いえ……、確かに私は一介のメイドではございますが、それと同時に、これでも姫様の教育係を任せられた身。姫様を危険な目に合せるワケにはいきませんので」
「も~~~ぉッ! ホンっト、アンタって分からず屋なんだからーぁッ!」
「……黙れ小娘」
メイドの ひとみが あやしくひかる!
「ひぃッ!」
姫の身に悪寒が走った!
「ちょ、えっ、なにっ、ヤダ、今あたしのこと、こむすめって言ったー! メイドのくせにぃッ!」
ひめは おもった!
……てゆっか、なにこのメイド、ホントにただのメイドなのッ? ちょー怖いよぉ……ッ! なんか一瞬、ヒットマンの目ぇしてたんですけど……ッ?
つづく!