二十七話 死闘の予感(1)
反町隆史の顔は間違いなく吉永参謀そのものであり、声もどことなく似ている。
「その顔で基地に潜入していたのか」
副隊長はフォースガンを反町博士に向けて問いただす。
「まあね。ここまで似せるのは大変だった。吉永参謀の遺伝子情報と細胞を培養し、皮膚を作り出し、それを顔に張り付ける必要があってね。この顔になるまで半年もかかってしまった。その苦労の御陰でここまでうまく計画を進められた。上層部をうまく丸め込んで間宮コウキを巨大生物特別攻撃隊に入隊させ、彼の情報を娘に集めさせることで最高の細胞を作り上げる事ができた」
「最高の細胞だと?」
「そうだ。まだ最終調整の途中だがね。焦ることはない。そう遠くない未来にお目にかけよう。さて、せっかくここまで来たんだ。もう少し質問に答えてあげよう。……その前に、若菜、こっちに来なさい」
「はぁい」
「おい勝手に……」
山内隊員が勝手に動いた反町若菜を制止しようとフォースガンを構えたが、全く恐れることなく若菜は反町博士の方に歩いていく。
「くっ!仕方がない!」
山内隊員は若菜の足にめがけて発砲した。
銃弾は足に命中したように見えたが、若菜は気にも留めずに平然と博士の元へ歩いている。
「どうなっている……」
「当たったろ!?なんで効いてないんだ!?」
誰もが理解できていなかった。
生きてああして動いている以上、神経は通っている。とすれば当然痛みも感じるはずだ。
「効いていないわけではない。ただ、脳にいろいろと細工をして痛みを感じにくくしただけだ。そう驚かないでもらおうか?」
反町博士はまるで悪びれていない。彼にとっては脳に細工をすることなど些細なことに過ぎないのだろう。
「こいつ、自分の娘に何てこと……」
「ああ、とんでもない外道だな!」
「落ち着くんだ山内、小林」
反町博士にフォースガン向け、引き金を引こうとした二人を飯塚隊長が留めた。
「今奴を殺せば何も聞き出せない。怒りで我を忘れるな。冷静になれ」
隊長の声で少し冷静さを取り戻し、銃をひいた。
隊長は反町博士と若菜を睨みつけた。
「反町博士、貴方は神山研究所の崩壊の時死んだとされている。そんな貴方がどうして生きてここに居る?」
「なに、ただ自分の腕を切り落としただけのことだ。麻酔なしで雑に切り落としたものだからかなり痛かった。それこそ死ぬ思いをしたさ。だがまあ、計画のためには私は存在を隠さなければならない。そうなれば死んだことにするのが手っ取り早いと考えただけの事だ」
「計画とはなんだ?」
「神山公造の見つけ出した細胞は異常な細胞分裂速度を持つ。あの細胞を医療目的だけで利用するのは宝の持ち腐れだ。細胞を生物に投与し、様々な生物を兵器として利用する。世界の戦場は大きく変わる。敵が巨大生物という兵器を持てば、自分たちも巨大生物という兵器を持たなくては対抗できなくなる。そうして需要が生まれ、我々は大きな利益を得る。戦争、消えることのない巨大な市場!それを独占する!それが私の最終目標だ。そのためにこれまで試験を繰り返してきた。楽だったよ。君たちが試験品を処理してくれるのだからね」
「そういうことか。つまり我々巨大生物特別攻撃隊は踊らされていたということか」
「そういうことだ。滑稽だな」
反町博士の邪悪な笑いが響き渡った。
「ならばしっかりと仕返しをしないとな」
隊長はフォースガンにストライクカートリッジを装填するとリミットストライクを大量の巨大カプセルめがけて撃ち込んだ。
「貴様!」
「この施設を破壊すればその計画とやらは崩れるだろう?……ストライクカートリッジ使用を許可する。この研究所を破壊しろ!」
「いよっしゃ!ぶっ潰してやる!」
「ああ、はらわた煮えくりかえってるんだ!思いっきりな!」
ストライクカートリッジを装填すると各々が重要そうな施設や機械に向かって容赦なく撃ち込んだ。
止めようとする反町博士は隊長に銃口を向けられて身動きが取れていない。
「どけ飯塚!」
「どくわけがないだろう。ここでおとなしく見ているといい」
「ならば……」
反町博士はポケットに手を入れて何かを操作した。
すると研究所は大きな音を立てて崩れだした。
「何をした」
「自爆スイッチを押した。早く逃げなければ死ぬぞ?」
「どこまでも用意周到な……」
「計画が狂いは生じるものだ。これくらい想定している」
「くそっ!……退避する!今すぐビッグスターに戻るぞ。爆発する!」
「了解!」
皆はすぐさまフォースガンをホルスターにしまうとすぐさま階段を上っていく。
「間宮どうした!」
僕はその場に立ち尽くす反町若菜の手を取った。
『たとえ泉が悪だとしても切り捨てるな』隊長の言ったその言葉が僕を動かしたのだ。
「なんのつもり?」
「このままここで死ぬつもりなのか?」
「父さんがそう言うならね。私は父さんの言うこときいてるだけだし、それに、私を助けてどうするの?私達にさんざん利用されてきてムカついてるんじゃないのぉ?」
「ああ、ムカついてるよ。ここで爆発に巻き込まれて死んでほしいくらいだ。だけど、君の意思でこんな計画の手助けをしていた訳じゃないんじゃないのか?本当はこんな事したくなかったんじゃないのか?アイツは君の脳に細工をして痛みを感じにくくしたと言ったが、本当は違うんじゃないか?いうことを聞かなかったから無理やりいうことを聞かせるために脳に細工されたんじゃないのか?」
「くだらない想像ね。そんな訳ないでしょう?」
反町若菜は引きつった顔でそう言った。明らかに何か隠している。
「くだらない想像かどうか、それは基地で確かめてやる」
僕は彼女の手を引いて走り出した。
「間宮!?何考えてんだ!そいつは……」
「わかっています。でもここで見捨てれば彼女は死んでしまう」
「だからってお前なぁ!」
「山内。いい、連れていく」
「隊長!」
「切り捨てたりするなと言ったのは私だ」
「チっ……。わかりましたよ」
「……急ぐぞ!じきに爆発する」
階段を駆け上がり、研究所から脱出するとすぐにビッグスターに乗り込んで離脱した。
発進して数秒後には研究所は爆発し黒煙を上げた。
「隊長、奴は死んだのか?」
「いや、生きているさ。近いうちに何かしてくるだろうな。……すぐ基地に帰って備えるぞ」
「了解」




