二十六話 疑念の先は……(3)
エレベーターが10階へ到着すると副隊長がエレベーターホールで待っていた。
「隊長、間宮」
「僕も高橋副隊長を信じます」
「そうか……」
「高橋、吉永参謀は?」
「この階にはいないようです」
「となれば12階か。行くぞ」
「「了解」」
再びエレベーターに乗り込んで12階へと上がっていく。
この基地の12階は会議室が5部屋用意されており、日々重要な会議が開かれているという。本来なら立ち入ることは難しいエリアだが吉永参謀に会うだけであればエレベーターホールで待っていればいいだけの話だ。
12階に到達するとエレベーターを降りるとすぐさま警備員が行く手を阻む。
「飯塚第三作戦室長。何の御用ですか?」
「吉永参謀に確認したいことがあります。少しだけ話をさせてはいただけませんか?」
「それは……」
警備員がまごまごしていると後ろから豪華な軍服を着た男性が現れた。その姿には見覚えがある。
「私の事か?」
「吉永参謀」
「君たち少しどいてくれ」
「か、会議は……」
「もう終わった。だからどきたまえ」
「は、はい」
警備員たちはそそくさと廊下を進んでいき物陰に隠れた。
「全く困った警備員だ。さて、それで何の用だろうか?飯塚くん」
「単刀直入にお伺いしたい。吉永参謀、あなたはここに居る間宮コウキの入隊試験の日この基地におられましたか?」
その質問に吉永参謀は少し考えるような仕草をして答えた。
「いや、いなかった。そもそも彼の顔は初めて見る」
「……やはりそうですか」
「何のことだね?」
「いえ、お時間を頂戴致しまして失礼しました。それではこれにて……」
「お、おい飯塚くん?」
困惑する吉永参謀を尻目に僕たちはエレベーターに乗り込んだ。
「……思った通りだ」
高橋副隊長は確信を持ったようだ。自信にあふれた顔をしている。
「あとは追い詰めるだけだ」
僕たちは第三作戦室へと戻った。
高橋副隊長は言い逃れできないように万全の準備をしているようで、泉隊員にすべて吐かせるつもりのようだ。
第三作戦室の扉を開けて入った瞬間、高橋副隊長はフォースガンを泉隊員に向けた。
「さあ、芝居は終わりだ泉」
何のことだかわかっていない第三作戦室の面々は焦って声も出せないようであった。
「な、何のことですか?やめてくださいよ」
「2週間前のあの日、あのフードの男に道を教えたのはお前だな」
「違います。意味が分かりません!」
ようやく声が出せるようになったのか、山内隊員が高橋副隊長に詰め寄った。
「やめてください!どうしたんですか突然仲間を疑うようなこと言うなんて!高橋さんらしくないですよ!」
「お前たちは少し黙って話を聞いてくれ」
「高橋さん……」
山内隊員を黙らせると、泉隊員に強い視線を浴びせながら淡々と話しを進行させる。
「さて、泉。話を進める前にやはりそれは壊しておこうか」
そういうと高橋副隊長はフォースガンの引き金を引いて泉隊員の上着の右ポケットを打ち抜いた。バキンという音がして敗れたポケットから金属が見える。
泉隊員はポケットを見て悔しそうな顔を一瞬してこちらを向きなおした。
「それが発信機と盗聴機か。誰かさんの手作りか?」
「な、何のことですか?」
「……話を進めるか。そいつがあればあの男を間宮の家まで誘導できるし、間宮のことを奴に伝えることも可能、それに我々の動きもか」
少しづつ泉隊員の顔から余裕が消えているように感じられる。やはり知られたくないことを知られたということか。
「あと、全自衛隊員の名前を調べ上げたが4年前の災害の時、泉なんて奴はいなかったんだが、そのことについても説明してほしいな?」
「な、本当なのかよ……。なあ?泉、何とか言ってくれよ」
泉隊員は俯いたまま小声で何か言っているようだ
「い、泉?」
「……。はぁ。ばれたか。どじったなぁ。情報漏れる前に何とかしなきゃと思って焦りすぎたか」
「泉、なのかよこいつ?全然しゃべり方違うじゃん」
誰もが泉隊員の変貌っぷりに誰もが唖然としていた。
普段の優しそうな雰囲気は消え去り、悪そうな目つきをしていて口調も強くなったように感じた。
「ぼろが出たな。泉」
「泉じゃない」
「じゃあ誰だ?」
「反町若菜。反町隆史博士の娘よ」




