二十三話 鋼鉄の亀甲(5)
若宮隊員の語った作戦はかなりシンプルだが、うまくいくのかどうかはまるでわからなかった。
「本当に鉄球なんぞであの甲羅壊れると思うか?」
小林隊員は機体に格納されていく直径5m程の鉄球を見ながら言った。
「若宮隊員の動物知識は確かですよ。……ちょっと疑ってますけど」
「間宮、お前も疑ってるじゃねーかよ。フォローになってねーじゃん」
「そりゃあ誰だって疑いたくなるでしょう?ミサイルで軽く傷が付くくらいの甲羅よ?それを鉄球でなんて……ねぇ?」
「信じるしかないだろう。……第二にも何か話してたみたいだし、俺たちには知さてないだけでちゃんとした作戦なんだろうぜ」
「第三作戦室攻撃隊の皆さん、準備完了しました」
第二作戦室の隊員が補給を済ませた事を知らせてくれた。年齢は僕より一つ年下のように感じる。
「よし行くぞ間宮、泉」
「了解」
僕はスターライトの後部席に乗り込み、泉隊員が操縦席に乗り込んだ。
シューティングスターには山内隊員が乗り込んだ。
『皆さん、作戦通り傷があるところめがけて鉄球を落としてください。できる限り中央に近い所にでお願いします』
「「了解」」
垂直上昇して琵琶湖の巨大生物上空へと飛んだ。
第二作戦室の攻撃隊は攻撃準備を整えているようだが、なにやら大きな塊が見えるが一体なんなのだろう?
『巨大生物上空に到達、攻撃開始する』
「「了解!」」
巨大生物の甲羅でも真ん中付近にある傷めがけて鉄球を投下するとガツンと音を立てて甲羅に的中した。
よく見ると鉄球が命中した部分にはヒビが入っている!
「あれ?うまくいってますよ?」
「なんで?何かしてた?」
『いや甲羅にはなにもしていなかった。ミサイルで駄目なのに鉄球で割れるなんてそんなことは……』
『何故かわからないみたいですね』
『若宮隊員。どういう事なんだ?』
『その鉄球、重量は10tほどあるのですよ』
「じゅ、10t!?」
「どうやってそんな重さのものを?」
『新金属TR鋼のおかげです。質量がかなり大きいこの金属はただ落とすだけでも相当な破壊力になるのです。ミサイルなどの爆発物が使いづらい場所に出現した巨大生物を倒すために開発されたのです。本来なら矢のような形状に加工したものを発射して使うのですが、そんな時間はなかったので鉄球状の塊をそのまま落とす事にしました』
「そんなものが……」
『じきに最新兵器として第二作戦室に配備される対巨大生物用超電磁弩弓フェイルノートの矢としてお目見えするでしょう』
対巨大生物用超電磁弩弓フェイルノート……そんな武器が考案され、開発されていることは初めて知った。ネーミングから想像するしかないが、おそらく弓矢とレールガンを合わせた様な巨大兵器なのだろう。
もしできたらとんでもない事になる。
弦を引きしぼり、矢を射ると電磁誘導つまり、ローレンツ力で更に加速して発射されるわけだ。うまくいけば音速を超える速度で今落とした鉄球、TR鋼の矢が巨大生物を貫くわけだ。そうなれば通常兵器、ビーム兵器を差し置いて間違いなく最強最大の超兵器と化す。
「……それじゃあ、そのフェイルノートができていればこの巨大生物って」
『おそらく瞬殺できたかと……』
『おいおい、一気に第二作戦室の株が上がっちまうな』
「そうですね……」
『心配しなくても各作戦室、というより世界各国の全巨大生物特別攻撃隊に新兵器の追加があるので全体的な強化ですよ。もうしばらくしたらうちにも超兵器が来ますよ。……さて、そんなことはいいので鉄球を落とし続けてください』
『と言われても、一個しか積まれていないのだが……』
『大丈夫です。鎖で繋がってるので巻き上げれば何度でも落とせます。新合金ですからね相当高いので回収しないと損失がばかになりませんからね』
そこまで考慮済みか…….。通りでさっきから下に引っ張られる感覚があるわけだ。
「それじゃこのまま攻撃繰り返せばいいのね?」
『はい、そうです。お願いしますね』
僕はスイッチを操作して鉄球を巻き上げる。かなり高い位置から落としている関係で巻き上げるまで時間がかかる。
「巻き上げたら回り込んで再攻撃するわよ」
「了解、巻き上げあと1分で終了です」
「一時停止、鉄球がやられて機体損傷したら大変だからね」
1分たって巻き上げが完了すると、再度攻撃を行った。明らかにヒビは大きくなっている。
巨大生物は大きく動き出して、攻撃が難しくなってしまった。
『そこまでやってくださればもう十分です。その場から撤退してください』
若宮隊員からの通信だ。
「もういいんですか?」
「まだ2回しか攻撃してないわよ?」
『そこまで割れればもう問題ないです。仕上げは第二作戦室に任せてあります。隊長、副隊長がビッグスターでそちらに向かっていますので、鉄球を格納したらそのままビッグスターへ』
そういうことならば撤退してもいいだろう。
おそらく、先程準備していた謎の塊を使うのだろう。
『わかった、ビッグスターへ帰還する』
ビッグスター内の作戦室に第二作戦室戦闘隊が集まって巨大生物の最期を見届ける事になった。
第二作戦室戦闘隊の攻撃で動きを制限され、身動きが取れなくなったところで巨大な塊が発射された。
割れた甲羅に着弾して、大爆発を起こすと、巨大生物の甲羅は吹き飛び、大量の血が溢れ出した。
おそらく心臓も吹き飛んでいる。即死だろう。
「終わったみたいですね」
「ああ。あとはあちらに任せよう。とにかく皆ご苦労だったな。若宮もよくやってくれた。それでは帰還するぞ」
隊長が指示するとビッグスターは基地へ向け出発した。
基地へと向け飛んでいる最中、副隊長は神山公造の手記を見ながらボソッと呟く様に言った。
「あの巨大生物ども、どうやってあの孤島から日本に渡ってきた……」
僕含め、聞こえて隊員たちはハッとした。
確かにおかしい。今回のワニガメの巨大生物だけじゃない、サソリの巨大生物であるスコーピオ、カマキリ型巨大生物のリーパーマンティスなど、あの孤島からこの日本にどうやってきたのだ?世界に出現している巨大生物に関してもそうだ。
「何かあるってことですか?」
「誰かが意図的にやっているのなら説明がつくだろう?恐らくだが、巨大生物になるまでは時間がかかる。まだ小さい状態なら容易に移動できる。例えば、貨物船に紛れ込ませたりすればな」
「確かに、そうすれば日本にいながら世界各国に巨大生物を送ることができる。しかし誰がそんなことを……」
山内隊員が言うようにそこが疑問だ。
そんなことをする意味がわからないのだ。
「神山公造博士がミスをして巨大生物化が始まったとは考えにくい。そもそもそんなことをする人ではないと飯塚隊長は言ってる」
「それじゃあ……」
「ああ、こんな事をしている奴がいるとすればあの研究所に勤めていて、現在も生存している人間……もしくは」
「巨大生物特別攻撃隊日本支部上層部の人間ですか?」
若宮隊員が副隊長が言う前に悟ったかの様に言った。
「ありえない話じゃない。間宮の体のことを知っていながらこの隊に入れた。しかも、面接の時に吉永参謀が立ち会っているのも腑に落ちないところがある」
「そんな……」
巨大生物から人類を守るための組織の上層部がそんな事をするなどということを僕は信じたくなかった。
「なんにしても調べる必要がある。協力してくれ」
「「了解」」
隊員達は一斉に敬礼した。




