二十三話 鋼鉄の亀甲(3)
『…………成る程、事情は分かった。しかし鷹木隊長も無理を言ってくれる……』
事のあらましを聞いた高橋副隊長は呆れているようだった。
「どうします?空は雲がかかっていますし、とてもじゃないですが、超高高度からミサイルを甲羅以外に直撃させるのは……」
『……仕方がない。泉、間宮、小林。スターライトに特製スパイクミサイルを積み込め』
「やっぱやるしかないんすか?」
『ああ、失敗すれば他の作戦を立てざるを得ないだろう?当たればラッキーくらいの気持ちでやれ。間宮が操縦、射手は小林。上手いことやれ。出来るだけ早くそちらに向かう』
「了解」
通信を終えると僕達は渋々作戦準備を整えることにした。
超高高度から決められた標的に向かってのミサイル投下……というより今回は射出だが、それがいかに難しいかはなんとなく分かってもらえるだろうか?
例えるなら1匹のノミに向かって何百メートルと離れた場所から銃弾を撃ち込むようなものなのなのだ。
快晴で無風、標的が動かないというありえない条件下ならば当たるだろうが、今回は雲があり風も強い。はっきり言ってピンポイントで当たる訳がない。それどころか下手をしたら民家がある場所に着弾、味方の第二作戦室の展開する地点に着弾という可能性も……というか、そっちの可能性が高い。
つまり、この作戦はとても危険であり、成功の可能性がゼロに限りなく近い普通なら没になるような作戦である。
それだけ第二作戦室は切羽詰まっているのは分からなくもないのだが、いくらなんでもこの作戦だけは採用しないでほしかった。
火薬マシマシの特製スパイクミサイルを搭載すると僕と小林隊員はスターライトに乗り込んだ。
『間宮、小林隊員。君たちの攻撃が成功するよう、出来る限り動きを止めておく。頼むぞ!』
鷹木隊長の大声が通信機から飛び込んできた。
「はいわかりました。こちらも最善を尽くします」
『間宮くん。超高高度までは垂直上昇ね。そうすれば命中する可能性は高くなるはず。後は垂直降下しながら発射よ。私は下で見てるから』
「はい、わかりました。行ってきます」
「当たったらちゃんと報告してくれよ!」
スターライトを上昇させ、巨大生物の真上に向かって飛んで行く。
「小林隊員、急上昇しますよ。いいですか?」
「おう!」
巨大生物の真上に到達すると同時に思いっきり操縦桿を自分の方へと引きつけた。
スターライトは90度傾き、超高高度に向け急上昇した。
可変翼を稼働させ出来る限り空気抵抗を減らし、上昇していく。
「うぐっ!すごい重力だな……気絶しそう……」
「踏ん張ってください!小林隊員!今からが仕事なんですから!」
「分かってはいるんだけどな、こんな重力は経験した事ねぇよ」
数分後、高度は7千メートルを超えた。ここから1万メートルが高高度と呼ばれる地点だ。
超高高度は1万メートル以上の高度の事である。
雲は遥か下に見え、見える景色は一面星空である。
「うおー!すげー綺麗だな」
「確かに綺麗ではありますけど、ここからミサイル撃つんですよ?一応自転とか諸々をコンピューターで計算しながら飛んでますけど……」
「……当てられる気がしねぇなぁ」
「当たるのを祈りましょう……」
「…………だな」
高度は1万メートルを超えた。
「急降下開始します!」
「了解ぃぃぃぃ!」
僕は操縦桿を前に倒し、一気に降下していく。速度は最高速のマッハ15近くまでになる。
さらなる重力が体をシートに押し付ける中だが小林隊員にはスパイクミサイルを撃ってもらわねばならない。
「小林隊員!発射したください!」
「うっし、いくぞ!発射ー」
スパイクミサイルは超高速で巨大生物に向けて飛んで行った……はずである。
僕は地上の鷹木隊長に通信した。
「たった今スパイクミサイルを発射しました。着弾ポイント確認お願いします!」
『よし分かった!お前たちも急ぎ地上に戻ってこい!』
「了解!」
「とりあえず、当たることを祈りながら降下しよう。んで、速度落とそう。もうやばい……」
「はい。そうしましょう。僕もキツイです」
垂直降下をやめ、速度を落としながら降下した。
高度6千メートルまで降下した頃に通信が入ってきた。
『間宮くん!?』
「泉隊員?どうですか?着弾しました?」
『そう、そうなの!奇跡よ奇跡!尻尾に着弾してその威力で尻尾丸々吹き飛ばした!』
「えっ?えぇぇーーー!?当たった……??当たったんですかぁ!!」
「う、うおぉーー!まじかよ!俺すげぇ!!俺すげぇ!!」
『本当よ!凄いよ!第三作戦室のみんなで見てたけど当たった時はあの副隊長が口開けて驚いてたわよ!』
「うそー!うわぁその顔見たかった!なぁ間宮!」
「それは確かに見たかったですね!」
『でもまだ喜ぶのは早いよ。まだ倒せたわけじゃないから。……ここからが本番だよ!』
「了解!早急に地上に向かいます!」
高度は4千メートルを過ぎ、地上が見えてきた。
小さな山のような生物が動くのがかすかに見えている。




