二十話 緑の死神(6)
後日ー
死体処理班からの連絡を受けて僕たちは再びリーパーマンティスとの戦いの跡地へと赴いた。
「どうもお疲れ様です。第三作戦室隊長の飯塚です」
「あぁ。これはどうも。第三作戦室の皆さん」
「リーパーマンティスの死体処理中に発見したものがあると聞きましたが?」
「はい。その件については奥で話しましょう。どうぞこちらへ」
僕たちは立ち入り禁止区域の中へと案内され入って行った。
リーパーマンティスの焦げた死体は胴体と脚の部分が片付いていて残っているのは首から上の部分のみであった。
脅威的な強さを誇った緑の死神もこうなってしまうと迫力不足だ。
リーパーマンティスの死体から少し離れた位置に死体処理班の職員用に作られたプレハブ小屋が立ち並んでいる。
「随分と処理は進んでいるようですね」
「ええ。焼け焦げて外骨格は炭化していましたからね。普段より死体処理はスムーズに進んでいます。……ああ、いました。班長!第三作戦室の皆さんがお見えです!」
職員の呼びかけで小太りの中年男性が振り返った。あの人が死体処理班班長の上条耕三。
以前バーサークブルの死体処理の手伝いをした時に出会っているからすぐわかった。
「おお、そうか!……よく来てくださいました。よく案内してくれた。堺くん、君は仕事に戻りたまえ」
僕たちを案内してくれた職員の堺という男は一礼して仕事へ戻っていった。
「上条さん。我々に見せたいものとは?」
「うむ。これなんだがな」
上条さんは上着のポケットから透明なビニル袋を取り出してこちらに見せた。
中には黒く細長いものが入っている。
「これは?」
「ハリガネムシ……ですか?」
「流石は若宮隊員だな。そう、これはハリガネムシだ。しかも、あのリーパーマンティスの体内から見つかったものだ」
ハリガネムシ。
この名前なら聞いたことがある。
確かカマキリやキリギリス、バッタなどに寄生する寄生虫の一種だ。
だが何故巨大生物の体内から?
「ということはリーパーマンティスがこのハリガネムシを何処かで食べたことになりますね」
「ん?どういうことだ?」
「ハリガネムシという寄生虫はまず、水中で生まれると水生昆虫、厳密に言えばカゲロウやユスリカ、トビゲラのように羽化すると陸に飛び立つ生物にに寄生します。その羽化した生物をカマキリやカマドウマと言った肉食性の昆虫が食べることによって寄生するんです。その後成虫になると脳にある種のタンパク質を注入し水辺へと誘導し、そこで水の中に宿主を飛び込ませ尻から脱出するんです。つまり、このリーパーマンティスはハリガネムシの寄生した虫を食べ、ハリガネムシに寄生されたということなんです。多分、寄生された所為で生殖能力は消えているはずですし、子孫は産まれていない筈ですから今後リーパーマンティスが現れることはないと思いますが……」
「あー、わかったわかった!長い解説ご苦労さん」
小林隊員、途中から質問したことに後悔を覚えたのか聞いたふりしてやり過ごしていた。
「……まあ、それでなんだがな。話戻すぞ。このハリガネムシが見つかっただけならここまでご足労願うこともなかったんだがな。問題はこっちなんだよ」
上条さんは少し離れた場所に置かれた箱から何やら取り出してこちらに持って見せた。
それは真っ白な丸い塊。
心臓が変化したものだ。
「これは見たことがあると思うが、巨大生物の心臓と言えるものだ。んでよ、普通心臓って一つしかない筈だろう?」
「そりゃあまあ、そうでしょう?普通に考えれば」
「……ところがな、こいつには……」
上条さんは箱からさらにもう一つの塊をとりだしたのだ!
「なあ?こりゃあどういうことだと思う?突然変異って事で片付けられるものなのか?それとも、進化してるのか?どっちだと思う?」
……巨大生物が進化している?いや突然変異?
いや、あり得ることかもしれない。今現在、巨大生物はどんどん強くなっている。
もしかしたらこの先、災厄巨大生物が普通に現れるようになるかもしれない。
そうなってもおかしくないくらい強くなっている。
「……なんとも言えません。とりあえずこの塊は本部で検査してもらいます。全ては検査が終わればおのずと出てくるでしょう?」
「そうだな。それじゃあこいつは飯塚隊長に任せる。……わざわざ来てもらって悪かったな」
「いえ、それではこれで失礼します」
白い塊を受け取ると僕たちは基地へとすぐに帰還して、白い塊を本部へと送り届けた。
巨大生物。
一体、何者なのだ?




