二十話 緑の死神(2)
基地に帰還した僕たちは急いで第三作戦室へと向かった。
基地内は騒然としており、隊員達でごった返していた。それだけの緊急事態ということなのだろう。人混みをかき分けるようにしてなんとか第三作戦室へと向かう。
第三作戦室内もやはり廊下同様騒然としていた。
「隊長!ただいま戻りました!」
副隊長の声に隊長が振り向いた。
「おお。よく戻ってきてくれた。とりあえずこれを見てくれ」
隊長は正面モニターのスイッチを入れて映像を投影する。
「これが今回現れた巨大生物だ」
緑の体に6本の足、大きなレンズのような巨大な目、逆三角形の頭、特徴的な鎌のような前足。
間違いなくこれはカマキリだ!
「カマキリ型巨大生物リーパーマンティス。直訳すれば死神カマキリ。まさにその通りの見た目だ。武器は見ての通り、あの巨大な鎌だ。自衛隊の報告だと、鋼鉄も切り裂いたという報告が上がっている」
「こ、鋼鉄を切るって、当たったらやばいじゃないっすか!」
「体の外骨格も明らかに普通じゃあない。まさに鎧だ」
「小林隊員、副隊長、まさしくその通りなんです」
タブレットを片手に持って若宮隊員がやってきた。その表情は普段よりも深刻そうな顔に見える
「リーパーマンティスのデータを集めてみて驚きました。明らかに今まで出現した昆虫系巨大生物の中でも異質な存在です」
「どういうことだ?」
「まず鎌ですが、本来は獲物を逃さないようしっかりと捕まえるものですが、このリーパーマンティスの鎌は明らかに獲物を切り裂くものになっています。この進化、いえ、変化は恐怖でしかありません。
カマキリが鎌を構えてから振り下ろすまでの速度はわずか0.05秒。人間大サイズのカマキリがいたと仮定すればその腕力は3tになるといいます。それが今回はその日ではない。力は数百tいえ、数千tにも及ぶと思われます。
しかも外骨格の強度も半端ではないです。スパイクミサイル程度では貫けないと思われます。目の視野角は360度全方位を見渡せます。羽もあるので少しならば飛行可能と正直、スペックだけでいえば災厄巨大生物をも凌ぐ力を持っているかもしれません。間違いなく、今までで最強の敵です!」
今までで最強。
若宮隊員が言うのだ。間違い無いのだろう。
「若宮、何か弱点はないのか?いくらそんな化け物でも弱点くらいあるんじゃないのか?」
山内隊員が若宮隊員に質問する。
いくら強力な力を持つ敵でも弱点くらい持っている筈だ。
「確かに弱点はあります。ですが、首は外骨格の強度が上がったことで弱点とはいえませんし、強いて言うなら腹くらいです」
「成る程。カマキリのあのやたら長い腹は弱点かもな。よっしゃ、それがわかれば……」
「どうにかなりそうだ。小林隊員、そんなに簡単ではありませんよ!先程言いましたが、奴の視野は360度、全方位なんです。普通のカマキリと比較してみても反応速度が明らかに速い。今までとはレベルが違うんです。下手をすれば奴の餌食になってしまう」
「んじゃどうすんだよ!」
しばらく皆が無言になった。
今までとレベルが違う。若宮隊員があんなに声を張り上げて発言したところは見たことがない。
多分、他の隊員も見たことがなかったのだと思う。
それほどの敵なのか……リーパーマンティスとは……。
「……出撃するぞ」
「ふ、副隊長?」
皆の沈黙を破って副隊長が出動を言い渡したのだ。僕含め他の隊員は唖然としてしまった。
「出撃だ。このままここにいても仕方がないだろう。……確かに今回の敵は強大だ。倒すとなると多くの犠牲が出るだろう。だが、敵がどんなに強かろうがなんだろうが、我々には命を落としてでも守らねばならないものがある。……違うか?」
そうだ、その通りだ。
巨大生物から人々を守りたい。だからこの巨大生物特別攻撃隊に入隊したんだ。
副隊長の言葉で戦闘隊の皆の目つきが変わった。
「隊長、出動します。よろしいですか?」
「うむ。第三作戦室攻撃隊出動せよ!武田隊員!第二作戦室に連絡を入れろ!緊急出動要請だ!」
「了解!」
「高橋、作戦を立てておく。作戦が決まるまではなんとか奴を抑えてくれ。頼むぞ」
「了解。…….よし行くぞ!」
「「了解!」」
僕たちは決意を新たにリーパーマンティスの出現ポイントへ向けて発進した!




