十話 飛翔する影(2)
「……小林、どう思う?さっきの通報?」
「いやー見間違いなんじゃないのか?だって酒飲んで酔っ払ってたんだろ?しかも結構な爺さんだったじゃないか」
僕が作戦室に入ると隊の皆が集まって何か話している。
一体なんなのだろう?話を聞くに老人から通報がきたようだが……。
「おはようございます。何かあったんですか?」
「いや実はな、さっき爺さんから通報がきたんだけどよう、これがまた信憑性のない話だったんだよ」
「どういう通報だったんですか?」
小林隊員は大きくため息をつくと、呆れたような口調で通報してきた内容を話してくれた。
「昨日月を見ながら酒を飲んでいたら突然月が欠けたんだと。昨夜は雲ひとつなかったから月が隠れて欠けたように見えることなんてない。おかしいと思って目をこすってもう一度見たら月は元に戻っていて、気のせいかと思ったが、その後に甲高い声を聞いた!って通報だったんだよ。どう思うよ?本当だと思うか?」
確かに酒を飲んでいて、酔っ払っていたとなると、それが真実か偽りかがわからなくなるだろう。
「本当かどうかはわかりませんけど……でも、もし本当だったらその集落の人たちの命に関わることになりますよね。万が一ということもありますから、調査するだけしてみましょうよ」
「間宮の言う通りだ」
突然声が聞こえ、後ろを振り返ると高橋副隊長が腕組みをして立っていた。威厳あるその立ち姿に少し足がすくんでしまう。
「小林。我々の仕事は巨大生物から国民の平穏な暮らしを守ることだ。たとえ信憑性の薄いものであっても万が一がないよう、調査して国民を安心させてやるのも我々の仕事だ。その点をよく覚えておけ。出るぞ!間宮、今日泉は休暇中だ。よって、ウィッシュスター一号機を一人で操縦してもらう。できるな?」
そういえば泉隊員はまだ休暇中だったな。一人での操縦は訓練で何度かしたのでなんとかなるだろう。戦闘できるかと言われたら無理だろうけど……。
「はい!できます」
「よく言った。では行くぞ!」
「はぁー。嘘だと思うけどなー」
「小林、うだうだ言わずにとっとと来い!」
「はい!すみません!」
僕たちは連絡のあった長野県某所に向け飛び立った…。
長野県某所に着くと着陸できそうな場所に着陸して通報者の老人に再度話を聞きに行くことにした。
老人の家は集落の北の端に位置していた。表札によると佐伯さんというようだ。
佐伯さんの家はかなり大きな日本家屋で家の周りには垣根があり、家の中は道路からは見えないようになっていた。
玄関にたちインターホンを鳴らそうとしたがインターホンが無い。
「すみません。巨大生物特別攻撃隊の者です。佐伯さん。いらっしゃいませんか?」
副隊長がドアをノックして大きな声で叫んだ。
「おーう。そこから左に入って来てくれ」
家の奥の方から佐伯さんの声が聞こえて来た。僕たちは言われるがまま、左の庭から声の聞こえた所まで歩いて行った。
家の裏に出ると、大きな庭が広がっていた。日本庭園のような庭で、池の中には鯉が三匹ほど泳いでいる。縁側の方を見ると、厳つい顔をした老人が座っている。この老人が佐伯さんか。
「どうもこんにちは。あなたが通報者の佐伯菊之助さんですか?」
「おおそうじゃ!よう来てくれた」
佐伯菊之助さんは立ち上がって僕たち一人一人に握手をした。厳つい顔をしていたので、怖い人なのかと思っていたが、結構フレンドリーな人で良かった。
「それで、早速なのですが昨夜の事を詳しく教えて頂けませんか?」
「おお、そうじゃな。まあ立ち話もなんだ。座って話そうじゃないか」
僕たちは佐伯さんに促され縁側に座った。
「ちょうどここで座って酒を飲みながら月を見とった。この縁側から月がよう見えるのよ。いつも儂はここで月を見ながらチビチビ酒を飲む。昨日もそうだった。そんな時よ。目の前の月が欠けたんだ。昨日は雲なんてなかった。嘘だと思うなら気象庁にでも確認とってみろ?本当に雲なんてなかったんだ。んなのにだ。月が欠けたもんだからわしゃあ驚いてな。最初は酔ってそう見えてんのかと思ったさ。だが違う。ありゃあなんかでかいものが月を隠してたんだ。甲高い声を確かに聞いてんだからよ。生物だでありゃあ」
ふむ。今こうして目撃現場で実際に見たままを手を振って話してくれているのでなんとなくはわかる。
夜空を飛ぶ生物ということになるのだろうか?となると蝙蝠の巨大生物か?それとも蛾?蛾の巨大生物なんて想像したくないけど……。
「成る程。わかりました。ではこれからこの集落を中心に調査をしていきます。解決したらまた伺いますので」
「おお。しっかりやってくれよ!」
「では、失礼します」
話を聞き終えて、僕たちは佐伯家から出た。
「さて、とにかく調査してみよう。間宮、小林。二人で地上の調査をしてくれ。俺と山内で空から調査をする。ではよろしく頼む。散開!」
「了解!」
僕たちはそれぞれ別れて調査を開始した。




