十話 飛翔する影(1)
長野県某所の片田舎の集落。
老人は夜、月見をすることを趣味としていた。
部屋の灯りを落として月を見ながら酒を飲む。これが彼の生き甲斐になっていた。
その日も老人は月を見ながら酒を飲んでいた。雲のない空に三日月が輝いている。最高の月見日和だ。
こういう日には酒も進むというもので、老人は既に顔を赤らめてほろ酔い状態となっていた。
老人は杯に酒を注いで再び月を見上げた。するとそこには月はなかった。
老人は飲みすぎたのかと思った。当然だ。突然月がなくなるなんてことはないのだから。
老人は目をこすってもう一度月があった場所を見上げる。
確かにそこには月がある。だが、月は三日月ではなかった。三日月は半分に割れていた。雲もないこんな日にそんなことはありえない。
老人は恐ろしくなって逃げ出したくなった。だが体が動かない。ただ目の前に起きている不可解な現象をじっと見ていることしかできなくなった。
しばらく見ていると、欠けていた月がどんどん現れた。
「キシュゥゥーー!!」
空から甲高い声が響いた。老人はそこで気を失ってしまった。
翌日、目を覚ました老人は昨日の夜の事を集落のものに話した。
しかし、誰もが、酔っ払っていて変なものを見たように錯覚しただけだと相手にしなかった。
納得のいかない老人は電話を取り、この巨大生物特別攻撃隊に連絡を入れた。




