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我ら、巨大生物特別攻撃隊!  作者: ひぐらしゆうき
最終章 我ら、巨大生物特別攻撃隊!
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最終話 光輝なるミライへ!(1)

 反町隆史との最終決戦から5年の歳月がたった。

 戦闘の中心地であった東京の復興は目覚ましく、荒廃した状態から最先端の都市へと復活を遂げた。

 世界各地でもあれから巨大生物の出現は報告されなくなり、それに伴って、巨大生物特別攻撃隊は解散となり、隊員たちの多くは自衛隊や海上保安庁といった元々所属していた組織へと戻っていった。巨大生物の恐怖は少しずつ人々の記憶から薄れていくことになるだろう。

 反町若菜は父親からの命令によってスパイ活動をしていたことや、最終決戦時での巨大生物特別攻撃隊への協力を鑑みて情状酌量の余地ありとして、かなりの減刑となった。現在では刑期を終えて僕と同じ職場で働いている。

 無害認定されている巨大生物に関しては、国際機関によって現在も収容されており、生物学者のチームによって生態研究が行われている。

 今日僕は5年目という節目に、巨大生物の犠牲になった人々の慰霊碑へと向かっている。もちろん慰霊のためだが、それ以外にもう一つ行く理由があるのだ。


 慰霊碑の前にはお供え物を供える場所が設けられており、慰霊碑の傍には千羽鶴をつるしておく簡易的な小屋のようなものが建てられている。どうやらまだあの人は来ていないようだ。

 僕は慰霊碑の前に立ち、持参した水と花を供えて手を合わせる。生ぬるい風が僕の頬を撫でるのが目を閉じているから余計に伝わってくる。

 目を開けて、お辞儀をし、踵を返すと丁度こちらに歩いてくる男性の姿が目に入った。


「間宮、久しぶりだな」


「高橋さんもお元気そうで何よりです」


 右足を引きずってぎこちのない歩き方ではあるが支えなしで歩いている。あれだけの重傷を折ったにもかかわらずここまで回復するとは驚きだ。


「手を合わせてくる。そこのベンチで待っていてくれ。あそこなら屋根があって涼しいだろう」


 高橋さんの指さす方には小さな休憩スペースが設けられている。僕はわかりましたと返事をしてベンチ近くの自販機で水を2本購入してベンチに座った。

 高橋さんは慰霊碑の前で静かに手を合わせている。

 3分ほどじっとしていたが、合わせた手を開き深々と一礼してこちらへと歩いてやってくる。僕は買った水を手渡し、高橋さんは受け取るとベンチにゆっくりと座り込む。ふぅと息を一つはいてキャップを開けたペットボトルを傾けて水を飲む。


「やはりこうして長く歩くときついな。暑さのせいもあるのかもしれんが」


「それでも歩けるのはすごいですよ。普通なら寝たきりだって言われていたのですからね」


「寝たきりになったらここに来ることができなくなるからな。それだけは勘弁だ」


「……戦友の眠る場所なのですよね?」


「そうだ。5年もこれなかったから、怒ってるかもな……」


 この慰霊碑の立つ場所は最初の巨大生物を討伐した場所。高橋さんが英雄視されることになったまさにその場所だ。なんでも、そこで多くの部下を失ったのだという。


「ここに来るとな、あいつらの顔を思老いだす。特に坂下の奴と、アイツの嫁さんの顔をな」


「どんな方だったんですか?」


「……ムードメーカーでどんな状況でも折れない男だった。あの当時、坂下は子供が生まれたばかりでこれからって時に巨大生物討伐作戦に招集された。それでも最前線に出て戦うのを決めた。戦闘中も士気を高めて、機体に損傷を受けてもう墜落寸前という状況になっても泣き言ひとつ言わなかった。……最後は限界の機体で特攻を仕掛けて死んでいった。その時にな、燃える機体の中から俺に向かって笑って敬礼して突っ込んでいった。その顔が今でもこびりついている。死ぬ直前の顔を見れたのはアイツだけだったから余計にな」


 高橋さんの目から涙が流れ落ちる。当時のことは10年近く経った今でも鮮明に覚えているのだ。そしてそれが高橋さんの戦う意味になっていたのだ。


「……作戦終了からしばらくの間は、俺も精神的に参ってな。部屋から出ることもできなかった。そこを飯塚さんや親友に発破町隆史との最終決戦から5年の歳月がたった。

 戦闘の中心地であった東京の復興は目覚ましく、荒廃した状態から最先端の都市へと復活を遂げた。

 世界各地でもあれから巨大生物の出現は報告されなくなり、それに伴って、巨大生物特別攻撃隊は解散となり、隊員たちの多くは自衛隊や海上保安庁といった元々所属していた組織へと戻っていった。巨大生物の恐怖は少しずつ人々の記憶から薄れていくことになるだろう。

 今日僕は5年目という節目に、巨大生物の犠牲になった人々の慰霊碑へと向かっている。もちろん慰霊のためだが、それ以外にもう一つ行く理由があるのだ。


 慰霊碑の前にはお供え物を供える場所が設けられており、慰霊碑の傍には千羽鶴をつるしておく簡易的な小屋のようなものが建てられている。どうやらまだあの人は来ていないようだ。

 僕は慰霊碑の前に立ち、持参した水と花を供えて手を合わせる。生ぬるい風が僕の頬を撫でるのが目を閉じているから余計に伝わってくる。

 目を開けて、お辞儀をし、踵を返すと丁度こちらに歩いてくる男性の姿が目に入った。


「間宮、久しぶりだな」


「高橋さんもお元気そうで何よりです」


 右足を引きずってぎこちのない歩き方ではあるが支えなしで歩いている。あれだけの重傷を折ったにもかかわらずここまで回復するとは驚きだ。


「手を合わせてくる。そこのベンチで待っていてくれ。あそこなら屋根があって涼しいだろう」


 高橋さんの指さす方には小さな休憩スペースが設けられている。僕はわかりましたと返事をしてベンチ近くの自販機で水を2本購入してベンチに座った。

 高橋さんは慰霊碑の前で静かに手を合わせている。

 3分ほどじっとしていたが、合わせた手を開き深々と一礼してこちらへと歩いてやってくる。僕は買った水を手渡し、高橋さんは受け取るとベンチにゆっくりと座り込む。ふぅと息を一つはいてキャップを開けたペットボトルを傾けて水を飲む。


「やはりこうして長く歩くときついな。暑さのせいもあるのかもしれんが」


「それでも歩けるのはすごいですよ。普通なら寝たきりだって言われていたのですからね」


「寝たきりになったらここに来ることができなくなるからな。それだけは勘弁だ」


「……戦友の眠る場所なのですよね?」


「そうだ。5年もこれなかったから、怒ってるかもな……」


 この慰霊碑の立つ場所は最初の巨大生物を討伐した場所。高橋さんが英雄視されることになったまさにその場所だ。なんでも、そこで多くの部下を失ったのだという。


「ここに来るとな、あいつらの顔を思老いだす。特に坂下の奴と、アイツの嫁さんの顔をな」


「どんな方だったんですか?」


「……ムードメーカーでどんな状況でも折れない男だった。あの当時、坂下は子供が生まれたばかりでこれからって時に巨大生物討伐作戦に招集された。それでも最前線に出て戦うのを決めた。戦闘中も士気を高めて、機体に損傷を受けてもう墜落寸前という状況になっても泣き言ひとつ言わなかった。……最後は限界の機体で特攻を仕掛けて死んでいった。その時にな、燃える機体の中から俺に向かって笑って敬礼して突っ込んでいった。その顔が今でもこびりついている。死ぬ直前の顔を見れたのはアイツだけだったから余計にな」


 高橋さんの目から涙が流れ落ちる。当時のことは10年近く経った今でも鮮明に覚えているのだ。そしてそれが高橋さんの戦う意味になっていたのだ。


「……作戦終了からしばらくの間は、俺も精神的に参ってな。部屋から出ることもできなかった。そこを飯塚さんや親友に発破を掛けてもらって特別攻撃隊に志願した。日本支部発足後すぐに死んでいった仲間に敵を討つことを伝えにここに来た。その時に坂下の奥さんに出会った。坂下の子供をその腕に抱えていてな。俺を見ると、会釈をして坂下の最期の姿を知りたいと尋ねられた。どう答えるか迷ったがありのまま答えた。彼女は涙をこらえて『そうですか。あの人らしいです』とね、言ったんだ。感謝もされた。強い女性だったよ坂下の奥さんは……。少々昔話が過ぎたな」


「いえ、聞いたのは僕ですから」


「しかし、ようやく敵を討ったと報告ができた。俺の重荷も取れたよ。もう戦う理由はなくなった。これからの戦いはお前達に任せるよ」


「これからの戦い……。そうですね。戦いかもしれませんね」


「……さて、本格的に暑くなる前に帰るとしよう。間宮、お前もこれから仕事だろう?」


「ええ、そうですね。では、また機会があれば」


「ああ、頑張れよ。反町隆史を否定してくれ」


 高橋さんと握手を交わし、僕はベンチから立ち上がる。太陽はもう随分と昇ってきていた。

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