三十三話 絶望の中の希望(3)
第三作戦室で待機する僕たちの元に飯塚隊長が戻ってきたのは1時間が経過した頃だった。隊長の後ろからは増田研究員が現れた。その手にはタブレットと複数枚の書類が抱えられている。
「全員集合。これより反町隆史無力化作戦の概要を説明する」
無力化作戦という言葉に疑問を持ちつつも、僕は椅子から立ち上がり、隊長の前に整列した。
「本作戦において我々第三作戦室航空攻撃隊が重要な任務を負うことになった。それというのが、αーbiocellの特効薬の入った特殊弾頭搭載ミサイルを反町隆史の体内に直接撃ち込んで炸裂させることだ。特効薬について増田研究員に説明していただく」
増田研究員が飯塚隊長の一歩前に出る。作戦参加をする戦闘隊の隊員に特効薬の概要と作戦概要の書かれた書類が手渡される。
「特効薬はこれまで出現してきた巨大生物の遺体から集めたサンプルを研究して、αーbiocellの超高速分裂と細胞を死滅させる即効性の毒を混合したものです。とはいえ、まだテストも満足にできていないものです。効果があったとしても特効薬だけで死に至らしめることはできない可能性は十分にあります」
「ありがとう。……では作戦概要を説明する。先ほどの話の通り特効薬が奴を倒せるほどの効果を発揮するのかは不明瞭な部分が多い。そのため、後方では特殊弾頭ミサイル発射後、一気に攻勢をかけるための準備を行う。フェイルノートの修理が現在急ピッチで進められている。電気もできる限りかき集めている。威力は半分ほどになるだろうが、とどめには十分だと考えられた。第一作戦室には補給、および艦砲射撃による反町隆史の足止めをしてもらう。さて、問題はここからだ」
「誰がミサイルを撃つかということですね」
書類を真剣に見つめる山内隊員が口に出した。当然それが問題になってくる。最高の操縦技術を持つ高橋副隊長は重症、山内隊員も怪我をしているし、申し訳ないが小林隊員は技量不足だ。僕も現状飛べるウィッシュスターで奴の懐に潜り込める自信はない。
全員が押し黙って、俯いている。作戦の要であり、失敗すれば最悪日本支部は壊滅、各国の支部からの救援が来るまでにも時間がかかるため、首都圏は甚大な被害を受け、一般人にも被害が出ることになる。そのプレッシャーに勝てないでいるのだ。
「……アメリカ本部からスターライト一機を受領している。経験豊富な山内に頼みたいが、どうだ?」
隊長に指名されるも山内隊員は即答できないでいる。2分のオーバードライブモードがあるとはいえ、危険で難しいのに変わりない。
「隊長、俺ではおそらく奴の懐に潜り込めても、体内にミサイルを撃ち込むことはできないと思います。やろうとすればできる可能性はあるが、発射前に撃墜される可能性の方が高いと考えます。確実に成功できない以上、俺は適任とは言えません」
「……では、誰が撃つ?」
「隊長、僕にやらせてはもらえませんか?」
僕は一歩前に踏み出て右手を挙げた。
「間宮か。自信があるのか?」
「わかりません。でも、僕ならオーバードライブモードの制限時間を無視しても戦い続けられると思います」
僕はそう言ってポケットから反町若菜から手渡されたオーバードライブモードのリミッターを解除するデータの入ったメモリーカードを取り出して隊長に見えるよう差し出した。
「これは反町若菜から手渡されたリミッター解除のデータが入ったメモリーカードです。これをスターライトに接続すればオーバードライブモードを無制限に使うことができるようになる。反町隆史の使った細胞のもとになった医療細胞を体に持つ僕であればあの強烈なGに耐えられると思うんです」
「反町若菜がそんなものを?しかし、信用できるのか?」
しかめっ面をした武田隊員が僕に問う。
「彼女は嘘をついているようには見えませんでした。問題なく作動するはずです」
飯塚隊長は腕を組んで考えると、頷いて僕の左肩に肩に右手を置いた。
「……わかった。間宮、君にこの重大任務を任せる。失敗は許されない。必ず成功させて、必ず生きて帰ってこい。いいな?」
「了解!必ず成し遂げ帰還します!」
僕に対して全員から敬礼が送られる。それをに敬礼を返して、全体を見渡す。
「全員配置につけ!戦闘隊は発進準備にかかれ!」
各隊員が素早く動き出した。
僕はヘルメットを手に持つと格納庫に向かった。




