二十九話 あの日の再来(3)
北西から20階建てビル程の体長を誇る巨体でビル群をなぎ倒しながらクマ型巨大生物はこちらに突進してきている。その大きさと迫力は以前戦ったマキシベアをも凌駕するものだ。
僕たちはクマ型巨大生物に正対して一斉にビーム兵器を掃射した。
着弾箇所から焼け焦げた血肉が露になり、黒い煙がもうもうと上がっているが全く速度を落とすことはない。
『おいおい、まったく気にしてないぞあんにゃろう』
『ああ、しかしそれよりもこの先は第二作戦室がフェイルノートの発射準備をしているところだ。早めに止めないとまずい!』
フェイルノートの破壊力はこの特別攻撃隊の中でも飛びぬけている。今ここでが破壊されてドラゴン以上の防御力を持つ巨大生物を投入されれば討伐に時間がかかりすぎ、武器の消耗も激しくなる。そんな状態で本命が現れたらまずこちらに勝機はない。
『180°旋回して再攻撃!注意をこちらに引き付けて足止めをする』
高橋副隊長の命令と同時に若宮隊員から無線が入った。
「若宮隊員ですか?どうかしたんですか?」
『ザ……ザザザ……事態……緊急事態です!皆さん、今度は20体の蛾型巨大生物が北東よりこちらに向かっているのが確認されました!』
『なんだと?若宮、それはいつ頃ここに到達する?』
『あと5分ほどで新宿に到達します』
『5分て……おい……あのクマ倒せる?』
『極めて難しいだろうな。どうします?高橋副隊長』
『……第二作戦室に応援をよこしてもらうか。蛾ならクリムゾン・レイで一撃だろうから俺一人で20匹処理する。お前たちはクマ型巨大生物を止めてくれ』
現状クマ型巨大生物を止めることが最優先。蛾型巨大生物は戦力分散が目的なのは明白だ。副隊長のこの判断は間違っていないと思うが、20匹を一人でどうにかできるのだろうか?
『心配はいらん。蛾に落とされるようなことはない。お前たちは奴に集中していればいい。その間に蛾は全滅させる。早く行け』
副隊長は無線を切り、蛾型の迫る北東へ飛んで行った。
『おっし。間宮、あの猪突猛進クマ野郎を止めるぞ』
「はい。行きましょう」
エンジンパワーを上げて一気に加速してクマを追い抜き、足元めがけてスーパー3を発射した。大爆発を起こしクマ型巨大生物は前足を振り上げ立ち上がった。
立ち上がったその高さは50階建てビル以上はありそうな巨体で負傷した左前脚を振り回している。目の周りにはしわが寄って鬼神のような面だ。
「動きは止まりましたけど、これは危険かもしれません」
『ああ、完全にキレてやがる。まあでもこれでよかったかもな』
『どういうことっすか?山内隊員』
『わかれよ。キレてこっちに注意が向いたってことはマイクロチップなんかで操作されていないってことだ。操作されているなら間違いなく俺たちを無視してフェイルノートを破壊しに向かうと思うぜ。あの反町隆史ならな』
山内隊員の言う通りだ。……だがしかし、何故マイクロチップを付けていないのだろうか?フェイルノートを破壊することが目的ならば操作したほうが確実だろう。
ならば別に目的があるのだろうか?別の……なんだ……何か違和感があるように感じるのだが何かが分からない。
『おい間宮、攻撃するぞ!』
「は、はい」
とにかく今は目の前の相手に集中しなければ。ここで必ずこいつを倒すのだ。
『第三聞こえるか?第二作戦室戦闘隊の山岡だ。高橋副隊長の要請聞いて応援に来たぞ』
『山岡お前だけか?新見と佐藤は?』
山岡隊員、新見隊員、佐藤隊員は三人一組で作戦行動を行う。確か第二作戦室内では切り込み隊と呼ばれているのだったか。
『もちろんいるさ。ただまあ、いつも通りなもんでな』
『血肉沸き踊っているわけか……。あんまりはしゃぎすぎないでくれよ?こっちに流れ弾当てられちゃたまったもんじゃない』
『そんなことしないさ。さて、とりあえずこいつはここでどうにかしないとだろう?こっちは足元を攻撃してバランスを崩す』
『ならこっちはすきを見てでっかい口の中にスーパー3をぶち込んでやるとするか。行くぞ間宮、小林』
『おっしゃ!まかしといてくださいよ』
「はい!行きましょう」
二手に分かれて離れた位置からビーム兵器でスーパー3を受けて深手を負っている左前脚を集中攻撃する。本能で傷口を隠そうとしているようだが苛烈な攻撃でそうもいかないようだ。
足元は第二作戦室の戦闘車によるロケット弾攻撃を受けているため思うように動けず逃げられもしないだろう。
右前脚を振り回しているが間合いの外から攻撃しているこちらに攻撃が届くことはなく剛腕は無情にも空を切る。
僕は上昇してクマ型巨大生物上空からクラスタースパイクを投下した。
連鎖的な爆発が頭部から肩あたりまでを包んだ。どうやらダメージはあったようだが致命的なものにはなっていないようだが、狙いはダメージではない。
クマ型巨大生物は攻撃を受けた上空を見上げた。
「狙い通りです。山内隊員、小林隊員!」
『おし、任せろ!スーパー3発射だ!』
上を向いたクマ型巨大生物の口めがけてスーパー3が発射される。真上を向いた今の状態なら胃までミサイルが到達してから爆発するはずだ。いくらなんでもこれなら致命傷になるだろう。
発射されたスーパー3は口の中に消え、数秒後に体内で爆発したようだ。クマ型巨大生物の口から鮮血とともに黒煙が上がる。
『どうだ?』
『これならいくら何でもくたってるだろ!』
「ええ、だといいですけど……」
間違いなく致命傷のはずだ。例え動けたとしてもかなり動きが鈍るはずだしどう転んでも問題はない。
そのはずだったのだ。
【グゥオオオオオォォォ】
雄たけびを上げてクマ型巨大生物は再び動き出した。しかも動きは全く鈍っていない。
『な!ンな馬鹿な!!』
『体内でスーパー3が爆発したっていうのに……なんてタフさだ』
いくら何でも異常なタフさとスタミナ。これは、やはり何かおかしい。こいつの本当の目的はフェイルノートを破壊なのか?もし、それが本来の目的ではなく副次的な目的なのだとしたら。本当の目的を隠すためのカモフラージュなのだとしたら……。
相手は反町隆史だ。こんな大それた計画を実行した男なら……
「はっ、もしかして!」




