二十九話 あの日の再来(1)
7月8日6時00分。
とうとうこの日がやってきた。高橋副隊長との猛特訓におかげで随分と操縦技術が付いた。どれほどの巨大生物が現れるのかはまだ不明だが、恐らく今までの比ではないだろう。
僕は隊員服に着替えると自身のヘルメットを手に取ると発進準備の整ったスターライトに搭乗した。
『全員、聞こえるか?』
無線機から飯塚隊長の声が聞こえてきた。後ろがざわついているのはそれだけ基地内はあわただしいことを感じさせる。
『これから発進まで各機に搭乗したまま待機してもらう。いつどこに出現するのかわからない以上警戒は怠れない。第二作戦室のフェイルノートの準備がまだあと2時間はかかるそうだ。それまでに巨大生物が出現した場合こちらで対応しなければならない。援護はあまり期待しないように。とりあえず今は以上だ。何か質問は』
「ありません」
『……どうやら全員質問は無いようだな。それではもうしばらく待機していてくれ』
通信が終わると僕はポケットに入れていたあのUSBメモリを取り出した。スターライトにメモリを装着すればいいらしいが、データ解析をしてみても何もわからなかった。何故か厳重なプロテクトがかけられているようで僕の腕ではどうすることもできなかったのだ。
「一体、これで何が起きるっていうんだ……」
気になりはしたが、これから決戦だというのに得体のしれないものを試すことはできない。使うときは現状の戦力でどうしようもない時にするしかないだろう。
取り出したUSBメモリをポケットにしまうと今までの教わったことを一つ一つ思い出した。そうすれば少しは緊張がまぎれるような気がした。
普段の出撃でも緊張はするのだがここまで緊張したことはない。出撃までまだ時間があるというのが救いであった。
『間宮、少し話いいか?』
「武田隊員?ええ、いいですけど何かありましたか?」
『ああ、通信機器の調整をしたくてな。ジャミングされたら面倒だから、それを防ぐためのアンチジャマ―をアップデートする』
「僕が何かすることはありますか?」
『こっちで全部やるが、少しの間無線が使えなくなるから気をつけてくれ』
「わかりました」
『早速始める。通信を切るぞ』
通信が切断されると同時にアンチジャマ―のアップデートが始まったようだ。通信機からピッという電子音が聞こえる。
空を見上げると空は厚い雲に覆われて太陽の光はさえぎられている。よくアニメや特撮である最終決戦の雰囲気そのものである。
『間宮、終わったぞ』
空を見上げてぼーっとしていた僕の耳に武田隊員の声が聞こえてきてはっとした。
「あ、ああわかりました」
『おいおい大丈夫か?少ししリラックスしろ?ガッチガチに緊張していたら実力を出し切れないぞ』
「はい、分かっています」
『ならいいんだけどな。とにかくだ、しっかりやってくれよ。こっちもできる限りやるからよ』
「はい、お願いします」
僕は顔を両手ではたいて気合を入れた。
「よし、やってやる」
やらなければならないことはわかっている。覚悟も決まっている。緊張する必要なんてない。やることはただ一つ、巨大生物を生み出したすべての元凶たる反町隆史を止めること。
『東京都新宿区に巨大生物出現!総員発進せよ』
『よし、行くぞ!俺に続け!』
『了解!』
「了解!」
7月8日6時24分、僕たちは基地から飛び立った。




