八話 音速の翼 (2)
「巨大な鳥?」
「はい。確かにそういうと連絡が入りましたが…見ませんでしたか?」
昼の12時。つまり正午ごろだった。パトロールから高橋副隊長が帰ったその直後に連絡が入ったのだ。
羽田空港管制室からの連絡で、11時30分頃に群馬県上空を飛行中に巨大な鳥の姿を、機長、副機長らが目撃したとのことだった。
「うーむ。確かに群馬の上空をその時間パトロールしていたが…俺は何も見ていないぞ?」
「そうですか…」
副隊長がパトロールに行って巨大生物を見逃すなんてことはないと言っていい。副隊長はそれほど仕事を完璧にこなす人だ。
「ふむ。まあ確認できなかったものは仕方がない。切り替えて事に当たろう。……若宮隊員、君は鳥型の巨大生物のことを本部のデータベースを使って調べてくれ。その間に武田隊員ほか通信班は他の作戦室に連絡を取って目撃情報がきていないか確認を取ってくれ」
「「了解!」」
「攻撃隊は戦闘機で巨大生物を探し出して、写真を撮ってきてくれ。敵の姿、能力がわかれば作戦も立てやすい。それから、住宅地や町の中心部には絶対に入れないこと。入りそうなら迎撃してほしい。すぐに飛んでくれ!頼むぞ!」
「「了解!」」
飯塚隊長の的確な命令で第三作戦室の全隊員が動き出す。僕たちは急いで戦闘機格納庫に向かった。
僕たちは、羽田空港から旅客機が通った空路を遡る事にした。出現ポイント、あわよくば住処を見つけ出そうという副隊長からの命令であった。
『いいか、相手は鳥だ。機動力はこちらより上の可能性が高い。今回は処分が目的ではないが、十分注意しろ。いいな?』
『『了解!』』
「間宮隊員、遭遇した時はカメラよろしく。副隊長の言う通り機動力はあちらが上だと思う。そうなると操縦に集中しないと落とされちゃうからね」
「了解です」
捜索は旅客機が飛行する約3300フィート(約1万m)上空で行う。旅客機の航路から少し外れた場所を飛行し、旅客機の邪魔にならないように注意しながら捜索する。
「なかなか見つかりませんね」
「うーん。かなり大きいはずだから遠くからでも見えると思うのだけれど、なかなか見つからないわね……」
『いた!いたぜ!副隊長、泉、間宮隊員!7時の方向、かなり速いぞ!』
小林隊員からの通信だ!僕は小林隊員の言う通り7時の方向を見る。まだ距離は離れているが、確かに巨大な鳥型の巨大生物がこちらに迫っている!
『よし!散開して、敵の注意を引く。隙をみて誰でもいい、映像に奴をおさめろ!』
『『了解!』』
「間宮隊員!お願いね!」
「任せてください!」
各戦闘機は散開して背後から迫る巨大生物に向かう。
先頭を飛ぶウィッシュスターニ号機が巨大生物の注意を引く。僕たちはその隙にカメラで写真を撮る。泉隊員の操縦技術のお陰でいいアングルから撮影できた。
「よし、撮影できました!」
僕は各機に通信を入れる。
『よし!よくやった。あとは……く、何⁉︎』
通信機からガガガッという雑音が聞こえる!僕はばっとウィッシュスターニ号機の方を見た。なんとウィッシュスターニ号機は巨大生物に抜かれていた!
おそらく通信中に真横を通られて、機体が煽られたのだろう。
「山内隊員!大丈夫ですか⁉︎」
『っく、何とか大丈夫だ。しかしなんて速度だ!ウィッシュスターでは追いつけん!』
『俺が行く。シューティングスターの最高速ならば追いつけるはずだ』
高橋副隊長は巨大生物を追って最高速で飛んで行く!
僕たちも後を追うが、速度が違いすぎてどんどん離されていく。
「副隊長大丈夫なんですか?一人で行っちゃいましたけど」
「大丈夫。副隊長はブルーインパルスに所属していたぐらいの凄腕パイロットよ。そう簡単に落ちないわ」
高橋副隊長の操るシューティングスターは少し上昇しターンしてこちらに引き返してきた。どうしたのだろう?撃ち落としたのだろうか?
「副隊長、撃ち落としたんですか?」
『いや、撃ち落としなどいない。……逃げられた。奴はシューティングスターの最高速より速い。つまり、奴の飛行速度はマッハ7以上だ』
その報告は僕たちに衝撃を与えた。
何故なら、この日本支部で最速の戦闘機はシューティングスターだからだ。
僕たちは全てにおいて性能の勝る敵と戦う事になったのだ。




