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第23話(後編上)




東京大要塞ガーヒ・アヌムヌ

かつては江戸城、あるいは皇居として知られる東京のど真ん中にある広大な土地に文明連合が建設した基地である。

この世界ではコンクリート製の偽物江戸城レプリカが建っていた。

大魔王ポオは、NYに文明連合の最高評議会ビルを建設させると自分の城として、ここを選んだ。


「選ばれし者たちが来るぞッ!」


要塞守備隊長ドストレートは厳戒態勢を布いて敵の攻撃を待った。

とはいえ、もう選ばれし者たちに対応できる戦力などない。


「正直、もうやれることはないのでは?」

「…大魔王陛下にお任せした方が?」


主だった部下たちがドストレートに進言した。

サングラスに大きな軍帽を被って勲章をジャラジャラさせる悪魔が唸る。


「馬鹿野郎!

 こっちとりゃ、勇者、風間に命令されてるんだよぉ!!」


気に入らねえ!

なんで人間の勇者が文明連合の指揮系統に食い込んできやがるんでえ!!

…まあ、今となっちゃあいつの機嫌を取らねえと。


「ああ!

 それにしたってムカつくぜえッ!!

 あのガキの小さいケツを蹴り上げても我慢できねえーッッッ!!」


よほど我慢ならないのか、ドストレートは喚きながら両手で頭をかきむしった。

部下たちも顔を見合わせて肩をすくめた。


「ドストレート隊長。

 勇者、風間から連絡が入っております。

 モニタールームにお越しください。」


ドアを開け、一人の兵士が現れてそういった。


馬鹿ぶぁーかな。

 この一大事に現場を離れるわきゃねーだろ!」


ドストレートはそういうと兵士を小突いた。

しかし兵士はなおも続ける。


「き、緊急事態であるとのことですが…。

 本当に大丈夫ですか?」


「緊急事態などあるものか。

 あの勇者を追い詰められるような戦力が人類側にあるハズがないっ!」


そういってドストレートは兵士に背を向ける。

兵士は深いため息を吐いた。


「はあ…。

 できれば手荒な真似はしたくなかったんだが。」


兵士は次の瞬間、もじゃもじゃのモップ頭の少年に変身した。

悪魔たちが驚いて目を見開く。


「変身魔法!」

「おのれ、選ばれし者だな!?」


悪魔の一人が高校生探偵、西村軍記を攻撃した。

しかし軍記の手前で攻撃が弾かれる。


「何やってる!

 この距離で攻撃を外すとは!!」


ドストレート以下、数名の悪魔たちが軍記に攻撃する。

しかし軍記は傷一つない。


絶対安全コイン。

装備している限り、あらゆる攻撃から身を守ることができる神秘のアイテムだ。

反面、装備している間は相手にも攻撃できない。


「…本来は異次元から転移する勇者が亜空間を通過する時に与えられる神の装備。

 まさかあいつがずっと持っていたとはな。」


東京大要塞を調査していて、軍記は偶然にこれを手に入れた。


仮説として勇者が異次元を通る時に何かしらの保護具が必要ではないかと考えていた。

軍記のこの質問を勇者ははぐらかしていたが、こんな道具があろうとは。


そうとは知らずに魔人たちは必死に軍記に攻撃を続けている。




軍記が敵の指揮官を混乱させている間、虎仙たちが東京大要塞に侵入していた。


「うわーっ!!」


精霊燕返し斬(スパロースラッシュ)ッッ!」


掃部の攻撃。

正直言ってレベルに差があり過ぎて一人一人相手にするのはまどろっこしい。

こんな時、黄レンジャーじゃなくてもっと多人数を相手できるポジションになりたかったと思うのだ。


「ちっと魔法で片付けてよー。」


後ろで北京やシズマに守られている雅楽に掃部が声をかける。

ふくれっ面でそんなこと言われても雅楽にだって事情がある。


もう敵もまともに訓練を受けた兵士がいないのだ。

隙も伺わず、とにかく突進してくる。

少しでも攻撃をためらえば味方から攻撃されるからだ。


その結果、こっちは敵との距離が近すぎて魔法を放つ余裕がない。

掃部たち近接組がそのまま殴り倒した方が早い。


「雅楽が魔法で倒すよりこっちがやった方が早いッ!」


虎仙がそういって敵の下級指揮官らしい悪魔をバットで倒す。


やれやれ、若い男は単純でいいや。

ちょっと可愛がってやれば気合が入ってこれだわ。


掃部がそう思いながら嫌な笑いを浮かべる。


それにしても最近はずっとこの流れだ。

北京とシズマが雅楽の守りに入るので、掃部と虎仙だけで戦っている気がする。


軍記は専ら、単独行動がメインだし、戦闘力は皆無だ。


「ちっと北京だけでも良ーから手伝ってよ!」


「分カッタ。

 俺モ前ニ出テ戦ウ。」


北京はそういってシズマと雅楽を見る。

二人も頷いて答えたのを確認すると北京は大ジャンプして掃部や虎仙たちを飛び越えた。


「のわー!」

「や、野人だーッ!!」


毛皮に半裸という分かり易い外見の北京。

名前の由来は北京原人からのニックネームで、本当の名前を含めて彼の過去を知る者はいない。


彼自身、自分について語る事はない寡黙な男である。

間違いなく数万年分の文化の違いや価値観の差に混乱しているはずだ。


それでも彼は文句ひとつ言わずに戦い続けている。

きっと彼が生まれた時代と関係なく彼がそういう性格なのだろう。


頭突き!

それが彼の戦闘スタイルだ。


敵に頭突き、地面に頭突き。

震動に驚いた敵が地面に倒れ込む。


「今ダッ!」


北京の合図で彼と入れ替わりに掃部たちが敵に襲い掛かる。


大精霊真っ向唐竹斬ワカンタンカストライクー!!」


守備隊の最後の集団を掻き別けて、虎仙たちは表門に辿り着いた。

掃部の大上段切りが炸裂し、門扉ごと破砕して城内に突撃する。


「も、門が破られたぞー!」

「者ども、かかれー!」

「いやだ、死にたくないッッ!!」


城内は混乱に包まれた。




一方、攻撃の全く効かない軍記にドストレートは手を焼いていた。

絶対に攻撃が効かないなどということがあるはずがない。


そう、あるはずがないのだ。

この絶対安全コインを除いては。


「一体どういうカラクリだぁ~!!」


ドストレートは顔の脂汗をぬぐった。


どんな攻撃も、どんな魔法も、この相手には通じない。

どれほど連続攻撃を重ねても、どれほど長い間攻撃し続けても効果がない。


「ドストレート様、これが選ばれし者の実力なのですか!?」

「もう試していない攻撃がありません…!」


部下たちも疲労困憊といった表情でドストレートを見る。

彼らの言う通り、もう作戦も何もない。

何の糸口もつかめなければ、残された手段もないのだから。


「それにしても…。」


それにしても歯がゆいな。

コインを握っている間は確かに無敵だが、俺の実力じゃ攻撃を試みたら逆に瞬殺されるだけだ。


軍記はそう考えながら右手のコインを握りしめた。


仮説通りなら重力と時空間の奔流にさえ耐えられる神秘の加護だ。

空間ごと圧縮して消滅させるような魔法でもない限り傷一つ与えられまい。


「ト゛ストレート はなれて いなさい。」


急に背筋の凍るような声が響いた。

軍記が辺りを見渡すと巨大な目玉が天井に姿を現している。


こいつには見覚えがある。

大魔王ポオだ。

以前に勇者と一緒に戦ったことがあるから知っている。


「こ゛きけ゛んよう、 にしむら く゛んき。

 と゛ういう カラクリか しらないか゛、 あいかわらす゛た゛ね。」


「ポオ陛下!」


ドストレートが叫んだ。


「ゆうしゃ かさ゛まか゛ もと゛るまて゛は もちこたえられると おもったか゛、 ここまて゛た゛。

 わたしか゛ えらは゛れしものたちの あいてを するとしよう。」


ポオがそう言い終えると目玉から青い液体が滴り落ちて軍記を包んだ。

そのまま軍記を伴って空間がねじれ、彼の姿は消えた。




別の所では虎仙たちの快進撃が続く。

殆ど守備兵は散り散りになって逃げるばかりで反撃する者もいない。

無人の野を行くが如しである。


「どけ、どけ、どけぇーっ!!」


先頭を進む虎仙がバット片手に雄叫びを挙げる。

真っ青になった小悪魔たちが壁をよじ登って横穴に消える。

それができない魔人たちも床に伏せ、逃げ惑っている。


「ちっとー!

 軍記のメモだとこっちじゃないのー!?」


掃部がそう言って虎仙を呼び止めた。

しかし返事をしたのは雅楽だ。


「ううん、こっちであってるよ。」


「えー?

 なんでえー。」


掃部がそういって食い下がって来た。

幾ら何でも年上の相手に強く出られない雅楽は、言葉を選びながら返す。


「ち、地図の見方が間違ってるからじゃないですか。

 しっかりしてください。」


「虎仙ー!?」


再び話を振られた虎仙が、しぶしぶ答える。


「雅楽の言う通りだろ。

 こっちで間違いないって!」


「ちっと、あんたまで私をバカにしてー!

 あんただって、そんなにかしこいわけー?」


掃部はそういってふくれる。

しかしどんなにふくれてヘソを曲げようとも間違っている物は間違っている。


「掃部、道ハ間違ッテナイ。

 大丈夫サ。」


遂に普段は口をあまり挟まない北京まで横槍を入れる。

流石に掃部もこれなら観念すると思うだろ?


「えー!

 ひどいみんなでわたしをバカにしてー!!」


変な所にギアの入った掃部が立ち止まって暴れ出す。

もうこの女の頭にあるのは、正しいとか間違ってるという段階にない。

ただただ仲間から集中砲火を浴びて非難されたのが気に入らないだけなのだ。


「いつもそうやって私をバカみたいにっ!」


「か、掃部…。」


先を進んでいた虎仙が引き返してくる。

雅楽たちも困り顔で掃部をなだめる。


なんて奴だよ、全く。


「お前らーッ!

 お前らだってバカだろーッッッ!!」


黄レンジャーが子供に囲まれて逆ギレしてるって凄い絵面だ。

これじゃ正義の味方、秘密戦隊の面目もあったものじゃない。


「落ち着けって…。」

「こんなことしてる場合じゃないでしょ?」


「ウウウー。

 掃部、少シハ大人ニナッタラドウナンダ?」


四人が気を抜いていた、まさにこの瞬間だった。


シズマだけが素早く反応して雅楽を守る。

巨大な火球がシズマを包み、鋼鉄の身体の半分を吹き飛ばした。

バラバラになった手足を床にまき散らしながらシズマは床に転がった。


「選ばれし者たちだなっ!?

 せめて一太刀、貴様らに与えて死なねば俺の面子が丸つぶれよぉ!!」


ドストレートと部下たちだ。


「シズマッ!?」


掃部が悲鳴を上げる。

目線の先には人口樹脂の皮膚が溶けたシズマの首が転がっている。


「いやあーッ!」

「チクショウ!!」


虎仙と北京がドストレートに襲い掛かる。

実に呆気なくドストレートたちは惨殺され、惨めに床のシミになった。




シズマは死んだ。

もう動かない。


「な、なんで?」


「もともとシズマはメイドロボだったんだ。

 勇者に選ばれた仲間じゃない。

 …だから、俺たちと違って死んだんだ。」


もっとも勇者、風間の、この契約の力がどういう類のものか分からないが、今後は虎仙たちだって生きていられる保証はない。


「私のせいだ。

 …ぜんぶ、私の…。」


掃部は目に涙を貯めている。


だが、その涙は何だ?

取り繕った偽善か?憐れみのつもりか?

仮に憐れみだとして、それが自己憐憫でないというつもりか?


北京は無言で素早く歩み寄ると掃部を立たせ、力任せに殴りつけた。


ボーリングのピンのように掃部は跳ね飛んだ。

そのまま床をしばらく滑って、ゴロゴロと弾んで止まった。


「…進ムゾ。」


北京はそういって虎仙や雅楽も立たせた。

床の上にはかつて仲間だった鉄屑が彼らを見上げている。


彼女は何か言いたいのだろうか?

それは気に病むなという励ましだったのだろうか?

あるいは犠牲になったことを恨んでいるのだろうか?


いずれにしても、ここで立ち止まっていても答えを知ることはできない。

時間がない。


軍記との合流が上手くいっていない。

不測の事態だが、軍記自身が大魔王の討伐を最優先にと言い残していった。


進め。

もう、何も残されていない。




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