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第23話(前編上)




― PO-OH mean business ! ―

第23話「対決!次元の悪魔ポオ」




東京大要塞ガーヒ・アヌムヌの最奥で大魔王ポオ・グアイ=ヌンタークは報告を受けていた。


光魔軍団は、事実上の壊滅状態。

本来の十二神将たちは全滅、新たに選出された十二神将も半数が倒された。


高度知性文明連合中央情報局の官僚たちは、自分たちの異形のおさに熱のこもった目線を注いでいる。

彼こそが文明連合の事実上の最高権力者であり、最強の魔神なのだ。


青黒いブヨブヨした風船に似た腹部、そこから伸びる老人の腕の林。

その上に生えている小さなミイラのような上半身に異形の顔形。


もう人類と戦う戦士は、この不気味な大魔王しかいない。


突如、気味の悪い単眼が力なく部屋の床に広がった魔神の腹部に現れた。

ぎょろぎょろと目玉が部下たちの顔を順に見ると、その上に生えたミイラの口から鵺のような声で彼は語り始めた。


「すうしきは すうし゛を つかった ふ゛んしょう た゛よ。

 とても してきな すうしきを よんて゛ いると こころか゛ ゆたかに なるんた゛。」


部下たちが生まれて初めて聞く、悪魔の声だった。

これまで彼らは薄暗い部屋の中でモニターを眺めながらキーボードを操作する彼しか知らない。


「たとえは゛ 7-1を してこ゛らん?

 …と゛うして ゆうしゃは 7にんの なかまから はす゛れたんた゛ろう…?

 たった 3もし゛の ふ゛んしょうなのに、 こころに せまるた゛ろう?」




九州は熊本。

ここに崩壊した日本国の中枢がある。

そして同時に人類最後の文明連合と戦う抵抗組織でもある。


何も日本が手強かったからではない。

アメリカ、ロシア、中国軍のそれぞれの残党を戦力の強い順で追討していった結果、日本が後回しになったに過ぎない。


日本政府首班は、かつてこの地に天皇の祖、瓊瓊杵尊が天下り、神武天皇が軍を興して東征に臨んだ古事に因った。

要するに神話の出来事に頼らざるを得ないほど彼らの戦意も知能も低下していたのだ。


「神道民主党総裁、日本国総理大臣、村井求より日本国民の皆様にメッセージを送ります。

 ラジオ、テレビなどでこれを視聴している人は、近くにいる人にも声をかけ、できるだけ大勢の人がこの放送を知ることが気できるように協力してください。」


抵抗組織レジスタンス基地の一室で、生き残った日本国民に対するメッセージ放送の撮影が始まっていた。

戦意高揚のためである。


「…繰り返します。

 こちらは熊本の九州列藩戦線です。

 神道民主党総裁、日本国総理大臣、村井求より日本国民の皆様にメッセージを送ります。

 ラジオ、テレビなどでこれを視聴している人は、近くにいる人にも声をかけ、できるだけ大勢の人がこの放送を知ることが気できるように協力してください。」


迷彩服を着た女がカメラに向かってそう言い終えると、作業服のような繋ぎ姿の男が交代してカメラに写る。

どうもこいつが最後の日本の頭領ドンらしい…。


タテにもヨコにもデカい総理大臣は、軽く咳払いをした。

そして、しばらくしてから演説が始まった。


「日本国民の皆さん、あるいは日本に逃げ込んで来た外国人の皆さん。

 わたくしは今、日本建軍の地である九州にあり、志しを共にする協力者、九州列藩戦線と共にあります。


 我が軍と協力者の情報収集により、アメリカ、ロシア、中国などの主だった抵抗組織が壊滅したと我々は判断しました。

 今や我が国が侵略者と戦う唯一の軍隊、そして意思決定機関となりました。


 ご存知の通り、勇者、風間かざま三五夜のぞむは我々を裏切り、侵略者に味方しています。

 今回の侵略者の大規模な広域の、えー、同時多発攻撃も勇者が敵に情報を提供したことが原因と我々は判断しました。


 ですが、しかしながら、敵の損害も少なくなかったと我が軍の情報機関は見方を強めており…。

 私は日本国首相として我が軍に改めて攻撃命令を与えるもの…、えー、与えたところであります。


 この放送をご覧の皆様。

 私は三点のお願いを致したく存じます。


 まず我が党と考えをこととする人に対して、協力を強制したり攻撃するようなことはお止め下さい。


 遺憾ながら各地で協力を強要したり、略奪行為や生命を危険にさらすような暴行が報告されております。


 現在は戦時下にあります。

 しかしながら、全ての人間には自分の意志で行動を選択する自由があります。

 我が党はそれを遵守し、強制するものではありません。

 政府内、軍内であっても強制することはできません。


 我が党と我が軍、我が日本政府、そして協力者の皆さんには、今後も徹底して頂きたい。


 次に勇者の今回の行動が敵を欺く作戦であると考えないでください。


 我が軍の情報収集により、勇者が敵、侵略者と協調するのは、敵を油断させる作戦であると主張する人がいると聞きます。

 しかし我が軍の情報機関は、これを否定する幾つかの根拠となる情報を得ており、勇者は敵であるという見方に達しました。


 よって現在、活動している人類唯一の意思決定機関の長として私は、勇者を敵と判断致しました。

 混乱を避けるべく、この認識を全ての人々と共有したいと考えております。


 ご存知の通り、先にこの件に関する法令が発せられました。

 これは混乱を避ける意図であり、皆さんの生命を守るためのものであります。


 最後に我が軍と協力者たる九州列藩戦線は、常に新しい仲間、支持者を募集しております。

 武器食料の提供や日常的な庶務など戦闘以外の人手を必要としています。

 これは戦闘員の募集ではありません。


 それでは皆さん。

 放送を終わります。」




「それにしてもここには今や日本中の金持ちや政治家が集まっているというのに、女房ババアを連れてきた奴は一人もいないようだな?」


ナマズのような壮年男が裸でベッドに寝転んでいる。

彼の待つ部屋に金髪の白人美女がいやらしい下着姿で現れた。


「ふふふっ。

 やはり、白豚は良いっ。」


人類最後の意思決定機関、唯一の抵抗組織は裏では頽廃的な人間たちを養っていた。

これも政治というものなのだろうが、目も当てられない。

同じ基地内の別の場所では総理が最後まで戦うことを宣言している間も、この有様である。


磁器のように白く艶めかしい肌をくねらせ、煽情的に近づく女たち3人。

ナマズ男は彼女たちを抱き寄せると口を吸い、舌で乳房を舐め回した。


「豚めっ、いやらしい白人の豚めっ。

 放り出されたくなければ、生き残りたければ、俺を楽しませることだっ。」


4人が盛り上がっているとひとりの人影がするりと部屋に入り込んだ。

手には不気味に黒ずむ十字型の穂先をした槍を持っている。


「イヤー!」

「コロサナイデー!」

「テ、テンノーバンザーイ!」


槍を持つ男に気付いた白人女たちは丸くなって床に伏せながら命乞いをした。

ナマズ男だけがぽかんと闖入者を見ている。


「なんだ、お前か。」


ベッドの端に散らかっていたバスローブを掴むと男は陰部を隠した。

男は槍を持って現れたこの男を知っているらしい。

随分と馴れ馴れしい態度で声をかける。


「別に良いだろ。

 命の危険が迫ればセックスしたくなるのが生き物の本能じゃないか。

 なんならお前も楽しんで行くが良い。」


「…。」


男は首を横に振って答えた。

ナマズ男はたびたび自分で股間を触りながら話す。


「お前、どういうつもりだ。

 おかげで大谷幹事長も尾崎先生も失脚したんだぞ。

 党の人事はめちゃくちゃになるし、お前は政界の壊し屋だよ。」


漆黒の鎧とマントを身に着けた男は、手近にあった椅子を引き寄せて座る。

その間、無言のまま。


ナマズ男は一方的に続ける。


「なんであのまま大魔王を殺さなかった?

 お前が上手くやれば日本だって世界での地位が向上しただろうし、戦後になったら党は、お前を選挙で勝たせてやることも考えてやったのに。」


ナマズ男は話しながら床に伏せる女たちのひとりの尻を足蹴にした。

戸惑いながら女たちはナマズ男の傍に近寄ると彼の身体に絡みついて肌をすり寄せた。


「分かってる。

 村井の居場所が知りたいんだろう?」


槍を持った男は静かに頷いた。

ナマズ男は女たちの軟肉やわにくを楽しみながら話を続ける。


「ここにいる。

 だが、親衛隊が警護してる。それに村井も戦うぞ。

 時期を待たないか?

 奴が別の場所に移動するタイミングで襲撃する方が利口だぜ。」


槍を持った男、いや勇者は指を鳴らしてから右手の親指を立ててナマズ男に突き出した。

ナマズ男はというと女たちの尻をモチのように捏ね回している。


「中庭に地下室の入り口がある。

 そこに村井はいる。九州列藩戦線の司令部だ。」


勇者はそれだけ聞き出すと椅子から立ち上がってナマズ男に背を向ける。

その時、急にナマズ男は寂しげな表情に変わった。

それどころか彼は女たちをベッドにうっちゃると早足で彼の背後に駆け寄った。


「なあ、来いよ。

 へっへ、一緒に遊ぼうぜ?」


勇者は黙って無視するようにドアを開けると半身を外に出した。

そこでナマズ男は追いすがる様に勇者の槍の柄を掴んだ。

驚いた勇者が振り返る。


黄金のマスクに隠されて彼の表情は伺い知れない。

だが、意表を突かれたという態度である。


「何の意味がある?

 こんなことして何になるっ!?」


玉のような汗がナマズ男の額に浮かぶ。

命の危険を顧みず必死に勇者を止めようという気迫が伝わってくる。


それでも勇者は何も言葉を発しなかった。

ただナマズ男の顔を真っ直ぐに見ている。

それでもマスクの覗き穴からは闇が覗いているだけだ。

彼の心も同じように暗いのだろうか。


勇者はその場を立ち去った。

ナマズ男は閉じたドアを睨んだまま、黙っている。


「イワタサーン、セックスセックス。」

「ワタシ、ドッデモセックスシマース。」


女たちがナマズ男をベッドの上で呼んでいる。




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