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第24話(後編上)




先刻の放送から数時間後…。

額から長い角が生えた悪魔が机の上で寝転ぶ三五夜に近づく。

恐る恐る、まるで起こすのをためらう様に…。


「セオドリック…。

 駄目じゃないか。

 連中が来たら、すぐに起こせといったじゃないか。」


三五夜は悪魔が起こすより先に自分で目を覚ました。

汗をどっと顔に浮かべてセオドリックは震える。


「へあっ…。

 いや、その…。」


背中が痛くならないのだろうか?

三五夜は堅い木の机の天板の上で何も布かずに寝ていた。

寝返りを打たず、落ちずに居たというのも驚きだが。


起き上がった三五夜は天板に腰かけながら悪魔と話す。


「いいさ。

 お前も僕が連中に殺された方が良いって思ってるんだろ?

 くっくっく…。」


三五夜が笑う度に腰までの長さの黒髪が軽くサラサラと流れる。

それにしても気味の悪い笑い方だ。

人を食ったような笑い方だ。


セオドリックは怯え、棒立ちのまま動けず、何も答えずにいた。


「よっと。」


三五夜は愛用の十文字槍、人間無骨を取ると崩れかけた国会議事堂から飛び出した。


「さあ、どう来るつもりかな?」


黄金仮面を着け、黒いマントを風になびかせて勇者はかつての仲間を待つ。


今や選ばれし者たちではなく、勇者に命を狙われる呪われし者どもよ。

僕を殺しに来るが良い。


それは前触れなく始まった。

けたたましい爆音と共に戦闘は始まった。


「砲撃!?」


三五夜からおよそ4km先、三輌の戦車が彼女の姿を捉えた。


「行けるぞ。」


ヴァイドだ。

軍記、掃部も戦車を操縦している。


未来技術のコントロールユニットは、一人で戦車を操縦できるように補助するメカニズムだ。

給弾から走行、攻撃まで全てをバックアップできる。


掃部だけは雅楽が頭に埋め込んだ怪蟲が行っている。


「止ぁめよーよお。

 勝てなぃいよぉ…ぉあっ。」


ずっと掃部は同じ言葉を繰り返している。

だが、もう構っている余裕はない。


「くっくっく…。

 今更、そんな装備でどうにかなると思ってんの!?」


三五夜は飛び交う砲弾の中を進む。

それにしてもこのまま4㎞進むのは芸がないな。


「三五夜が来るぞ。

 後退しろーッ!」


ヴァイドが怒鳴った。

他の戦車もヴァイドの乗った戦車に続く。


そう。

相手は車なのだ。

人間の三五夜ではちょっと工夫しないと追いつかない。


「面倒くさい…。」




ヴァイドたちは20分ぐらい後退を続けながら三五夜と戦い続けた。

だが、結果は無残なものだった。


目に見えるダメージはなく三五夜は戦車隊の前に回り込んだ。


「回り込まれたッ!」


軍記が言う。

すかさず雅楽が攻撃魔法を準備する。


「任せて!」


地面から青黒い怪蛆が湧き出し、三五夜の足を狙う。


「ワオ…。

 相変わらず、汚い攻撃魔法だな。」


三五夜は足元の虫たちをひねりつぶす。

だが、こればかりは力任せに解決できる攻撃ではない。

潰しても潰しても蛆虫の大群が地面から湧き出し、三五夜を狙う。


大乗狂狂金剛界ルナティックレルム。」


三五夜の攻撃魔法。

正体不明の力で蛆虫たちが瞬時に蒸発した。


大魔王ポオの純粋数学魔法と同じで三五夜の魔法も物理的な現象を伴わないのだ。

火や雷が破壊現象を起こして対象物を破壊するのではなく、時間や上位存在をさかのぼり存在そのものに手を加える。


だから魔法そのものにも効果を発揮するのである。


「魔法そのものを無効化したッ!?」


「…これまで俺たちが十二神将に勝てたのは、奇跡なんかじゃなくあいつの魔法だったのか。

 自分の手柄を隠すなんて甲斐甲斐しい奴だ。」


軍記はそういいながら照準を合わせ、砲撃を加える。


「絶対安全コインをお前に渡しておこうか?

 いざとなったらお前だけでも生き残れ。

 なんだ…、お前はこの中で一番若いし…。」


「止めてよ、そんな話っ。」


雅楽はそういって首を激しく横に振った。


「君たちは実にバカだなあ。

 この距離まで近づいたら…。

 …僕には勝てないんだよぉ~。」


人間無骨を抱えて三五夜が真っ直ぐに突進してくる。

ヴァイドの乗る戦車が紙細工のようにバラバラに破壊され、大爆発を起こす。


荒れ狂う炎の中、二刀流のヴァイドと三五夜が激しく剣戟を交わしながら飛び出す。


「何故だー!

 こんな馬鹿な真似を、なぜ始めたー!!」


ヴァイドは三五夜に問う。

勇者は、なんて馬鹿な質問をするんだ、という表情で言葉を返す。


「最初は、なんかおかしいなと思ったよ?」


一呼吸で五連撃。

それを左右の剣でいなし、素早く反撃するヴァイド。


「おかしい?」


「段々と分かって来たんだ。

 この世界の人間はタチが悪い。

 僕が勇者だっていうのに騙したり、裏切ったり、文句を言ったりさ。

 うんざりして来たよ。」


「そんな理由で!?」


ヴァイドは怒りを込めた剣を突き出した。

だが、三五夜はダンスでも踊るようにギリギリまで斬撃をひきつけ、難なくかわす。


「その。

 その助けてもらうのが当たり前って、その態度…ッ!」


ヴァイドの右腕と剣が飛ぶ。


「のわーっ!」


「僕は正義の味方なんだぜ?

 大魔王専門の駆除業者じゃない。

 しっかりしてくれよ。」


次はヴァイドの左手と剣が飛ぶ。


「ふっぎッ!?」


「僕は何も間違っちゃいない。

 文明連合の戦力が人間側を下回ったから味方に回ったんだ。

 僕は弱い者の味方だから、ね…。」


今度は攻撃の矛先を軍記たちの乗る戦車に向ける。

ヴァイドのように爆発から飛び出す技量のない軍記は、自分から戦車を飛び出す。

軍記に続いて雅楽と北京も脱出した。


乗組員のいなくなった空の戦車を三五夜が破壊する。


「じゃあ、俺たちを殺したら…、また文明連合の敵か?」


軍記がそう訊ねた。

三五夜は槍の先に刺さった戦車のエンジンを突き抜くと答える。


「僕が今、使った大乗狂狂金剛界ルナティックレルム

 この攻撃魔法と他とちょっと違う。

 範囲内にいる全ての者に攻撃能力を与えることができるんだ。」


「え?」


軍記たちは、その意味を理解できなかった。


「要するに普通、攻撃魔法は術者と対象者の間で現象がやり取りされるだろ?


 この魔法は範囲内にいた人間に、この魔法を使用する能力が付与される。

 そして更にその人間がこの魔法の効果を使用することで範囲内の人間に能力が付与される。


 強制的な呪いの手紙(スパムメール)みたいなものだよ。」


軍記だけが素早くその意味を理解した。


「そんなことをすれば無制限で今の攻撃魔法を使用できる人間が増える!

 世界中の人間に強力な武器を与えるようなものだぞ!!」


「そう。

 でもこの魔法で攻撃されるってことは、それなりの理由のある人間だろうから。

 手っ取り早く人間と悪魔を減らすには好都合だよ。

 くっくっく…。」


黄金仮面の中から狂人の笑いが漏れる。

軍記が叫んだ。


「この魔法を止めろ!」


「くっくっく…。

 世界を滅ぼす大魔法ってのを真っ先に使うって斬新だろ?

 なんで皆、やらないのか不思議でならんな。」


「貴様ぁーっ!!」


軍記が吠えると三五夜は不愉快そうに返す。


「絶対安全コインを握りながら好きたい放題抜かすなよ。」


ここで掃部の戦車が砲撃!

三五夜は爆発で吹き飛び、ゴミ袋のように地面を転がった。


「忘れてたぜ。」




三五夜と距離を取ったヴァイドたち。

すぐに軍記がアップルパイを取り出しヴァイドに食べさせようとする。


「なんで、こんな時に菓子なんぞ…。」


「魔法の回復アイテムだ。

 貴方の腕を治す。」


軍記がそう説明した。

北京が剣を二振り拾って持ってきている。


「腕が治るのか?」


「ああ。

 大魔王の攻撃魔法も回復させた。」


軍記はゆっくりとヴァイドの口元にパイを運ぶ。


「軍記早く、あいつがくるー!!」


雅楽が悲鳴に似た金切り声を挙げる。

向こうから黒い影が槍を担いで近づいて来ている。


掃部の戦車が砲撃を加えるが、相変わらず時間稼ぎにしかならない。


「流石にキツイな。」


三五夜もアップルパイを取り出した。


「まーん!

 たーん!

 …どッッッり~んく!!」


三五夜の軋んだ骨、破裂した血管、臓器が回復する。

足取りも快調になり、掃部の砲撃を軽快に交わしてどんどん距離を縮める。


「あいつも回復するの…っ。」


雅楽が鳴きそうになりながらつぶやいた。


それはそうだろう。

このアップルパイを作ったのは、あいつだ。


「ごっば!?」


急に雅楽の後ろから気味の悪い声が響いた。

彼女が振り返るとヴァイドが倒れている。


「な、なんで!?」


「わ、分からないっ!」


パイを軍記が食べさせた直後だった。


回復するはずが逆にヴァイドは急激に衰弱し、苦しみ悶え始めた。

原因はパイなのか?


「もーやだー!

 死ぬんだー!!」


戦車の中で魔蟲まみれになって無理矢理従わされている掃部が喚く。

黄レンジャーのヘルメットの中、スーツの内側にもびっしりと妖蛆が這いまわっている。


「軍記、雅楽ヲ連レテ逃ゲロ!!」


北京はそういって三五夜に向かっていく。

目方にして三倍近い、体重の差。

日本国総理、村井求よりも頑健で大きな肉の塊だ。


「…流石にこの筋肉量はマズい。」


三五夜は表情を暗くした。


しかし無謀過ぎる。

軍記が北京を引き返させようと声をあげる。


「北京、止せ!

 命を無駄に捨てることはないッ!!

 冷静に反撃する機会を待つんだッ!!」


自分で言っておいて、そんなものがどこにあると軍記は思った。


どんな攻撃も三五夜には意味を成さない。

仮に致命的なダメージを与えたとしてもすぐに回復されてしまう。


「魔法界の神様っ。

 …お願い、あの悪魔を倒す力を貸してくださいっ…。」


雅楽はそういって両手を組んで祈り始めた。


「くっくっく…。

 都合がいい時だけ人を勇者と褒めたたえ、自分たちに都合が悪くなると悪魔だってぇ。

 とんでもない正義の味方だな。


 でも、どっちが正義か決めるのは僕なんだぜ?」


三五夜は北京の両腕を難なく刎ねると祈る雅楽を見てそういった。


なんだ、こいつ、こんなに弱かったのか。

…村井は相当、強かったんだなぁ。


そんな感傷に浸りながら三五夜は北京の胸を人間無骨で貫いた。


「ボオオオ!!」


「くっくっく…。

 はやく楽になりなっ!」


返り血が仮面の中まで飛び込んでくる。

三五夜は鮮血を飽きるまで浴びると北京を蹴り飛ばして槍を抜いた。




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