授かりし力と使命(2)
◇◇◇ エルビス・バヌ・エンター ◇◇◇
後輩のヨシノリの《印》の能力を確認して、泥棒を警備隊に引き渡した後、俺は家に帰る道すがら考えていた。
クレタは一層勉学に励みリバード王子を上級学校に入学させ、将来もリバード王子を側で支えていくだろう。
ヨシノリは《印》の能力で、悪人を【将来の王】に近付けさせず、外交面で活躍することになるだろう。
では俺はどうなんだ?
《授けし剣で悪を討て。如何なる時も将来の王を守り抜け》って……そもそも【将来の王】って何処の王なんだ?何故レガート国王ではなく【将来の王】なんだろう?
そして【悪】って誰だ?イツキ君が言っているギラ新教なのか?それとも洗脳者?
もしかして一般的な【悪】の全てだったりするのか……?
要するに剣の腕を磨き、【将来の王】を守り抜けってことだよな。
それだと、バルファー王は入っていない・・・・現王ではなく将来の王・・・
剣は得意だし練習するのも好きだ。でもそれだけじゃダメだ!
得意ぐらいじゃ話にならない・・・ここはエントンさんにお願いして、誰かに指導して貰おう。出来ればレガート国トップクラスの剣豪に。
夕食時、俺はエントンさんに勇気を出して切り出した。
「エントンさん、俺、剣の腕を磨きたいんです。どなたか教えてくださる方はいないでしょうか?」
「エルビス、もう3年生だろう……それに剣の腕なら上級学校でもトップクラスだと、校長が話していたぞ。それに、今年も選抜選手に選ばれたんだろう?」
これまで願いごとなど殆どしたことがないエルビスが、珍しく頼みごとをしたと思えば、剣の腕を磨きたい?いったい急にどうしたんだろう?
「もしかして、今日午前中にリバード王子に会った影響か?」
「え~っと……そ、そんなとこかな。ハハハ・・・やっぱりエントンさんは、今日僕たちがお城へ行ったことを知っていたんですね。そう言えば、秘書官補佐のフィリップ伯爵が、僕たちを護衛してくれていたようだけど、あれは、イツキ君の為?」
俺はフィリップ伯爵の行動を疑問に思っていたので、ついでに質問してみる。
「えっ?フィリップに会ったのか?何処で?」
なんだか話が噛み合っているような、いないような会話をしながら、極秘にイツキ君の護衛をさせていたフィリップを、どうしてエルビスが知っているんだろうかと、逆に質問されて狼狽えてしまうエントンだった。
「ラミル正教会だよ。お城の帰りにイツキ君がサイリス(教導神父)様を紹介してくれたんだ。その時に、イツキ君が少し体調を崩して……そしたらフィリップ伯爵が飛んできて……その時にエントンさんの指示で、お城からずっと護衛していたと言ってた」
「イツキ君が体調を崩した?」
もしかして、また奇跡を起こしたのだろうか……?そう思ってエルビスの方を見るが、寧ろエルビスの方が探りを入れてきている感じだ。
エルビスはイツキ君の、何を何処まで知っているのだろう?
先月(2月)の休みに帰った時は、イツキ君に再会して、イツキ君が治安部隊指揮官補佐だと知って驚いたと言っていた。そして、執行部と風紀部で力を合わせて、上級学校を改革したいと言っていた。
ここはお互い協力した方がいいだろう。
目的は恐らく同じだが、常に側に居るエルビスの方がイツキ君を守れるだろう。ただ、エルビスは3年生で執行部部長、イツキ君は1年生で風紀部……上下関係はエルビスの方が上だ。エルビスがイツキ君に従うだろうか……?
「エントンさん?どうかされました?」
何やら考え込んでいるエントンさんに、俺は声を掛ける。
イツキ君のことになると、昔からこんな感じで考え込むことが多い。俺の知らない何かを知っているような感じだが、エントンさんは、イツキ君の教会での立場を知っているのだろうか?
イツキ君はどちらかと言うと、エントンさんを避けていたような節があった。しかし、嫌っているようでもないし、寧ろ心配を掛けたくない感じだった。
でも、もうそんなことを言っている場合ではない。
俺はイツキ君についていく決心を固めたんだ。ここは情報を共有し、イツキ君もリバード王子も守らなければならない。
俺はエントンさんを信じている。だから1歩踏み出そう。
「エルビス、イツキ君のことなんだが」
「エントンさん、イツキ君のことなんですが」
2人は同時にハモるようにイツキの名前を口にした。そして驚いてお互いの顔をまじまじと見る。考えていることは同じなのではと気付き、ほっとしたように口元を緩めた。
「エントンさん、俺はイツキ君の指示に従いリバード王子を守り、ギラ新教の洗脳者と戦います。上級学校の仲間たちも同じ考えです。だから、情報を共有しましょう。イツキ君は1人で頑張り過ぎるので心配なんです」
「そうか、ギラ新教のことはイツキ君から聞いているんだな。エルビス、大切なことを訊きたい。お前はイツキ君の教会での活動を知っているか?」
エントンさんは、行き成り教会のことを訊いてきた……ということは、イツキ君がサイリス(教導神父)様よりも高位であると、知っているということだろう。
「はい知っています。ただし、それを知ったのは今日で、知ったのは俺とクレタとヨシノリの3人だけです。ヤンたちは知りません。俺たち3人をイツキ君は選んでくれたようです」
俺は真実をエントンさんに打ち明けた。ただし、神から与えられた使命も、奇跡で授かった【剣】のことは言えない。
「では問う。イツキ君は何者だ?」
「はい、正確な答えは判りませんが、サイリス様よりも上の立場の方です」
「うむ……イツキ君は……リース(聖人)様だ。私がそれを知ったのも今日だ。イツキ君はリーバ(天聖)様の名代として王様に会われた。同席したのはエバ様とラシード伯爵と私の4人だった。イツキ君……いや、リース様は、バルファー王とリバード王子の命が危ないので、自分の身分を明かし、協力して危機を回避しなければならないと説かれた」
エントンは真実をエルビスに打ち明けた。しかし、イツキ君が甥であり、バルファー王の長子であり、正統なレガート国の王子であることは言えない。
「リース(聖人)様・・・そうなんだ・・・」
俺は顔を上げて、天を仰ぐようにして目を閉じた。
覚悟はしていた。していたが、真実を知ると体が震える。
イツキ君は《奇跡の人》なのだ。本来なら遠い遠い存在の、会うこともない雲上の人なのだ。
「リース様が僕を信じてくださった・・・やはり俺は強くなりたいですエントンさん。イツキ君とリバード王子を守れる剣士に成りたいのです。エントンさんは、俺たち4人がリバード王子の家庭教師をすることも、既に知っておられますよね?」
俺は強くなりたい。もっともっと強くなりたいと込み上げてくる思いを抑えられない。
戦いは既に始まっている。待ってなどいられない。
「先程フィリップ伯爵のことを質問したが、フィリップは、リース様……イツキ君を守る役目を神より授かった者だ。これから頻繁にフィリップを上級学校に行かせよう。名目は後進の剣の指導者としてになる。しっかり鍛えてもらえ」
エントンさんは笑顔で約束してくれた。フィリップ伯爵……【王の目】のフィリップ様が師匠になってくださる。それが叶えば本当に嬉しい!
「ありがとうございますエントンさん!必ずフィリップ伯爵に認めてもらえる剣士になります。そして、イツキ君とリバード王子を守ります」
俺はエントンさんに深く頭を下げ、そして硬く握手を交わした。やはり、俺の尊敬するエントンさんだ。子どもの頃から親代わりとして育ててくれた父親だ。
この日俺は、絶対に強くなると神様に誓った。
心も身体も鍛えて、与えられた使命を果たすために努力すると、自分自身に誓った。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
少し短い話になりました。
これからも、ちょくちょく外伝を書きたいと思います。どうぞよろしくお願いします。