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予言の紅星  外伝  作者: 杵築しゅん
シリーズ3隣国の戦乱の外伝 ハビテ、イツキと再会する 
6/15

ハビテ後始末をする 後編

いよいよ《 予言の紅星4 上級学校の学生 》が始まります。

どうぞこれからも、よろしくお願いします。


 午前9時、2つの地区を終え、残りは南と北の地区である。

 なんかもう、だんだん神のご神託を本当に受けたような気になってきた。

 午後から本気で神に懺悔しよう。許して貰えるだろうか……?いやいや、たとえお許し頂けなくても、俺はやるしかないんだ。


 

 先程と同じ様に、朝の祈りの後で前置きの話をしてから本題に入る。

 

 南地区の皆さんに伝える話は次の通りです。


「【鎮魂の儀式】の時に神父が伝えた【神のお言葉】のことを、他の町の人に話してはいけない。たとえ国王であってもです。何故なら【神降ろしの奇跡】が前回起こったのは、555年の大陸戦争の時で、再び【神の怒り病】が大陸中に拡がることを危惧された神が、ロームズの住民に重大な任務を与えられる為に、奇跡を起こされたからです。敵国の兵であっても力を合わせ、町を復興させることが出来なければ、【神の怒り病】が再び町を襲うことになるでしょう。神はロームズの住民を信じようとされているのです」


 俺の話を聞いた住民は「神は我々を信じてくださる」とか「大陸戦争の悲劇を繰り返すな!」とか「任務を果たせなければ【神の怒り病】が再び起こるんだ」等と囁き合いながら、徐々に緊張し気を引き締めていく。



 そしていよいよ最後の地区である。

 なんだかとても長い時間だったような気がする。終わったらちょっと休もう。きっとクロノスがお茶を淹れてくれるだろう。あと一息だ。頑張ろう。


 北地区の皆さんに伝える話は次の通りです。


「これから先、この町を守るのはあなた方自身です。この広いランドル大陸で、これだけ多くの奇跡が1つの町で起こった記録はありません。神に守られたことに感謝し、神の子であることを自覚し、大陸中の人々の手本となる行いをしなければなりません。この町はカルート国にも、ハキ神国にも見捨てられた町ですが、神に愛された町なのです。その誇りを力にして、何処にも負けない町を造るのです」


 住民たちの顔には希望が満ち溢れていた。

「ロームズは神に愛されている!」とか「我々は何処にも負けはしない!」等と叫びながら、鼻息も荒く神の子として強く生きることを誓っている。


「神は、いつもお側に居て、皆さんの有り様を見ておられるのです」


俺は静かに話し終え、祭壇を降りていく。

 やった!終った。は~っ、なんとかなったようだ。本当に良かった~。

 さあ、休憩しよう。こんなに緊張したのは久しぶりだったから、喉がカラカラだ。


「ハビテ様、お疲れさまです。冷たい水をお持ちしました」


クロノスが、祭壇を降りるとコップに水を用意してくれていた。良く気の利く弟子である。お茶だったらもっと嬉しかったけど、贅沢は言えない。

 少し休憩しようと思ったら これから礼拝堂の修復を始めるらしいので、のんびり休憩もできない。

 仕方ないので、町の様子を見に行ってみよう。

 俺の話をきちんと伝え合っているか、ハキ神国軍の兵たちと協力し合っているか、確認するのも大切な務めである。



 


 そんなこんなで6月19日も無事に過ぎようとしていた夕方、ビビド村のミリドさんが、荷馬車一杯に支援物資(野菜や果物、肉、小麦粉など)を積んで戻ってきた。息子のシーバル20歳も馬に荷を積んで一緒に来てくれた。

 予想より到着が遅かった理由を聞くと、ロームズの町で疫病患者が出た事実を告げたからだったらしい。

 既に病人は完治していると8人は報告したが、神の奇跡のことは言ってはならないと、俺が固く口止めをしていたので、皆に信じて貰えなかったらしい・・・本来なら当然の反応であり、これからも忌み嫌われる町になるのだろうか・・・

 心が痛む部分はあるが、それでもこうして支援物資は届いたのだ。有り難く頂き感謝しなければならない。


「ミリドさん、ご苦労様でした。これでまた町の人が救われます。明日は朝から狩りに出るようですから、昼食は教会で用意し町の人々に振る舞いましょう。息子さんも御苦労様。疫病は、神のお力で完全に封じられた。安心してロームズに滞在しなさい」


俺は2人に礼を言って、今日の朝の祈りで話した4つのことを、ミリドさんにも伝えた。そして、これからも教会で働くと言ってくれたミリドさんと、明日からの予定を話し合った。

 昼食の準備はミリドさんが指揮を執り、クロノスが補佐することになった。狩りが得意なシーバルは、住民たちと狩りに出てくれるらしいので獲物に期待したい。

 

 俺は馬を借りて、明日の早朝から情報収集の為にハビル正教会に向かうことにした。

 イツキの話では、ハビル正教会ファリス(高位神父)シーバス様には、既に手回ししてあるとのことだったので、確認と共に情報収集をして、支援物資を送り出して貰うように段取りをする。


 そしてなによりも大切な、リーバ(天聖)様への状況報告と、イツキの力のことを知らせなければならない。

 報告の手段は、国境を越えて徒歩で行けるハキ神国のルンナ正教会まで、シーバス様に手紙を託し行って貰う。そしてルンナ正教会からハヤマ便(通信鳥)で本教会まで届けて貰う。

 たとえ国境が封鎖されていても、ブルーノア教会のファリス以上は、通行できる特例があるのだ。



 6月20日早朝、俺は馬でハビル正教会へと向かった。

 ハビルの町の入り口には、検問所ができていた。恐らく【神の怒り病】のせいだと思われる。

 俺はファリスの衣装を着ているので、当然のことながら通過できると思ったが、何故か用件を尋ねられた。まあロームズの方角からやって来たので仕方がないだろう。


「私はファリスのハビテです。ハビル正教会のシーバス様に、ロームズの町の疫病についての情報をお持ちしました」


俺はわざと大きな声で、検問にあたっている警備隊員に告げた。隊員はビクリと驚き俺の顔を見た後、緊張した顔で直ぐに通してくれた。

 

 ハビル正教会の前は、ハビルの住民で溢れかえっていた。これでは中に入れそうもない……


「道を開けろ!【神の怒り病】の詳しい状況を伝えに来た」


と、俺が大声で叫ぶと、その場に居た全ての人が俺に注目し、ファリスの衣装を見て安心したのか、直ぐに道は開かれた。うーん、なんだかな……俺ってこんな感じの人間だったっけ?


 シーバス様と面会した俺は、大まかな部分を話し、全てはイツキの作戦であると明かした。

 

「やはりそうですか。リース(聖人)様の成されることは、私程度では思い付きもしませんが、奇跡と共に作戦が実行されたのですね。まだ12歳と聞きましたが、どれ程のお力をお持ちなのでしょうか?」


シーバス様はハビテの話を聞いてから、イツキが書いた手紙をハビテに差し出した。


「初めは本当にリース様なのか疑ってしまいました。このような指示が12歳の子どもに出せるのかと」


シーバス様は、申し訳なさそうに話しながらも、ハビテが語った作戦内容に、感嘆の息を漏らした。

 俺はイツキが書いた手紙を見ながら、全てを終わりまで予想し、混乱する事態の収拾方法まで書いてあることに、感心すると言うより「うーん」と唸ることしかできなかった。

 特に、最後の1行には、ロームズの教会建て直しの為に、浄財をお願いしてくださいと書いてあった。

 なんなんだろうか……もう少々のことでは驚かなくなったが、選ばれた者の才覚なのだと思って、前向きに考えるしかない。そう思って呑み込もう。うん、そうしよう・・・


「シーバス様、イツキはリースですが、《予言の子》(運命の子)でもあります。これからもう1度戦争が起こるとイツキが言っていました。また協力を要請した時はよろしくお願いします」


俺はこれからのイツキの苦労を思いながらも、その苦労が少しでも軽くなるようにと、シーバス様にお願いしておく。


「やはりそうなのですね!ハビテ様の任務は《六聖人》と《予言の子》を探されることだと聞いております。そうですか……彼が神から選ばれた希望の子なのですね。いつの日かお会いしたいものです」



 俺はシーバス様から、山のような支援物資を頂き、その荷と一緒にロームズの町に帰ってきた。

 2日後の22日、大量の木材や建築資材がハビル正教会から届いた。

 共に届いたシーバス様からの手紙には、こう書いてあった。


「私もハビテ様に習い言いました。ロームズの町の【神の怒り病】は、熱心な信者には感染しなかったようだ。神はどんな時も、信者の有り様を見ておられるのです。神の怒りを恐れる者は、ロームズの町の救済をすることで、許されるでしょうと。疫病が既に終息していると伝えるのは、もう少し先にしておきましょう」


 う、うーん・・・俺のせいか?確かに俺は住民に嘘をついたが、どうなんだ?これでいいのか・・・?ハビルの街の住民が浄財をしてくれる内は、貰っておこうということだよな……


「ハビテ様、何を悩んでおいでなのですか?これはイツキ様が考えられたことなのです。それすなわち《予言の子》であり、リース様であられるイツキ様のご指示なのです。その指示に従うのは、私たちの務めではありませんか!」


 イツキの信者であるクロノスの、力強い激励?の声に「そうだな」と呟いて、頂いた支援物資を、用途に合わせ分別しながら置いていく。




 6月24日、復興の目処がついたことから、俺とクロノスは住民総出の見送りを受けながら、ロームズの町を後にした。



 そして、開戦から1ヶ月が過ぎ、ハキ神国軍が撤退したのにも関わらず、カルート国からの支援も保護も連絡さえも無いままだった。

 住民たちは、怒りの感情はあったものの、ハビテ様から、国に見棄てられても、神に愛されている町である誇りを持てと言われていたので、文句を言わず復興へ向けて頑張っていた。


「でもなぁ、俺たちは何処の国の住民なんだ?」

「もう、カルート国民は嫌だな……」

「ハキ神国の国民も無いな」

「いっそのこと、レガート国民にでもなれたら幸せだよな」

「そうだな、レガート国民は幸せらしい。国王は民に寄り添い、国は豊かだ」

「そんな夢みたいなこと、奇跡でも起こらなきゃ無理だって」


 住民たちの呟きを聞きながら、町長は笑いながら明るく言った。


「ハビテ様が仰った通り、我々は母国から見捨てられた。しかしハビテ様は、神との約束を守れば最後の奇跡が起こると言われた。希望を胸に生きていこう!」と。



 そんな希望を持ちながら頑張っていたロームズの住民の元に、レガート軍200人とカルート国の皇太子と食糧が到着したのは、1096年6月26日のことだった。


 最後の奇跡は、レガート国民になれたことだった。住民たちは改めて神とイツキに感謝した。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


また時々、外伝に投稿したいと思います。

これからも、応援よろしくお願いします。

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