表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
予言の紅星  外伝  作者: 杵築しゅん
ハビテ神父になる 編
4/15

旅立ちの朝

 卒業式当日、本当に迎えはやって来た。

 準備に1日貰い、もう行くしかないのだと心を決めて家族に挨拶をする。

 領地を持たない貧乏貴族とは言え、一応伯爵家の次男である俺は、家を継げるわけでもなく、モーリス(中位神父)という名誉ある地位を、家族も俺も断れはしなかった。

 

「予言のなんとか・・・?のためにと言うより、行かなければ絶対に、あの人たちがやって来るのが想像できる。拉致られるよりも、行った方がましだからな・・・」


俺は一人呟きながら、王都ラミルを後にしハキ神国の本教会へと向かった。



 18歳のモーリス(中位神父)任命は、なんでも50年振りらしかった。

 本来なら一般神父から修行を重ね、最低でも10年勉学をしなければモーリスにはなれないはずなのだ。


 到着したハキ神国の王都シバにあるブルーノア本教会で、シーリス(教聖)のイバス様から任命書が下された。

 

 そこから地獄の特訓(修行)の日々が始まった。

 俺は、ブルーノア教に殆ど関心が無かったのに、歴史、教え、組織、仕事、その他諸々、10年で覚えて身に付けるべきことを、2年でマスターしなければならなかった。



 肝心の《予言のなんとか?》の話は、修行の2年間で1度も聞いたことがない。

 俺はなんのために、ここにいるのだろうか?そんなことを考えながら、やっと神父の生活にも慣れたある日のこと、またしても、とんでもない手紙をリース(聖人)のエルドラ様から受け取り、修行していた地方の教会から、本教会へと戻ることとなった。


 【 そろそろ時はきた。ファリス(高位神父)にするから帰ってこい 】


 相変わらず要点のみの手紙だ・・・

 ファリスになるには、特別な能力が認められる者か、30年以上の経験がなければならない。この広いランドル大陸に60人しかいないファリスになる……全く喜べないし気が重い。

 



 俺は渋々ファリス任命式のために、ブルーノア本教会にやって来た。

 広い教会の中庭を足早に歩いていると、冬には珍しい薄緑の花が咲いている花壇が見える。薬草の一種だと神学校の教官が教えてくれた気がするが、最近薬学の研究にも力を注いでおられるリーバ様のお考えが、少しずつ実を結んでいるのが分かる。


 天に向かってそびえる2つの天守を持つ、石造りの大聖堂からは讃美歌が聞こえる。中庭の右奥は教会内の病院だ。今日も忙しそうに看護部の学生が走り回っている。左奥はモーリス(中位神父)以上でなければ入れない執務室が並んでいる。

 

 その建物の中央にある階段を上がった所に、三聖(天聖・聖人・教聖)の執務室と、それぞれの謁見の間があるが、そこはファリス(高位神父)以上の神父でなければ、立ち入ることはできない。


 扉の装飾は三聖各々で違っていた。俺は一番重厚でブルーノア教の紋の入った扉をノックして開ける。

 

 リーバ(天聖)様の謁見の間に入ると、三聖の3人が古い地図を広げて何か相談をしていた。

 俺は右手を軽く握り胸の前に置く。右足を後ろに一歩下げ腰を落とし右膝を床に着き、頭を下げて正式な礼をとる。

 リーバ様が右手を挙げられたので礼を解き顔を上げた。


 中央でニコニコしながらこちらを見ているのが、1番偉いリーバ(天聖)様。

 

 歳は不明だが噂によると40歳位だとか……背中まで伸びた銀髪に銀色の瞳。身長は170センチ位で全体的に痩せている。真っ青な神服がよく似合うイケメンだ。

 

 右側で地図を見ているのがリース(聖人)のエルドラ様。

 金髪の長い髪に金の瞳。身長は165センチ位で遠目だと女性に見えるが、それは絶対に言ってはいけない。

 神学校の学生達から超絶美人(男だけど)だと憧れられているが、それはリースの衣装を着ている時だけで、普段の服装はかなり残念な感じなのを学生達は知らない。

 性格(適当、強引)は言いたくない。歳は30位に見えるけど本当はもっといってるはずだ。


 左側で難しい顔をして地図に何か書き込んでいるのはシーリス(教聖)のイバス様。


 銀髪のショートカットでグレーの瞳。身長180センチのがっしり体型。

 王族出身で一見優しいおじさん風に見えるが、騙されてはいけない(俺は過去に騙された)。歳は35歳らしい。 


 皆オーラが眩しすぎるのは、さすがだと認めるしかない。


 今日はファリス(高位神父)の任命式だと言われて来たのだが、なんだか嫌な予感しかしない。

 この3人(特にエルドラ様とイバス様)が、俺に優しい言葉など掛けてくれたことがあったか?

 やれ能力を研けだの、勉強しろだの、自分の役割を自覚しろだの、いつも言いたい放題だ。

 そのくせ、「肝心なことはその内分かる」で誤魔化される。


「20歳でファリス任命は、72年ぶりらしい」


リーバ様は神々しいオーラを放ちながら、明るく微笑まれ任命書を下された。

 へーそうなんだと思いながら、リーバ様の顔を見ると、妙に笑顔だ・・・?

 なんだか含みがありそうで怖いんですが……俺は良くない予感を打ち消しながら、一応、恭しく両手で任命書を受け取り、リーバ様からのお話を聴く。


「ハビテよ、その能力を以て《六聖人》を探し出せ。先ずはレガート国に行き《予言の子》を探して連れてくるのだ。出会えなければ、大陸は悪意に染まり戦争と混乱の時代が始まることになる」


 無駄に美しいリーバ様の声が、荘厳な謁見の間に響く。


『まるで、脅しにしか聞こえないんですがその話……』


 出会えなければ戦争と混乱が始まるとか、俺の責任重過ぎじゃない?


「それで、《六聖人》や《予言の子》の特徴や性別、年齢などは判っているのでしょうか?」


俺は言いたいことがたくさんあったが、眉をピクピクさせながら、大事なところを質問した。すると、やはり嫌な予感が当たってしまった。


「いや、何も判らないが、そなたであれば分かるであろう。そなたもまた、《予言の書》が示した者なのだから」


 はっ?何も判らない?いやいやそれでは探せないでしょうと、心の中で突っ込むが、目の前の人達(リーバ様、リース様、シーリス様)は、当たり前だろうという顔で俺を見ている。


 は-っ。なんだか胃が……やっぱりか……

 ガクリと項垂れ、もう一度礼をとり帰ろうとすると、リーバ(天聖)様に再び声を掛けられた。


「お前は《予言の旅人》だ。開祖ブルーノア様を信じろ!」


真面目な顔をして、リーバ様は励まし?の言葉をくださった・・・


ファリス(高位神父)の仕事もきちんとやれよ!取り敢えず拠点はミノスだ。ミノスは良い街だ。思い出の地に帰れて嬉しいだろう?」


リース(聖人)エルドラ様が、含みのある笑顔で俺を見て、思い出したくないミノスでの出会いを思い出させる。


「何処に行ってもファリスの権限があれば、警備隊を動かせるし、国も人も協力的だ。ファリスの服を着てたら飯も只同然。お前なら大丈夫だ。頑張れよ!」


最後にシーリス(教聖)のイバス様から、ありがたい激励?の声が掛かった。


 



 翌日の朝、これからハキ神国の本教会を一歩出ると、遂に《予言の子》探しが始まるのだと思うと、正直気が重かった。

 しかし俺は《予言の旅人》として、自らの役割を果たさなければならない。

 自信など全くないが、生まれ故郷のレガート国へ向け一人旅立つ。



 そして、《予言の子》イツキと出会い、俺の人生は大きく変わっていく。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ここから話は、【予言の紅星2 予言の子】に、続いていきます。

【予言の紅星1 言い伝えの石板】はイツキが生まれる前(イツキの両親の話やイツキの祖国の話)の話と、イツキ誕生の時の話、イツキに関わる大切な人々の話が入っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ