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予言の紅星  外伝  作者: 杵築しゅん
ハビテ神父になる 編

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3/15

予言の旅人として

 犯人が連行されて一件落着ムードの中、人々は自分たちの日常に帰っていく。

 リース(聖人)様とシーリス(教聖)様は、まだ噴水の前に残っているが、恐れ多くて誰も近付かない。いや、近付けないのだろう。


 俺たちは、イバスさん……いやシーリス様と警備隊上官のスミス先輩に呼ばれて、事件の詳しい状況説明をしていた。 

 その話の中で、アパートの住人が亡くなったことを伝える。


「ハビテ君は、私と来るように」


俺の話を聞いていたリース様が、突然俺の手を掴んで歩き出した。


『・・・?』

 

 友人2人に向かって『えーっ、俺どうしよう?助けて』的な視線を送るが、あっさりと視線を逸らされた。なんて友達がいの無い奴らなんだ。

 俺が犯人に飛び掛かったせいで、こんな大事になった訳だし……連行?教会からのお叱り?いや、でも犯人は捕まえたよなぁ……?などと思いながら、ズルズルと引き摺られていく。


「で、亡くなった住人は子供なんだな?何処に居るの?」


そう訊きながら、リース様はずんずん火災現場の方へ歩いていく。

あ~っ良かった……連行じゃなさそうだ。


「たぶんアパートの前に、母親と一緒にまだ居ると思います」


リリーちゃんの苦しそうな顔を思い出しながら答えていると、火事になったアパートの前に住人が集まっているのが見えてきた。

 皆ぼーっとして、アパート前の階段に座っている。

 住む家を無くし、これからの生活を思い、途方に暮れているのだろう。

 5段くらいある階段の真ん中辺りに、リリーちゃんを抱いた母親が、魂が抜けたような表情で、我が子を見つめて座っている。


 リース(聖人)様が近付いて来るのを見つけると、住人達は一斉に階段から下りて10歩位後ずさった。母親だけはそれに気付かず、階段に座ったままだ。

 

 リース様はそっと母子に近付き、母親の肩に優しく手を置いて、何か声を掛けている。

 その光景を見ても良いのかいけないのか分からず、回りの者は頭を下げたまま、時々チラチラと様子を伺っている。俺は少し離れた場所から、その光景をじっと見ていた。


 リース様から直接お声を掛けて頂けるなんて、普通、想像さえしていなだろう。

 その夢のような光景を、人々は羨ましくもあり、でも悲しみに暮れる母親の心が、少しでも慰められるだろうと思い、リース様に感謝した。


 リース(聖人)様の右手が、母親の肩からリリーちゃんの顔に移動し、愛おしむように撫で始めた。 

 煙を吸って亡くなったので、外傷は無いものの、全身すすで黒くなり、その表情は苦しみからか歪んだままだったはず。


 母子の座っている石段辺りが《ぼおっ》っと明るくなったかと思ったら(俺にしか見えてはいないだろうが)、母親がまた声を出して泣き始めた。

 どうしたのだろうか……?と疑問に思った俺は、階段の方に少し近付いて行った。


「ありがとうございます。ありがとうございます!」


母親は何度も何度も頭を下げて、感謝の言葉をリース様に告げている。

 どうやらリース様から、暖かい励ましを頂いて感激したのだろうと皆は想像した。


『リース様って、なんてお優しい方なんだろう』


 その神々しさと優しさに感動し、皆は胸の前で手を組みながら思った。


 リース様が立ち去られる時、俺はもう一度アパートの住人に挨拶をしてから戻りますと告げ、小走りで石段まで駆け寄った。

 アパートの住人達や近所の者は、リース様が何とお声を掛けられたのか訊きたいのと、今一度励ましの声を掛けようと母子の前に集まった。



 そして、リリーちゃんの顔を覗いて、言葉を失った。

 そこには、リース様が起こした、もうひとつの奇跡と呼べる光景があったのだ。


 すすで汚れて黒くなり、苦しさで歪んでいたリリーちゃんの顔が、信じられないくらい綺麗な顔になり、まるで眠っているかのような、穏やかな笑顔になっていたのだ。


『ああっ……リース様。ありがとうございます』と、皆は心の中で叫んだ。 


 リリーちゃんの笑顔を見て、家を無くした住民達は、心が暖かくなった。

 奇跡を目の当たりにし、もう一度リース様に平伏して、皆は感動の涙を流した。


 

 何だかこの人達凄すぎ。

 だからリース(聖人)シーリス(教聖)なんだろうけど。



 ちょっとボーッとしているところへ、薄情な友人ランドルフと、同じく薄情な後輩のマクミリアンが駆け寄ってきた。


「なあハビテ、さっきリース様と何か話してなかったか?」

「先輩、何話してたんですかー?」


興奮して詰め寄ってくる。せっかく感動してたのに、煩い奴等に腕を引っ張られ質問攻めにされる。






 その後俺達は昼食を食べ、今回の課題の纏めをするため、宿泊先の【教会の離れ】に帰ることにした。

 今回の事件を解決でき、その上、一生に一度会えるか会えないかのシーリス(教聖)様と、ほぼ会える可能性無しの、奇跡の人であるリース(聖人)様にも会えた。


「まあいろいろあったけど、終わってみればラッキー、いや、超ラッキーだったよな」


陽気で明るいランドルフは、すっかり舞い上がっている。


「先輩、評定Aは確実ですよね♪」


マクミリアンは、嬉し過ぎてスキップしながら帰っている。


「どうだろう、課題のまとめ方と解決までの流れを、どれだけきちんと書けるかによるな」


浮かれ過ぎの友人2人に、それとなく釘を刺しておく。


「やだなぁ~、またまたそんなぁ。それはハビテに任せるよ。俺たちは絵を描いたりするのでいっぱいいっぱいだもん。なあマクミリアン?」

「はい!そっすね先輩。俺も絵を専門にやります」


 こいつら、最初からその気だったな……いやいや、俺は絶対に一人で纏めるなんてゴメンだから!学校に帰ったらしっかり指導してやる。


「そう言えば先輩、何で犯人が判ったんですか?」

「そうそう、俺も不思議だったんだよ。お前急に犯人に飛び掛かってたろ?」


2人は立ち止まって、俺の顔を覗いてくる。何で今さらそこを訊くかなぁ……


「いやーなんとなく怪しい感じだったし、目が合った時逸らしたんだよ」


俺はうんうんと頷きながら、誤魔化すように答える。

 2人は俺から少し離れて、ゴニョゴニョと何か話し始める。


「でもさぁ、あいつ(犯人)頭からすっぽりマント被ってたよな?」

「先輩、そこはこの際、ハビテ先輩が言いたくない様だから、突っ込まないで課題のまとめを押し付けましょう」

「お前頭いいなあ」


ランドルフはマクミリアンの髪を、ぐしゃぐしゃにしながら褒める。


 こいつら何話してんだ?俺の能力に気付いたのか?いや、それは無いはず。勉強は全然ダメなのに勘だけはいいんだよなぁ。


「よし、そう言うことにして帰ろう!」


そう言いながら、今度はランドルフまでスキップを始める。

 これは喜んでいいのか?どうなんだ?

 そんなこんなのやり取りをしながら俺たちは宿に向かった。

 何か大事なことを忘れているような気がしながら……


 



【教会の離れ】に着くと、ミノス正教会のファリス(高位神父)様が俺を待っていた。

 あれ?やっぱりお叱りですか?自分一人だけ呼び出された俺は、とぼとぼとミノス正教会に向かう。


 ミノス正教会は、レガート国内で2番目に古い教会だ。1番古いのは王都ラミルにある正教会だが、木造建築の教会の中では、大陸一美しい建物だと言われている。

 ミノスの人々はこの美しい教会を心から愛し、決して火災で焼失などさせないように守ってきた。教会の前には大きな泉があり、こんこんと涌き出る水は、まだ一度も枯れたことがない。

 

 大聖堂ではなくファリス様の執務室に案内され入室すると、なんとそこには、リース(聖人)様とシーリス(教聖)様が嬉しそうに俺を待っていた。


「ようこそ《予言の旅人》よ!」


大きく両手を広げたリース様に、ガバッと抱き締められる。

 な、何だ?予言の・・・予言の何?

 困惑する俺にはお構いなしで、今度はシーリス様が抱き締めてくる・・・??


「君を探し出すのに3年も掛かったよ。本当に見付かって良かった」


感慨深そうに、何度もシーリスのイバス様は頷く。


「えっと、話が全く見えないんですが?」


俺は話の内容が分からず、御二人の顔を交互に見ながら尋ねた。


「いやー、話せば長い話になるから、この手紙を上級学校に帰ったら、校長に渡してくれ。そして、君は卒業と同時にハキ神国の本教会に来ることになる。その時はきちんと本教会から迎えをやるから心配するな」


シーリス様は俺の肩をポンポンと叩き、訳の分からない話をしながら手紙を差し出す。


「おいイバス、卒業を待つのか?なんなら俺がこのまま一緒に旅に連れて行くぞ!」

 

 いやいや、何かとんでもないことを聞いた気がするんですが……俺の都合とか、俺の将来の夢とかはどうなるんでしょうか?


「あのー、今の話を聞かなかったことにはでき・・」

「まああれだ。運命と思って諦めろ!お前にはこの大陸を、救わねばならない使命があるのだから」


 まだ俺の話の途中だったのに、人の話なんか聞く気無いんだなシーリス様?

 何なんだよ、運命とか使命とか訳が分からないだろう……

 さっきまで、あんなに感動してたのに。カッコいいとか思ったのに。


「いや、悪い悪い。君に会えたことが嬉しくてね。これからこの大陸は戦乱の時代に突入する。だから君のその特殊能力を、能力者の力を色で判別できる能力を、是非貸して欲しいんだ。君との出会いは、開祖ブルーノア様の《予言の書》に記されている。詳しいことは卒業してから話すよ。残りの学校生活を楽しんでおいで」


 さらーっと、とんでもない話をされたような・・・《予言の書》って何?俺の能力を貸して欲しい?いったい何の話なんだ!

 リース様は俺の手を握って、キラキラと眩しい顔で、それはそれは嬉しそうに微笑んだ。


 

 

 結局学校に帰って手紙を校長に渡すと、手紙の封印紋(シーリス専用)を見て椅子から転げ落ち、手紙を読んで何故か泣き出し大変だった。


「こんな名誉なことはない。ハビテ君、これからの君の授業は主に外国語とする」


校長はそう俺に指示を出した。何かすごく面倒なんですが…… 

 


 手紙には短く【リースとシーリスの名に於いて、ハビテ・エス・クラウを、卒業と同時に本教会にモーリス(中位神父)として招喚するものなり】と書かれていた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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