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予言の紅星  外伝  作者: 杵築しゅん
シリーズ5ロームズの反乱の外伝 
10/15

ロームズ領主決定会議(2)

前後編の予定が1・2・3と3話になりました。ハハハ……

 午前9時から始まった領主会議は、ロームズの現状を伝えた後、自領のギラ新教徒をあぶり出す方法について論じられた。

 そこでバルファー王は、ヤマノ侯爵にはダレンダ元伯爵の、カイ領主のラシード侯爵にはサイシス元伯爵の、日頃の態度や特徴を話すよう命じた。

 ギラ新教徒であった元伯爵が、いかに日頃から横柄で、領主の政策に反対したり、貴族特権を振りかざし領民を虐げていたのかをラシード侯爵は語った。

 また、そのせいで改革が進まず、領民は疲弊し、次々と貴族達を仲間に引き入れ、領主の発言権をも奪っていったとヤマノ侯爵は語った。


「それでは皆さん、午後からはロームズの領主を決めたいと思います。今回ロームズの領主を募集した目的は2つあります。1つは皆さんが連れてきた伯爵以上の貴族の中に、ギラ新教徒が居ないかどうかを調べること。もう1つは、ハキ神国の脅威に曝されながらも、領主を務められる人材がこのレガート国に居るかどうかを調べる為です」


エントン秘書官はそう言うと、ギラ新教徒かどうかは試験を受け、キシ公爵が面接をすれば分かるだろうとニヤリと笑った。


 午後の予定は、1時から試験、2時から面接、4時から領主を交えて参加者全員でパーティー。パーティー中にロームズの領主を発表をすると、午後からの予定が告げられた。

 またその場で、レガート国の皇太子に関する重要な話が、王様からされる予定だと伝えられた。





 午後からパーティーがあるので、昼食は各自で済ませることになった。

 キシ公爵アルダスは、午後からの打ち合わせを兼ねて、王様と秘書官と共に5階の王の住居で軽い昼食をとっていた。


「ところで王様、本当にロームズの領主に足る人物が居ると思っておられるのですか?」


「アルダス、実は既に……ロームズの領主は決まっている。今頃はハキル・クレマンスが、任命書を持って到着した頃だろう」


バルファー王は意味あり気に微笑むと、大好きなスープを美味しそうに飲んだ。そのスープは、バルファーが過労で倒れた時、イツキが王様の為に王宮料理長に渡したレシピで作られていた。

 バルファー王は、アルダスは何もかも知っているだろうと思っている。イツキが自分の、国王の息子であると知っていて、お互いにそのことに触れないだけだと。


「いやーイツキ君に教えて貰ったスープを飲むと、なんか元気になるんだよねぇ」


嬉しそうにニコニコ笑う国王を見て、何処の親バカですかとアルダスは突っ込みたかったが、今とんでもないことを、さらっと聞いた気がして意識を戻す。


「王様、今ロームズに居る伯爵と言ったら、うちのフィリップとシュノーですよね?待ってくださいよ、いやいや無理です。領主なんて絶対無理です」


「え~っ?いいじゃないか、キシ領は優秀な者ばかりだ。だってほら、領主になる条件が他にも有るんだが、それをクリア出来る人間(貴族)が他に居なかったんだよ」


本当に困った顔をしているアルダスを見て、バルファー王は少し愉快そうに言いながら、他の条件を書いた紙をアルダスに渡した。

 そこには、これから半年間、住民から徴税しない。とか、医学大学の運営をし、運営費の半分を負担する。とか、防衛費も半分負担する等と、有り得ないことが書かれていた。これはもう、領主を選びたくない又は、領主を破産させるつもりだとしか思えなかった。


「こんな金持ち、キシ領には居ませんよ。フィリップだってシュノーだって領地持ちじゃないし・・・って?待てよ・・・いやいやいや、それはない……ですよね?」


何かに気付いたアルダスは、驚いた顔をして国王と秘書官を見る。それでもフルフルと首を振って、自分の考えを打ち消そうとする。


「俺達は何もしてやれない。これが、この条件がどれだけ無理難題なのか充分承知している。でもこの条件なら、誰も医学大学の運営に口は出せない。ロームズはランドル大陸中を飛び回るのには便利な場所だ。それに本教会も近い。イツキ君発案の医学大学は、きっと身分など関係なく、優秀な医者や薬剤師を育てることを目的にするだろう。教会も協力してくれるはずだ。金は、ポムがあるから……きっとなんとかするだろう。イツキ君だから」


そう説明しながらエントンは、少し寂しそうに王様の方を見て頷いた。


「それに今回、無事にロームズを奪還しハキ神国に勝てば、全ての領主はイツキ君を認めざるを得ない。これでイツキ君は表舞台に立つことになる。リース(聖人)様が領主などしているはずがないから、ギラ新教の目を逸らすことが出来ればと思う。護衛も側近も既に候補者がいそうだ。当然我々もしっかりとサポートする。学校と統治が両立できるよう、学校に特例をつくる」


バルファー王は、可愛いイツキを苦難の道に進ませようとも、助けたい守りたいと思っている。そして、ずっと繋がっていたいと願っているのだ。


「はーっ……イツキ君も苦労するな。イツキ君がロームズに居る間、フィリップも居なくなりますよ。いいんですね秘書官?それから【奇跡の世代】と【治安部隊】の全員に、至急ハキ神国語を教えてください。これからは護りだけではなく、攻めの姿勢も必要になります」


イツキがロームズの領主になることで、本格的にギラ新教と戦うことになりそうだと、アルダスは覚悟を新たにする。



◇ ◇ ◇


 午後1時、ロームズの領主になるための筆記試験が始まった。

 領主選定に挑戦したレガート国の貴族は、全員で10人だった。年齢も22歳から60歳までおり、伯爵家の当主が3人、伯爵家の子息が4人、侯爵家の当主が1人、侯爵家の子息が2人だった。


 試験問題を作ったのは、キシ公爵とロームズ上級学校のボルダン校長である。

 その内容は50問を10分で回答し、自分が望むロームズの統治について20分で纏めるというものだった。

 50問を10分で答える設問の内容を見てみると、次のような感じだった。


1) 領主に必要なものは何か?

A 権力 B 財力 C 知力

2) 貴族の在り方について、自分の考えに近いものを選べ

A 貴族特権を強くする B 領民より貴族を優先すべき C 領民を大切にする

11) ロームズの領主になって1番先に行うこと

A 税を重くする B 住民に誰が偉いか思い知らせる C 安全・防衛対策をする

28) 私はブルーノア教の信者だ

A そうではない B やや信者だ C 間違いなく信者である

30) 自分は選ばれた人間だと思う

A そう思う B たぶんそうだ C そう思ってはいない


と、まあ……こんな感じの試験問題を一斉に回答する。質問は受け付けない。深く考える時間も与えない。

 40問目からはもっと辛辣な問いになっていた。


41)8つの領地の中で、上手く統治出来ていると思う領地を2つ書け

44)現在のレガート軍は、大きく変える必要があると思う者は、理由を書け

48)皇太子にするなら誰が良いか?

A サイモス王子 B リバード王子 C まだ決められない


 試験中、おや?と気付いた受験者は5名。その5名はギラ新教は悪神教であると、教会の神父の話を聞いていた者だった。もちろん、敬虔なブルーノア教の信者である。

 50問の試験が終わったところで回答用紙は回収され、長文問題は別の用紙に答えさせた。



「う~ん、これは間違いないだろう。こいつはマキ領の伯爵だ。こいつはマサキ領の伯爵か。こいつは・・・グレーだな。ホン領か……ただ単に欲があるだけかもしれん。ヨム指揮官、3人の領主を司令官の執務室……いや、軍の作戦室に呼び出してくれ。俺はギニ司令官にこれを届けてくる」


キシ公爵アルダスは3階の自分の執務室で、全員の答案用紙を見て唸っていた。ヨム指揮官と一緒にギラ新教徒かどうかを確認していたが、怪しい貴族の回答用紙は3枚あった。予定通りキシ公爵は、ギニ司令官の元へと全ての回答用紙を運んでいく。


 キシ公爵とギニ司令官は、回答が全てAかBであった貴族の領主を呼び出し、日頃の様子をしっかり聴くことにした。ホン領の侯爵家の子息はCが半分あったので、一応話だけ領主から聴くことにする。

 


 急に軍の作戦室に呼び出された3人の領主は、困った顔のキシ公爵と、渋い顔のギニ司令官を見て、何事だろうかと首を捻った。


「お忙しいところ申し訳ありませんが、3人の領主の皆さんには、先ずこの問題に回答していただきたいと思います」


そう言って先程の試験問題を、3人の領主の前にスッと置くと、制限時間は10分ですとキシ公爵は言った。

 3人の領主達は怪訝そうに試験問題を見るが、同じ領主ではあっても、貴族の不正を取り締まる【王の目】を率いるキシ公爵には、協力的な態度をとるしかなかった。


 問題に回答しながら、領主達はこの試験が何を意味しているのか理解し、直ぐに顔色を変えた。

 そして考える。もしかして王様や司令官は、いや【王の目】は自分をギラ新教徒だと疑っているのだろうかと。

 回答し終えた3人の領主達は、若干Bという回答があったものの(マキ公爵のみ)、ほぼCという回答になっていた。


「これは、先程の試験で、皆さんの領地の候補者が回答した回答用紙です」


ギニ司令官は3枚の回答用紙を、其々の領主の前に置き、「ハァーッ」と大きく息を吐いた。

 自分の目の前に置かれた回答用紙を見た3人の領主は絶句した。

『まさか!アイツが……』『そんなはずはない!』『なんだこれは!信じられない』と心の中で叫び、皆さん同じようにテーブルに両肘をつき頭を抱えた。


「それでは時間もありませんので、申し訳ありませんが個別ではなく、今この場で日頃のこの者達の様子をお聞かせください。それから、与えている仕事内容と、上級学校に子息が居るかどうかも教えてください。実は9つある上級学校の校長から、どうやら洗脳されているようだという、学生の名前が届いています。子が洗脳されていれば、その親は90%以上の確率で洗脳されています」


ギニ司令官はそう言いながら、ボルダン校長から預かった、各学校長から届いた調査書を取り出した。そして、質問という名の、恐怖の尋問が始まるのだった。




◇ ◇ ◇


 午後2時、領主希望者の面接は、エントン秘書官、ソウタ指揮官、事務方代表で側室エバ様の兄ラシード伯爵の3人で行われた。

 面接は1人1人行われたが、その冒頭レガート軍のソウタ指揮官が爆弾発言をする。


「ロームズの防衛費は、半分は領主持ちです。まあ投石機や武器は国が負担しますが、人件費や滞在費はロームズが半分出すことになります。勿論、10人置くか100人置くかは、領主の裁量で決めてくださって構いません」


常にハキ神国の脅威に曝されているのに、防衛費が折半……そんなバカなと候補者達は憤る。警備隊は国費ですと付け加えられたが、そんなの当たり前だと心の中で叫んだ。

 ソウタ指揮官の冒頭の話で7人は心が折れたが、3人はヤル気満々だった。その内2人は試験問題でAとBを回答していた、マキ領とマサキ領の伯爵だった。もう1人はホン領の侯爵の子息22歳で、試験問題はCが多かったが長文問題は散々だった。


 結局、防衛費で心が折れた貴族はロームズの領主を諦めた。残った3人の内ホン領の侯爵の子息は、長文試験で不合格となった。


 ここから秘書官と司令官の、頭脳戦による仕上げの芝居が始まることになる。

 その舞台は、勿論午後4時から始まるパーティーである。

 華やかな舞台の幕を開けるのは、その華やかさに相応しい、王宮の貴公子、氷の貴公子と呼ばれる美丈夫の、警備隊指揮官のヨムであった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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