運命の出逢い
【予言の紅星】シリーズの外伝です。
この話は、シリーズ2 予言の子の序章となるストーリーです。
俺はハビテ・エス・クラウ。レガート国出身のブルーノア教会の神父である。
年齢は18歳で、学問も武術もそれなりのそれなりだ。どちらかというと真面目な方だろう。体は鍛えているのでガッシリ系、短く切った茶髪に、焦げ茶の瞳、何処にでも居そうな外見である。
家は貴族だが俺は長男ではないので、自分で自立するしかない身の上だ。
付け加えるなら、俺は特殊能力持ちだが、あまり役立ちそうにもない能力なので、誰にも話したことはなかった。
そんな俺が何故神父をしているのか・・・それは、レガート国の上級学校在学中の17歳の時、このランドル大陸の9割を信者に持つ、ブルーノア教のシーリス様に出会ったことにより、俺の運命が変わってしまったからなのだ。
全ては、俺の何の役にも立たないと思っていた能力が、【予言の書】に書かれていたことが原因だった。
シーリス様との出会いのせいで、なんと俺は卒業と同時に無理矢理神父にされてしまうという、涙なくしては語れない無茶苦茶な人生のスタートを切ることになるのだ。
しかも、スタートから一般神父ではなく、10年以上の経験と能力がないと成れない、モーリスとしてのスタートだった。
本来俺という人間は、熱心なブルーノア教信者でもなく、神父になろうなどと思ったことは、一度たりともなかった。
上級学校を卒業したら、適当な地方文官になって、好きな史学を自分なりに研究し、地方史学等の本でも作れたらと考えていたのだ。
そうあの日、あの人たちに出会うまでは。
◇ ◇ ◇
17歳の時、学校の課題で、面倒臭がりで好奇心だけは旺盛な後輩のマクミリアンと、陽気で明るい同級生のランドルいう2人の友人と共に、王都ラミルの南東に位置する都市ミノスに行った。
その時、あろうことか学生だった俺達は、ある事件に巻き込まれてしまった。
それが全ての不運?の始まりだったのだ。
それは不思議な事件で、誰もいない場所から火の手が上がり、火事になるというものだった。
俺達3人がミノスの街に到着した日、木材店の前を歩いていると、外に積まれていた木材が突然燃え出したのだ。
確かにその場には誰もいなかった。居なかったからこそ、俺達が放火犯にされてしまい、警備隊に連行されてしまった。
「4日前から起きている火災は、お前たちの仕業だろう!素直に言えば極刑は免れるかもしれん。幸い人は死んでないからな」
警備隊の男は、明らかに俺達を犯人だと決めつけて尋問する。
「はあ?上級学校の学生だ?嘘をつくな!」
それはもう噛み付かれるかと思う程に、ギャンギャンと責め立ててきた。
しかし幸運にも、警備隊の上官の中に2学年上の卒業生、スミス先輩が居た。俺たちが上級学校の学生で、課題のためにこの街に来たこと、そして今日着いたばかりであることだけは証明された。
上級学校の学生は、王族や貴族、中級学校を成績優秀で卒業した者や、軍や警備隊、教会からの推薦者しか、入学できないエリートの集まりだった。
上級学校の課題とは、指定された街へ行き、問題(事件や困り事など)を解決するというもので、将来卒業して地方の役人や軍、警備隊などに就職した時の、予行演習みたいなことをするのだ。
実際に大きな事件に遭遇するなんてことは殆どないので、自分たちで町の人から問題がないかを調査して、問題を提起する。
無理に解決する必要はなく、提起に対する解決策を出したり、小さな問題であれば解決したりして、人々の生活に目を向けさせ、考える能力を身に付けさせることが狙いの課題である。
「良かったなぁお前たち。探さなくても問題は見付かったじゃないか。できれば犯人又は原因を突き止め、事件を解決してくれよ。全員Aが貰えるぞ。いや、校長賞さえ期待できるな!」
無責任な先輩の発言に、俺は深い溜め息をつくが、不運にも友人2人は目をキラキラ輝かせ、課題探しを省けると喜び、事件を解決する気満々である。
やっと解放された俺達は、今日からお世話になる宿泊施設に向かうことにした。
いつの間にか、もう夕方に近い時間になっていたので、少し早足で街を歩いて目的地へと急ぐ。
良く整備された中心街の道には、左右に背の高い街路樹が植えてあり、馬車道と歩道は分離され、安全に歩けるようになっている。
ミノスの街は森に近いため木造の建物が多い。公共の建物はレンガや石で出来ている物もあり、中心街は3~5階建ての、アパートや商店が建ち並んでいた。
湧き水が豊富な土地柄、巨大な噴水が街の中心にあり、ミノスのシンボルになっている。そこから道が四方に伸びて広がって行く。
水飲み場や小さな噴水もあちらこちらにあり、水路も整備されとても美しい街並みだ。
ミノスが【水の都】と言われ、愛されているのも頷ける。
中心地を抜けた所に、荘厳なミノス正教会がある。大きな都市の教会は正教会と呼ばれていて、都市の中心に在るのだが、ミノスの正教会は外れに在った。ちなみに地方の町にあるのは、普通に教会と呼ばれている。
正教会には必ず、【教会の離れ】と言われている宿泊施設がある。
そこは主に、訳ありの貴族、教会の保護対象者、教会に関係する商人だけしか利用できず、一般の者は立ち入り禁止だった。
ただ、上級学校の課題の期間だけ、学生が利用しても良いと許可が出ている。
俺達に与えられた課題クリアの為の期間は、あと5日間である。
明日からの予定や問題点、調査の仕方などを相談していると、同じ宿泊者の男性から声を掛けられた。
「君達は上級学校の学生かな?」と。
なんだかとても人の良さそうな、優しい雰囲気のおじさんだったので、俺達(主に友達)は、今日あった出来事や、放火事件を課題にしたことなどを話した。
その人の名前はイバスさんで、商談で大陸中を回っていると言うだけあって、逞しい体型だった。肩まで伸びた銀髪に、優しく涼やかなグレーの瞳は、絶対に好い人だと感じさせる。親身になって相談に乗ってくれたり、知識が豊富で学ぶこともたくさんあった。
暫く滞在するからと言われて、毎晩その日にあったことを報告していた。
物知りで親切な、ただの商人のイバスさんだと信じて……
いつもお読みいただき、ありがとうございます。