第八話 ダンジョンマスターという種族
年齢の事で驚きはしたが気を取り直して魔法の練習に戻った。数時間かけても成功はしていなかったが、昨日よりは明確に成長している。成功まで残りわずかと言うべきか。
「それにしてもすごい成長速度ね。それなりに高い才能に膨大な魔力が合わさった結果でしょうけど」
「疲れはするけどこうして成果が出るとモチベーションが維持できるからな。これで全く進歩して無かったら辛かっただろうな」
成長が実感できない訓練は精神的にかなり辛いものがある。それからすれば徐々にだが確実に成長を続けている現状はかなりいい調子と言えるだろう。
精神と肉体はかなり密接に関係している。精神的に辛い状況だと訓練も身に入らないし、なにより辛い。他の感情で気を紛らわすにも限界がある。
「それにしてもダンジョンマスターか……今更ながら俺がダンジョンマスターに関して知ってる事が少ないのは問題だよな」
「私が知ってる限りだと。魔力が多い、モンスターを使役できる、ダンジョンの主、と言ったくらいだものね」
ダンジョンマスターについてまだまだ分からない事が多い。この世界の住人であるノワールもそう大した事は知らないみたいだし、これからの事を考えると知らなければいけないことになるだろう。
自室に戻ってダンジョンコアを取ってくる。機械的な返事しかしない事が欠点だが、それでも辞書代わりとしては中々に優秀だ。早速これを使ってダンジョンマスターについて調べてみようと思う。
ダンジョンマスターについての情報と問いかけるとすぐさま答えが返ってくる。
『種族ダンジョンマスターは人類を滅ぼすために作られた、ダンジョンを作るスキルを有した種族です。肉体面は素体となった生物を基に、効率よくダンジョンを強化し人類を滅ぼすために魔力量と寿命を極限まで伸ばしてあります』
……色々突っ込みどころ満載の内容だな……素体ってのはこの身体の元になった人の事か?生物と言うからには人に限った話じゃ無いみたいだが……
「素体元になった人の記憶が戻ることはあるのか?」
『ありません』
無いのか。なら記憶を失う前の俺と今の俺はもう別人と考えた方がいいのだろうか……分からないな。この件に関しての結論は取りあえず保留だな。
「取りあえず寿命はどの位なんだ?それに年は取るのか?」
『怪我などの外的要因を除けば死ぬことはまずありません。年齢に関してダンジョンマスターになった時の年齢で固定されます』
「不老って事か……」
「まあ昔から存在するダンジョンも存在するし、ダンジョンマスターが不老でもおかしくはないと思うけどね」
不老と分かってもそんな素っ気ない反応か。そこまで驚く事じゃ無いのか? それとも長寿種である吸血鬼ならではの感情か?
「そういえばダンジョンって外ではどういった扱いになってるんだ?ダンジョンコアに聞いても辞書で引いたみたいな答えしか返してくれないんだ。どういった扱いでどのように対処されてるかを教えてくれないか?」
「そうね。……基本的にはモンスターが生み出す場所って認識ね。潰しても潰しても新しいダンジョンが出てくるし、長い間放置していると次第に強力なモンスターも湧くようになってくるから見つけたら早い内に対処しなければならない場所といった感じかしら?」
「……その頻度は?」
「私の国で年に数回、ただ人の生活域から離れている場所については放置されてるのが殆どだから実際はもっと多いでしょうね」
「そうか……」
それなら、派手に行動さえ起こさなければ見つからないかも知れない。だが、ノワールの仲間を助け出すとすればそうはいかない。
やはりノワールの仲間の救出を手伝う事の利点は少ないかもしれない。約束したとは言っても所詮は口約束、行動した結果俺に多大な不利益が生まれるとして、それでも手伝うべきかと言われたらそうでは無いだろう。
俺の優先順位としては自らの安全が最優先。ノワールを手伝う事は俺の身を危険に晒す。優先順位から反している。それに今なら出会ったばかりとは違い簡単に約束を反故に出来る。だが出来ればそれはやりたくはない。女々しく俺は今のこの関係を心地よく感じてしまってるからだ。
ダンジョンマスターになった当初、俺は色々と考えた。そしてその結果、人と仲良く出来る可能性は低いとの思考に辿り着くまで考え尽くした。
そして俺の方針から言って、俺が人と関わる可能性はかなり低かったと思っている。俺の当初の計画では戦力を増やしながら見つかり難い場所に引き籠ろうとしてたからだ。死なない一番の方法は戦わない事だ。戦わないには相手にその存在を認識されなければいい。そう考えていた。
だが、こうして人と関わってしまうと一人になるのが怖くなってしまう。誰かと会話する。違い意見をぶつけ合う。それが凄く尊い事に感じてしまうのだ。
だからこそこの関係が終わるのが怖い。裏切る事によってこの関係が変わってしまうのが嫌だと感じてしまっているのだ。
「そう言えば、もしノワールの仲間を救出出来たとして、その後はどうするつもりなんだ?」
「そうね……何処かに身を隠すか、それかそのままここで世話になるのも悪く無いと思ってるわね。ダンジョンマスターの能力って上手く使えばかなり凄い事が出来ると思わない?」
「確かに……食料から資材、物資まで生み出せるからな」
だからこそ、こうしてだらだらと協力し続けてしまうのかも知れないな。