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第三十一話 ミスト族への訪問


「またしばらくの間屋敷の方を頼むよ」

「畏まりました。でもよろしいのですか? お供の人を付けなくて」

「今回は日帰りだからそこまでする必要は無いだろ。それに安全策はそれなりに用意しているつもりだしな」

「私も一緒なのだしハンナもそこまで気にする必要はでは無いわよ」

「ですが行き先は……いえ、何でもありません。早めに戻って来て下さいよ?」


 ミモリが屋敷に滞在するようになってから少したった頃、俺は一度ヘラス族とミスト族の領土に視察に行く事になった。と言うのも両部族とも非常に癖が強い部族なのでへステア王国に住み始めてからの少しの時間で色々と問題が起こり始めているからだ。幸いな事にまだ大して大きな問題にはなっていないがそれでも問題は問題だ。サンドニア王国との関係も怪しい現状では下手に付け入る隙を与えたくは無いと思い、早々に問題を解決しておこうと考えたのだ。

 今回訪れるのはミスト族の集落となる。実際に問題を起こしているのはヘラス族の方なのだが仲が悪い二つの部族に差を付けたりすると後で問題が出て来るので、その両方に親書を送り先に返事が来た方ミスト族を優先する形となった。手間だが怠ると後々どう響いてくるのか分からないから面倒だ。



 へステア王国の首都ゼスカからミスト族の集落まで街道を通って馬車で二日程、だが街の中心部に用意された転移門を使えば文字通りほんの一瞬である。転移門は各都市に設置し互いの交易したり、戦時には軍事勢力の移動経路にもなるので非常に有用である。ただ敵に悪用される可能性もあるのでその運用、管理は全てゼスカの中枢で行っている。普通に探してはまず見つからない場所で行っているのでそこが奪われるという事はまずないだろう。

 便利だが現状では誰でも使えるという事は出来ず、それぞれの領主が許可状を出した者しか通れないようになっている。サンドニア王国との関係が落ち着いたら解放していこうと考えているのだがそれも何時になるか……

 他にも物流が非常に簡単である反面、産業が貧弱な街は廃れてしまうといった可能性も秘めているのだが、これは完全にその地の領主の腕に掛かっている。アンダーコアを貸し与えている事から最悪の状況は避けられるとは思うが、それでも上手くやらないと次々とその地の民衆が他の領地へ移り住んでしまう可能性もある。

 まあだがある程度は種族や部族ごとに別れて住んでいる関係上、よっぽどの事が無ければ同じ種族の人が住む地を選ぶとは思うが。周りが外国人だらけだと落ち着かなくなるのと似たような感覚だ。




「よく来たな。流石にゼロ様の屋敷に比べれば劣るだろうが出来る限りは歓迎しよう」


 ミスト族の集落までやって来た俺はクラリスに迎えられその先導の元、屋敷にまで歩き始めた。ここで目に付くのはやはり露出の多い女性たちだ。彼らは比較的温暖な気候の元暮らしていただけあってか、服の布面積が少ない人が多い。この地に集落をつくるに当たって気候なども元々住んでいた地に寄せたみたいなのだが、そのせいで少しばかり視線のやり場に困る。

 三十分程歩き続けるとクラリスが住んでいるであろう屋敷が見えて来た。日本の武家屋敷とはまた違った、だが自然を取り入れるような造形をした屋敷だ。

 そこでも何人かの女性に挨拶をされた後に客間まで通される。クラリス以外は全員下がった事から一人で話すようである。

 軽い挨拶と近況報告を行い本題に入る。とは言えミスト族に関して言えば大して話す事も無いのだが……集落の様子を見た感じだと上手く統治されているように感じるし治安も悪くは無さそうだ。だから今回のこれは互いの有効を深めるための場に近い。


「そうか……なら少し相談してもいいだろうか」

「聞こう。まだ色々と不慣れな事も多いだろうしある程度なら馴染むための協力もしようと考えていたからな」

「助かる。……知っての通り私達は傭兵家業を産業として売り出すことにしたのだが、討伐者ハンターと言う生業の決まり上、実力は足りても十分だが先へ進むことが出来ないようなのだ。仮にも私たちは狩りを生業にして生きて来た自負がある。実力が足りないのではなく決まりだからと上に挑戦できないのはどうにかならないのだろうか?」

「……ふむ?」


 予想外の内容が来たな。討伐者ハンターはなるだけならそこまでハードルは高くないのだが、その後次の層に行くまではそれなりの時間が掛かるような仕組みになっている。

 一階層目は言ってしまえば戦いに慣れさせる事が目的だ。好戦的なモンスターは殆ど存在せず、日々の生活の為のお金と生物を殺す事に慣れさせるのが目的、これが出来ない様なら討伐者は諦めた方がいい事を暗に示すための場でもある。だから既に実力がある人には少し物足りなく感じるかもしれないだろう。

 だがそんな人たちなら一月もしない内に次の階層を目指せると思って特に問題視はしていなかったのだが、クラリスが言いたい事は多分そう言う事では無いだろう。


「傭兵として出向してくる人材が固定では無いのか?」

「ああ、雇われる人数よりも希望者が多くてな。その中から順番に出て行って貰ってるのだが、それだと一向に次の階層にはいけないようなのだ」

「だがそれを変えるのは難しいな。これが無ければ自らの実力を過信して身に余る階層に挑戦できるようになってしまうだろう」

「そうだな。だが戦いに身を置く以上それは仕方が無い事でないのか? 実力の過信はそいつに戦士としての素質が無かっただけだろう。そこまで気にする必要は無いと思うが」

「統治者としてはそうはいかないだろう。国として少しでも人が死ぬ可能性を減らす努力はして当然だろ」


 お互い視線を合わせ……クラリスが降りた。価値観や考え方が違うのは互いに承知の上だ。だがダンジョンがあるのが俺が治めているゼスカであり、その上元々の立場も俺が上とあっては無理に話を通そうとするのは懸命では無いと思ったのかもしれない。


「だが、そうなると他にも貨幣を得る手段を得ないと厳しい。ゼロ様、何か案は無いだろうか?」

「そうだな……安定した収入が見込めるとなると食料品、ただの食料品だとダンジョン側から供給される肉類に駆逐されてしまうだろうから、その中でも嗜好品や贅沢品の類。酒類なんかが妥当だろうか」

「酒か……一応私達も独自の酒をもっているのだが癖が強いらしく外に人間にはあまり合わないようなのだ

「そうか……なら「ちょっと待って」……どうしたノワール?」

「その提案は国全体からみると利益に繋がるでしょうけど、部族単位で考えると余りいい提案ではないと思うわよ? 技術を提供するならそれ相応の見返りを貰わないと。一度でもそれを疎かにするようなら他も同じような要求を望むわよ?」

「だが現状だとエルランドと勢力が離れ過ぎているきらいがあるから、多少は他の勢力を援助しなければその差は縮まらないだろ」

「でもそれはゼロの望む平等とは少しズレていると思うけど? そもそも能力に差があるのなら勢力差が広がるのも仕方が無い事でしょ」


 今度は俺とノワールが対立する。が、ここで変に不仲を見せるののアレだよな……別にこれくらいの言い合いはよくある事で、大したことでは無いのだが……ここは俺が引くか。


「なら技術料は取る。だがそれは人口などの都市の規模に応じてその割合が増すといった感じか?」

「そうね。それと新参の勢力には一定期間の援助も入れればそれなりに安定するでしょうね」


 だがお互い自分が引こうと考えていた為か、丁度中間を取る形で話が纏まった。これにはお互い顔を合わせて少し笑ってしまった。

 そして少しの間クラリスを蚊帳の外にしてしまった事に気付き、視線を戻すと何とも微妙な表情をしている事に気が付く。


「出来れば今回の話し合いの場で私達《ミスト族》からも何人か嫁を取って欲しかったのだが……流石に無粋なようだな」

「……出来ればそう言うのは勘弁して欲しいな」


 割と似たような話は何度も出てきたのだが、割と現状に満足している上に、面倒な事になるとしか思えない。欲が無いとは言われるが俺のこれは人間関係に消極的と言った方がいいだろう。




 しばらくの間話し合い。各正午を回ったあたりで一度領内を見て回る事にした。ミスト族の勢力は百人弱、そもそもがそれほど多い部族では無い勢力がへステア王国に帰属する為に更に別れたのだから仕方が無いが、それでも少々数が少ない。しかも風習などが独特なため急激に数を増やす事が難しいのも悩みの種の一つなのだろうか。

 大陸全体の傾向としては男性優位、貴族家にもなると女性の人権などあって無い様なものだから住民の殆どが女性で且つ、一部族としては十分に力を蓄えているミスト族がどれだけ異端か分かるだろう。

 

「そうだな。だが私たちは変わるつもりは無い。滅びがこの身に降り注ごうものなら最後の一人まで戦い抜くだろう」

「そうか、俺としてはこういった部族が一つくらいあってもいいと思うから出来るなら頑張ってくれると嬉しいな」

「……ゼロ様は少し変わってるな。前に見た貴族の男などは女の癖にと、それこそ死ぬまで繰り返していたのにな……まあ死ぬほど後悔させてやったが」


 獣の様に口元を歪めてクラリスはそう言う。その貴族の男がどうなったかは知らないがまあご愁傷様と言っておこう。


「女性優位な社会は珍しいが、見た感じだと別に男を排斥してる訳ではないみたいだからな。部族の個性を言ってしまえばそれまでだ。まあそれでこっちで諍いを起こしたりするようなら俺の方でもそれなりの対応をさせて貰うが」

「逆に此方で揉め事を起こしたなら、私達の決まりで裁けるのだからお互い様だ。国としての決まり事もあり、多少は罰が温くなってしまったがそれは仕方が無い変化だろう」


 ミスト族は多少の不満はあれど全体としてはまあ、満足がいく結果となっているようだった。心配していた子孫問題も街の方に出て適当な男に声を掛ければ簡単に付いて来ると俺の方が心配になる答えが返って来たのだった。そうなると性病の問題も出て来ると思うのだが、それは話すだけ話して後は彼女ら自身でどうにかして貰おう。

 ……そう言えば大樹の仲間にミスト族から推薦を受けた人が居た筈だが大樹は大丈夫だろうか?


「そうだ、後で軽い模擬戦を頼めないか? 何人かはダンジョンでのゼロ様の戦いを見て納得しているようなのだが、此方に残っていた多くの仲間はまだ納得しきれていないようだからな」

「……まあ、いいか」

「助かる。若い衆が中心だから死なない程度に稽古をつけてくれれば助かる」

「人数居るならそんな器用な事は出来ないからな」


 そして話の流れで模擬戦を頼まれた。女性優位の社会のようだから男である俺が王を務める国に従う事に思う所があるのだろう。

 一度分かり易く力の差を示して欲しいというのがクラリスの望みで俺も特に断る理由が無い事から了承した。ノワールはまたか、とでも言いたげにため息をついていたが特に反対はしなかった。

 戦う事になった相手は二十人程、そのほとんどが十代の少女のように思える。どうも一番男性に対して思う所が強く好戦的なのがこの年代なのだとか。

 流石に一度に全員を相手にすることは無く。一対一を二十回繰り返した。使う武器は刃抜きをした剣で切られることは無いがそれでもまともに喰らえば骨折くらいはするだろう。


「やぁぁぁぁっ!!」

「……………」


 カンカンカン、鍛錬上で剣と剣がぶつかり合う音が鳴り響く。実力差を示すために魔法による遠距離攻撃は避け、強化した肉体を駆使して同じ剣を用いての戦いに終始した。単純な剣技では似たようなものなのだろうが、強化された俺の動体視力には少女の剣はコマ送りも同然に映る。しかも肉体性能に圧倒的な差がある事から多少の技量差を速度と威力だけで完封できてしまうのだ。

 まともに打ち合ったら勝ち、敵の動きはコマ送り、後出しでも十分防御が間に合うと、完全に性能差だけで勝敗が決まってしまう。これも強さと言えばそうなのだがどうにも理不尽に感じてしまう。俺の何倍も戦い、何倍も訓練しようが種族や才能の差だけでこうも優劣が付いてしまうのは……と。

 一応技量で性能差を覆してしまうような超人も世の中には居るのだが彼女らはそこまでの技量は持ち得ていないらしい。

 それでも一般的な兵士よりは強いらしいので、ミスト族は戦闘民族だと改めて実感させられる。


 その後は屋敷の方で夕食をお世話になってからゼスカへ帰るのだった。ここは命を狙われる心配はそれほどないのだが、貞操の方に危機を感じるんだよな……肉食獣に狙われてるというか。特に模擬戦を終えた後はそれが顕著になっていた。まあクラリスの方でその説得をしてくれるみたいなので今日の所は無事に帰れそうだが。……ここって他所から男が来たら死ぬんじゃ無いか? 主に腹上死的な意味で。



 諸事情により三章を終えると同時にしばらくの間更新が停止する予定です。楽しみに待ってくれた方には迷惑を掛けて申し訳ございません。

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