第三十話 ミモリの理由
「ほら、もう少しでテアンの奴も来るからお菓子でも食べてまってろ……あー、栞、後は頼んだ」
「えっと、私?」
「子供の相手は苦手なんだよ。多分一時間もしない内に迎えが来るからそれまでの間だけでいいから」
「あー、はい分かりました。えっとじゃあミモリちゃん。少しあっちで本でも読んでようか。何か読みたい本はある?」
「魔導書がいい。もっと凄い魔法を使える様になればきっとわたしも働かせて貰えるもん!!」
「…………え?」
困った俺は事情の説明を求めテアンを呼ぶよう部下に告げた後、ミモリの面倒を栞に頼んだ。子供は嫌いでは無いのだがその相手をするのは苦手なので適材適所と言う奴だ。
栞は少し困った様な表情をしたがどうにか引き受けて貰い、その間に必要になるであろう資料を手元に用意しておく。どうにも今回のテアンの行動はもらしくない。如何にルールの隙間を縫うかを考えるような悪ガキだがこうもあからさまなルール違反をするような質でも無かった筈なのだ。
少し経つとやってきたテアンに手厚い歓迎してやってから改めて話を聞く事にした。
「で、どういうつもりなんだ? 場合によっては支援も打ち切られる事もあり得たんだぞ?」
「お前はそんな事しねぇだろ。それやったら子供が何人泣くだろうな!!」
「だ・か・ら・そうやって、自分たちを盾にするような交渉は辞めろって何度言えば分かるんだ」
「おい、やめろ!!頭を揺するなって!!」
今回はお前が悪い。
「ったく。酷い目にあった……」
「お前が人の良心に付け込むような手を使うからだろ。ホント、何度言えば分かるんだよ……」
「別に、子供に弱いお前が悪いんだろ」
「お前な……まあいい。それで、ミモリに件は何があったんだ? お前も流石に雇ってもらえるとは思って無いだろ?」
「ん、まあ少し事情があって適当に屋敷の方で面倒を見て欲しいんだよ。なんか最近ミモリの奴を養子にしたいって話が何件も来ててな。最初の頃は普通に断ってればどうにかなったんだけど、最近だと迷惑料とか言ってドンドン値段を釣り上げてきたから、流石にヤバいと思ってこっちに避難させたかったんだよ。ほら、お前ってミモリみたいな奴の涙に弱いだろ? だから多分上手く行くと思ってな」
「……お前マジで後で説教な。しかしあれか、あのダンジョンの所為か」
「マジか、勘弁して欲しいんだが……はぁ、まあそうだろうなダンジョンってのは金になる。少しでも素質がある奴は手元に置いておきたいんだろ」
「だろうな。しかも現状は魔法使いの需要が果てしなく高いからな。独り立ちして稼ぎ始めた後だと金銭に困る事も無くなるだろうから早めに懐柔したいだろうしな」
「ああ、最近だと何人か雇って孤児院の周りを警護させないといけなくなってきたからな……下手するとそう遠くない内に人攫いでもきそうな雰囲気なんだ」
……結局は身から出た錆びだったか。魔法使いの需要が上がる事は元から想定されていたので学院の方で教えるなどある程度対策はしていたのだが……それでも需要に対して供給が追い付いてはいないようなのだった。
現状へステア王国で魔法を使える比率は5%程度、更に実戦レベルともなればその稀少性はさらに上がる。種族によって差はあるがへステア王国で最も多くの人口比率を占めている人族で最低限の魔力を持っている人間が七割程で、戦闘に耐えうるレベルとなると更にその内の半数程度となる。また保有魔力量とは別に魔法素質と言うものがあり、適性が無いもしくは低い魔法を扱う事は非常に難しいのだ。
他にも学院に通う為には纏まった時間が必要となり、ある程度動けるようなら家の為に働かせるのが普通と言った考えであるこの世界で魔法を使える様になるためだけに学院に通わせる家庭なんて本当に極少数なのである。
そしてそう言った家の人間は裕福で且つ魔法を使える人間を欲しがってる場合が多い。だからわざわざ養子縁組を組む必要など無いのだ。だがそんな中孤児院育ちにて魔法を学んでいるミモリという存在は本当に例外的な存在なのだろう。
別に孤児院の生活はそれほど裕福な訳という無い。俺から定期的な援助こそ受けているが、その資金は定期的な建物のメンテナンスや食事などでその大半は消えてしまい、嗜好品の類は殆ど買う事は出来ない。
だが定期的に生きるための技術を教える教師を派遣しているのだ。将来的に自ら稼ぎ、生きていく為に学ぶ環境造りだけは相応に用意している。その中に魔法と言う技術も存在し、ミモリはそんな中、才能を開花させたを一人という訳だ。
だからこそ狙われる事となったのだろう。孤児院では里親の募集は絶えず行われていると言ってもいい。当然人格的に問題無くある程度子供を養う事が出来る収入がある人に限る話だが、孤児が減るのは国として喜ばしい事だからだ……だがこうも思惑が透けてみえる話だとな。
「分かった。ミモリに関してはこっちで面倒をみよう。ただいきなり家族と離されるのは可愛そうだしお前も何人か連れてきて定期的に会いに来いよ?」
「そんなの当然だろ? 許可しないってならこっちから忍び込んでやるよ。……それじゃあ、ミモリの事は任せたぞ」
「……お前もまだガキなんだから、少しは周りに頼れよ」
「十分過ぎるくらいに頼ってるよ。んじゃ、儲け話が思いついたらまた来るよ」
「ああ元気でな」
ミモリ本人には住み込みで働くと言った名目で屋敷に滞在して貰えばいいだろ。こう言った汚い大人の話はもう少し大きくなってからのほうがいいだろう。テアン? あいつは別枠だ。酒場でギャンブルするような子供に、子供としての配慮なんて不要だろう。寧ろ子供扱いした方が拗ねるからなぁ……あいつ。
「じゃあ俺は帰るからな。あいつの言う事をしっかり聞いて頑張ってやっていけよ」
「お兄ちゃんはもう帰っちゃうの?」
「この後屋台の方も見に行かなきゃなんないからな。ま、俺も一週間に一度くらいは顔を出すつもりだから」
「あ、うん!分かった!!」
「おう。俺も十四になったらダンジョンに挑戦できるようになるみたいだから、そうなったら一緒に挑戦しようぜ!! 俺の方でリクとかにも奴に声を掛けておくから」
「うん!!」
……ミモリの身の危険があったのはほんとだろうが、それでも俺を利用してもっと魔法が学べる環境に放り込むつもりだったな。まあいいけど。できれば成人した後は俺の所で働いて欲しかったけどな。
「えっと……結局どういう事だったの?」
「簡単に纏めるとダンジョンの所為で魔法使いの需要が増えて、その魔法使いの卵であるミモリを欲しての青田買い競争が勃発してたみたいだ」
「へぇ……ミモリちゃんてそんなに凄いの?」
「魔力量は中の上、素質は支援寄りだが万能型、火力不足だが仲間がいれば結構活躍できるんじゃないか?」
「……それってどれくらい凄いの?」
「……まぁ百人に一人程度の才能だろうな」
「百人に一人……凄いけどそれなら結構いそうだね」
「まあ身近な人間で言うと、方向性が違うけど大樹の方が上だろうしな」
大樹は魔力量は上の中で適性は強化魔法特化型、特化している分出来る事は少ないがその方面ならかなりの活躍が期待できる。まあ強化対象が自分以外には適性が低そうだから自らを強化して殴る以外は出来なそうだが……一応魔法を使ってるが魔法使いと言っていいのか分からないな。
ちなみに沙紀は魔力量は中の下で適性は浅く広くだ。際立って高い適性を見せる事は無いが際立って低いものも無い。出力不足で悪い意味で器用貧乏になりそうな適性だな。
「……ちなみにディアーネは?」
「人族の中では化け物染みた素質の持ち主。そもそも人の身で不老を実現してしまうような奴だぞ?ヤバいに決まってる」
「あれ? ならディアーネに勝ったゼロさんは更に凄かったりするの?」
「アレと一緒にするな。そもそも魔法の才能と戦いの才能は別物だからな。ディアーネは魔法の素質は高くても戦闘経験は殆どないみたいだから上手く誘導しただけだ。後は出力差、銃と大砲で撃ち合えば普通に大砲勝つだろ」
とは言ったものの、客観的に見ると俺もかなりヤバかったりするのだが。魔力量計測不能、素質は召喚魔法と付与魔法が理不尽なまでに高く。際立って苦手な分野は殆ど無い。武器の扱いもそれなりに得意で最終的な到達点としては近接にも対応できる召喚士、もしくは広域殲滅魔法を多用する広域殲滅型とかだろうか。改めて多数対一に特化した素質だな。
ディアーネも俺との戦いでは控えていたが、本領は死霊術を駆使しての数の暴力だから割と素質としては似通ってるのかも知れないな。一体一での強敵との戦いが苦手な所も似ているし。
栞と話して居る内にテアンとミモリのやり取りは終わったらしくテアンは笑いながら帰って行った。まあミモリが今回のごたごたに気が付いて居なかったのはテアンの努力のお蔭なのだろう。魔法使いの卵を得る為に養子縁組を行うような連中だ。ミモリと接触の機会があったならそうするだろうし。
「さて、ミモリはこれからここで働いて貰うことになる。何か分からない事があるならそっちのお姉ちゃんに聞くといい」
「はい!!」
「え!?私!!子供なんて育てた事無いよ!?」
「育てるというよりは、平日の間は目が届く場所に居て欲しいんだよ。食事や寝る場所に関してはこっちで何とかするから、昼間の間だけでも頼む」
「まあそれなら……」
他の人に頼んだらそれこそ、業務内容に差し支えそうだしな……言い方は悪いが栞はまだ戦力として数えられていないから居なくても構わないのだ。ある程度仕事が出来るようになってからだと困ったが、これから入る筈だった戦力が無かった事になる方が楽だったりするという事だ。
少しごねた栞だが、ミモリが悲しそうな顔をすると根負けしたようで素直に昼間の間だけ預る事を了承してくれた。まあ悪かったとは思うからその分給金は弾むよ。




