第七話 魔法の訓練中
ダンジョンマスター生活三日目。
「……よしっ、これでどうだ!!」
眼前で少しずつ魔法陣を構成されていく。そこまで複雑な形では無いのだがまだ魔力の扱いに慣れていない俺ではこれですら一苦労だ。
少しでも集中力を高めるため目を瞑り視覚情報を消し脳内で魔法陣の形を思い浮かていく。
…………後少し……ダメか……
簡単な火を起こす魔法だったのだが丸一日練習しても一度も成功していない。魔法陣の構成自体を覚えるのは簡単だったんだが。それを鮮明に思い浮かべながら魔力の操作も同時にこなすってのは思いのほか難しい。
「悪く無かったと思うわよ。魔力の流れ悪く無いし、魔法陣の構成も間違ってはいない。ただ魔力の扱いがまだ不十分なだけもの。それに普通はもっと回数を繰り返すだけなのだから十分すぎるくらい物覚えが早いわよ」
「そう言われても今必要としてるのは殺傷能力がある魔法だろ?ただ火をだすだけで手間取ってたら攻撃手段として役に立つレベルになるまでどれくらい掛かるんだか……」
「私としては魔法陣の理解の速さに驚いたのだけどね……」
「ほぼ知識にあることばっかりだったからな。後は単語の組み合わせみたいなものだし」
魔法は魔法陣を組み合わせることによって効果を発揮する。
簡単に言うと炎を意味する魔法陣、矢を意味する魔法陣、更に加速を意味する魔法陣、その三つを組み合わせることによって炎の矢が完成するといった感じだ。
一つ一つの魔法陣の効果は誰が使っても変わらない。だが優れた魔法使いは逆に魔法陣の構成を隠蔽してくるのでこれを覚えるだけでは対処が難しいらしい。
「そんな簡単なものじゃ無いとおもうのだけど……まあ予想より早い分には私も文句は無いからいいのだけど、それより問題なのは貴方の魔力量の多さよ。昨日丸一日使い続けて、今日も朝からずっと練習して尚尽きないってどれだけ多いのよ?」
「比較対象が居ないから分からないな。逆にノワールならどれくらい持つんだ?」
「ゼロが使ってるペースなら半日ほどかしらね? それでも結構多い方なのだけど……」
「へー、だが俺は全く減った気がしないんだが?」
「貴方が出鱈目なの。ダンジョンマスターってみんなこうなのかしら?」
「さあ」
俺に言われても分からない。
数時間が経ち、集中力に限界が近づいて来たので一旦休憩を取る事にした。少しずつ良くはなって来てるんだがまだ後一歩足りない。多分数日以内には出来そう。と感じてるのだからやっぱり才能はあるほうなのだろう。
「それより今日追加するのは個室と風呂どっちにする? 俺はどっちでもいいからそっちで決めてくれ」
「………………………個室にするわ」
そして昼過ぎ、今日追加するダンジョンの機能を聞いたら凄い葛藤の末、ノワールは個室を選んだ。汚れているドレスと異性と四六時中一緒に居なければいけないストレス。どちらかを取るかを考えた末プライベートの方を選んだみたいだ。
病気の危険性を気にして風呂を選ぶと思って居たが、それよりも同じ空間で常に寝食を共にする方がノワールには大変だったのだろう。距離を取っても俺も気になってしまうので、女性なら尚更だろう。
早速DPを使って個室(約六畳ほど)を二つ選択、一つ10ptで合計20ptだ。選んだと同時に一瞬で部屋が二つ出来あがる。真っ白な空間に真っ白なトイレと小さな個室が二つ。結構シュールな光景である。
まあ節約しないといけない現状、機能が最優先、他は二の次三の次だ。だが全く期待していないかと言われるとそうでは無い。もしかしたら、とほんのわずかにだけ期待してしまっている。
早速部屋に入ってみて……絶望した。これは酷い。
一面真っ白。個室ってのは外と区切った部屋と言うだけで家具類は別売りのようだ。取りあえずダンジョンコアと毛布を持ち込むが……ダメだ殺風景すぎる。
この分だと風呂を買っても風呂だけで他は何にも無いと考えた方がいいな。もう一つ個室を買ってお風呂場も作らないと……明日は風呂場だけでDPが終わりそうだな……もう少し収入が欲しい。一日30ptじゃああまりにも少なすぎる。
もう辺り一面真っ白な状況に慣れつつある自分が嫌になる。これをどうにかするには……これだな。ダンジョンの背景を変える。1000ptかかる代わりに一度買えば何度でも使えるタイプみたいだ。これも余裕が出来たら……その時までどのくらい掛かるんだか、今のままだと一月経っても溜まらない。優先順位としてはあまり高くはないのでまだまだ先になる。
殺風景な場所に一人でいても空しいので外にでて魔法の練習を再開する。多少は休めたし、ダンジョン内にいても正直魔法の練習以外にやることが無い。
少ししたら同じくげんなりした顔のノワールが外に出て来たので魔法を教えて貰う事にした。
ダンジョンマスター生活四日目。
朝起きた俺は、朝食をとった後は早速と言わんばかりに魔法の練習を始めた。もはや意地だ。さっさと習得して収入を増やしてやる。
コツは掴みつつあるのだ。このままいけばそう遠くない内に使えるようになる筈だ。
「ゼロの魔力量の限界が分からないわね……もう練習を始めて三日、なのに一向に尽きる気配が起きない……」
「体感だが一晩寝てる間に使った分は回復してるな。限界まで使うならもっと大規模な魔法を使えるようになって連発しないと難しいだろうな」
「ダンジョンマスターって一体……」
「まあ俺達からしたら悪くは無い事だ。考えるのは今じゃ無くても構わないだろう」
「……そうね」
その後も雑談交じりに魔法の練習を繰り返す。これも練習の一環で他の事を熟しながら魔法を使える訓練になるらしい。やり過ぎると知恵熱が出そうになるが、それでも成果が出てるので頑張っていこうと思う。そして雑談の中、ふと、思った事を聞いてみる。
「そう言えばノワールって何歳なんだ? 吸血鬼が長寿種ってのは聞いたけど、ノワールのは聞いた事が無かったからな」
「そう言えばそうね。今年で89になるわね」
「89!?」
「……別に驚く事無いじゃない。吸血鬼なら三桁生きる事なんて普通だし、89なんて子供も同然よ。それに伝説では1000歳を超えた存在もいたらしいわよ」
「……今更ながら常識が違う事を理解させられるな」
吸血鬼とは言っても羽は無いし、見た目も普通の人そのままだ。強いて言うなら現実離れした容姿をしているが、これは吸血鬼全体に共通するものでは無いみたいだし。違うのは寿命と犬歯が多少長いくらいか?
「吸血鬼ってどんな種族なんだ? 俺の知識だと太陽の光や流水、ニンニクなんかが弱点ってなってるんだが。後は銀と十字架か?」
こうしてみると吸血鬼って結構弱点が多そうだな。
「別に太陽も水も平気よ。ニンニクは匂いが苦手な人が多いけど個人差の範疇でしかないわ。十字架は特に問題ないけど銀は苦手ね。触れる程度なら問題無いのだけど銀で出来た武器で怪我すると傷の治りが遅くなるによ。でも銀は他の金属に比べて柔らかいから武器には向いてないし結局はあまり意味が無いけどね」
「へぇ、なら血は吸うのか?」
「まあ吸えない事も無いわ。食事と言うよりは魔力を得るための手段だけどね」
「そうなのか」
こうして聞くと吸血鬼ってそこまで化け物染みた存在では無さそうだ。あくまで一種族、伝承上の存在とは大きく違っているように感じる。
「89歳っていうけどみんなそんなに若い……と言うか幼い見た目なのか?」
「……私だけ成長が止まるのが早かったのよ。普通は人でいう20前後で成長が止まって、死ぬ数年前から一気に老化が加速するのが普通なのよ」
不機嫌そうにそう告げる。多少なりとも見た目にコンプレックスがあるみたいだ。完全に子供と言うほど幼くは無いが大人と言うには少し幼い。少女と女性の中間程で成長が止まってしまっている。
「それでも若い期間が長いのか……人からしたら羨ましいだろうな……」
「羨ましいからって捕まえて奴隷にされかけるなんて私達からしたらはたまったもんじゃ無いわよ。早くある程度の設備を整えてみんなを助ける方法を考えないと」
「……分かってるんだが難しいよな」
「それでも出来る事はやらないと。後になったらもう間に合わないのだから」