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第二十八話 息抜き


 攻略は順調に進み夜を迎え野営の準備に入る。俺達はかなりの頻度でモンスターと戦っているから勘違いしがちになりそうだが、普通はもっと索敵に時間が掛かる筈なのだ。優秀な魔法使いがいるから簡単に発見できているだけでこれが普通だと勘違いしてはいけない。

 ダンジョンで一回の攻略での戦闘数は大体四回か五回を想定していて、それだけ倒せば十分に利益を見込める計算となっているのだ。モンスターを倒す事で得られる利益、例えば一階層で出会った眠羊などは素材の状態にもよるが上手く首を落とせていれば毛皮だけで大体数万円、食用と言った視点から上手く血抜きが出来て居れば肉の方も同じくらいいくだろう。一体で約10万程度と中々の収入といえるだろう。

 だが実際にはここから魔法鞄マジックバックの貸し出しで何割かを差し引かれ、技術を持っていなければ肉の解体などでも金額を差し引かれる。結果的には一、二万程度と言うのが手元に残る収入と言える。

 更に言うのなら一人で狩りを行うと言うのもリスクが高まるので4、5人程度で行うのが理想だろう。そうなると更に金額は減少するので、大体一人当たりの日当が二万前後となるのだろう。


 ただこの世界では個人の能力の格差が大きい所があるので、優秀な索敵能力の持ち主が居れば収入は数倍にも跳ね上がる。魔法使いが居れば治療費なども削減されるし武器の消耗も抑える事が出来る。完全出来高制なので優秀ならそれだけ大金を稼ぐ事も出来る場所なのだ。

 現に今のこのパーティーの本日の収入は概算だが既に数百万はあるだろう。高位の魔法使いならモンスターの場所を探すなど一瞬だし、やろうと思えば出会った瞬間に殲滅させることも可能なのだから。

 最も能力で劣る大樹にしたって戦闘面だけなら伸びしろはかなり期待できるので、決して足手纏いではない。自前の魔法鞄マジックバックを俺があげた事もあってその分の手間賃を抜く事を考えればどこのパーティーでも引っ張りだこになる程度には将来性のある人材と言えるだろう。

 まあ今回の件で俺との繋がりがある事も広まるだろうから、俺との繋がりを求めて人が接触してくる可能性も考えられるので、その辺のフォローも考えないといけないが……まあやるだけやってやるか、巻き込んだのは俺だしそのくらいは仕方が無い事だろう。それに討伐者ギルドに関して利用者としての視点からの意見も欲しかったからな。


「それにしてもどれくらい映像を見ている人が居るんですかね……」

「交代しながらだと考えても……まあ数千人は硬いだろうな。流石に今の時間帯だと人は減ると思うがそれでも人に見せられないような行動は取らない方がいいだろうな」

「そうっすか……」


 見張りをしているのは俺と大樹でディアーネはおねむの時間だ。やろうと思えば生体反応を操作して一晩寝ないくらい楽に出来るのだろうが、どうもディアーネの外見上は同情を得やすいらしいので仕方が無くだ。

 生体反応を操作する魔法だが、この魔法が使えないとダンジョン攻略の際かなり大変な事になるらしい。生理現象を催した際にモンスターが襲撃されて死亡する現象は昔だとかなりの数起こっていたのだとか、馬鹿げた話だと思うかもしれないが、現実では笑い事にならない話である。

 ただ取得難易度はかなり簡単なのである程度魔法が使える人間からすれば当然の様に使えるし他人に掛ける事も可能である。まだ全体として魔法使いが少ない現状では需要はかなり高そうだが。


「てかホントに何で俺を誘ったんです? 騎士団とか見るに正直俺よりも強い人の方が多いですよね?」

「まあ道連れが欲しかったのもあるけど、単純に堅っ苦しい立場から抜け出したかったんだよ。主と騎士と言った関係上仕方が無いとは分かっていても本音で話せないのはやっぱり少し肩が凝るからな。その点大樹なら適度に砕けていて楽だしな……」


 大樹に限らず沙紀たち全員に言える事だが、俺に対して恩は感じていても忠誠とかそういった感情とは無縁だからこそ気が楽なのだ。これがクリストンが相手なら俺の方もそれらしい態度を取らないといけないので精神的に疲れてしまう。向うにその気が無くても期待されればそれに応えようと気が張ってしまうのだ。

 ディアーネは……まあこいつもそう言った感情とは無縁だからな。俺に対して実験対象とかそういった意味合いでしか見ていないので俺の方も気を遣わないで済む。雑に対応しても構わない相手と言うのは同じだ。まあ違う意味で身の危険を感じさせられるが。


「何と言うか、上に立つのも楽じゃ無いんですね……」

「どんな立場でも相応の苦労はあるだろ。俺の場合はそれが体面だったり責任だったりするだけで……代わりにかなり贅沢な生活を送る事も出来るしな」

「可愛い彼女も居ますしね」

「……そうだな。まあ彼女と言うよりは婚約者だけど」

「あれ、素直に肯定しますね。何時もなら無言で視線を逸らすのに」

「場所を考えてくれよ。俺にも体面があるってのは今言ったばかりだろ。下手にそういった話をして何処からか漏れるとそれだけで誰かが嫁を押し付けて来かねないんだ」

「あー大変ですね。あ、そういえばあの黒髪の巨乳の娘って紹介して貰えません?」

「黒髪の巨乳って……ミティの事か? あーすまん、流石にそれは厳しいな」

「ちぇっ……でもゼロさんも普通にこういった話も出来るんですね」

「俺の事をどう思ってるかは知らないけど、俺も普通に男だからな。まあダンジョンマスターになったからか知らないけどそっちの欲望はかなり薄いみたいだけど」

「へぇ……あー俺も彼女欲しいな」

「まあ成果を出せばモテる様になるだろ。現状だと根無し草のヒモ状態だから厳しいだろうが」

「うわ、厳しいお言葉で」

「まあ、お前たちに限っては理由が理由だから仕方が無いだろ」

「いや、まあそうですけどね……ヒモ扱いは勘弁して貰えません?」

「ならただ飯食らい? ……こっちの方がニュアンス的に合ってるな」

「どちらにしてもヒデェ!?」


 こんな風に軽口を聞ける相手すら少ないのが今の現状なのだ。俺にも立場があるから完全に心を開く事は無理だが、気安く話せる相手と言うのは貴重だ。この関係がどう未来に繋がるかは分からないが、そこまで悪いものでは無いと思いたい。


 ……いずれ、平和な時間は終わるだろう。各地に密偵を放ち情報を集めていると分かる。へステア王国の存在この世界で決して歓迎されていないと言う事が。

 新興勢力の台頭など他の勢力は望んではいないのだ。世界の資源リソースは有限、国が増えるという事はその資源リソースを奪い合う相手が増えた事と同義なのだ。既に敵対しているサンドニア王国は元より、他の勢力からも警戒されている。

 今はまだ、お互い情報不足だから表向きは平和を保っているが、それはもう何時決壊するか分からないような状況だ。だからこそ少しでも多くの戦力を集めないといけないのだが、その為の行動によって警戒が強まっていく。

 終わりの兆候は既に出始めている。戦争が始まってからでは所属の変更等は難しくなる。ヘラス族やミスト族などの嘆願以降も幾つかの部族がへステア王国へ亡命を求めた時点でそれは明白だ。


 薄情な事を言ってしまえば俺は身近な人たちだけ幸せなら十分に満足だ。だが、そのためにはその周囲の環境が平和で無ければならないのだ。

 人は一人では生きていけない。だからこそ人は集団をつくり社会をつくるのだ。そして王とはその社会を守る責任者のようなものである。理由はあれど自ら望んでなったからにはその責任だけは果たさなければならないだろう。

 今回のこれ(ダンジョン攻略)は言ってしまえば俺の我儘から始まった息抜きなのだ。色々理由をつけて正当化しているが、それでもわざわざ俺がやらなくてはいけない事ではない。

 要は忙しくなる前に一度思う存分暴れて、ストレスを発散しておきたかったのだ。……それでも危ない真似が出来ない様にと監視の意味合いも含めて映像化されて映し出されるのは少し思う所はあるが。


「さて、そろそろディアーネを叩き起こすか。俺《上司》を働かせて惰眠を貪る奴には追加の仕事が必要だろ」

「いや、身体は幼いんだからもう少し休ませてあげようぜ」

「その分大樹が働いてくれるなら構わないが……」

「……直ぐに起こしてきます」


 慌てた様子でディアーネを起こしにいった大樹を見て笑い。それから再び空を見上げる。空は既に明るくなり始めていて、そろそろ狩りを再開してもいい頃だ。俺が抜けてもいい時間は限られているので出来る限り長い間暴れ回りたい。頭を使うのも嫌いでは無いのだが偶には訓練以外でも身体を動かしたいのだ。

 寝ぼけ眼のディアーネが歩いて来たのを見て俺も立ち上がる。楽しい時間の再開だ。






「ディアーネ、足場!!」

「了解」


 見上げるような巨大なモンスター相手に走り寄りながらディアーネに援護を要求する。ディアーネはぼんやりとした視線で俺を眺めた後、障壁魔法を応用した足場を宙に形成していく。そしてそれを踏み台に空中へ駆け上がる。飛翔術の類だと上手く武器を振るうと言うよりは構えたまま突っ込むと言ったイメージが強いので俺としては足場を形成する方が性に合っているのだ。

 そしてそのまますれ違いざまに一閃、俺の数倍はあろうモンスターは首を斬られて崩れ落ちる。


 三階層、四階層と順調に攻略を重ね、今は十階層の攻略をしている。一階層目はこれから多くの人が挑戦する為にかなり細かく見て回ったが、三階層目以降は暫くの間は踏み入る事が出来る人は出ないだろうとかなり大雑把にしか見て回っていない。

 そして十階層目ともなれば、出会うモンスターはかなり強力なモンスターが多く、そもそも攻略出来るであろう人も殆どでないであろうとされている階層だ。

 騎士団の精鋭に属する様なメンバー、それがこの階層での最低基準になるのでそもそも一生かかっても届かない人の方が多い様なレベルの場所である。

 まあそれでも悲しい事に俺の防御《障壁魔法》を突破できるようなレベルでは無いのだが。俺の守りを突破できるのはそれこそドラゴンのような天災と称されるようなモンスターか、ディアーネのような上手く防御を無効化してしまう格上の魔法使い、もしくはクリストンのような達人クラスの技量の持ち主に名剣と呼ばれるような武器を持たせた場合くらいだろう。

 基本的に力押ししかしないモンスターであれば殆ど負けようが無い。だからこそ今回の件(ダンジョン攻略)を王と言う立ち場を持ちながらも許可されたのだ。


「なあ、俺帰っていい?」

「あと二時間程で終わりだからもう少し我慢してくれ、まだ少し暴れたりない」

「大樹は文句言わずに荷物持ちをしてればいい。ここのモンスターの素材には私も少し興味がある」


 流石にこの階層となると戦力外を言い渡された大樹が文句を言うが即座に俺とディアーネに却下された。俺は許された時間一杯ストレス発散をしたいから。ディアーネはこの階層のモンスターの素材は研究材料になるからという理由でだが。


「まあ、大半の素材は国庫に納めるがそれでも一割ぐらいは手元に残るからそれで我慢してくれ。一割とは言っても素材が素材だからかなりの値段が期待できるぞ?」

「……それって幾らくらい?」

「一軒家が買えるくらい?いや、今の素材が出回ってない状態だともっと行くかもな。まあ取りあえずは危険に見合うだけの金額は行くと考えてもいいだろうな」


 この階層にいるモンスターは数が少ない上に強力で市場に出回る事も少ないものが多いので値段としてはかなりのものが期待できるだろう。俺は運営する側なのでそこまで気にする必要は無いがいずれは独り立ちしないといけない大樹からすれば先立つ物はあるに越した事は無いだろう。

 武器なども本当に良いものを買おうとすると馬鹿みたいに値段が掛かる。俺が使っている剣も下手すれば億を超えるような値が付きかねない程だ。

 大樹は才能から考えて、生計を立てていくだけなら問題無いだろうが他との競争に打ち勝ち成功するとしたらお金はあるに越した事は無い筈だ。

 少しの思案の末に大人しく従う事にした大樹を連れ、俺は更に強力なモンスターが住む深層へ歩いて行くのであった。


「にしてもゼロさんはモンスターと戦う際、毎回首を落としに行きますけど、何か理由でもあるんですか?」

「単に、大抵の生物は首を落とせば確実に死ぬからだな。後は血抜きし易いってのもある。大樹も討伐者ハンターとして生計を立てるならなるべく素材に傷を付けない様に仕留める練習も必要になるぞ?」

「それに首って骨があるから斬り落とすのはかなり難しくないか?」

「それは武器の性能のお蔭だな。これって斬ろうと思えば鉄だって簡単に斬れるような切れ味をしてるからな」

「へぇ~、それって何処で買えるんだ?」

「悪いが非売品だ。それに売っていたとしても値段が凄い事になると思うぞ?」

「ちぇっ、ま、仕方が無いか。俺は地道にやるよ」

「まあ頑張れ……それとディアーネ、お前は何をやってる」


 大樹と会話する傍ら、ディアーネがしゃがみ込んで何かを小さな袋に入れているので声を掛ける。まあ大体理由は察しているのだが。


「……貴重な素材を見つけたから採集していた」

「へぇ、それにしては俺が激しく動いたりした後に採集する事が多いようだが?」

「事実無根、戦闘後に採集する事が多かったから勘違いしているだけ」

「なら、その髪の毛と思わしき物体は何だ?」

「先程のモンスターの体毛」

「さっきのモンスターの毛は茶色だったろ。今のは明らかに黒かったが?」


 と言うよりは完全に俺の髪の毛だ。理由に関しては言うまでも無く研究材料として……俺が渡さないから自ら確保する方向で動き始めたかた。

 直ぐに処分するように告げるがディア―ネは全力で抵抗され、最終的には俺が引き下がる事となってしまった。……大丈夫だよな。流石に髪の毛一本からクローンをつくったりは出来ないよな?


「はぁ、全く」

「えっと……お疲れ様です」

「そう思うなら大樹もディアーネを止めてくれよ……」


 こうして俺のダンジョン攻略は終わりを迎えた。ただ予想外だったのはこの映像が非常に大きな反響を呼び、何度も繰り返し上映される事となった事だろうか。

 大多数は娯楽や羨望の瞳で、また利に敏い商人たちはかなり本格的に利益を求めて動き始めた。手勢の人間を討伐者ハンターとして売り出す事を考えたり、有望そうな討伐者ハンター志望者に資金援助を約束し、代わりにモンスターの素材を融通するように契約を結んだりする者も出始めたっようだ。

 大樹もその手の勧誘を何度か受ける事になったようだが、余りのしつこさにうっかりと俺が支援している事を漏らしてしまうと言った一幕も起きてしまうのだがこの時の俺はまだ知る由も無かった。



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