第二十七話 プレオープン
王国議会は無事終わり、ヘラス族とミスト族はそれぞれ割り振られた土地へ帰って行った。これから彼らは居住環境の整備や周囲の安全確認など忙しい日々を送る事になるのだろう。基本的には狩猟民族である彼らがどのような都市を造るかは今後の楽しみの一つである。
また議会での会議中にゼスカにダンジョンへ挑む遠征部隊の結成の許可も出したので、領地ごとのダンジョン攻略の競争が始まる事も予想できるのでそれもまた面白そうだ。
特にヘラス族とミスト族など相手を目の敵にしている部族などはこれ幸いにと相手より上に立とうとすることが目に見えているので、競争もそれだけ激化する事が予測される。あのダンジョンは俺もそれなりに安全に対する配慮は行っているものの、それも絶対では無いので下手にのめり込まれ過ぎて多数の死傷者が出ない様には気を付けなければならないだろう。
ちなみにグランベル翁は既に攻略部隊を結成済みだったようで完全に許可待ち状態だったようである。自前の軍隊に経験を積ませる事と資金稼ぎを同時に果たせるとご満悦な様子であった。軍を動かすのにはお金が掛かるので、その費用を幾分かだけでも削減できるだけでもうれしい事なのだろう。
ダンジョン計画ではモンスターの素材の一部は常に国の方で買い取る仕組みとなっている。だから利用者が増えれば増える程国が儲かる。お互いに損の無い関係が築けそうで何よりだ。
そして三か月が過ぎ、ダンジョン計画の正式稼働が実装された。この期間はダンジョンへ立ち入り可能な人間の試験を行ったり、前もって準備していた専門機関の最終確認などに掛かりきりだった。ダンジョン計画における専門機関の名前は『討伐者ギルド』、この計画を知った沙紀ら学生組が面白がって付けた名前がそのまま採用された形となっている。
業務内容としてはダンジョンの管理や討伐者の資格等の名簿管理、モンスターの素材の買取・管理、相場の開示などが挙げられる。そして初代ギルドマスターにはノートンを据えることにした。所属としては都市エルランドとなっているが、彼は知的好奇心で行動するので満足の行く環境に置いて置けば裏切る可能性は限りなく低いと判断しての人選である。元々能力としてはかなりのものなので実力に関しても心配はしていない。
「てか、何で俺も……」
「視線が鬱陶しい。帰っちゃダメ?」
「大樹はいい経験になると思ったからな。それとディアーネに関しては拒否権自体が無い」
そしてダンジョン公開当日。俺は武装した状態でダンジョン前で軽い説明等を行った後、軽い攻略の実演を行う事にした。言葉だけの説明では実感が湧かない。なので一度見て貰った実際の雰囲気を掴んで貰おうという考えである。
そして実演を行うのは俺、大樹、ディアーネと言う普段あまり関りが無い三人組である。俺が参加したのは何故か知らないが俺が戦ってる様子を見たいという嘆願が多かったため、人気取りの意味合いも含めての参加だ。まあ偶にはストレス発散をしたいという気持ちも無くは無いが……
二人を選んだ理由は単純に変に気を遣う必要が無い相手だからだ。ディアーネも大樹も俺に対して変に敬ったりはしない。最近だと大分慣れて来はしたものの、明らかに年上の人達に謙った態度を取られるとどうにもやりにくさを感じてしまうのだ。
まあ大樹に限っていて無理にでも理由をつくるのであれば出来るだけ多くの種族が活躍できることを示す為とでもしておくか。つい一月ほど前まで一般人であった大樹ならある意味らしいだろう。魔力量で言うならば人族でもかなり上位クラスだが戦闘慣れしていない。初心者丸出しの動きで戦うさまはこの職種への希望を持たせるのに十分だろう。そもそも希望者が多すぎる現状で必要かと言われたら否だが。
「俺は二人に比べればかなり普通だが出来る限り頑張らせて貰うよ」
「仕事だからやる。……帰りたい」
大樹の方は兎も角、ディアーネのはやる気のない様子だったが。俺達はダンジョンへの入り口へ足を運び一階層へ転送された。
「うわ、こうして見ると本物の森みたいだな」
「半径五百メートルには強力な魔力反応なし。もしかしてここの敵って弱い?」
「一階層だからな。この層に求めているのは戦いに慣れる事と、サバイバル知識、後は伸びしろが無さそうな人間に諦めさせる事だ」
「諦めさせるって……あんまり聞こえはしないな」
「それはそうだ。だが討伐者だけで街は回らないし、適性が無い人間が無理に戦おうとしても命を落とすだけだ」
巨大なモンスター相手に華々しく戦う姿に憧れる気持ちは分かるが。現実として戦いに向かない人種と言うのは存在する。武器を扱う才能が無いか、魔法への適性が無いか、もしくはその両方かそんな人間を戦わせて無意味に死なせるわけにはいかないだろう。
ダンジョン計画は立案当初からその危険性が考えられていた。モンスター相手に戦うのだそれは当然だ。正しい自己評価をできずに格上に挑み命を落とす。それは自業自得だ。だが自業自得としても管理する側としてはその可能性を落とす事は義務だろう。
そういった意味で一階層では大したモンスターは出て来ない。精々が普通の動物と同程度、それにすら勝てない様ならそもそも向いていなかったのだと諦めて貰うしかない。
「口では色々言うけどゼロは心配性。こんなマジックアイテムを配るなんて利益を放棄しているとしか思えない」
「これくれいなら必要経費だ。死人を出すよりは大分マシだろう」
「これを無料で配布すると利益が出るのは半年後だって聞いた」
「お前、無口かそうでないかハッキリしてくれない?」
「ははは……」
下手に死人を出すわけにはいかない以上仕方が無いだろう。それに無料で配布するのは最初の一年だけ、適性が無さそうな人間を選別する為にも必要なんだ。
「っと、居たな」
「えっとあれって羊?」
「眠羊、大人しい気性のモンスターだけどアレを狩ればいいの?」
「まあな、だが最初は大樹に任せよう」
「お、俺?」
「ああ、剣は習ってるみたいだけど何か生き物を狩るのは始めてだろ? 討伐者として生計を立てるには最低限これくれいは出来ないと」
「あ、ああ……分かった」
そう言われて覚悟を決めたのか武器を握り閉めーー握りが固くなってるな、まあアレが相手なら大丈夫だろーー斬りかかった。
ザシュ……背後から足を斬られて初めて敵対者に気付いた眠羊は逃げ出そうとする。が、それなりに深く足を損傷したらしく上手く逃げ出す事はでそうにない。その結果への不満か、それとも生物を斬りつけた事に対してか、大樹は顔を歪めるが再び接近し……止めを刺した。
「大丈夫か?」
「ああうん、思った以上にキツイ……」
「だがこの職を選んだ以上は慣れるしかないな。……後悔はあるか?」
「少し……でも頑張ってみるよ」
「ならいい」
ある程度大きな生物を殺すのに躊躇があるとは思ったが……大丈夫そうだな。やっぱり大樹は強い。しっかりと罪悪感を感じた上でこの道を選んだのだから。俺みたいに大量虐殺を行ったとしても何の罪悪感も抱かない人間とは違う。
「終わったの? ならさっさと行こうよ」
「その前に死体を回収してからだ。大樹、頼んだ」
「また俺かよ……」
マジックバックを渡すと大樹はブツブツ文句を言いながらもそれに入れる。いいだろ、俺は死体に触りたくは無いんだから。
大樹が眠羊の足を掴んで持ち上げ、それを魔法鞄の中に入れていく。結構高度な魔法が掛かってる割には大量にあるんだよな、これ。便利だからか?
その後は俺も参戦したが、一階層の相手では敵を見つけては即座に全滅させてしまうので少し不完全燃焼だ。最近の訓練では騎士団の人間数人を相手に立ち回るようになっているので、非好戦的なモンスターなど全くもって脅威に値しない。
だがそれでもデモンストレーションであるので、出来るだけ多くの区間を回りながらそれぞれの環境や出てくるモンスターを紹介するのようにして移動していく。区画ごとにそれなりに距離があるので何度も転移を重ねるが……外から見える様子だと音声は入れない様に頼んだが何て解説されているのだろうか?
流石に全ての区画を回ったら一日ではとても足りないので時期を見て二階層目へ移動する。二階層目からある程度敵対行動を取るモンスターが出るのだが……
「弱いな……」
「同感、でも出会ったら逃げ出されないだけ少しマシ?」
「いや、俺にも戦わせてよ」
魔法で索敵し視界に入ったら瞬殺と言うのを繰り返していたら大樹から文句が出た。いや、まあディアーネが直ぐに殺すから少し対抗心が湧いて……
流石にこれでは大樹の訓練にならないからと、ディアーネには索敵に回って貰って、今度は接近戦で戦う事にする。
「っと」
襲い掛かって来たモンスターの突進を避け、そのまま首元に一線、それだけで猪型のモンスターの首が落ちる。
「……今夜は久しぶりに鍋にでもするか」
「牡丹汁おいしい」
「いや、だから俺にも戦わせてよ!!」
「あ、すまん。俺の方に突っ込んで来たから。それにほら、また来たから今度はそっちと戦ってくれ」
「いやそれならいいんだが……ってマジか!!」
再び襲い掛かる猪型のモンスターの突進を大樹が必死の表情で剣を構えて防ぐ。そいつ相手に正面から防ぐのは……もう遅いか。
負傷したらしい大樹を見て、助けが必要だと判断し再び首を飛ばす。やっぱりこれが一番手っ取り早いな。
「痛てて……しくったな」
「負傷したのか。怪我の具合は?」
「足を捻ったのと……剣が折れた」
「後で弁償しろよ……それと今治療すから少し動くな」
足の様子を確認し治癒魔法を掛けて新しい剣を渡す。特殊な能力は無いがそれなりに質がいい武器だったんだがな……まあ初の実戦だし仕方が無いか。
だが怪我の治療を行っている間周囲の索敵を頼んでいたディアーネが此方に警告してくる。
「何体か近寄ってくる。これは狼?」
「らしいな。少し休憩したいし早めに終わらすか」
当然獣に毛が生えた程度のモンスターに負ける訳も無く。早々に全滅させる。獣型のモンスターは衣類や食用など使い道が多い為採用頻度が高くなりやすい。逆に昆虫系は基本的に強力なモンスターが多く使える素材の使い道しかないので、三階層以降の一部区画にしかいないかったりもする。
だが強さと素材の値段が常に釣り合っているとは言えないのがダンジョンを造る上の悩みどころだ。稀少だから値段が高いといったモンスターも当然だが存在し、そんなモンスターでも大量に生み出す事が出来てしまうので配置する場所に悩んでしまうのだ。贅沢な悩みだとは思うが、そういったモンスターを強さ相応の所に配置すると上の層へ上る必要性が無くなってしまうし、他のモンスターに駆逐されてしまう可能性もある。現状はその殆どは別のダンジョンで管理する形で対処しているのだが、いずれはこれらのモンスターも上手く配置していきたい。
と、そんな現実逃避気味の悩みはおいておいて今は大樹をどうにかしないと。
「……はぁ」
「大丈夫か?」
「一応、ただ俺の失態が移りまくった映像が流れてると考えると……」
「ああ、だが下手に難易度が低いと思われるのもどうかと思ってな」
「……もしかしてわざとです?」
「いや? まあ多少苦戦して欲しいとは思ったが特に何も設定を弄ってはしていないな。それと比べる相手が悪いだけだと思うがな。一応俺もそれなりに強い方だし、ディアーネの方も準英雄と言っていい程の強さは持ってるし」
「準英雄ってどの位なんですか? 名前からして強そうな感じはしてますけど」
「戦争で一人突っ込ませればその場所で戦術的な拮抗が見込める程度だな。ガチで英雄と呼ばれるような奴らにくらべれば十分良心的だな」
情報を集めるとマジでヤバいからなあいつ等。敵軍へ一人突っ込んで壊滅させたと言った話や、誰にも気付かれずに将軍の首を落としたという話とかが普通にあるからな。この話の怖い所は何の誇張も無いという事だ、本気でこの世界の個人の戦闘能力は狂ってる。……俺が言えた話でも無いか。やろうと思えば魔法一発で数百人殺すのも簡単だし時間を掛ければもっと行けるからな。それに俺の能力は戦略級だ。DPが尽きるまで物資と兵士を無限供給って、我ながら戦争では理不尽過ぎる能力である。
「ディアーネは大丈夫か?」
「疲れたもう帰りたい」
「お前、ちょくちょく魔法を自分に掛けて回復してただろ。しかも移動も魔法でやってるし、お前が飲んでるポーションは経費では落ちないからな」
「鬼、悪魔、ダンジョンマスター」
「悪いがダンジョンマスターは事実だ。後それどこで教わった?」
「沙紀から」
「あいつは変なネタ仕込むなよ……」
まあいい。
「そろそろ移動を開始しよう。出来れば今日中に三層目まで攻略したいからな」
「もう夕方だよ、帰らないの?」
「野営に関しても説明したいから今日は泊まりだ」
「ええ~」
「ほら、お前の見張りの分量は減らしてやるから我慢しろ」
「児童虐待反対!!」
「児童って年でも無いだろ300歳」
「女性に年を聞くのは良くないよ?」
「お前、どれだけ仕込まれたんだよ……」




