第二十五話 部族会議
「では第三回へステア王国議会を開催する。今回の会議からは新たな仲間としてヘラス族のフィリップ、ミスト族クラリスの両名を迎える事となった。思う所がある人も居るかもしれないが快く受け入れて欲しい」
ヘラス族とミスト族、彼らを迎え入れてから初めてのへステア王国議会が開かれた。この会議では国家としての方針の決定や部族間による問題の解決、法の採決など非常に大きな問題を取り扱っている機関である。三権分立で言う所の立法権にあたり、一定以上の規模の都市の長か各種族の代表者のみしか参加する事が出来ない場である。
だが参加者僅か数名と言えど独裁とな程遠いい会議である事は確かだ。こうして集まっている人間の殆どは元領主や族長の親縁者、自らの種族や部族の発展を優先する人間なので本質的にはお互い競争相手、出し抜くべき相手であり、それでいてダンジョンマスターの能力の恩恵を受け続ける為に酷く国益を損ねる真似は難しくなっているからだ。
万が一この議会で行動に問題ありと判断されるようならその人が持つアンダーコアはその効力を失う。ここに来るような人間に渡すダンジョンコアは軍隊などに配備しようとしているそれに比べて特別製、かなりの権限が解放されているものでその能力が失われるのはかなり厳しい処罰となるだろう。少なくとも他の人間にその地位を追われる事だけは確かだろう。
都市を統べる者としては交通路の整備や、それぞれの都市を移動する行商人などを上手く引き寄せる事が発展に繋がる。その為の準備を一瞬で終わらすことが出来るアンダーコアの恩恵は計り知れない。
それに各ダンジョンコアに振り込まれるDPは、人口数や発展具合、治安の良さなどを総合的に評価して振り込むようになっているのだから善政を敷く事も恩恵を増やすのに必要とされるのだ。
人の善意を信用するよりは組織の構造として望んだ方向に進むようにしたほうが上手く行くと考えているので、色々試行錯誤しながら辿り着いた答えがこれだ。民主制とは言えない半立憲君主制とも言うべき政治形態。半と付けたのはダンジョンコアは俺の一存で機能を停止する事ができるからだ。基本的な権限は立法権側に委任しつつも根っことの所で権利を手放して居ない。そもそも俺自身が会議に参加している時点でそもそも立憲君主制とは言い難いだろう。
そんな重要な機関であるこの議会だが、新顔であっても割と簡単に参加する事が出来たりもする。参加条件が都市の長か種族の代表なので国への所属年数などは特に関係していないからだ。だが意見を通したいとなると並大抵の事では難しい。
内容にもよるが意見が承認されるには最低でも全体の三分の一の賛成意見が必要となるからだ。ここで言う三分の一とは人数では無くそれぞれに与えられた票数の三分の一、人数では無い。だから意見を通そうとすれば全員の動向や力関係を把握し上手く協力してくれる相手を作らなければならない。
全体の利益になるような提案なら何の問題も無く受け入れるのだが、誰かの不利にしたり、陥れたりしよう案なら何処かしらから邪魔が入り通らない事が殆どだ。それに全員に能力を貸し出している事から無駄に高い発言力を誇る俺の存在もある。今まではそこまで無理に反対する必要のある提案もなされてはなかったがいざとなれば俺が反対側に回る事でその意見を通しにくくすることも可能なのだ。
まあこのように俺と言う個人の意思が非常に反映され易いという時点で国家としての未熟さが露呈されてしまっているのだが、そもそも個人の能力に頼り切っている都合上これは仕方が無い事なのだろう。
現在のメンバーは総議長、へステア王国の国王の俺、吸血鬼と都市エルランドを兼任しての代表者としてグランベル翁、妖精族と『妖精の遊び場』を兼任しての代表フェスカ、人族代表クルト、それと今回初参加となるヘラス族代表のフィリップとミスト族代表のクラリスの計六名のとなっている。
一応これからの二人の前にへステア王国へ亡命を希望した種族もこの議会に加わる予定だったのだが、そちらの方は現在は内輪もめを起こして正式な代表者が決まらなかった様なので今回の参加は見送る事となった。どうも交渉の席で俺に一方的にやり込められた事が種族の内部で広まってしまったらしく、そんな人物は長に相応しくは無いのではないかという意見が出ている様である。議会への出席条件は出自に関係なく種族内で自由に決めてよい事になっているのでここに来て、長の身内と言うだけで人望が無かった前任者を排斥する動きが生まれたのかも知れない。
とは言え深くは干渉したりはしない。周りに被害がでるようなら鎮圧するが、そうでなければそれはその種族の問題だ。彼らを纏め上げる立場ではあっても内部での抗争までは面倒見切れない。しばらく決まらないようならこちらで一方的に決めさせてもらうがそれまでは知らん。
「まず二人にはこれを渡しておこうか。アンダーコア、俺の能力の一端を使える様にするマジックアイテムの一種だ。使い方は後で説明するから取りあえず受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
「ありがたくいただこう」
頭を下げて俺からアンダーコア態度で受け取る二人を尻目に周囲の反応を見渡す。やはり一番油断できないのはグランベル翁、二人をみて面白そうに口元を歪めている事から碌な事を企んではいないな。緊張しっぱなしのクルトと終始笑顔なフェスカは今まで通り、まあこの辺はいいだろ。
「ヘラス族とミスト族、彼らはそれぞれ独立した地に住処を作って貰うつもりだ。先に送り届けた法は守って貰うがそれ以外は好きに決まりを作って貰っても構わない」
各都市はそれぞれ独自のルールを作る事が可能である。その決め方も全て自由だ。前提として国で決められた法律を守る事が求められるが。日本で言う法律と条例の関係に近いだろう。法律の範囲内で好きにルールを決めていい。としているのだ。まあ不満が多ければ今の代表が挿げ替えられる事になるだろうが。
顔合わせが住んだところで話は議題に移る。今回の主目的は二人との顔合わせだがそれを除いてもそれぞれ国に対して何らかの大きな影響力を持った人物がこうして一堂に会するのだ。自領の発展の為に交渉を行う人物が出るのも当然の流れである。
「ふむ、ふたりともまだ色々と大変だろう。よければ私が力を貸そうか?」
「あ、いや……」
「すまないが……断らせて貰えないか」
そしてそうなると最初の動くのは最もその手の交渉に慣れているであろうグランベル翁である。政治的な能力に置いてこの場で最も高くこういった場にも非常に手慣れている。手早く二人に接触して援助と言う名の影響力の拡大の為動き始めた。
それに対してあまり乗り気でない様子の二人だがしばらく会話をしている内に気が付いたら僅かだがグランベル翁の援助を受け入れる話の流れとなっているのは流石だろう。
自らの目的を果たしたグランベル翁は満足そうな表情をして、今度はフェスカの方に話しかける。妖精族と吸血鬼は元々繋がりがあるので簡単なやりとりをした後直ぐに打ち解け、ほぼ無償に近い形での協力してもらう約束を取り付けていったりもしている。ほんと、やりたい放題だな。
「なあ、俺ってあの人とやり合わないといけないのか」
「そうなるな。……まああの人は別格だから頑張れ」
「マジか……」
その光景を目の当たりにして危機感を覚えたらしいのがクルトだ。クルトもそれなりに頭は回る方だがグランベル翁を相手にするのは流石に荷が重い。何せ知識量も経験も何もかもが負けているのだから。
とは言え、人族の代表となっているが実質的に何の権限も持っていないクルトでは特に話さなければならない内容も今は存在しないだろう。一応この場は種族間、部族間で話が拗れた時の調停の場でもあるのでクルトがグランベル翁とやり合う事となるにはまだ猶予期間がある。それまでの間に力を蓄えていくしかないだろう。
「クルトも今の内に仲良くなれそうな相手とは仲良くなっておいたほうがいいだろうな。それと補佐官を何人か連れられるだろ? そっちに特定の分野で優秀な人間を集めて意見を聞けるようにしておけば大分マシになる筈だ」
「なるほど……それで俺は最終的な判断ができるようになればいいって事なのか」
「全て自分で出来るのが理想だがそれは難しいからな。クルトの場合はそれに加えてどうすればみんなの為になるかを考えればそう悪い事にはならないだろう」
とは言え、そんな綺麗ごとだけで上手く行く程現実は優しくは無いのだが。
「面白そうな話をしているな。それはゼロ様の自論かな?」
「一応は、とは言っても影響を受けている書物も多いから他の引用と言われても否定する事はできないがな」
「どういった経緯を経たとは言え、自分で考え出して得た結論なら自論と言っても構わないだろう。それでダンジョン計画の方は順調かな?」
「グランベル翁が人材を送ってくれたお蔭でそれなりに順調だな。ただ求める水準となる討伐者の存在やそれを取り纏める役所などについて、人手不足な事は否定できないな」
「ふむ……分かった。こちらからも何人か人を送ろう。ただこちらも色々と大変な時期だから遅れるのは文官が中心になるが構わないか?」
「大助かりだ。あれを公表して以来ガンガニア王国からの追及が酷くてな。是非とも自国にも同じものを作って欲しいのだとか、利に敏いのはいい事だと思うがへステア王国国内での管理制度さえ碌に終わっていないにに他国の面倒までみれないさ」
それに相手にこちらの交易品の生産場を渡してやる必要も無いしな。
現状は良好な関係を築けているガンガニア王国だが、それは前提としてその関係がお互い利となるからだ。彼方はモンスターの素材が欲しい。此方は国として認められるための後ろ盾が欲しい。そういった利害関係の一致しているからこその関係。金の切れ目が縁の切れ目では無いが、自国でそれらの素材が生産可能となればその優位性を自ら占有するために自らが率先してこの国に攻め入る事も考えられる。
だからこそ、ガンガニア王国にダンジョンを造ると言う事は百害あって一利ない事だと考えられる。それなのに、いや、だからこそと言うべきか、ガンガニア王国は多くの条件を飲んででもそれが欲しいのだろうが。……だが条件としてへステア王国の国家予算を上回る金額を提示された時は流石に驚いた。まあ、断ったが。どんな金額でも代償が国家の破滅なら受ける意味が無いからな。
「そうか、ならば此方の方にも造って欲しい。と言うのも流石に無理か」
「そうだな。だが経済効果を考えるといずれは造りたい。今回の計画を第一案として次に計画するときの参考にするべきだろう」
「それならば第二の計画の地としては、何処を考えているのか聞いても構わないかな?」
「ある程度発展している事を前提として……国家として最も利益に繋がる地だろうな」
まあ十中八九グランベル翁が治めるエルランドが選ばれるだろうな。彼の政治手腕は正直俺とは比べ物にならない程高い。彼ならば周囲との関係を上手く調整しながら計画を成功させてくれるだろうという信頼がある。
俺のようにダンジョン計画が受け入れられ過ぎた結果、その対処が間に合わなくなるような下手はやらかさないだろう。
と言うのもダンジョン計画を受け入れてもらう為に行ったヘラス族とミスト族の対立を利用して行ったあの催しが予想以上に受けが良かった。良すぎたのだ。普通はモンスターとの戦闘など見る事は叶わない。それをダンジョンと言う普通はあり得ない環境とディアーネの魔法の二つが合わさる事で実現してしまったのだ。
富裕層でない人間が娯楽へあまり慣れていない事もあったのだろう。結果としてダンジョンは多くの住民から受け入れられるという結果に繋がったのだが、受け入れられ過ぎた結果、混乱を招く事にもつながってしまったのだ。
まあその混乱の内容はどうやったら討伐者になれるかの問い合わせであったり、また似たような催しをやってくれないかという嘆願であったりが問題が無いと言えば無いのだが、見通しが甘かったという点では反省すべき事も多い。
それに欺瞞情報も流れているのも気になるしな。何だよ、次は俺が主演で第二弾をやってくれるいうのは、普通に考えたら立場上あり得ないだろうに……いや、基本力押ししかしないモンスターの攻撃は俺の防御を抜けないだろうから負けないだろうが。新しく従属を誓った人間にも分かり易い力を示して裏切りの可能性を減らすのは悪く無い考えだろう。今度周りに相談してみるか?
「それは面白そうな試みだな。やるとしたら是非私も見学させて貰う事にするよ」
「……人の心を読まないで欲しいんだが」
「ハハハ、別に心なんて読めないさ。こんなのはただの経験と技術によるものに過ぎないよ。今回のだって会話の反応が少し遅れている事から何か考えていると判断し、話の流れから内容を予測しただけさ」
どんな超人技だよ。俺は割と考えが表情に出ない方なのだが、そんな方法で考えが当てられてしまうのなら、交渉事で勝てる気がしないな?
まあ今は味方だからいいが、敵だと考えたらゾッとしないな。




