第二十二話 二つの部族②
今回は少し短いです。
「この手の問題は長年の因縁や恨みなどが複雑に入り組んでいるから解決するのは難しいと思うわ?」
「分かってる。だからそれは一旦棚上げにして、どう対処するのが無難かを考えてるんだが……」
「相手の返事待ちって事ね。そしてどうせ拗れるでしょうから、あらかじめ対応を考えようとしたのかしら?」
「そう言う事だ」
ミスト族とヘラス族、両部族への対応に困った俺はまずノワールに相談する事にした。情けないが政治的な能力で俺はノワールに劣っている。これらは経験や適性の問題で無能という訳では無いが俺一人で考えるよりは相談した方が上手く行く事が経験上証明されてしまっているのだ。
「取りあえずゼロの印象を聞かせて貰える? 私は書面でのやりとりだけで実際に会った事は無いから」
「そうだな。まず、お互いに対立している事は確かだと思う。隙あらば出し抜いてやろうと言った意志は感じたし、ヘラス族の方は多少の小細工も辞さない感じはしたな。ミスト族の方はどちらかと言えばブ人気質と言うか、そういった裏工作は苦手そうな感じだ。話して見た感じだと二人とも理解能力もそれなりにあるようだったし、感情に任せてそこまで短慮な行動はしないと思うな」
どちらかと言えばクラリスは直情的で武人気質、フィリップはそれに多少陰湿さを混ぜた様な感じだ。共に族長の子を名乗るだけあって理解能力はそれなり、両部族とも他者からの略奪も辞さないと言う行動は蛮族に近い様な感じはするが組織内での統率はそれなりに取れているのだろう。
「私が聞いた限りだともっと粗暴な印象を受けていたのだけど、実際にはそんな感じなのね。まあ王宮での噂話なんて信憑性が薄いから今更だけど……」
「そうだったのか? まあ粗暴な面があるのは否定できないが、どちらかと言えば好戦的と言った方が正しい気がするな」
「好戦的ね……それを下に見るような言葉として粗暴と言ってたのね」
「みたいだな。とは言えどうするか……」
「こう言った問題に正解なんてないのだから、ゼロのやりたいようにやれば? 多分だけど何を選んだとしても一筋縄にはいきそうにはないもの」
「まぁ、そうだよなぁ……」
さて、どうなる事か。
数日後、二度目の会談は執り行われた。この数日間は街を離れていた間に溜まっていた資料に目を通したりしている内に瞬く間に過ぎてしまい、碌に結論がまま数日間無為に過ごしてしまったのだ。
一応最低限の情報収集と方針の決定、各種族の代表者に声を掛けて各々の意見を聞いたりなどはしていたのだが、それでもまだ結論は出ていない。
ミスト族とヘラス族、どちらを受け入れるにしても同じくらいのメリットとデメリットが存在し、また片方を受け入れることによってもう片方と敵対する事が簡単に予想できてしまうからだ。
戦力差から考えて正面切っての対立される可能性は低いが、それでも潜在的な敵が生まれる事に違いない。正面切って戦えばまず負けないのだが、交易の妨害や水面下の工作に走られたりするだけでも十分に厄介だ。
そのデメリットは片方を受け入れるメリットだけではとてもでないが釣り合わない。だが国家として難民や移民などは積極的に受け入れる方針を取っているので簡単に断る事も出来ないのだ。
ダンジョン王国とも呼ぶべきへステア王国が国力を増す手っ取り早い方法は国内の人口を増やす事だ。そして人口を増やす手段は移民の受け入れや、出産などにのみ限られている。後者に関してはかなり時間を掛けてなければならない事を考えるとやはり、人口を増やすには移民の受け入れが基本となるだろう。
だが、他国への移民と言うのはかなりの覚悟が必要となる。多少生活が厳しいくらいでは足りない。国を捨てなければ生きていけない。もしくは今回のような生き残る為に部族全体で決めた方針でも無ければ中々実行にうつされることは無いのだ。
現在も各地で行われる争いに乗じて上手く情報を拡散し、被害を受けた農民などに移民を促す事によってそれを補っているのだが、それでもまだまだ足りてはいないのだ。
だから一度でも断ると、それを敵対勢力に悪意を持って噂を流されたりするとたちまち勧誘が難しくなる。へステア王国は移民を飢えさせずに全て受け入れることによって流れを作りだし、更なる移民を引き込んでいるのだ
だからこそ理由も無く移民を断るような真似は極力避けたいのだが……
「……先に我々の方針から言わさせて貰おう。我らはへステア王国への恭順を望む。しかしミスト族とは相容れぬ」
「此方もそれは同じだ。へステア王国への恭順を望んで居るが、ヘラス族との共存は御免被る」
お互い微妙に視線を合わせないまま告げられた内容に、俺は内心この場から立ち去りたい衝動に駆られる。部族間の争いと言う根本的な解決が望めない問題に立ち会わされ、結論を求められる事の何と面倒な事か。しかも断った方からは恨まれる可能性が高いと言う。
為政者として恨まれるのも仕事の内だが、ここまで理不尽な二択と言うのもはそうそうないだろう。
両者の細かい条件を聞き出していくが、片方がもう一方に対抗して次々と条件を引き下げてくる。交渉役としては楽でいいが、彼らに取ってこれは受け入れられる事によってもう片方を滅ぼせると考えているので素直には喜べない。両者とも自らの最低限の権利ともう一方の滅亡はしっかりと条件に入れてるしな。
もう俺を巻き込まない所で勝手に殺し合いでもしていろと思うが、彼らが移民の希望を引き下げない限り彼らは客人である。そして相手に対しての罵倒は辞めなくても俺に対して利用しようという意思は感じても最低限のマナーは守っているので今一糾弾もし辛い。
いっそ適当な交渉担当の人間に任せられたならとも思うが、こういった大きな物事を決める際の交渉時に代役を立てる事は侮られている事とも捉えかれられないからそれはできない。俺が出る事で相手の事を真剣に考えて居る事を示すことができるのだからだ。
「……ここまでだな。次はまた後日、今日の結果を互いに持ち帰ってから話し合う事にしようか」
数時間もの間続いた会談は結論がでないまま終わりを告げた。長年の争いはお互いに埋めようのない確執を生み出しているのだ。簡単に解決するとは思って居ないが、このままだと中々終わりそうには無いな……
いっその事、強権を発揮して無理矢理決断してしまおうか? 現状だとお互いにいがみ合った結果、お互い損をするばかりだ。彼らが自爆してしまう前に俺が分かり易い決着方法を提案するのも一つの手だろう。
二人とも相手を意識しすぎて引くに引けない状況になっているだけで、本来ならもっと有利な条件で交渉に望もうとしていた筈だ。それに下手にここで毟り取るよりは恩を売って今後も協力を望めるようにしておいた方が後に繋がる。
もしも彼らを受け入れるとすれば、彼らもへステア王国の勢力下に入るのだから弱体化させすぎてもあまり意味が無いからな。
とは言え提案するとしたら次の会談の時だな。思い付きだから計画に穴が無いか確かめないといけないし、具体的な内容もこれから決めなければいけないしな。




