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第二十一話 二つの部族①


「一応気付いてはいたのですね……」

「いや、正直好意を持たれてるかくらいにしか思っては居なかった。ハンナが焚き付けた事から何かしらの理由があると思って確認に来たんだが……マジか」

「まあ、私としては警告しておくのが目的でしたので。もう目的は達してますけどね。ゼロ様でしたら警告さえしておけば悪い事にはならないと思いましたので」

「……それは信頼として受け取っておくよ」

「そうですね。まあ偶に胸の方に視線さえ行っていなければ警告も必要無いと思えたんですけど」

「………………」


 ノワールを焚き付けた理由を確認してみれば案の定ミティの事だった。俺としては『かもしれない』程度の認識だったのだがどうやらあたりらしい。

 ハンナとしてはこれを機に少しでもノワールに危機感を持ってほしかったみたいだが、肝心のノワールは気が付いてすらいない。恋愛こっち方面のノワールの鈍感さは俺ですら呆れるくらいなので仕方が無いのかもしれないが。


「良くも悪くも人の悪い点ばかり見過ぎてしまった弊害ですかね。理由が存在しない単純な好意と言ったものを理解し切れていないのかもしれません。基本的に自分の事ですと上手く感情と現実に折り合いをつけてしまうのでそれを他者にも無意識に求めているのかもしれません。後は単純に色ボケしたか……」

「最後は普通に貶してるよな……まあ、確かにそう言う事はあるかもしれないが」

「裏が無い会話の方が少なかったくらいですから、幼い時から大人にならざるを得なかったのが原因ですね。無駄に素質があった事も合わさって、早々に大人びた対応を身に着けて……精神の一部が未だに育ち切っていないのかもしれませんね。昔の事ですけど『誰と結婚したい』と質問したときに『それはお父様が決める事でしょ』とか答えていたくらいですし……まあ、逆にそんな性格をしていたからこそ、誰が相手でも夫婦関係が長く行くわけが無いと思われてこれまで放置され続けていたのですが……」

「……まあ能力がある上に、簡単に引き下がるような性格はしていないしな。下手に相手のプライドが高かったりすると拗れる事は目に見えてるし」

「綺麗ではありましたけど、可愛げとは無縁の性格でしたからね……最近は感情に振り回されてポンコツ化しましたけど……まあこれはこれで人らしくなったともとれるのでいいですけど」


 どこか慈しむような視線でハンナは宙を見上げた。幼馴染とは聞いているがこうしてみると妹の成長を喜ぶ姉と言った感じだろうか。

 その後は二、三言話した後に頼んでおいた資料を渡してからハンナは立ち去った。俺もそれに苦笑を浮かべた後資料を捲り始めるのだった。




「有意義な時間だったよ。今後は是非とも手をとり合って国の発展に協力していこう」

「あ、ありがとうございます……」


 ノワールが時間稼ぎの意図を含めて行われた祭りは盛況のまま終わりを迎えた。その際生まれた仕事の量を見せられた時は少し顔が引き攣ってしまったがまあ、それはどうでもいいか。

 仕事の後始末と交渉の準備に数日の時間を経て俺は帰属を求める種族との会談を行った。多くの条件を飲ませる事に成功するのだった。

 彼らの望みはへステア王国に自らの生存圏を作る事だ。彼らはもしもオスカ連邦が滅びた際にそのまま種族が落ち延びる場所としての価値をへステア王国へ望んで居るのである。


 だからこそ、彼らは俺の要求を断る事は難しい。言ってしまえば彼らは俺に頼み込んでいる立場なのだ。身分の差があり、戦力の差がある。その差を埋めるための小細工も練って来ていたが、それはノワールに潰され、真っ向から真っ当な手段で俺から権利を勝ち取らなくならなくなったのが彼らの現状だったのだ。

 彼らもそれなりに頑張ってはいたが手札が違い過ぎる。条件を勝ち取らなければならない立場の彼らには差し出す事が出来る対価を持ち合わせてはいなかったのだから。

 実際小細工が成功していたとしても、それは変わらなかっただろう。彼らは俺から課せられた条件をこの国に所属できるメリットを下回らない限りすべて引き受けなければならないのだ。

 とは言え彼らを無駄に弱体化させても意味は無いのでその辺の配慮は色々と必要だ。各種族間の長が集め議会を開く事で国としての方向性を定めていくという仕組みを取っている以上、発言力が皆無の人間を生み出すのは組織としての意義に反するし。


 まあ今回の会談の主な目的は良からぬことを企まない様に徹底的に牙を折らせて貰った。飲ませた条件自体は多いが、内容的には彼らに大して負担を強いるようなものではない。どちらか言えば一方的に条件を飲まされたという事実、上下関係をハッキリさせることが今回の会談で最も重要な事だったのだ。彼らも気が弱いと言うか、強者に対して強気に出れない気質なようなのでそれもスムーズに終わってしまったが。


 そして最後の交渉相手がやってくる。資料を身か限り、最も厄介であろう相手だ。ここで言う厄介とは敵が厄介と言うよりは交渉が難航しそうとかそういった意味でのものだが……


「お前がこの国の長か」

「この女……私達の方が先だ、とっとと後ろへ下がれ」

「気に入らないな。なぜお前達の言葉など聞き入れなければならない」


 部屋に入って早々に喧嘩腰の二人を見て内心ため息を吐きい気持ちにさせられる。


「お前ら……一人ずつ来るように伝えてあった筈だが?」

「……この男を先に行かせる訳には行かないだろう。何を吹き込まれるか分かったものじゃない」

「……黙れくそ女、物殺すぞ」

「やるか? 殺ぬ事になるのはお前だぞ?」


 男が小さく呟いた言葉に反応し女が腰にある鉈のような武器に手を掛けた。男はそれに嘲るような視線を向けてから、俺の方に視線を向け、これは正当防衛だとアピールした後応戦の構えを取る。……本当にやらかしてくれるな。

 分かり易くため息一つ、そしてこの場を抑える為に全力で魔力を解放し彼らを威圧する。


「お前ら……死ぬか?」

「「っっ!!」」


 警戒するように距離とる彼らを見て俺は魔力を抑えていく。強い警戒心を含んだ視線を向けられるが気にしない。そもそもこんな場所で喧嘩する方が悪い。


「落ち着いたか? 次に同じことをするようなら物理的に喋れなくするから覚悟しろよ?」

「あ、ああ……」

「…………チッ」


 どうやら二人とも理解してくれたようで大人しく武器をしまってくれる。彼らは敵対していた部族同士で、先程のも俺を出汁にして合法的に相手を葬り去ろうと画策していたのだろう。

 とはいえ、そのような思惑に載ってやるような義理も無いし、部族間の争いに俺を巻き込むのも正直勘弁して欲しい。多少強引だがこういう奴らには最初に力関係を示しておいた方が効果的だからな。


「まず名を名乗れ、男の方からだ」

「ヘラス族、族長フェリオスが息子、フィリップだ」

「……ミスト族、族長レティスが娘、クラリス」

「そうか、それでお前らは何をしに来たんだ? まさかこの場で喧嘩する為になどとは言わないよな?」

「それはこいつが……」

「先に挑発して来たのはお前だろう。わたしの所為にするな」


 フィリップの言葉にクラリスが割込む。互いに視線を合わせ忌々しそうな表情をした後鼻を鳴らしてそっぽを向く。事前に聞いてはいたがここまで仲が悪いとはな……

 ヘラス族とミスト族、この二つは厳密には種族では無く部族と分類すべきだろう。人種的には人族、ただ多くの種族の血が混ざり合っている為、純粋な人族とも言えない。それがヘラス族とミスト族である。

 ミスト族の社会構造は簡単に言うとアマゾネスと言うのが分かり易いだろうか。自然が豊かな地で暮らす女性優位社会の部族、ヘラス族はその逆でこちらは男性優位、互いの生存圏が近いのに社会構造からして相容れぬ存在の為こうしてお互い嫌い合っているのだ。

 へステア王国へ来たのも、片方が動いたためもう片方が対抗した結果とも言える。もしも従属の条件としてもう片方の部族を滅ぼすよう依頼されたら、利益の有無によってはそれを受け入れることもあり得ただろうからだ。

 だからこそ、それを避ける為に競い合う様に乱入して来たとも考えられる。まあただの想像だが。


「さて、話は戻るがミスト族とヘラス族、共にへステア王国への帰属を求めるという事で構わないのか?」

「いや、ミスト族が居るというのなら話は違う。所詮こいつらとは相容れぬ関係なのだ」

「ああ、こいつらと意見が合うのは遺憾だがわたしも同感だ。ヘラス族の奴とは同じ空気を吸っているだけで反吐が出る」


 お互い視線を合わせようともせず、尚且つ共存は不可能だと告げる両者、正直面倒だから二人ともお帰り願いたいのだが、そうはいかないのが面倒な所だ。

 ミスト族にヘラス族、両者とも有力部族と言うほどの力は無いが、敵対するのは避けたいと思える程度には厄介な力を持つ部族だからだ。今のご時世、味方が増やせるなら増やしておいた方がいい。数が増えればそれだけ足並みをそろえる事は難しくなるが、それでも数と言うのはそれだけ強力だ。

 だが片方だけ選んで、受け入れるといった形をとると向うの要望……この場合だと相手方を滅ぼしてくれなどと言われかねない。

 部族間の繋がりなど全て正確に把握する事など不可能なので理由も無く下手に攻撃を仕掛けるような真似は極力さけておきたいのが本音である。


 それにこれからの事を考えると彼らの方から『頼み込んだ』と言う形でへステア国へ帰属してもらうのがベストである。俺の方から頼んだという形だと方針や風習の違いからすれ違いが起きた時の立ち位置が変わる。

 俺から頼み込む形だと、問題が起きた際に『十分な配慮が行われていなかった』などと言われる可能性も十分に考えられるからだ。

 だから、あくまで俺は『望まれて受け入れる側』という立場を崩してはいけない。それでいて彼らが決定的なまでに拗らせない様に誘導して納得のいく結論を出さなければいけないのだ。

 理想は両者の中を取り持ち且つ、彼らから望む形での帰属だがそれは流石に難しい。だとすればどちらか一方を引き入れるのが無難だが……


 視線を二人の方にやる。どちらも一筋縄で行くような性格はしていないよな……


 直ぐに争い始めようとする二人を俺が止める形で一回目の会談は終わりとなった。次の話し合いは数日置いてお互い部族での意見を纏めた後に再開する事となるのだが、どう考えても穏やかな形で終わる事は無さそうだ。




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