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第二十話 凱旋


「うわっ、すご……」


 長かった遠征もようやく終わりを迎へ一行はへステア王国の首都ゼスカに辿り着いた。

 都市に辿り着いた俺達を待ち受けていたのは住民による盛大な歓迎であった。犠牲者無しでのダンジョンの攻略、数百にも及ぶゴブリン討伐は一般的にみて快挙と呼ぶべき難行である。定期的に連絡を取り合っていたノワールを経由してその情報は街中へ広げられていたらしく、俺達が戻るのに合わせて歓迎と言う名のお祭り騒ぎを企画していたようだ。

 まあこれ自体はいいだろう。分かり易く称賛される事は騎士団の人間にとって良い事であるだろうし、お祭り騒ぎも街の活性化と考えれば忌避する理由はない。

 それでも思う所があるとすれば俺への相談が無かった事だけだ。これまでは常に情報を共有していただけに少しだけ疎外感を感じてしまう。

 まあ感情もそこまで強いものでも無く。俺も混ぜて欲しかったという子供じみた感情の発露でしか無いが……ため息を吐いて意識を切り替え、諦めて馬車の外へ顔を出すのであった。




「つ、疲れた……」

「俺の方が疲れたよ。なんせずっと手を振り続けていたんだからな」

「あはは……にしても凄い人気でしたね」

「まあ、色々あったからな」

「色々ですか?」

「……色々だ」


 そしてそのまま数時間かけて屋敷へ辿り着いた。本来なら一時間もあれば辿り着くのだが、押し寄せてくる人盛りに足止めされてここまで時間が掛かってしまったのだ。

 こうなるのを分かってていてだろうに、今回の企画を立てたと思われるノワールにどう仕返しをしようか……内心で考えながらも屋敷内へ足を進めていく。背後から屋敷の威容をみて驚愕と感嘆を混ぜ合わせてような吐息が背後から聞こえて来るが気にしない。どうせ数日も住めば慣れる。


「ゼロ……お帰りなさ……きゃっ!?」

「ああ、ただいま」


 出迎えてくれたノワールを早々に抱きしめる。再び驚愕した様な声が聞こえてくるが、敢えて無視した。俺も恥ずかしいが人目が無ければ仕返しとして意味を成さないのだから仕方が無い。

 腕の中でもごもごと何か文句を言っているらしいノワールが顔を真っ赤にして足をバタバタとする様をみて一通り満足した俺はノワールを解放する。


「いきなり何するの!」

「ちょっとした仕返しだな。ただいま。屋敷の方は変わりは無かったか?」

「……はぁ、お帰りなさい。報告する事ならそれなりにあるけど、それなりに多いから後で纏めて話すわ。

それで後ろにいる四人が話に出た同郷の人?」

「ああ、左から順に大樹、康生、沙紀、栞だ。しばらくは屋敷の方で面倒をみて、その後はそれぞれへステア王国へ帰属する事になってる」


 自分でやって置いて何だがノワールの後ろにいるメイドたちの視線が非常に生暖かいもとのなっているので非常にやり辛い。

 ノワールの方もそれを感じているのか微妙に気まずそうだ。会話を続けるだがどうにもぎこちなくなってしまっている。身から出た錆だが手段を間違えた感をひしひしと感じさせられる。


「えっと……じゃあ私はまだ仕事が残ってるから」

「あ、ああ、俺も後で手伝うよ。じゃあまた後でな」

「え、ええ」


 このままだと針の筵だったので、二人して早々にこの場からの離脱を図る。しばらく離れていたので話したい事など山ほどあると言うのに、どうにも締まらないな……




「それで子は誰なんですか? 随分仲が良さそうでしたよね」

「まあ聞かれるとは思ってたが……ノワール、吸血鬼のお姫様で一応俺の婚約者って事になってる」

「へぇ……あの子が、それでさっきのは何だったんですか?」

「ああ、あのお祭り騒ぎはノワールの仕業だったからその仕返しにちょっとな」

「その割にはゼロさんも顔赤かったですよ?」

「いや、上手く隠したからそんな事無かった筈……だ」


 口にしてからようやく嵌められたのに気付く。全員から生暖かい視線を向けられ内心でため息をつく。全く何してんだよ俺は全然冷静さを保てていないじゃないか。


「まあそれは兎も角として、みんなに渡すものがある」

「(話を逸らした(な)(よね)」

「これを見てくれ」

「(うわ、完全無視した)」

「(気持ちは分かるけどここでこれは無いだろ)」

「(だよね)」

「……話を聞かないって事は要らないと判断してもいいんだな?」

「「いえ、ごめんなさい」」

「なら、話を聞け、ああ後さっきの話を蒸し返す様ならこの話は無かった事にするからな。これは命令だ」

「(初めての命令がこれって)」

「(言ってる本人が一番気にしてるだろうから、言わないであげよ)」

「そっちの二人は聞いてるのか?」

「「聞いてます!!」」


 こそこそと会話をしている二人に冷たい視線を向け、ようやく静かになったので前もって用意しておいた袋を人数分手元に置く。


「この中には俺がこの国で生きていくのに最低限必要だと思うものが入ってる。これを全員に一つずつ配るから後で中を確認しておいてくれ。一応無くしたとしても俺に言えば新しいものを用意するが……お前らの生命線になるから無くすなよ?」


 各自袋を受け取り中を確認していく。実はその袋自体がマジックアイテムなのでそれ単体でも相応の値段だったりする。他には翻訳用のマジックアイテムだったり、お金だったりと俺が必要だと判断したものは一通り入れてあり、足りないものは屋敷に居る間に街の方で買い揃えて貰おうと思っている。

 大樹の袋の中には特製の武器や防具が、康生のには資料本など、それぞれが望んだ職に役立ちそうなものも幾つか入れてある。

 役に立つかは分からないが、こちらの事情で半ば無理やりへステア王国への移住を決めさせてしまったのだ。罪滅ぼしとは違うがこれくらいの援助は許されてもいいだろう。


「後は屋敷で暮らせる期間だが……一年を一つの目途に考えておいてくれ。その間にそれぞれ目指す目標のための準備期間とし、後は要相談だな。まあだが何か特別な理由がない限りは出て行って貰う事になるだろう」


 手元の袋の中身が気になる事が分かり易く顔に出てる大樹に苦笑し席を立つ。その際に部屋の外で待機していた使用人にそれぞれの個室に案内するよう告げてから、ノワールの元に向かうべく歩き始めた。

 



「……もう一度聞いていいか?」

「だから、新しく四つの種族と二つの部族がへステア王国への亡命を求めて来たわ。私の方でもそういった動きは掴んでいたのだけど、今回のダンジョン討伐の遠征に出た事である程度の信用できると考えたみたいね」

「それは種族の方針としてか? それとも一部の人間の独断か?」

「前者ね。最近はオスカ連邦の情勢が不安定みたいだから、保険としてへステア王国に繋がりを持っておきたかったのでしょうね。幸いなことにへステア王国は難民を受け入れる姿勢を取っているから、正当な理由が無ければ断る事が難しいしね」

「なるほど……なら俺が居ない時を見計らって話を持ち掛けたのはわざとか?」

「まあそうでしょうね。私が独断で決める様ならそれを理由にして不和を煽るような形で動いていたのかもしれないわね」

「かと言って待たせたとすれば、多少は交渉で優位を立てると踏んだのか……分かってはいたが政治ってのは色々とめんどくさいな。足の引っ張り合い。他者の蹴落とし合い。なんでもっと強力し合えないのだろうか……」


 とは言えそれは現実的でない事だとは理解している。それに仕方が無い面もあるだろう。彼らにとってこれは群雄割拠の世界を生き抜くための生存競争の一環なのだ。もしも国が滅びたときの為に勢力を分けて置きリスクを分散する。少しでも全体として生き残る可能性を上げる為にも重要な役割なのだろう。


「はぁ、取りあえず数日で情報を頭に叩き込むから資料を後で渡してくれ。どうせあっちも色々と調べ回ってるのだろうが、少しでも情報での優位を潰しておきたい」

「了解よ……取りあえず重要な報告はこのくらいね。後は通常業務の引継ぎと、各種業務連絡、まあこれに関してはゼロも疲れてるでしょうから明日でいいわね……それとね……」

「ああ……」


 ノワールが濡れた視線で何かを訴えかけるように見つめてくる。苦難の時間の始まりだ。




 ベットに座り込み所在なく両手を彷徨わせる俺に抱き付く形でノワールが正面から首元に手を回す。首元に走る僅かな痛みとそれを塗りつぶす様な形でやってくる快楽が俺の思考を塗りつぶす。

 もういいんじゃ無いか……ふと頭に浮かんだ感情を理性で無理矢理押さえつけ、抱き返そうと彷徨させていた両手をどうにか背後まで下ろす。成すがままの状態でいる今ならまだしも自分から接触したら今の俺では理性が持ちそうにない。


「ん……」


 ちゅっ、音を立てて首筋から犬歯が引き抜かれる。そしてようやく我慢の時が終わりだと、ふぅ、と深いため息を吐きだし力を抜く。どうにか今回も耐えきる事が出来た。

 何だかんだ言って週に一度は続けていた吸血行為、三か月も空いたから来るだろうとは思って居たが今日のノワールはいつになく積極的だったのだ。

 いつもならここまで身体を押し付けるようにして抱き付いて来たりはしないし、どちらかと言えば恥ずかしがるようにして徐々に近づいて来るような感じだったのだが、今日に限っては割と理性の限界が近くなるまで来ていた。


「……終わったか」

「ええ、ごちそうさま。相変わらず中毒になりそうになるくらいに美味しいわね」

「それは良かった。……っとそれでそろそろ離れて貰えないか?」

「……そうね」


 少しだけ残念そうな表情をして身体を起こすノワールを視界に収めながら襟を正し、どうにか思考を正常なそれに戻していく。

 血を吸っている時のノワールの表情が妙な艶のような物を感じてしまうのは今日に始まった事では無いが……それでも今日は本気でヤバかった。

 一応ケジメとしてそう言う事はきちんと結婚してからと思っていたのだが何度押し倒してしまおうと思った事か、婚約者と言う関係ではあっても、お互いの性格もあり、ぬるま湯のような関係で落ち着いていたと思ったのだがな……


「それで今日はどうかしたのか?」

「少しだけ焚きつけられてね。でもここまでやって何も無いと流石に少し傷つくわね。これでも結構頑張ってみたと思ったのだけど」

「正直割と理性がヤバいから辞めてくれ。別に無理して何かしなくても時間はあるんだし……」


 顔を赤くして恥ずかしそうにそう告げるノワールだが、俺も似たようなものだろう。いい歳して未だにかなり初心な自覚がある俺としてはこうも露骨に誘われると反応に困ってしまう。まあノワールも自分が結婚するなら確実に政略結婚だろうと思って居たらしく、今の真っ当な恋人同士のようなそれに近い現状には戸惑ってしまっているようなのでお互い様だろうが。


「それは私も思ってたのだけど、ハンナが少しね……」

「……また何か言われたのか?」

「どうも早く行ける所までいかないと、思わぬ相手に抜け駆けされるぞって……ゼロの方で来ている婚姻話は全て断ってるから何の事だかよくわからないのよね……」

「……まあ、気にしても仕方無いだろ。それより終わったならそろそろ部屋に戻らないとまた変に邪推されるぞ」

「そうあからさまに話を逸らされると気になるのだけど……ねえゼロ、何か知ってるでしょ。いえどちらかと言えば心当たりがあるって感じね」

「その鋭さをもう少し違い方向へも生かせればいいのにな……」

「……もしかしなくても馬鹿にしてる?」

「いや、そういう訳じゃ……勘違いだったら恥ずかしいし」

「仮説でもいいから話してよ。問題があるようなら対策をしないといけないもの」

「あー俺の方でどうにかしておくからいいよ」


 最終的にいつもの調子に戻ってしまったがこれでいいだろ。俺は割と現状の関係に満足していているので、ゆっくりやっていけばいい。

 それよりハンナがノワールを焚き付けた理由……予想通りだったとしてどう話を切り出そうか。




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