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第十九話 それぞれの道

 少し遅れました。


「あの……私、やっぱりディアーネのやっている事は受け入れられません。でもこのままディアーネを避けて終わるのは嫌なんです!」

「そうか、それならどうするんだ?」

「それは……これから考えます。けどこのまま終わるのは嫌だって事だけはここ数日で嫌って程理解出来ましたから」


 更に帰路を消化していき、そろそろへステア王国が見え始めてようとした頃、沙紀とディアーネの関係に再び変化が生じた。

 相談に乗って以来、迷うような表情を見せていた沙紀がとうとう結論を出したのだ。その結論は受け入れられないが、仲良くしたいという自分勝手で独り善がりのものだった。


 だがそれこそが俺の求めていた答えに他ならない。ディアーネを変えるには自分の考えを押し付けるくらいで無いと変わらないだろう。

 ディアーネの話を聞いて勝手ながら同情の気持ちが湧いてしまった俺はディアーネに対し非道な扱いをする事を避けたかった。罪には罰が必要だと思うがそれを行った側に罪の意識が無いとしたら……難しい問題だ。環境が悪かったと言ってしまえばそれまでだが何処かで区切りをつけなければいけない問題でもある。

 ディアーネに関しては俺の裁量でどうにかする事は可能なのだが、放置すればまた同じ過ちを繰り返すことになる。それを防ぐためにも誰か真っ当な倫理観を持った人間が側で見張って貰わなければならない。

 だからその役を買ってくれそうな沙紀は非常にありがたい。ディアーネに対して好意的、それでいてその行為に関して良い感情を持っていないという情緒教育と常識を学ばせるにもうってつけの人物なのだから。


「それなら協力はするが、根本的にディアーネには変わろうという意欲が無い。だからかなり長期の期間が掛かる可能性が高いがそれは分かっているか?」


 こくりと頷く沙紀をみてある提案をする。


「そう言えば沙紀はまだやりたい事が決まって無かったよな?」

「ええっと、はい。一応文字なんかは練習してるんですが……」

「いや、責めてる訳では無くてな。いっその事沙紀にはディアーネの助手でもやって貰おうかと考えたんだ」

「私なんてホントに少ししか魔法が使えませんよ?」

「助手と言っても名目上の話だ。実際の仕事は周囲との緩衝役だな。沙紀はディアーネが周りと上手くやっていけると思うか?」

「無理ですね」

「だろ? そこで沙紀にその役目を頼もうと思ったんだ。倫理観がぶっ飛んでるから周囲に悪影響を与えそうなんだが、割り振る人材にも宛が無くてな……それにこれなら沙紀の目的とも合致するだろ? まさか他に仕事を熟しながらディアーネの件もどうにか出来ないだろうしな」


 割と咄嗟の割には悪く無いかもな。言っては悪いが沙紀にはこれと言うような飛び抜けた才能は無い。魔力値は平均程度で、知識面はそれなりに優秀、コミュニケーション能力が高いので何をやらせてもそれなりに上手く熟せそうだがそれでも総合的にはそれなりに優秀程度。

 もしかしたら何か隠れた才能があるのかも知れないが、それは今言っても仕方が無いだろう。


 実は《不運》と言う非常に稀少なスキルを保有しているレアスキル保有者なのだが、軽く調べてみた結果だとマイナス効果しか持たないみたいスキルなので有用とは言い難い。寧ろデメリットにしかならないし。

 それに現段階でディアーネに最も近しい人物(俺の場合は興味を持たれている人物だ。しかもモルモットとかの方向性で)なので、情緒教育に最も適した人物でもあるだろう。


 納得したかのように頷いた沙紀に、詳しい条件を煮詰めておくからもう一度よく考えておくように伝えて沙紀との会話を終えた。



「何と言うか、色々と大変そうですね」

「そう思うなら手伝ってくれてもいいからな? ほら、これなんて全部計算するだけだから、大して難しくも無いだろ?」

「代わりに頭が痛くなるような量がありますけどね……それで何も言わないのですか?」

「お前に関しては時に言うような事も無いしな」

「でも前に助言してくれた事を全く守って無いですよね?」

「助言はあくまで助言だからな。絶対に守る必要があるとは思わないし、人間合う合わないがあるしからな……」


 しばらくは今回の遠征における費用を計算していいたのだが、一休みしようかと言うタイミングで康生が声を掛けて来た。

 どうでもいいが、何でこんなに俺に声を掛けて来るんだ? 同じ日本人だとしても一人だけ年上でどちらかと言えば話しかけ辛いと思うんだが?


「ノートン達とは上手くやれそうか?」

「はい。ダンジョン計画は面白そうな計画だと思いますし、自ら創造した世界を創れるなんて神か何かになったような気がしません?」

「その気持ちは分からなくもない。俺も仕事が無かったらそっちの計画にも参加したんだがなぁ……」

「ははは、王様から原案が一枚渡されてるって聞いてましたけど、やっぱり参加したかったんですか」

「ほら、俺一応ダンジョンマスターとなってるが、それらしい事なんて殆どした事無いからな。俺が一番多くやってた事なんて書類に目を通してサインする事だよ。だからダンジョン計画には少しだけ期待してたんだが……」


 ダンジョン計画について話をされるくらいには康生はノートン達に受け入れられたらしい。

 既に街では噂レベルでは流されているものの、実際に詳細を知る者となると三桁には届かない、ノートンからは既に報告を受けていて、康生はこのままノートンに弟子入りするらしい。魔力量も貧弱で運動も苦手、戦闘の適性は皆無と言っていい康生だが、知識や学力面では四人の中で断トツで優秀なのだとか。

 実務経験が足りないと言う欠点こそあるが、知的好奇心が高くでこの世界の事についてもかなり詳しく調べていたりもするようだ。


 実際、四人の中で俺が最も期待している人材だったりもする。世界が異なるだけあって、俺が出した指示と現場の認識が異なる事が多い現状で、俺と共通した価値観を持った現場の人間と言うのはそれこそ喉から手が出る程欲しい人材だ。

 いくら人手不足だとは言っても、能力が無いと上に立たせるのは難しいが、知識系のスキルだけでかなりの数保有している康生は適当に難関試験の勉強でもさせた後、経験を積ませて現場に放り込めばかなり役に立ってくれるだろう。

 まあ本人は独り立ちを望んで居るようなので、その辺は出来れば、と言った感じだが応援はするば出来ればこっちを手伝って欲しいというのが俺の望みだったりする。



「こんにちは」

「次は栞か、何だ。俺に話に来るように決めてあったとか?」

「あ、はい。実は順番に話に来ようってみんなで決めてました」

「ホントだったのか……沙紀はそんなに余裕があるようには見えなかったけどな……」

「沙紀さんにも一応声は掛けたんですけどね……」


 栞が苦笑いでそう言う事から何となく察した。なるほど沙紀は別枠か。


「まあそれで栞は何を話すんだ。特に話さないといけない話題があるようには思えないが」


 図書館で司書をしたいという栞に関しては特別話さなければならない内容は存在しない。早くから希望を告げて来ただけあって、資料などは既に渡してあるし、俺の住む屋敷に併設されている機関なので、直接会う機会もそれなりにあるだろう。


「そうですよね。確か図書館は屋敷に併設させてるって聞いてましたからそれなりに顔を合わせる機会はありそうですし」

「それに俺はその常連だからな……まあ最近だと直接顔を出す機会は減ってるが。強いて言うなら生活環境とかか。一人暮らしを希望するか、後は屋敷で暮らすのもアリと言えばアリか」

「え……屋敷ってゼロさんが住んでるですか?」

「まあ、間違っては無いが職場も兼ねてるから結構な人が住んでるからな。本館だけで数十人、別館も合わせれば百は超えるだろうな」

「……屋敷って大きいんですね」

「これでも小さい方らしいんだが……俺も身分としては王様になるから、城を建てると言った案もあったりもするからな? 管理の費用が馬鹿にならないから、後回しにしているだけで十年以内には実際に建てられるだろうし」

「何か、想像もつかない世界ですね」

「まあ実際に住んで見ると割と慣れるけどな。少し豪華な集団住宅で暮らしていると考えればいいんだ。敷地内にゲームセンターと武闘館とパーティー会場をと図書館を併設した」

「そんな集団住宅絶対ありませんけどね」


 栞とは特に話さなければならない話しも無く。終始雑談をするだけで終わってしまった。お互い読書好きと言う事もあって話は合うので割と気安く話すことが出来るのだ。栞の方も軽く冗談を挟む程度には俺の存在にも慣れて来たようでいい傾向である。

 会話の流れで栞が勧めてくれた本に関しては今度取り寄せておくとして……次に来るのは大樹だろうか。




「ゼロさん」

「来たか。大樹は討伐者ハンターを目指すって事で良かったのか?」


 討伐者ハンターとはダンジョン計画を実行するに当たって、その素材の回収役を担う人物の総称として扱う予定の職業である。冒険者と呼ばないのはサンドニア王国の冒険者のイメージと混同しないようにする為である。サンドニア王国の移民の中には元冒険者の人間も数多く居たのだが粗野な人間が多く何かと問題を起こすのだ。

 ダンジョン計画はモンスターを狩るという行為が冒険者と同じため、最初から違う名を名乗らせなければ問題が起きる事は目に見えている。それに国として行う事業である以上、死亡率が高いというような醜聞を起こさない為にも、資格を与える人にはそれなりの質を求める予定である。具体的には試験を課して許可を与える人を厳選するのと徹底した教育だろうか? 深度によって難易度も分ける予定であるし何層まで許可を出す。と言った形で厳密に管理する予定である。

 ダンジョン計画が遅れに遅れている理由に、単純に完成していない事以外にも法整備や管理する側の教育に手間が掛かっていると言うのもあるのだ。


「はい。でも良かったんですか? 色々貰ってしまいましたけど」

「そうは言っても先立つ物が無いとどうしようも無いだろうからな。それに将来に向けた投資と考えれば、大した額でも無い」

「投資……ですか」

「まあ今はそこまで深く考えなくてもいいよ。将来的に何か仕事を任せるかもしれないと言った程度の話だから」

「は、はぁ」


 本人はよく理解して居ないようだが、魔力の量を才能と言うならば大樹は人並み外れた才能の持ち主である。

 世界が違うので正確にはこの分類が正しいかは分からないが、人族に換算すると大樹の魔力量は上位の数パーセントに入る程である。多量の魔力の持ち主が必ずしも成功するわけでは無いが、普通に考えて無いよりはある方が何かと有利に働く。将来性を期待して粉を掛けておくのは決して間違った判断では無いだろう。

 それに子飼いの討伐者ハンターと言うのも俺が欲していた人材の一人だ。ある程度形になって来たダンジョンは騎士団の人間に潜って貰い、難易度や得られるであろう資産を計算しているのだが、騎士団の人間は良くも悪くも腕が立ち過ぎる。モンスターの素材は下手な狩り方をすると痛んで売値が落ちたりするのだが、大抵のモンスターを一撃で首を落とすことが出来る騎士では正確な計測が出来ないのだ。


 身内で無く外部からダンジョンの評価をすることが出来る人間が欲しい。それにはある程度の学と実力が必要になる。その辺才能はあっても現状の実力は大したことは無く、日本と言う環境で育ったため最低限の見識は持っていると思われる大樹はうってつけの人物なのだ。

 大樹にはある程度自由のして貰うが、定期的な報告は義務付けさせ、周囲の人間の経済状況なども色々聞かせて貰おうと思って居るのだ。

 職業一つ作るというのは本当に大変な事なのだ。特にダンジョン計画は貴重なモンスターの素材を定期的に提供する事ができる可能性を秘めている為、モンスターの素材の価値の大幅な変動やそれに連動しておこる社会の変化、荒事を生業とする人間が増える事により治安が悪くなるなどと言った可能性も秘めている。事前に出来る限りの準備はしておくがそれでも完全に混乱を防ぐことは不可能に近いだろう。それでもやれることはやらなければならないのだが。


「それでやっぱり武器は自前の物が欲しかったりするのか? 効率だけ考えると此方で貸し出す仕組みにした方が色々と管理し易かったりするんだが」

「それだと少し夢が無さ過ぎませんか? それに武器って使ってると何となく愛着みたいなものが湧いてきますし……」

「俺の場合、武器は少しでも性能が良いものに変え続けるから分からないな……だが、そうすると武器の手入れなんかも習得させないといけなくなるな。討伐者ハンターに求められる基準がどんどん高くなるな」

「えっとそこまで難しいですか?」

「現段階でも最低限のモンスターの知識と戦闘能力、それに加えて討伐者ハンターの管理制度も理解しないといけないし、素材に関する知識も必要で、今回更に武器の手入れも加わったんだろ? 普通に難易度は高いと思うが」


 大樹の場合は持ち前の魔力量で戦闘能力の最低ラインは簡単に超える事が出来たのと、日本の教育の賜物だろう。勉強をするのが普通だった環境に居たから分かりにくいが、そうでない環境に居た人間はまず学び方から学ばなければならないのだ。

 村暮らしの多くの人間は経験から学ぶのを基本としている。だから座学を座って学ぶとなるとまずそのやり方から教えなければならないのが現状なのだ。

 その実験としてシンディやミティなどにはどのようなやり方が分かり易いかなどを試して貰ったりもしたが、それでもまだ教える側の知識が十分とは言えないだろう。


「大樹には俺の方から信用出来そうな人間を何人か紹介するから、彼らと共に思った事なんかを報告するようにしてくれ。俺の方でもやれることはやろうと思うんだが、正確に現状を知るなら現場の人間の声も必要になるからな」


 大樹の方は騎士団の人間が色々と教え込んでいる様だから問題無いだろ。本人はまだ討伐者ハンターという職業に夢を見ている様だが、これに関しては俺がとやかく言うような事でも無いだろ。





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