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第十六話 すれ違い

 本日は三話同時投降です。最近投稿できていなかったので纏めて投稿しました。


「うおっ!! 何だあれ!!」

「農業用のゴーレムだな。この辺は今開発中の土地で畑として耕すのにゴーレムを貸し出してるんだ」


 馬車に揺られている途中に見えた光景で生まれたであろう大樹の疑問に軽い調子でそう答える。


 急速な発展を続けているへステア王国の食糧自給率を支える為にも土地の開発は急務である。DPがあれば困る事は無いと言っても、その食料を配る為の人手が必要になりそれに伴って費用も生まれてくる。

 ゴーレムの貸し出しはその対策の一つであり、大雑把だが力が強く、人の手では時間が掛かる作業を高い効率で行う事が出来るのだ。当然ながらこれを貸し出されるにはへステア王国への住民登録が必要となり、税金を納める必要があるが。

 現状だと畑の規模からある程度の収穫高を計算し村に住む人数によってそこから税率を下げていくと言った形式を取っている。不作の際には税収を下げ、酷いようならこちらから支援を送るような仕組みを作っているので各地での評判はそれなりにいいようだ。

 ただ問題なのは現地に居ないと分からないような問題が存在している事と、徴税の際に村長が収穫を偽る事が多発している事くらいか。前者は兎も角として後者には本当に困っている。欲に駆られる人間と言うのは何処にでも居るもので脱税には厳しく処罰していると言うのにやらかす人が後を絶たないのだ。


「ダンジョンに攻めて来たのと全然形が違うんだな」

「あっちは戦闘用だ。農業用のゴーレムは戦闘用のとは違って大雑把に土を耕したり開拓するのが仕事だから用途が違うんだよ」

「へぇ~。あれ、でも何か一部壊れて無いか?」

「この辺の村はゴブリンに襲われたみたいだからな。幸い人的被害は殆ど無かったが代わりにゴーレムが何機か壊されたんだ。メンテナンスの手間を省くためにそれなりに機能を組み込んだからそれなりにコストが掛かってるのに最悪だよ」

「あの……ごめんなさい」

「いや、別にお前らに責任は無いだろ。無理やり召喚されただけなんだから、責任があるとしたらディアーネただ一人だ」


 視線をディアーネの方に向ける。自分がした事によってでた被害を見せても素知らぬ顔をしているディアーネに冷たい視線を向けながらも声を掛ける。


「気分はどうだ?」

「死ね」

「口が悪いな。お前にはこれから研究施設に移って貰う予定だが何か希望とかあるか?」

「ならドラゴンの血とキマイラの尻尾、結晶化した魔力の塊を数キロずつ」

「分かった。施設の方は何か希望とかあるか?」

「んん……?」

「どうした?」

「用意できるの?」

「……変に難易度が高い素材ばかりだと思ったら吹っかけてたのか。次は無いと思えよ」


 俺とディアーネとの仲はかなり微妙だ。勝者と敗者、支配者側と被支配者側に別れたのだから当然だ。俺としては命令にさえ従えば構わないのだが、このままだと国での居場所がなくなりそうな気がする。

 能力の高さは証明されているが、逆に言えば能力の高さ以外は社会生活に適しているとは言えない性格をしている。他人との付き合いが生まれれば人は配慮と言う言葉を覚えるようになる。それなのにディアーネにはそういった感情を持ち合わせているようには思えない。良くも悪くも子供なのだ。しかも下手に能力だけある分質が悪い。


「ああもう。ディアーネ、ゼロさんに迷惑かけちゃ駄目でしょ!!」

「掛けてない。それと次からは反抗もしない」

「その言動自体が矛盾してるな。それで次から反抗しないってのはどういった意味だ?」

「ドラゴンの血も簡単に用意できるんでしょ? それなら従ってあげてもいい」

「なんか上から目線だな……一応最初は試しに融通してはやるが成果が出ないようなら徐々に支援は減って単純作業のみを割り当てられるようになるだろうな。お前なら死霊術が得意なようだし、ずっとスケルトンの作成とかをやらせるのもいいかもな」

「それやったら本気で逃げるから」

「あれだけ被害を出させといて逃がすと思うか? お前のせいで俺の仕事がかなり増えたんだからな。しかも今後はゴブリン討伐するを恒常的に行わないといけなくなるからそのための対策もしないといけないし……」

「そんな事私の知った事じゃ無い。そんな理由でこっちの研究の邪魔をしてきたの?」

「俺の国の領土でゴブリンみたいな害虫を大量に放出していた奴の言葉じゃ無いな」

「別に好き好んで外に出していた訳では無い。処理しても処理しても増え続けるから放置していただけ

「お前が乗っ取ってた場所から出たゴブリンが外に出て被害を出した時点でお前の責任なんだよ」

「ダンジョンマスターの癖に王様気取り? どうせ他の国から認められてい無い癖に」

「残念ながらガンガニア王国とは既に国交が開いてる。ユグドラシルとオスカ連邦に関しても既に使者を送って反応を伺っている段階だ」

「嘘……」

「本当だ。だから他国に逃げて俺の情報を売るといった作戦は通じないと考えた方がいいぞ?」


 変に上から目線で話をしてくると思ったら他国に頼る気だったのか。頭が悪い訳では無いんだよな。ただどうにも思考が狭いといか、凝り固まっている。知識としては知っているが実感としては分からないといった所か。籠って研究しているならいいが、実戦となると応用力が足りなくなるタイプなのかもしれない。

 静かになってしまったディアーネを放置して沙紀たちの方へ視線を向ける。彼らは何故か俺の方を微妙そうな目で見ているようだった。


「どうしたんだ?」

「いや……そのですね」

「傍から見てると大人が子供を理詰めて責めているに見えますよ?」


 言いづらそうに沙紀は口籠るが康生の方は容赦なく視線の理由を告げて来た。確かに十歳前後にしか見えないディアーネと俺が言い争ってるのは傍から見るとそう見えなくも無いと思うが……


「だがこいつはどう考えても俺より年上だぞ?」


 高位の魔法使いにとって寿命などあって無い様な物だ。見た目が幼いなど何の免罪符にもなりはしない。

 そう思っての発言だったのだがどうやらそう言う問題では無いらしい。この発言で俺はディアーネ以外の全員から微妙そうな目で見られる事となり、一応俺も日本人としての感性を持っているつもりだったのだが、それは既に大きく感性がズレている事を感じさせられるのであった。



「うわ……」

「これは……」

「どうしたの?」


 悲しい現実を告げられたりしたが一行の移動は続く。ゴブリンの痕跡を見つけたら討伐していく。その際、食い荒らされた動物の死骸や発生した腐臭、疫病の発生源になりかけている痕跡などを見かける度に沙紀たちは複雑そうな表情でディアーネを見つめるのだが、ディアーネは不思議そうに返答する様子が何度もあった。ここに来てようやく常識の違いを理解したのか彼らの仲は急速に悪化している様である。

 俺としては別に彼らの仲を引き裂くためにこのような真似をした訳では無く、予定されていた道程を消化しているだけなのだが……少しだけ罪悪感が湧かなくもない。

 そんな中沙紀だけは懸命にディアーネに話しかけ倫理観について説いているのだが肝心のディアーネの方が迷惑そうな顔でそれを避けてしまうので関係の修繕は難しそうである。


 あまり空気が良いとは言えない状況の中でも俺は不干渉を貫き自らの仕事を熟していた。確かに空気は良くないが俺にも仕事があるのだ。これまでも彼らと話して居たのも休憩時間であって、基本的に多忙な俺は軍の指揮を学んだり、意見を取りまとめたりするので忙しかったりする。ディアーネの処遇や日本人達の扱いに関してもそれなりに重要な案件ではあるのだが、優先順位で言えば他より落ちる。

 それにそもそも人間関係の修復など俺にとって苦手分野に他ならない。俺に出来る事など現実を直視させる事くらいで解決には程遠いい手段であろう。


 ……だから俺に相談するのは辞めて欲しいのだが。


「ご、ごめんなさい」

「いや、別に怒ってる訳じゃ無いんだが……それにしても良く俺に相談しようと思ったな。一応俺は仲が悪くなった元凶を作った人間だぞ? それに現状を特に問題視もしてないのは何となく分かってただろ?」


 俺の言葉に少し躊躇っててから栞は頷いた。

 話の内容は予想通りどうやって関係を修復すればいいのかといったものである。別に現状を問題視していない俺からすれば『放っておけばいい』の一言なのだがその前に俺に相談してきた意図を聞いておきたい。

 俺は現状を問題だと思って居ない。そもそも時間が経てばいずれ破綻していた関係なのだ。加害者と被害者が仲良くしていた事自体が異常だと俺は感じていた。

 研究者タイプの魔法使い特有の倫理を投げ捨てた様な考え方、それを知らなかったからこそ仲良くできていたのであって、それが発覚した今、こうなるのは必然だったのだろう。


 時間が経てば不干渉と言う名の解決がやってくるにも関わらず俺に相談を持ち掛けてきた栞はどういった解決を望んで居るのか。何を求めているのか。それが分からない。


「その……他に誰に相談すればいいのか分からなくて」

「……消去法って事か。それでも俺には『放っておけ』としか言いようが無いぞ?」

「そう……ですよね……ごめんなさい」

「だから謝るな。そもそも栞はどういった解決を求めているんだ? 元の関係に戻るのは不可能だと分かってるだろ? 沙紀がやっているようにディアーネに普通の倫理観を持たせるのも難しい。そもそも勘違いを前提として成り立ってた関係だったのだからそれが露呈した瞬間破綻するのは目に見えてたんだ」

「……ホントに容赦無いですね」

「事実だからな。それに俺のはこういった考え方をする人間だから、皆が仲良く。なんて解決策はどう考えても出て来ないと分かっていた筈だろ?」


 職業を斡旋するためのそれぞれの技能を確認したいと告げて、沙紀たちには全員スキルを確認させて貰わせてある。

 その中で栞は『人間観察』と言うスキルを保有していた。これは文字通り人を観察する能力、嘘や本性を見抜く能力と言い換えてもいいだろう。どの程度分かるかは本人によるが栞のそれはそれなりに高い精度で人を見抜く事ができるようなのだ。

 だから俺が彼らの事をそこまで気にかけてはい無いという事は既に知られている。一応可能ならば助けようとは思って居るのだが、それは本当に可能ならばといった程度で、無理なら無理で早々に諦めてしまう程度である事は既に知られているのだ。

 まあ多少の罪悪感を感じなくも無いが、これが俺の本音だし特に意見を変えるつもりも無い。同郷ではあるがそこまで親しい訳でも無く。国に取って害を及ぼすようなら処分しなければいけない相手でもある。


「それにディアーネとの関係の固執しているのは沙紀だけだろ? 他の二人は既に関わらない事にしたみたいだし、特に問題があるとも思えないんだが」


 康生と大樹は既にディアーネと関わる事を辞めて他の人間との交流に力を入れているようだった。康生の方は主にノートンやその弟子たちと、大樹の方は騎士団の人間との会話を主としている様だ。

 二人とも適正として明らかに頭脳労働系と肉体労働系といった感じに分かれているので、それぞれの進路を決めるにあたって、少しでも話を聞こうとしているのだろう。

 まあ、味方を出し抜いて俺に接触してきたりとかなり強かな一面を持っている康生の方は兎も角として、大樹の方は話が合う人間に近づいたと言った様子だがそれはそれでいいだろう。

 大樹は魔力量として四人の中で最も恵まれており、魔法適性も肉体強化に偏っていてそれなりに戦闘向きだ。戦いで生計を立てる事も不可能では無いだろう。


「そうですけど、その沙紀さんがかなり思い悩んで居るみたいで……その、ディアーネに妹の様に接していましたから」

「一定の水準を超えた人間はみんなどこか頭がおかしいからな。アレと接して理解出来ないと思えるのは正常な証拠だよ。お互い相互理解が足りなかったと諦めて素直に距離を取るのが正解だと思うな」


 そもそも研究目標として『完全な人間』を挙げるような奴が正常な筈が無いのだ。頭のネジの一本や二本は飛んでいると考えた方がいい。

 沙紀たちはディアーネの研究を表面的な、真っ当な部分しか見て居なかったのだろう。俺の様に徴収した研究資料に目を通す機会があったなら即座に距離を取ったに違いが無い。ディアーネの考え方は異常だ。異常な状態が正常であるかのような思考回路をしているのだ。人を人と思わない。外で自由にさせてはいけないタイプの人間だ。

 ただ研究者としては優秀で危険だからと処刑してしまうのは勿体無く感じてしまうのが尚更質の悪い。それを分かってて利用しようとする俺も俺だが。


「まあ協力はしないが相談くらいなら乗ってやるが。……あまり溜め込み過ぎるなよ?」




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