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第十一話 強かな少年


「へステア王国国王ゼロ。貴方に決闘を申し込む」


 そう無表情のままに言い放たれる。決闘、互いに譲れない何かを賭け合い一騎打ちで勝敗を決する。敗者は事前に決めた約束に従わなければならないというものである。

 強いものが正しいという。野蛮な考えを体現したような風習である決闘である。断るようなら悪評が広められ負けたら大事な何かを失う。そんな理不尽で不条理な決闘を俺は申し込まれていた。

 決闘は基本的に断る事が出来ない。何故なら決闘とは誇りを掛けて行うものだかららしい。実際は色々と抜け道もあったりするのだが、決闘を申し込まれるところまでいったら受けるのがふつうである。

 だからこの場合、答えは一つである。


「断る」

「……へステア王国国王「いや、断るから」……ねぇ沙紀上手く行かない」

「ごめん、ちょっと待って……色々着いて行けてないから」


 疲れた様な表情でそう告げる沙紀、気持ちは分かる、俺は似たような思いだからだ。


 ……どうしてこうなったのだろうか?



「ディアーネ・エクス・フォリア今回はこのような場にお招きいただき誠にありがたく思います」

「へステア王国ゼロ、お互い不幸な行き違い(・・・・・・・・)はあれどこうして話し合う機会に恵まれたのだ。今回のこの席をお互いより良いものにしていければいいと思う」


 最初の対面はそこまでおかしなものでは無かった。お互い名を名乗りそれぞれ用意された席に座る。その際に身長が低すぎたのか椅子に足が届かず、沙紀に持ち上げられて座らせられていたりしたがまあ、特におかしなことは無かった。

 ディアーネ・エクス・フォリアと名乗る魔法使いは幼い子供の様な容姿をしていた。そのことに関しては特に驚きは無い。長寿種が蔓延るこの世界では見た目など判断材料の一つにしかならないからだ。吸血鬼なども100歳も200歳も二十代前後の外見をしているし、会った事は無いがエルフも似たような感じらしい。

 見た目は子供でも長い年月を生きているなら油断は出来ない。魔法を封じられ、ただの幼子程度の力しか出せないからと言って油断する気はなかった。

 まあ、だからこそ違う意味で度肝を抜かれるとは思いもしなかったのだが。


「今回の対談は先日まで行われていた戦い。その経緯の説明とディアーネの処遇を決める事になると思うのだがそれは理解して居るか?」

「してる」


 無表情に何の躊躇いも無く頷くディアーネに内心不安に思ったが、それを押し殺して話を進めていく。部下に命じて詳細な資料とディアーネから送られた手紙の現物を用意し机の上に並べていく。


「今回の戦い。発端はへステア王国の領土内でゴブリンが発見されるようになったのが原因となる。これに関しての申し開きはあるか?」

「私がやった訳では無い。ただ放置していただけ」

「…………立ち退きをするように出した警告の手紙に対しての返信についてはどういうことだ?」

「負けると思って居なかった。あれはズルい」

「………………沙紀から話は行ってる筈だな。あの話を受けるつもりは?」

「無い」

「そうか……なら刑については後日言い渡す。少ない余生を悔いなく生きるといい」


 話にならなかった。今までこういった対談を行った相手はどれも油断ならない。いや、寧ろ胸を借りると言うべき格上の相手だったのに対して今回は内面まで完全に子供、正直予想外だった。沙紀たちが敵愾心を抱けなかった理由はこれか……

 このまま話して居ても時間の無駄だしさっさと終わりにしてしまおう。さて、さっさと帰って仕事に戻らなければ。

 特に得るものはなかったがこれも経験だろう。相手を過大評価しすぎるのも良くは無いな。得るものが無く協力する気が無いというのなら躊躇は要らない。ただ無感情に刑を執行するだけだ。そう見切りをつけ席を立とうとした時……


「待って。話がある」

「何だ?」

「へステア王国国王ゼロに決闘を申し込む」


 こうして冒頭に戻るのだ。正直意味が分からない。




 決闘に関しての提案を一蹴するとディアーネは無表情ながらにも明らかに不機嫌な様子になってしまった。そんなディアーネを無視して沙紀たちに話を伺う事にする。


「それでどうしてああいう事になったんだ?」

「いや、ディアーネが秘策があるっていってたんで信じたんですけど……」

「それがアレか……正直無茶苦茶にも程があるぞ」


 どういう思考回路があれば決闘などという結論に達するのか。


「ええと、清水君。ディアーネの考えって結局どういう意味なの?」

「……決闘ではお互い何かを賭けて戦うらしいから。それで自分の罪の清算でも求めたんじゃ無いか?」


 康生が半ば投げやりにそう言う。


「……一応フォローしておくと貴族の間では決闘は原則受ける事になっていから断られるのは想定していなかったのかもしれない。それにしても世間知らずだとは思うが」

「どういうこと?」

「まず決闘は暗黙の了解として受けなければならないとなってるが、前提としてある程度立場や身分が拮抗していないと申し込む事自体が出来ないんだ。だから今回ディアーネがやったように戦争に負けたのに申し込むなんて受ける受けない以前に、決闘として受理されないんだ」

「へぇ……」

「ついでに言うと決闘は基本生死問わずだ。今回に関して言うのなら負けて捕虜となった後に敵に対してチャンスを下さいって言ってるのと同じだな。しかも敵の大将に一対一と言う条件をつけて」

「ええと……ディアーネが迷惑をお掛けします」

「いや、謝られても困るんだが……それよりどうするんだ?このままだとそのまま刑を執行する事になるが」

「その……待って貰うことは?」

「まあ、国に戻るまでなら……だがそこまで時間は無いぞ?」


 何度も言うが俺としてはどちらでもいいのだ。上手く行ってくれればありがたいが、そうで無ければ後腐れなく処分してしまう。保留すると言った選択肢は無い。下手に温情を与えても感謝してくれるとは思えないし、甘い判断をして後々反逆の芽を残す気は無い。

 さっきは子供だと言ったが、俺はディアーネを甘く見てはいない。確かに情緒面では子供かもしれないが、魔法の力量だけみれば俺よりも遥かに格上だ。それに魔法使いは研究職、放置しておくと何をしでかすか分からない怖さがある。情緒面の幼さは免罪符にはならず。寧ろ何をしでかすのか分からないという不確定要素にすら繋がる。敵対していたのだし首輪を付けて引き入れるか殺すかの二択しかない。


「それは分かってるんですけど……その王様ならどうにかならないのですか?」

「無理をすればならない事も無いがあまり気が進まないな。強権はそう何度も振りかざしていいものじゃ無いんだ。それに敵対していた身だしそこまでしてやる義理はない。……ディアーネの事ばかり考えているが自分の事は大丈夫なのか? まあ色々思う所はあるだろうから、待つがそれでもいつまでも放置していい問題でも無いだろ」


 あくまで帰還を望むか、へステア王国へ国籍を移すか。この問題に対して彼らは誰一人答えを出せていない。聞かれた質問に対して出来る限り誠実に返したつもりだが、少し率直に伝え過ぎたのか一番精神的に弱そうな栞なんかは意識を失う寸前までいってしまった程だ。

 他のみんなも色々と思う所はあるようで時々難しい顔をして考え込んでいる様子が見受けられる。まあこれに関しては長い目で見て行けばいいだろ。


「えっとそれに関してはもう少し時間を貰う方向で……」

「それは構わないが……人の世話を焼くよりは自分の事を考えるべきだと思うが」

「いや、だってほって置けないし……」

「……一応言って置くが、お前らは被害者でディアーネに対して罪悪感を感じたりする必要は無いんだからな。あいつのやった事はどう考えても拉致、しかも帰還の可能性はかなり薄い。怒りを抱くのは普通だしもっと糾弾してもいい立場なんだぞ?」

「……考えて置きます。でもやっぱり何とかして生きていて欲しいんですよ。確かに倫理観も薄いし薄情だし自己中でどうしようも無いとは思うですけどね」


 困った様に笑ってそう告げてくる。まあ分かっていたがな。

 甘いとも思えるかもしれないが、これも一種の美点だろう。自らを害した相手を許すという事は簡単に出来る事では無い。俺だったら確実に何かしらの方法で報復を企てるだろう。王様なんてやっているが俺の器は基本的に大きくは無いのだ。やられたらやり返すしそのやり方も陰険な方だろう。そういった意味では四人の中で康生などは俺の同類の匂いがする。


「なあ沙紀」

「何ですか?」

「いや、もしかしてだけど沙紀って運が悪かったりするのか?」

「え……何でですか?」

「その反応だと心当たりがあるようだな。いや単純にマイナスの効果を及ぼす様なスキルを持っているようだからな。言うならば不幸体質か?」

「ほ、本当ですか……」

「ああ、だが効果自体はそこまで強いものでも無いから、大事に至る事は無い……と思う」

「いやいや、余計に不安が煽られるんですけど」

「いや、俺は専門家じゃあないから詳しくは分からないんだよ。ただそう言うスキルを持ってるって事がわかるだけで、一応これも魔法に分類される分野にあたるから詳しく知りたければディアーネにでも聞いたらどうだ?」

「ちょっと失礼します……」


 礼儀正しく一礼して、向う側で拗ねているディアーネの方に歩き出した。そう誘導した俺が言うのも何だが色々大変そうだな……


「で、これでいいか?」

「はい。少し二人で話す機会が欲しかったものですから」


 先程から真剣な表情で此方を見つめてくる康生。先程から話をしたそうな表情をしていいるたのでこうして沙紀をこの場から立ち去らせれて少し時間をつくったのだ。


「それで話す内容は移民の事についてで構わないのか?」

「はい。正直な所、帰還は望み薄ですよね?」

「そうだな。すごい頑張ば上手く可能性が僅かにある程度の確率だな」

「それなら少しでも早く実務的な話に移らないと職業の話が流れたりしません?」

「一応面倒を見る気はあるからそのは話自体は消えないとおもうが、紹介できるランクが落ちる可能性については否定できないな。今は遠出しているからいいが、国に戻ったらそう簡単に会えるような立場でも無いし」

「ですよね……なら僕に関しては帰還は諦めます。ですので少しでも条件がいい職業を紹介して下さい」


 概ね予想通りの内容ではある。既にそれなりの月日をこちらで過ごしている様だから、最悪の場合についてはそれなりに考えていたのかもしれない。


「そう簡単に諦められる事でも無いと思うが……いいのか?」

「そもそも割と諦めていましたから。ディアーネは研究してくれるとは言ってくれてましたけど、出来るとは一度も言ってくれませんでしたし、こういった場合についても十分に考えてはいました。それに今は協力し合ってはいますけど、彼女達とはそこまで仲が良い訳でも無いんですよね……」

「まあ全員タイプが違うしな。それでも抜け駆けの様な真似をして問題無いと思って居るのか?」

「一応参謀のようなポジションにいますからその辺はどうとでもなります。考えていたの計画では栗原君を中心にしてどうにか生計を立てていくつもりでしたが、それよりは此方の方が上手く行きそうですから」

「そうか……まあでも出来る限りは仲良くしておいた方がいいと思うぞ? 数少ない同郷だしいざと言う時助けを求めることができるかもしれない相手でもある」


 苦言を呈しておくが効果は薄そうだ。まあそれも個人の自由だと言ってしまえばそれまでだが。

 康生に関しては後で詳しい仕事の資料を渡すという事で話を終えた。取りあえずは一人か……後三人、どのような道を選ぶのだろうか。

 それと、ディアーネに関しては本気でどうすればいいのだろうか……




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