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第十話 ダンジョンマスターと召喚者たち


「取りあえず、話を聞かせて貰っても構わないか?」

「ああ、はい。それより先に聞きたいのですが……もしかして日本人ですか?」

「まあ一応そうだな、ただ知識はあっても記憶が無いから実感が湧きづらいが」

「え……あ、はい。なんかすいません」

「いや、気にするな。そのことに関しては特に不幸だとも思って無いから……それで、その質問からすると君たちも日本人と言う事で間違い無いのか?」

「はい。日本で学生をしていました。私の名前は香川沙紀です」

「元の名前は分からないが今はゼロと名乗ってる。それで話の方を聞かせて貰っても構わないか?」


 敵対勢力の主犯と思われる魔法使いが魔力切れにより意識を失っているので、今の内に囚われていた日本の学生たちに話を聞かせて貰うことにした。

 詳しい内容に入る前に簡単にだが彼らに自己紹介をして行って貰ってた。まず一人目が今名乗った香川沙紀、身長百六十と女性にしては長身の身体と艶のあるストレートの黒髪、やや釣り目がちの瞳も合わさって可愛いというよりは美人、かっこいいなどと言った評価が似合いそうな少女である。

 人当たりは良さそうで嫌味を感じさせない友好的な笑みを浮かべて話しかけてくれている。ただ何と言えばいいのだろうか……感じさせられる正の印象とは別に幸が薄そうだと感じてしまう。

 二人目は清水康生、身長百七十ほどの中肉中背の体格の少年である。先程代表を決める為に話し合ってくれるよう頼んだ時に司会進行役をやっていた事からまとめ役、或いは参謀のような立ち位置にいるようだ。俺としては彼が代表として話しかけてくると踏んでいたのだが、実際に前に出て来たのは沙紀である。率先して前に立つ性格では無いのかそれとも他に考えがあるのか、現状では不明である。

 三人目、栗原大樹、百八十を超える長身と刈り上げた坊主頭が印象的な少年である。学校に通っていた時は野球部に所属していたらしく髪形に関してはそれが理由だろう。

 軽く話してみた感じだと人格面に関しては問題は見当たらなそうだった。魔法への適性が高く彼らの中で唯一戦闘能力を持っているであろう人物だが、敵対する意思は薄そうなので特に問題は無いだろう。

 そして最後に四人目、加藤栞、身長百五十半ばほどの小柄な体躯と肩の高さ程で切り揃えた黒髪のどこか小動物を思わせる少女である。人見知りするのかそれとも警戒されているのか、会話をする際にかなりぎこちないものになってしまったが、魔法への適性も低く戦闘も持ち得ていない事から現状ではそこまで警戒する必要がある相手とは言えないだろう。

 以上、四名が今回保護された人間である。酷い話だが俺と同郷と言う以外は特に際立った面の無い。良くも悪くも平凡の域を出ない普通の少年少女だろう。


「ええと……まず私たちはディアーネ、あの魔法使いの子にこっちまで召喚されてきたの」

「拒否権はあったか?」

「なかったと思う。地面が光り出したと思ったら一瞬でこっちまで来たから」

「その後の待遇はどうだったんだ? 暴力を振るわれたとか、食事を抜かれたなんてことはあったりしたか?」

「脅されることはあったけど、実際に何かをされた事は無かったです。まあ食事は頼まなければ出してくれませんでしたけど」


 苦笑いのような表情で沙紀はそう語る。あの魔法使いに対して憎しみを抱いているとかそういった感情はあまり無いようである。あの魔法使いが割と幼い外見をしていたことにより敵愾心が緩んだのだろうか? 内容自体は不満を言っているが、親しみすら感じさせられる声音である。

 その事に少しだけ眉を顰めてしまう。あの魔法使いの罪は決して軽くはない。と言うよりも扱いとしては敵対勢力の長である。温情が与えられるような立場では無いだろう。

 だが魔法使いを罰する事が召喚された日本人達との関係を悪くする可能性があると言うのは少しだけ面倒だ。


 俺の魔法使いに対する心境は決して良いものでは無い。敵対した身であるし忙しい時期に手古摺らされ相手でもある。拒否権無しでの強制召喚という拉致言えるような行動も正直気に入らない。

 だが恨んでいるかと言われると正直そこまでではない。確かに面倒を掛けられた相手ではあるが、DPを消費してしまった以外では大した被害は無く。恨みと呼ぶには些か向ける負の感情は弱すぎる。気に入らない相手ではあるが、死んで欲しいと思う程では無く。かと言って助けたいと思うような相手でも無い。それが俺のあの魔法使いへの感情である。

 だからあの魔法使いを罰する事が面倒ごとに繋がると言うのは非常に面倒だ。どう対処するか少し考えていると沙紀は何か決心したような表情で此方に視線を向けて来た。


「あの……ディアーネってこれからどうなるんですか?」

「……そうだな。順当に行くならば死刑だろうな。このダンジョンから生み出されたゴブリンによる被害はそれなりに大きいし、今後も恒久的に悩まされる事になるだろうしな」

「そんなっ!!どうにかならないんですか?」

「一応どうにかあるにはあるが……多分あの魔法使いは話を受けないだろうな。それにこの方法自体がかなり非人道的な手段になるし」

「教えて下さい。私が説得しますから!!」


 ……何がここまで彼女を駆り立てるのだろうか? もしかして何らかの洗脳を受けている?

 疑惑を覚え、こっそりと解析の魔法を掛けてみたが結果は異状は無し。杞憂だったかようだがそうなるとただ単純に見捨てられなかった事になる。よっぽどのお人好しなのだろう。


「……あの、今何かしました?」

「ん、ああ、何か精神的な操作を受けていないのか調べさせてもらったんだ」

「そ、そうですか……まあいいです。それより肝心の方法について教えて貰ってもいいですか?」

「そうだな。簡単に言うと国家に対する従属契約を結んで貰う事だ。言い方は悪いが国家の奴隷になるって事だ。研究成果の全ては国へ寄贈と言った形で奪われる形になるから、生粋の魔法使いであればまず受けないだろうが……」

「説得します!!」


 その言葉に内心で苦笑を浮かべてしまう。ここまで予想通りに事が運んでしまうと何となく張り合いが無く感じてしまう。

 生粋の魔法使いは自らの知識が広まる事を嫌がる。あの魔法使いもそれに類する感じがしたので、この話を提案した所でまず受けはしないだろう。

 それで万が一受けて貰えればそれはそれで有難いし、そうで無くても彼ら彼女らが説得して失敗したのなら同じ罰せられたにしても俺に対する心証は大きく違うはずだ。絶対に何とかしてみせると言う決心をしたような表情をする沙紀には悪いと思うが、少し話を誘導させて貰った。ズルいとは思うが、他に上手く事を終わらせる方法が思いつかなくてな。

 あの魔法使いに関してはこれでいいだろう。成功しても失敗しても悪くは転ばない。どちらかと言えば成功してくれた方が国に取ってプラスに働くからできれば成功して欲しいといった所だろう。


 次は彼らをどうするかか……少しだけ顔を上げ彼らに視線を向ける。何と言うか微妙な年代なのだ。大人として扱うには若く、子供として扱うには少し年長すぎる。日本の学生、多分高校生くらいだと思うのだが、こっちの世界だと十分大人扱いされる年代なのである。

 だからと言って放り出すのは良心が咎めるし、地球の情報が他国へ流れる事も出来れば避けたい。色々と扱いに困る存在なのだ。


「君たちは日本に帰りたいと思ってるのか?」

「出来るのなら……そうですね、帰りたいと思ってます」

「……そうか」

「あの……ゼロさんは帰る方法とか知っていたりしますか?」

「悪いけど知らないな。記憶が無いせいかそこまで強く帰りたいとも思ってはいないから調べてすら居なかった。それに既にこちらでの立場や生活もある。帰りたいからと言って帰れるような状況でも無いからな」

「そう……ですか……」

「すまんな。それで君たちの今後についてだが……何か考えて居たりはするか?」

「いえ、正直何も考えていないです。これまではディアーネが勝ったら帰還の魔法の開発をしてくれるって言っていたので、それを目標にしてきましたが……」

「そうか……」


 考える。

 彼らの面倒を見る。それ自体は悪い選択肢では無い。なにせ他国へ地球の知識が流出する可能性を避けられるのだから。

 だが全面的に面倒を見ると言うのは少し違う気がする。たった四人、それだけの人数の生活費を負担する程度大した労力では無い。だがそのお金の出所が国民の税金から来ることを考えるとそれは流石に優遇のし過ぎとも考えられる。確かに同郷だが言ってしまえばそれだけなのだ。血縁関係にあるわけでも養わないといけない義務がある訳でも無い。第一彼らのような人種が見つかる度に全員分の生活費を負担するのかと言う言う話だ。

 それに彼らは帰還を望んでいる。そうなると彼らはへステア王国の国民という訳でも無いのだ。税金を使って外国人の生活を見るなど少し非常識が過ぎるだろう。

 これで完全に帰還を諦めるというのなら、正規の手順で移民として受け入れる事も可能なのだが……


「……少しいいですか?」


 話に割って入って来たのは中肉中背の少年、清水康生だ。沙紀が時折助けを求めるような表情で彼を見ていたにも関わらず一向に助け舟を出す様子が見えなかったのだが、今更なんの用なのだろうか?


「構わない。何が聞きたいんだ?」

「ゼロさん……貴方がどういった立場の人物なのかを聞かせて貰っても構いませんか?」

「……それはどういった意図で?」

「いえ、少しだけ疑問に思ったんです。僕たちと同じ日本人を名乗っていますけど、立場や身分の話を全くしていません。周りの人の反応を見るにそれなり以上に高い事は分かるのですけど、もしかして指揮官なんて目じゃ無いくらいに高い身分だったりしています? さっき言った契約抜きでもどうにかできるような」


 ……驚いた。なるほど、これまで黙っていたのは単純に此方を信じられるかを見極めていたのか。確かに同郷だとしても信用できるという理由にはならない。思考を止めて無計画に着いて行っていた結果、騙されて居たりしたら目も当てられない。

 自らが話し合いに出なかったのも会話を外から眺めて観察する為、少し慢心していたのかもしれない。平和な日本暮らしの学生など取るに足らない存在だと。対等な相手ではなく庇護対象、助けてやらなければいけない相手だと思い込んでいなのかもしれない。彼らの事は大人として扱おう。その方が色々問題も少なく済むしな。


「改めて名乗ろうか。へステア王国国王ゼロと言う。舐めた真似して悪かったな。聞きたい事があるなら聞いてくれ、出来る限りは誠実に答えよう」


 庇護対象として扱わない。が代わりに情報提供くらいはいいだろう。現状を知らなければ対策も何も無いだろう。ある程度は大人として扱うとしても彼らが情報不足なのは否めないだろう。ここで聞かれる質問で何となくの人間性も掴めるしな。


「……それならまず、僕たちの立場について教えて貰っても構わないでしょうか?」


 少し驚いた表情をしたものの、直ぐに立て直して現状の把握をしようとしてくる。やはり優秀である。俺も出来る限り誠実に答えると言っていたので、彼らに配慮して黙っていた事を素直に答える事にする。


「他国、しかも国交が無く交通手段も無い国の拉致被害者、正直な所助ける必要も意味もない。それでいて他国に行かれると困る。そんな存在だな」

「それなら……いえ、なんでもありません」


 大成は何かを言葉にしようとしたが寸前で堪える。多分周りへの配慮の為だろう。『もし他国に行こうとしたらどうなるか』そんな事、言うまでも無いだろう。境遇には同情するし可能なら何とかしてあげたいとも思う。だがそれは国の負担のならない範囲内ならだ。

 例え故意でなくとも国に取って不利益になるようなら始末しなければならない。これが国を預かるものの最低限の義務である。


「他に質問はあるか?」

「それならへステア王国と言いましたよね。その国について聞いてもいいですか? 殆ど資料には載っていなかったので」

「それは仕方が無い。まだ建国から数年の国だからな。だがへステア王国についてか……そうだな、一言で言うならダンジョンマスターが統治する国、と言うのが一番適切だろうな」

「ダンジョンマスターが?」

「ああ、ダンジョンマスターについての説明は必要か?」

「あ、大丈夫です。でもダンジョンマスターって人もなれるものなのですか?」

「俺も他には見たことは無いがそうみたいだな。最も俺も気が付いたらなっていただけでそれ以前の記憶は全くと言うほど無いんだが」


 康生は少しだけ困った様な表情を浮かべる。記憶喪失だと言われても少し反応に困るのだろう。俺も逆の立場だったら似たような感情を抱いただろうし無理も無い。

 だが直ぐに気を取り直したように質問を繰り返し、俺もその問いに一つ一つ丁寧に返答していく。彼らの将来を今、この場で決めなければならないのだ。その辺、多少は考慮して上げるべきだろう。

 そしてしばらくの問答の末対話が終える。非常で現実的で救いのない現実を。


「……それで、僕たちは選ばなければならないのですね。」

「そうだな。別に他国の人間をだからと言って不利益を被る事は無いが、その場合だと俺から出せる支援は最低限のものになるし国からの保護も無い。完全に自分の力だけで生きていかなければならなくなるだろう。へステア王国はかなりの好景気だから仕事に困る事は無いだろうが、身分が無いと言うのはそれだけで色々と足枷になる筈だ。

 逆にへステア王国に身分をつくると帰還はほぼ絶望的になるだろう。俺に地球との国交を求める意思が無い以上はそれは確定的だ。代わりに国民となれば色々と優遇をしやすくなる。具体的に言うのなら最低限の生活の保障や能力に合った職業の斡旋など、まあある程度の生活は保障されるだろう」


 要はへステア王国で一生を過ごすか、それともあくまで日本への帰還を目指すかと言う話だ。


「なぁ、いきなり口を挟んで悪いけど何で地球と国交を結んだら駄目なんですか?」

「へステア王国に取って利益が無いからだ。寧ろ不利益しかない。こっちの世界は色々と発展途上で地球の強国と言えるような国に干渉されたら簡単に屈する事になる。広大な未開発の土地に手付かずの化石燃料の産出地、狙われない理由を考える方が難しい」


 現実として往復が可能かは置いて置くとして、出来る限りこちらの世界の情報は秘匿しておきたいというのが俺の考えだ。

 地球人には魔力など存在しないのであれば、ここまでする必要は無いのだが、ここに召喚された四人の内二人が魔法が使用できる程の魔力を持っていたのだ。他に持っている人が居ないと考える方が難しい。

 どうにかして地球への移動手段を開発したとして、それは十中八九魔法によるものだろう。魔法のエネルギー源が魔力であり、地球にそれを持っている人が存在している以上、此方の存在を知られると言う事はそのまま逆に攻め込まれる可能性の有無を示しているのだ。


「大樹だったか? こっちの世界に来てからどのくらいの月日が経った?」

「……もうすぐ一年になるな」

「なら、その間の地球での扱いはどうなってると思う? 集団失踪、集団誘拐、集団拉致、どう扱われているにしたって帰還したとすれば事細かく事情を聞かれる筈だ。それによってこちらの存在が知られる事自体を俺は恐れているんだ」


 だからこそ、帰還には協力するつもりは無いし、出来れば開発も控えて欲しい。だが故郷を諦めろとは言いづらいので、へステア王国に庇護を求める様なら帰還を諦めろ。そう言っているのだ。それに酷い話だが断られた場合でも帰れるなどとは思って居ない。

 研究が実を結ぶ前提で話をしているが、本気で開発に打ち込んだとしても成功する見込みはかなり薄いからだ。条件を選ばずランダムに召喚して来るより、地球の座標を探し出し正確に転移する方が遥かに難しい。多分現実的に地球へ行ける可能性が出て来るのは最低でも研究が十年単位での月日を刻んだ後だろう。しかも国が全力でバックアップしたとしての場合でだ。

 彼らの為にそれだけの労力を使ってあげる気にはなれないし、その結果が自国を破滅に追いやる可能性があるとすれば考慮にすら値しない。

 彼らはまだ魔法の基礎を抑えた段階にいる。ここからかなりの難易度が要求されると思われる魔法を開発、安全に行使できるようになる為に必要な技術、絶対的に足りないであろう魔力を補填する方法。寿命が尽きるまでにどうにか出来れば早い方だろうか?



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