第九話 香川沙紀
不満が無いとは言わない。むしろ不満ばかりの人生だ。
14歳の時、両親が交通事故で死んだ。居眠り運転だ。当然悲しかったし恨み事故を起こした当人を糾弾したりもした。だけどそんな事をしても両親は生き返ったりはしない。返って来たのはただ事故を起こした当人に嗚咽交じりの謝罪の言葉だけだった。
これは後になって知った事だったけど、この運転手は仕事で過剰なまでの仕事を強要されていて、限界を優に超えた仕事が疲労となり事故につながったのだという。確かに運転手は加害者だが同時に被害者でもあったのだ。
間接的な原因は会社の方にあるのだけど、それを知った頃には既に恨みよりも無気力かんを感じていた為特に何かしようとも思えなかった。
こうして私、香川沙紀は何の非も無く、ただ運が悪かったために天涯孤独の身となったのだ。
月日は流れる。無情にも、何の慈悲も無く。
フィクションとは違い、身寄りの無い中学生を引き取ってくれる物好きな人間など現実には存在せず、私は施設に預けられた。普通の、身寄りの無い子供が預けられるごく一般的な施設である。そこには陰謀も陰謀も打算も何一つ存在せず、ただ条件に合ったのが偶々そこだっただけ、そんな理由で暮らす事になった施設だ。そこで私はいじめに遭った。
普通に挨拶を交わし、普通に部屋に割り当てられ、それでいて当然の様にいじめの対象にされたのだ。
多分誰でも良かったのだろう。ただストレスの履け口が欲しかっただけなのだろう。施設暮らしというのは思いのほかストレスが溜まる物なのだ。それぞれ理由はあるが親が居ない。もしくは親元を離れるだけの理由が存在し、見ず知らずの他人と共同生活を送らなければならない。だからこそ、会社からの賠償金と親の遺産がある事で他より多少恵まれて居るような私はいい履け口だったのだろう。
そう偶々またしても運が悪かっただけだ。
頼れる知り合いなど居なく頼るべき相手も居なかった。悩んだ末に相談した施設の管理者は少し時間をくれと言ってくれたのだが結局はただの時間稼ぎ、事を荒げないようにと責任の擦り付けに奔走したようである。
それから二年ほどそのような環境で生活し続け、高校生になると同時に寮が住まいが可能な高校を選び施設を出た。
将来的な事を考えると余計な出費は抑えるべきなのだろうが、その時の私にはいち早く今の現状を脱出する事しか考えられなかった。
そうして入学を終えてから半年余りの月日が過ぎ、どうにか学校にも馴染めてきたある日……掃除の為教室に残っていた私を含めた四人の高校生が拉致の被害にあったのだ。しかも生半可な拉致では無い。違う世界、異世界召喚と言う世界規模での拉致被害である。助け出される見込みはない。正直な泣きそうだった。実際少しだけ泣いた。
「……微妙」
これが私達を拉致した人物、ディアーネ・エクス・フォリアの最初の言葉である。端的に言って最悪である。加害者側が言っていい言葉では無いだろう。
少女……と言っても見た目通りの年齢では無いらしいが、見た目は10かそこらの子供なので一応そう言う事にしておく。はとある魔術書を見つけそれを試してみたくなったのだとか、その結果召喚されたのが偶々私達……またしても偶々、運が悪かったらしい。
こうして私たちの異世界生活が幕を開けたのだが……正直ディアーネを殴りたいと思ったことは一度や二度では無い。まあ、反抗しても簡単に鎮圧されるだけなのでやらないけど。
違う世界へ行くと聞けば夢がありそうな響きだが、やはり現実はそうは甘くはない。平均的な女子高生程度の力しか持たない私に出来る事など高がしれていて、ただ現実に打ちひしがれる事しか出来なかった。
幸いなのは私達をこちらに呼び寄せたディアーネは特に何かを求めているわけでは無いという事だろうか。興味が無いからか世話をしてくれる事はないけど頼めば食料などは用意してくれるし、何かをすることを強要させられることも無い。
外はゴブリン(気持ち悪い二足歩行の緑の生物)の巣となっているようで逃げだす事は出来ないけど、まあ何とかやっていけはくは無い状況だ。
それに、それでも幸いと言える点もある。
「こっからここまで、調合しておいて、期限は夕刻まで」
「分かりました」
私には無いよりはマシと言った程度だが魔法の才能があるようなのだ。それを買われたのか最近だと魔法薬の調合を任されるようになった。既に拉致られてから一月近くの時間が経ち、どうにか邪険にされる対象から居ない寄りマシと言ったレベルにまで待遇を引き上げる事が出来たのだった。
ほかのみんなも何とか立ち直り始めた様子で割り振られた仕事にグチグチと文句を言いながらも従っている。実際待遇は悪く無いのだ。私達に興味が無いからこそ、邪魔だと思われない限り暴力を振るわれる事も、何かを強制されることも無い。
食事なども頼めば出してくれるし、魔法の練習にも付き合ってくれる。無表情だが無感情では無いようで時々興味深そうな様子で話掛けて来たりもするのだ。
ただ倫理観と言うか、価値観が決定的なまでに異なっているようで、私達を強制的に拉致った事に対しても何も感じていないようなのが問題なのだけど……平気な顔で私達を実験動物にしようとするし。
まあ悪い子では無いと思うのだけど、正直、少しだけ怖い。悪い子では無いと思うのだけど……
更に一月ほどの時間が経った。保身の為に積極的に距離を詰めようとした成果か、ディアーネとの関係は良好である。最近だと確かに色々と問題のある子かもしれないけどそこまで悪い子では無いのかと思うようにもなり始めた。いや、分かってるよ。長時間一緒にいると被害者が加害者に共感してしまう現象……名前は何ていうんだっけ?
まあいいや、でも外見が子供だし無理矢理連れて来られた以外は特に何かをされた訳でも無いからイマイチ嫌う事が出来ないんだよね……
他のみんなも似たような感じみたいだし、まあ価値観や倫理観がアレなだけで本人はそこまで悪い子じゃないからだと思うけどね。
時折みんなで集まって話し合う事もある。全員偶々掃除が一緒になっただけでそこまで仲がいい訳では無いのだけど、こんな事態だ。出来る限りは仲良くしようとは全員で決めてある。
「まず僕の方で分かった事を話していこうか。まず世界観としては中世ヨーロッパかそれに近い。ただ魔法があるからか、一部では地球よりも発展している分野もありそうだ」
そう最初に話を切り出したのは清水君。正直学校にいた頃は成績はいいけどあまり目立たない男子と言った印象だったのだけど、ここに来てからはみんなのまとめ役のような立場となっている。
最初の話し合いの時に一番冷静に情報を集めて来てくれたのが決め手となったのだと思う。それに自分の意思を押し付けるのでなくて情報収集と方針の提案に終始しているので特に諍いが起きなくて済んでいる面もあるのだ。少し着いて行けない面はあるけど頼りになる人だ。
「それで、俺達はどうするべきなんだ?」
ぶっきらぼうにそう言い放ったのは栗原君、一年にして野球部のレギュラーにも抜擢された期待の新人で坊主頭と高い身長が印象的な男子である。
ちなみに私以外に魔法の適性がありそうと判断されたのも彼である。ただ適性がある魔法が身体能力の強化などシンプルなものが多かったからか、ディアーネは彼に見向きもしなかったのだが。
「それよりまず報告の方を済ませて貰ってもいいか? 何が出来るか分からないと方針の決めようが無いから……そっちの二人もそれでいいか?」
清水君がそう問いかけて来たので私と隣に座っている加藤さんは頷く事で答える。
加藤さんは割と人見知りであまり意見を言う事は無いけど、文字を読むのが早いので清水君の手伝いをして色々調べて貰っている。
以上の三人に私を含めた四人が協力し合う仲間のような関係で
「ああ、俺の方は前に言った通り、魔法の訓練をしてたな。前よりは大分強くなったと思う」
「ディアーネには勝てそうか?」
「多分無理だ。ディアーネがどのくらい強いのかは分からないけど、基礎を修めただけの俺が勝てるような相手じゃ無いだろ。何せ地球から無理矢理こっちまで召喚するような相手だぞ?」
「それは私も同感かな? 最近は少しだけど研究の手伝いをしてるけど何をやってるかさっぱりだもの。それといくつかヤバそうな魔法も見つけたから、これの対策も練らないといけなそう」
そう言っていくつかの魔法の事をみんなに話していく。洗脳や呪術、幻術など、これらの分野の魔法はどれも対策しておかないとそれだけでヤバそうなものも数多い。私たちの目的であるディアーネの打倒を実際に行うためにはやらなくてはならない事は多そうだ。
「取りあえず同じ土俵に立たない事には話にならないからな……」
「待遇の改善を求めただけで魔法を撃ち込まれるとは思わなかったぜ……」
「どうにかして帰る手段を探す為にもディアーネにも協力して貰わないと」
私達だけでは日本に帰る手段は無い。ディアーネに私達を呼び出した本を貸して貰っても全く理解できなかったし、送還する魔法はディアーネの知る限りは存在しないようだ。
だからこそ、そういった魔法を創り出せそうなディアーネに頼んでみたのだけど、全く相手にされなかった。何でそんな事をしないといけないかと逆に聞き返されたりもした。
最近だとそれなりに会話が続くようにはなってきたけど、だからと言って私達の条件を無条件で叶えてくれるような存在では無い。私達にしたことに対して罪悪感を抱いていなければ、哀れにも思って居ないようなのだ。
「……勝てば一年間は俺達が帰還するための研究をしてくれるんだよな」
「負けると思って居ないからこその承諾だとは思うけどね。それでもチャンスが無いよりはよっぽどいい」
「問題は勝ち目が見当たらないって事だけどね」
「その為の作戦だろ。見た所ディアーネも完全無欠には程遠いし、上手く立ち回ればやりようはあると思うんだ……いやまあ、戦う手段を持たない僕が言うのも何だけどね」
清水君は自虐的にそう笑うけどこうして確固たる目標を持つことが出来たのは彼のお蔭だ。そう悲観的になる必要は無いと思うけど……
私も頑張らないとね。取りあえずはディアーネが用いた魔法を覚えてみんなに報告して、それと栗原君を補助するための魔法を探して……それと最近味を占め始めたディアーネのご飯も作らないと。
「わりぃ、ここのとこもう一回教えてくれねぇ?」
「……魔力操作が雑」
「いや、それを具体的にどうすればいいかって聞きたいんだが……」
打倒ディアーネを掲げているものの、全員ディアーネと関わる事はそれなりに多い。一番多いのは研究の雑用のような事をさせられている私だけど、栗原君は魔法で躓くたびに教えを請いに来るし、清水君は外の情報を得る為にディアーネに邪険にされない程度に話を聞きに来る。
加藤さんはまだ苦手意識があるようでそこまで積極的に関わろうとはしないけど、それでも食事などは一緒にとっている。
「ちょっとヤバいかもしれない」
そしてそんな生活が半年にも及ぼうとした時……ディアーネが真剣な表情でそう告げて来た。そうもこの地が攻め込まれているというのだ。
これを見て。そう告げたディアーネが手を振るうと空中に映像が映し出される。ほぼ立体映像にも似た様子に全員興味を持った様子でそれを眺めた。全くの未警戒に。
騎士甲冑を着た人間とゴーレムの軍団がゴブリンを殲滅する様を、血しぶきが舞い、臓物が飛び散っていく。フィクションではあり得ないようなリアルなその様を。
何の心構えも持たずにそんな光景を見せつけられた私たちは胃の中の物を吐き出してしまった。
「「「うぇぇぇぇ」」」
「「「おえぇぇぇぇ……」」」
「え!? あれ!?」
私達が急に嘔吐してしまった事でディアーネがうろたえだしてしまう。だけどそれに構ってる暇はない。……うえぇ……キモチワルイ……
出すもの出して背中をポンポンと撫でてくれるディアーネに大丈夫と告げてから、改めて画面に視線を向ける。正直キツイ……けど心構えさえ出来てれば何とか……
「みんな平気?」
「何とか……」
「酷いもの見た……」
「うぇぇぇ……うぇぇぇぇ……」
一人を除いて全員どうにか無事そうだ。
「加藤さん。大丈夫……」
「だ……大丈夫……」
「うん、無理そうだね。ちょっと部屋に戻って休んで居た方がいいよ」
「うん……ありがと……」
今にも死にそうな表情をした加藤さんをディアーネに魔法で綺麗にして貰い部屋に連れて行く。割と人見知りな方な加藤さんにこれは辛いよね。私も正直少し休みたいし……
その後、残った全員がどうにか立ち直った所で改めてディアーネに説明して貰う。
「えっと……今いるここはダンジョンで、どっかの国の邪魔になったみたいで討伐に来たみたい」
「どういう事なの?」
詳しく説明を聞くとダンジョンとはかなり危険な場所らしく多くの人が討伐しに来るらしい。ディアーネがここに住んでいるのはダンジョンマスターについての研究を行いたいからで、比較的難易度の低いダンジョンを勝手に制圧したからなのだとか。
ここがダンジョンだと言う事自体が初耳だし……清水君に視線を向けると非常に難しい顔で顔を振られた。どうやら清水君も知らなかったみたい。
ディアーネに頼んで今の状況を分かり易く話すように頼む。
「ダンジョンは危険、だから討伐するのだけど、私の場合占領した後は放置し続けた。それで勝手にゴブリンが繁殖したのかもしれない」
「えっと……それで被害が出たから討伐に来たと」
「そう考えるのが自然」
なるほど、ゴブリンは人を襲うらしいから危険だと判断されて討伐隊が来たと。まあそれはそうだよね。酷いかもしれないけどゴブリンって生理的に無理、調べてみて知ったけどアレって人を襲って孕ませるらしいし。本気で無理。
「……それなら素直にここから立ち退けばいいんじゃ無いの?」
「それは嫌、私はそれなりに優秀な魔法使いだから見つかったら拘束される可能性が高い」
「それなりに優秀って……それなら逃げる事は出来ないの?」
「……私一人なら出来るよ。いいの?」
「良くない!!良くないから!!」
どうも感性が独特と言うのか……悪い子じゃあ無いと思うのだけど、
「これからどうするの?」
「抵抗する。後は成り行き次第?」
「行き当たりばったりは良く無いと思うのだけど……」
とは言っても私にこの状況をどうにかする手段などは思いつかず、結局はディアーネに従うしか無いのだった。
そして半月後……ディアーネ宛に送られて来た手紙を読んで早々にディアーネが燃やし尽くし、仏頂面で返信を書いたりしながらも戦いは進んだ。それ、良かったの?
「何か押されて無い?」
「大丈夫……恐らく多分、メイ、ビー」
「それ、使い方間違ってるよ?」
碌な事教えないな、男子……
「でも本当に大丈夫なの? かなり攻め込まれてるみたいだけど」
「正直やばい、無理、助けて、敵がえげつないよ……」
何だか生身まで見た目相応の口調になりつつあるディアーネの頭を撫でて落ち着かせる。こうすると目を細めて嬉しそうな表情をすることは最近知った事だ。今の所私しか許されていない特権である。かわいい。
「どんな状況なの? 私はどこまで攻め込まれたとかしか分からないから」
「頑張って対策を練る度に敵が変わるの……何あれ?爆弾積んだゴーレムって意味が分からないよ。何でダンジョン内に建物をつくり始めるの? 毒を撒くとか止めて解毒が大変だよ……もう無理……」
「あーうん」
どうやらかなり厳しい状況みたいだ。どうにかして上げたいけど……はあ、最近ようやく初級本の魔法を使える様になった私じゃあ戦力外だよね……、でもこのまま放ってはおけないし……
「あーほら、三人寄れば文殊の知恵とも言うし、皆を集めて意見を聞いてみるのとかはどうかな?」
「……え?あいつ等役に立つの?」
「……ねぇ、今だから言わせて貰うけど、それ加害者であるディアーネが言っていい事じゃ無いからね?」
急に毒を吐いたディアーネを諫めて置く。仲良くなって忘れかけていたけど、ディアーネは加害者なのだ。それなのに今のこの発言は無いだろう。まあ本人は罪悪感どころか何が悪いのかすら分かっていないような気がするけど。
こういった状況では清水君がかなり活躍しそう。だから後は任せた!!
「うわ、まじでえげつな。ハメ殺しにされてる気分だ」
「そんなに不味いの?」
「不味い。イベントで言う負けイベをやってる気分にさせられるよ。徹底的までに隙を潰した正攻法で攻めながら、時折搦め手を混ぜてくる。しかもそれが一々対策しないと勝てないのに、基本は正攻法で攻めて来る方が多いとか言う……これ考えた奴、絶対性格悪いだろ」
そう言ってから地図を広げて、一つ一つ説明してくれるけど正直「うわぁ…」と言った感想しか出ないような戦術だった。これを仕掛ける敵も、それを予測して対策を講じれる清水君もどっちも頭がおかしいとしか思えない。まあ清水君の方は対抗策を考えるだけ考えて、実際に行うのは全てディアーネに任せてるみたいだけど。
清水君は頭をガリガリ掻いて地図上に色々書き込んでいく。その表情は険しく、今回の自体が相当ヤバい事を改めて実感させられるのだった。
「また読まれてたな……」
清水君が少しだけ不機嫌そうにそう呟く。いや、実際敵は凄いやばい。佐藤君が考案してディアーネが行ったそれは、全て上手く嵌まったようにみえた。戦線は確実に押し返し、これならどうにかなるのでは無いかとみんなに希望を抱かせるには十分な程の成果だった。
これにはディアーネも清水君を見直したようで、少しだけ見直したようなのだが見る目が変わった気がするのだが……
そんな悠長な考えは次の侵略でいとも簡単に覆された。前回の策は完全に対策されていたのだ。しかしこれはそもそも清水君も予測していたようで、されに別の罠を用意していた。だが、更に敵はそれを予測していたようで、その対策すら講じられていたのだ。
しかも信じられ無い事に、清水君が言うには今回のこれは偵察の可能性が高いという。一度目の撃退でこちらの対策の見に回っていた可能性が高いのだと。
正直高度な戦い過ぎて私にはついていけません。そもそも清水君はなんでいきなりこんな戦略戦を繰り広げられるの? え、戦略ゲームは得意? いやいや、それでもこれは無いでしょ。
ディアーネは今回の件を期に完全に清水君をアドバイザーとして採用する事を決めた様だった。少しだけ疎外感、清水君はディアーネに何が出来るかなど聞いているが、少しだけ口元が悪質に歪んだ気がするのは気のせい? もしかしてついでにディアーネの手の内を読んで置こうとか考えてない?
「……もしかしたらだが、敵もダンジョンマスターかもしれないな」
「……確かにあり得る。敵のゴーレムの製造速度は異常、何か種があるとは思って居た」
「ならこっちもそれに対抗するためにダンジョンの機能を使うしかないな」
「でも私はダンジョンマスターでは無い」
「それでもダンジョンマスターを捕獲して研究してたよな。その研究内容はダンジョンマスターの能力に関する者もあったと思うけど?」
「……清水は抜け目ない。私の研究を盗み見た? 勝手に見たら死ぬような罠を仕掛けておいた筈、どうやって突破した?」
「いや、カマを掛けただけ。しかし、やっぱり罠が仕掛けてあったのか、無理しなくて良かったな……」
最近は二人の息が合い過ぎて少しだけ疎外感を感じる。まあ仲良くなる事はいい事だと思うけど……
それでも徐々に戦線を押され続ける。いくら策を練っても、予想しているかのように対策され、そもそもの自力でも負けているらしい。まあ一番良く見る映像がゴーレムがゴブリンを蹴散らしている様子だから仕方が無いかもしれないけど。
あ、そう言えば敵の指揮官と思われる人物の撮影に成功したらしい。黒髪黒目の少し年上のイケメンだった。もしかしたら日本人って疑惑が私たちの中で浮かんでいる。清水君は隙あらば上手く拉致して停戦までもっていこうと考えていたみたいだけど、かなり警戒しているらしくてそれは難しいと言っていた。撮影もかなりの遠くからだし、そう上手くはいかないか。
「てか、今更ながら敵強すぎない? これ普通に考えて無理ゲーだろ。難易度HARDESTくらいはありそうなんだけど……何、常に先読みしてアンチって来て、無限に兵士を送り込んで来る敵って!?ゲームだったらブーイング不可避だろ!!チュートリアルさせてくれよ!!」
真面目に対策を考えてくれていた清水君もとうとう切れた。何度も何度も上手を行かれ続けた結果だ。これは仕方が無いと思う。
既に敵の足音はすぐそばにまでやってきている。……はぁ、死にたくないなぁ……
カンッ、カンッ、カンッ
『第一陣は人質の救助を!! 私は本命の足止めに向かう!!』
『『了解!!』』
ディアーネが掛けてくれていた翻訳魔法は切れているので何を言っているのかは分からないけど、剣を振り回す集団が徐々に近づいてくるのは普通に怖い。
ディアーネは騎士の中の隊長格っぽい人と戦っていて助けは期待できない。さっきから何度も魔法を当ててるのだけど全て弾かれているのだ。
限界まで頭を捻って頑張ってはいたのだけど、結局どうにもならなかったと言うか普通に無理、清水君と敵の攻防なんて半分も理解出来なかったし、なんと言うかディアーネに召喚された時点で詰みだったのだろう。
「やばい、やばいよ、もう敵は直ぐ目の前じゃん!!」
「く、来るなよ……」
みんな必死に武器を構えるが、どうみても頼りない。と言うか重い、剣って普通に重いんだね。唯一戦えそうなのは対ディアーネの主力として鍛えて居た栗原君だけど、額に汗が滲んでいる。小声で『頑張れば一人くらいなら相打ちに持っていけるかもしれないけどこれは無理』と呟いたので挽回は難しそうだ。
気付けば全ての味方は倒されてしまい。目の前には甲冑姿の騎士の姿が……終わった。
『もう大丈夫だ……言葉は通じるか?』
「あ、あの……ごめんなさい」
だが天は見捨てて居なかったようで、もう終わりかと感じた時、騎士は武器を下ろして、何かを話しかけてきたのだ。だがディアーネが掛けてくれていた翻訳魔法は既に効果が切れ、意味が理解できない私はただ謝る事しか出来ない。
それを見て、困った様な表情……兜で顔は見えないが、をして身振り手振りで私達に武器を捨てるよう伝えて来た。
「なあ……どうするよ」
「戦っても……勝てないよな?」
「それは……まあ」
私たちは顔を見合わせて、逆らっても無駄だと考え素直に武器を捨てることにした。これからどうなるかは分からないけど、抵抗したらそれこそバッサリとやられかねない。
実は密かにディアーネに頼んで毒薬を作って貰ってあるから、いざとなったら自殺しよう。魔法があるから一概にそうとは言えないけど、中世での捕虜の扱いを考えると最悪の事態は常に考えられると清水君は言っていた。特に私は女の子なのだからいざとなったら死んでしまった方がマシだろう。とこういうとこ凄いシビアだよね、彼、ああー死にたくないなー
武装を解除した私たちは特に何かされる事も無く、そのまま待機させられた。そしてそのままディアーネが戦う姿を観戦だ。
ディアーネが戦っている様子はまさに魔法使いといった感じだ。空を飛び、ビームの様な攻撃を何度も繰り返す。だけど敵対している騎士はそれを躱して斬りかかる。
何度か掠っているようではあるのだけど、全て大したダメージを与える事はできていないようである。あの高級そうな鎧が魔法を弾いているようにみえる。
「あー、これは無理だわ。多分だけど完全に対策されてる」
「そうなの?」
「多分、色々ディアーネに聞いたから分かるけど、あの攻撃って結構威力があるんだよ。それなのに当たっても大して威力がでてないように思えるから、多分魔法に耐性がある鎧か何かなんだと思う」
「へ、へー」
いつの間にか清水君が私より魔法に詳しくなってる気がする。魔法が使えない事で一番落ち込んでいた気もするけど、それでも調べるのは辞めないんだよね。
でもそんな清水君が切れたくなるような手を次々と考え出す敵はどんな人物なのだろう。正直私には想像がつかない。
しばらくして戦いは終わり、不貞腐れた表情のディアーネが捕縛された。……良かった。どうやら問答無用で殺されるような事は無いみたいだ。
「……これから敵のボスがくるみたい」
「え?どういうことなの?」
「多分だけど、沙紀達の事を私が人質に取ったのだと思われているみたい」
「え、何で?」
「分からない。だけど後は任せた。上手く私に罰がこないようお願いね」
そう言ってディアーネは目を瞑って寝込んでしまった。最近はずっと働き尽くめであまり寝て居なかったみたいだから疲れてたのでしょう。でも待って、色々と急展開過ぎて着いて行けない。
敵のボスってあの日本人疑惑があるあの人? うわ、清水君、任せた!!




