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第五話 新たな力


 目を閉じて精神を深く沈めていく。浅い呼吸を繰り返した後、大きく息を吸い込んで吐き出す。カチリ、自分の中で何かが噛み合ったような気がした。

 軽く腕を振るう。それだけで数十にも及ぶ魔法陣が浮かび上がり大量のモンスターが召喚される。そして俺が命令するがままに動き出し、消える様に命令すれば煙の様に消えて行った。


「こんな感じか……」


 手を開いたり閉じたりしながら今の感覚を身体に染み込ませていく。ノートンとの会話は俺に劇的な変化をもたらした。

 そも、俺がダンジョンマスターの何をしっているかと言われるとそこまで深く答える事は出来ない。何が出来る? と問われれば自らが把握している通り一辺倒の事は話す事が出来るだろう。だが、どうして出来るかと問われればそれには『感覚で』としか答える事が出来ないのだ。ノートンに質問攻めに遭わされ事細かく説明を求められて初めて気づけた問題だ。

 今まではそれで特に問題は無かった。何が出来るか分かればそれらを組み合わせれるだけで特に困る事などは無いし。それぞれの能力と限界値さえ把握していれば、理屈など知る必要は無かったのだから。


 だが、それでは能力に使われているに過ぎない。条件を知って最適な回答を探すだけでは無く、理屈を知り、理論を知り、それらを自ら組み立てる事が可能になるような深い理解こそが俺が成長するために必要だったのだ。

 勿論今までの事が無駄だったとは言わない。寧ろ今までの積み重ねがあったからこそ、今こうして自らの能力を理解するために推察を重ねる事が出来るのだ。ダンジョンマスターとは何か、DPとはどのような理屈なのか、考察や推察、理論を立てての実践を積み重ねるには能力の細かい制御が必要不可欠だ。どんぶり勘定ではどのような実験も上手く行く事は無い。それはどのような分野でも変わらない。


 そして久しぶりの休日の午前中を丸々使って、ノートンと出会った日から今日までに思いつくだけ立てておいた考察の検証を行ったのだ。当然ながら間違ったものも多いが、それもその考え方は間違っている事を知るのだから結果的に理解に一役買ってくれる。

 こうした実験を半日ほど行い。手元の紙にはぎっしりとその結果が綴られていった。後で別紙に分かり易く纏めないといけないのは面倒だが、紙に纏める事のによって結果を整理する事が出来るのだ。


 召喚速度や精度、細かい動作など分かり易い変化はあるのだが、戦闘者では無いノワールでは数値として示さなければ分からないだろう。一目見て分かるのだ精々今までは能力を行使する際に手元に置かなければならなかったダンジョンコアが必要無くなったくらいでしかない。

 俺一人だと考察にも限界はあるし、出来るだけ違う視点からの意見は欲しい。だが俺の能力の情報は機密情報だ。この国の防衛は俺の召喚能力に頼り切っているので万が一にも他国にその情報を知られる訳にはいかない。だが俺と一人だと視点は偏るので他の人の意見が聞きたいのだ。

 そしてその役目に最も適しているのはノワールである。こうした考察は割と得意であるし、政治家としての視点での意見はかなり貴重だからだ。俺も立場としては政治家になるのだが、思考回路としては戦闘者よりである。出来ない訳では無いのだが戦術として組み込む方向で考える方が得意で、戦略として使う場合であればその思考はノワールの方が上だろう。


「……それで私の所まで来たの? 折角の休日なのに何をやってるのよ……」

「まあこれも一種の趣味のようなものだし……」

「前から思ってたけど、ゼロはもう少ししっかり休みなさい。休日でも全く休まないじゃない。前回の休みの日は何してた?」

「……あれだな。久しぶりの休日だから普段できない訓練をしようと考えてサバイバル形式の模擬戦を……」

「しかもそれが終わったらやる事が無いとかいいだして結局仕事を初めてたわよね? 別にそれが悪い事とは言わないけど今のままだと何時か過労死するわよ?」

「それ、ノワールには言われたくないんだが……単純な量ならそっちの方が多いだろ?」


 仕事時間は俺の方が多いが実際の内容であればノワールの方が量をこなしている。この差は単純に経験の差で、仕事をする速度がノワールの方が早いからである。


「私からしたらどっちもどっちだと思いますけどね。二人とも仕事のし過ぎです。お二人が休まないと部下が休みにくいのでもっと頻繁に休みを取って下さい」


 お互いそっちの方が仕事をしてるのだから自分は悪く無いと、子供じみた理屈で言い合いをしていると呆れた様子を隠さずハンナが口を挟んで来た。手には二つのカップが用意してあることから見て俺達の紅茶を入れてきてくれたのだろう。

 その様子に顔を合わせたのち休戦にするか、とお互い視線で会話を交わし合い紅茶を受け取る。そもそもお互い本気だった訳では無いのだ。どちらかと言えばじゃれ合いに近い。このやりとりをお互い楽しんでいるので理由さえあれば簡単に止まってしまう程度のものでしかない。


「それで今回は何を話していたのですか?」

「ん、簡単に言うならゼロの能力の使い道についてね。色々用途が多いから迷ってるのよね」

「それとそれを用いた新戦術に関しても意見を聞きたいと思ってな。俺も色々考えてるんだがどれもいまいちパッとしなくて……」

「そう言えば最近のゼロの戦いがえげつないって噂になってるみたいね。何をしたの?」

「何をしたって信用無いな……普通に戦っただけだよ」

「ゼロの普通は一般的には外道と称されても仕方が無いと思うのもあるけど……そうね、前回はどんな戦術をとったの?」

「特に特別な事はしてないと思うがな……距離を取ってから障壁魔法で防御を固めて、堅いモンスターを大量召喚して前衛に、後は攻めあぐねてる相手が力尽きるまで遠距離から攻撃といった感じか?」

「それ、十分過ぎるくらいに酷いわよ。でも確かに理にかなった戦術ね。ゼロはこれでもまだ物足りないの?」

「まあな。確かにその状況までいければかなり有効な戦術だと思うんだが、そこに行くまでの仮定が満足いく水準まで言って無いんだ。前回は遭遇戦を想定した模擬戦だったから上手く行ったがそれも向うの気遣いに助けられた形だからな。実戦で使うには難ありだろ」

「でも特に改善する点は思いつかないわよ? 分かり易い弱点なんかも思いつかないし……強いて言うなら接近戦で強くなるとか?」

「それはもうやってる。だけど武器の扱いなんかは一夕一朝では身に付かないんだよ。クリストンとかある程度上の実力者には全く持って追いつける気がしない……っとまあそれはいいか。それで今日色々と試してみたら前よりも召喚に関する展開速度が速くできそうなんだ。だからそれを使って如何に距離を取れる状況まで持っていこうかを考えていてな」

「そうなの? それなら速度に特化させたモンスターを召喚して奇襲を掛けさせるとかかしら? それなりに強力なのを呼べば時間稼ぎくらいは簡単でしょ?」

「それが無難か……だけどそれだと無視されて俺を直接狙われた場合なんかは厳しくならないか? 強力な奴は基本的に体格も相応の大きさになる奴が多いし」

「そうなの? それなら……」






「もうこんな時間か……」

「少し話し込み過ぎちゃったかもね」


 お互い議題を提案し討論していると気づいたら既に時刻は夕刻だ。夢中になって話している間に二時間以上経ってしまった。既に夕食の時間が近い。

 そろそろ終わりにしようと、声を掛けるとノワールも立ち上がる。このまま食堂へ移動してしまおうと言う事なのだろう。


「そう言えばだけど、ダンジョンの攻略に乗り出そうと考えてるの?」

「……言ってたか?」

「いいえ、でもさっき話してた内容の中にゼロがその場に居ない前提の作戦も含まれてたじゃない。そこから推測したのよ」

「それだけで普通は分からないだろ。……まあ考えていないかと言われると嘘になるな。ダンジョン計画があるだろ、その参考の為に一度他のダンジョンを見て見たかったんだよ」

「……大丈夫そうなの?」


 不安そうな視線で問いかけてくるが問題無いと手を振って答える。


「ある程度の骨格は出来てきている。土地の確保と出入り口の安全性の確保や、自生させるための環境なんかもそれなりに整いつつあるんだがな……ノートンが出来れば後学の為にと言って聞かなくてな」

「ノートンってあの?……噂通りの性格みたいね」

「分かるか?」

「ええ、嫌いでは無いのだけど付き合うと疲れると言った感じかしら?」


 俺の反応を見てかノワールが正確に内心を当ててくる。


「正解だ。先日質問攻めにされてな……話の流れでダンジョンの戦いについて話したら喰いついてきて、今度機会があるようなら絶対自分の連れてって欲しいと念を押された」

「理由は分かったけどわざわざ今やる必要があるの? 特に表立った被害はでてないし後に回しても構わないと思うけど」

「ついでに今の内に部隊を率いる経験をしておきかったんだ。へステア王国が他国に認知されればされる程、その動きは警戒されるようになるからな」

「そうね、確かにそれは今じゃ無いと出来ない事かも……いいわ。こっちは私がどうにかしておくわ」

「助かる」


 俺が攻略に出ると言う事はその間の仕事をノワールに任せると言う事だ。二人でもキツイ仕事量なのだがノワールは何も文句を言わずに引き受けると言ってくれた。察しが良すぎるのはいい事ばかりではないがこういう時は素直にありがたい。

 会話をしながら歩いているとそこまで距離がある訳でも無いので直ぐに食堂までついてしまう。そこで少し遅めの夕食を取り今日という一日の終わりを感じるのであった。




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