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第四話 予定調和な交渉

 今回は少し長めです。


 へステア王国に戻った俺は忙しい日々を過ごしていた、難民の受け入れやその対処、各国からの引き抜きなど少しでも人口を増やし国力を上げるために奮闘していたのである。

 そんな生活が数か月続き、ようやく落ち着いたきたとある日、兼ねてから話に出ていた吸血鬼戦力を丸々引き込むという策を実行に移した。ノワールの父、旧エルランド王、現在はグランベル翁と名乗る男との交渉の席を設けたのだ。

 翁と名乗っては居るもののその外見は長寿である吸血鬼らしく非常に若々しい。二十代前半から半ば、俺と同年代の外見である。

 流石はノワールの父親と言うかその容姿は非常に整っている、例えるなら貴公子、金髪碧眼に長身、落ち着いた雰囲気の持ち主で思わず敬語を使ってしまいそうになるくらいにその物腰や所作は洗練されている。


「へステア王国国王ゼロと言う。今回ははるばるお越しいただいてありがたく思う」

「こちらとしても娘を保護して貰っていたのだそれ位の苦労は大した事では無い。それよりも我らを受けいれてくれると言うのは本当なのだろうか?」

「ああ、だがタダでという訳にはいかないのは分かっていただけるだろうか?」

「当然だ。だがこちらにも出来ない事があるというのは理解して欲しい」


 鋭い視線だ。例え|それが演技だと分かっていても《・・・・・・・・・・・》気圧されてしまう。王者の覇気とでも言おうか。厳しい生活が続いていた筈だがそれを感じさせない。強固な意志を感じさせてくる。

 こちらもそれに負けじと魔力を身を纏う。グランベル翁は僅かに眉を顰めるだけ、彼方側の護衛が顔を青くして武器を強く握るのが見えた。分かっていた事だが警戒させてしまったようだ。だがここで舐められるわけにはいかないので勘弁して欲しい。


 これはただの茶番だ。何せ|どのように話を付けるかあらかじめ台本が用意されている《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》のだから。交渉の体をとっているがこれは確認作業に過ぎない。

 そして交渉と言う名の消化作業は滞りなく進んで行く。


 これから住まう土地を融通して欲しい。構わないしばらくの間は食料などの支援も続けよう。ただ傘下に加わる事になるのだが構わないか? 当然だとも、そこまでして貰いながら対等な立場を求める程我らは傲慢では無い。そうか、なら詳しい話をするとしよう。


 外目にはお互い真剣な表情で言葉を発しているようにみるのだろうが、その実態はただの茶番である。だが必要な茶番である。何せこれを行うだけで、|相手側から渡されていた今後不要になる人間を排除する事が出来るというのだから《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。

 足を引っ張るだけの味方など下手な敵よりも厄介である。それを大義名分を持って排除できるのだから喜んで協力してくれた。ノワールの話し通りだ。

 人口数で言うならば明確に差を付けるのは難しい数であるが、俺の方が立場が上となれるように下準備は済んであるしグランベル翁もそれには納得してくれている。流石はノワールの父親と言うか長い事王として君臨していたにも関わらずその地位には全くと言うほど執着は無いようだ。優先するのはただひたすらに国民の生命や生活、自らの地位など二の次三の次らしい。

 これまでグランベル翁に従っていた人たちがそれに納得してくれるかについても抜かりが無い。あらかじめグランベル翁と通じて俺の事を支援者として吸血鬼全体に広めてあるのだ。オスカ連邦に逃げ込んだ吸血鬼勢力の生活は厳しかった。下手に戦力を維持していたせいで、他の勢力からは弱体化させる為に受け入れてはくれなかったからだ。

 いくら数が多くても備蓄も無く、碌に訓練を積んでいない市民を大量に引き連れての戦争など無理難題にも程がある。彼らは人が住んでいない土地で狩猟採集生活をして暮らしていたらしいのだ。

 だが万を超える数の人間が急に狩りや採集で生活していくなど直ぐに無理が出る。体力があるものを中心に精力的に狩りを行った結果、短期間で土地が枯渇してしまったのだ。

 そんな時、へステア王国からの使者が彼らに接触し食料の支援を開始した。使者に貸し出しておいた連絡用のマジックアイテムを使い事情を聞いた俺は直ぐにグランベル翁との交渉を行ったのだ。

 ノワールを挟んでの対談は無事成功に終わり、そこから俺は食料の供給を始めた。流石にDPの問題で万を超える人口、その全てを賄う事など出来なかったが、それでも餓死者が大量に出かねなかった状況では大きな助けになったようである。

 そうして彼らはへステア王国への移動を始めた。ノワールから俺の能力の概要(詳しい話はせずに大筋のみ)を説明され、このままだと大量の死人が出ると考えての希望に向けての行動のようだ。

 食糧は供給していたものの、その供給量だけでは遠くない未来に大量の餓死者が出ると考えたようなのだ。少しでも食料になりそうな生物を狩りながら移動し、へステア王国まで辿り着いた。その後は多くの難民を城壁の外に炊き出しを行いながら待機させ、グランベル翁と護衛のみを内部に引き入れての交渉を行っているのだ。

 この交渉は成功する。なんせお互いの目的は合致している上に事前にそうとり決めているのだから。失敗のしようがない。だからこそ、それを利用して上手く不要な人材を中央から遠ざけることにしたのである。

 これは主にグランベル翁に利点のある内容だが、俺にも恩恵がある。ノワールの事を妃として据えようとしているのだがか吸血鬼と言う柵からは逃れる事は出来ないからだ。

 ノワールにもエルランド王国に居た頃の柵は色々と存在しているらしい、その中には当然問題のある人物も存在し、そうした連中が自らの利益の為に暗躍しだすと国家としての足並みが揃わず、内部での足の引っ張り合いが始まりかねない。

 こうして対面した感じだとグランベル翁は非常に有能そうな人物ではあるが、色々と問題のある

部下と言うのには色々と悩まされているようで、彼らを表舞台から遠ざける事は、そのまま彼の治世をスムーズに進行させるためにも非常に有用なのだ。


 ノワールがこの策を提案した日には「良くやった!!」と今対面でしている威厳をかなぐり捨てて喜んでいた。どれだけ厄介だったんだ……

 まあ何はともあれ、対談は滞りなく終了された。お互いあらかじめ決めてられた通りに要求を通したのだけだから当然だ。傍から繋がっている事が分かり辛いようにお互い適度に要求を拒否したが、まあ台本通り予定調和の出来事である。


 旧エルランド王国勢力とも呼ぶべき勢力は丸ごとへステア王国へ吸収された。あまりの苦境に離反する人も多く、最後までついてきていたのは総勢9000人程だそうだが、それでも大きな戦力拡大だ。

 彼らの為に俺は一つの街を作り上げることにした。彼らのよって決められた街の名前はエルランド、故国の事をいつまでも忘れないという気持ちの表れなのだろう。そしてそこの領主には順当にグランベル翁が就任した。

 また、へステア王国に住まう吸血鬼も全員がエルランド王国出身なので中にはエルラルドへの移住を希望する人もいるそうだ。国を滅ぼされても、苦しい生活に追いやられてもここまで畏敬を集めるグランベル翁に俺は真の王者というものの鱗片を感じさせられるのであった。



 だが、交渉からそれから数日と経たずに事件は起きた。後にグランベル翁暗殺未遂事件と呼ばれる事件である。旧エルランド王国陣営がへステア王国の傘下に収まる事に納得がいかない一部の人間がそれを受け入れたグランベル翁を暗殺しようとして撃退されたというものである。

 、ああその気持ちも全く分からなくはない。へステア王国と元エルランド王国の人間には数にそれ程大きな差はないからだ。それなのに無条件で傘下に入ります。と言うのは抵抗感があるのだろう。

 だが、そもそもそれだけの戦力を維持できたのはこちらが食料を供給していたからであり、今後生きていく為にも支援は必須なのにも関わらず、「それなら占領して食料を奪い取ればいい」などと言う意見が出る事に関してはかなりの恩知らずだと言わざるを得ない。

 当然ながらその言葉には多くの人が反対した。グランベル翁との協力して印章を良くしておいたお陰だろう。人手が集まらなかった故の暗殺だが完全に読まれていて対策を講じられていた。交渉を行ったのは彼なので彼を殺せば交渉を白紙にでき、今度は戦力差を活かして脅せば従うだろうと考えた様である。かなり意味が分からない考え方だが人は追い詰められると自分に都合がいい考えを現実だ思い込むらしいのでその類かもしれない。


「うむ、これで奴らを完全に排除できる」

「どれだけ厄介だったですか……」


 そして暗殺されかかった筈の当人は屋敷の客間で紅茶片手に寛いでいた。さり気なく物騒な言葉を告げるあたりノワールとの血のつながりを感じさせられる。

 目標は夢想家と称されてもおかしくない程に善意に満ち溢れているのに、その思考は限りなく現実に寄り添い妥協をしない。我が身を切り捨てても種族全体を生き長らえさせようとする反面、身内であっても切り捨てる時は切り捨てる時は切り捨てる。本当によく似ている。


「それにしても暗殺され掛かった割には余裕そうな態度ですね」

「まあ、想定されていた事ではあるからな。表舞台から強制的に追いやられたとなればそういった行動をとる事は容易に想像できる」

「そうですか……それで、何でここに来たんです?」

「義理とは言え息子との友諠を深めようとな。この国の仕組みからしてゼロ殿と良好な関係を築く事は必須だろう?」


 ニヤリ、少しの茶目っ気が混じった表情でこちらに笑い掛けて来る。得意げな表情すらノワールを思わせられる。本当に似た者親子だな……

 今回は暗殺未遂事件を利用して俺と接触しに来たようだ。ノワールの名を出せば無下には出来ないと見越してのそれは、彼の強かな性格を思わせる。


「なるほど……」

「ああ、普段通りの話し方でいい。義理の親子とは言え親子だが、それ以前に領主と王、私の方が立場は下なのだから」

「分かりました……いや、分かった」


 考えていた事を言い当てられ、少しの迷った末に普段通りの口調で話す事にした。グランベル翁との関係は複雑だ。婚約者ノワールの父親で立場で言えば臣下に当たる、だが実際の能力で言うなら尊敬すべき対象で敬うべき先達である。前回は立場と状況からあのような口調を使わざるを得なかったが、こうしたプライベートの場でもそれが当然と思う程俺は礼儀知らずにはなれない。

 王様とは面倒なもので目下の者や敵対者に対しては下出に出るような事はあってはならないのだとか。だがその関係が色々と特殊だからこそどう対応すればいいのか困っていたのだ。


「それでいい。それではまず……ここでの娘の生活なんかについて話して貰えないだろうか?」

「それなら……」


 打って変わって穏やかな表情と口調でそう語る様子はただ子供を心配する親にしか見えなかった。その印象は翌日には変わるのだがこの時の俺はそれを知る由も無かった。

 こうして俺はまんまと警戒心を解されてしまい。失態を犯す事となる。彼もまた一国の長であったのだそう甘い筈が無かったのだ。




「……騙された」

「……なんと言うかご愁傷様?」

「いや、やったのお前の父親だからな」


 あの後も会話を続けお互い気持ち良く解散したのだが、数日後に資料を受け取ってようやく騙されて居た事に気が付いたのだ。


「それで何をやらかしたの?」

「……これを見てくれ」


 ノワールに一枚の紙を見せる。紹介状だ、話の流れで人手不足だと零してしまったらそれならこちらから手配しようと如何にも心配そうな雰囲気で告げられたのだから素直な気持ちでそれを受け取ってしまったのだ。


「……お父様も上手くやったものね。ゼロも味方だからといって警戒しなさいよ」

「……気を付ける。優秀な人材を紹介するって言われて話をされて、その人物がモンスター研究家とか、完全騙されたよな」


 最初の内は警戒していたと思うのだがノワールの言う通り味方だと思って居たから、その警戒が他に比べて甘かったのは否定できない。さらにはあの話術、何と言えばいいのか……上手く距離を詰められた感が凄い。威厳があるのに親しみやすいのだ。だから騙された今となっても嫌う事が出来なかったりする。

 だがやられた事は結構厄介である。人手不足で困ってるって話から紹介しようか? と言う話で紹介された人物がモンスター研究家、完全にダンジョン計画に狙いを絞っての人選に違いない。

 紹介した彼方の面子を潰さない為には紹介された人の能力が活かせる場に職を用意する必要がある。だがここに書かれている内容を見る限りだと、彼に適した職はダンジョン計画関連しか無いのだ。

 実際にここに書かれている事が事実なら非常にありがたい人材なのは確かなのだが、上手く計画の中枢に入り込まれてしまったのも確かだ。

 しかも此方に不利益を与える事は無くむしろプラスマイナスで言うなら大きくプラスである。この国の産業の要となるであろうダンジョン計画に多大な影響力を残される以外は。


「流石はノワールの父親って所か」

「ねえ、それどういう意味なの?」

「初見で騙し打ちにしてくるあたりとか?」

「あれは油断していたゼロが悪いのよ。私に非は無いわ」

「そうかもしれないが助けた相手がいきなり交渉を持ち掛けてくるとは思わないだろ。しかも自分を対価にだとか色々想定を超えすぎてる。しかもあの時は色々と一杯一杯だったからな」


 今後は彼が今までノワールがしていた吸血鬼の代表を務める事になる。人族の代表……予定のクルトは彼に対抗できるのだろうか?



「……そう言う訳で、これから頑張ってくれ」

「いや、いきなり意味が分からねぇよ!!」

「いや、俺はもうすぐ人族の代表代理を降りるからその引継ぎをと思って」

「は!? いや、無理だから」

「無理でもやって貰うしか無いんだよ。そもそも今まで俺が代理をするのも卑怯だと言われても仕方が無いような特例なんだからな?」


 今更ながらへステア王国の仕組みを説明していこうと思う。まずへステア王国は多くの種族が住まう他種族国家である。現在は妖精族に人族、吸血鬼、の三種族を中心とし後は少数民族がいくつかと言った所である。難民などの移民を受け入れる方針を取っている以上今後も増えていく可能性は高いだろう。

 へステア王国はダンジョン内に存在する国である。国民が増える程獲得されるDPも増えていき、そのDPを国の防衛や発展に使う事を基本的な方針されている。

 身分としては、俺が盟主、国の代表であり言ってしまえば王様でその下に各都市を治める領主が従う形となっている。

 そして現在は都市と呼べる場所は三つ、まず俺が住んでいる『首都ゼスカ』、俺が統治する直領地で最も能力の恩恵を受ける事が出来る地でもある。住んでいる種族は人族と吸血鬼を中心に多種多様、妖精族なども良く顔を出すへステア王国の経済の中心地である。名前を出すのは初めてだが由来はゼウス、ギリシャ神話の神の名前をもじって付けた名前である。人口は現在一万程度で現在も拡大中、サンドニア王国の中心地から離れた地に住まう人々を勧誘していたら、いつの間にかここまで数が増えていたのだ。普通ここまで急激に人が増えれば食料の供給が間に合わなくなる筈なのだが、そこはダンジョンマスターの理不尽さ、増えた分だけDPの獲得量も増え全員の食事を賄う事を可能としたのだ。


 次に『妖精の遊び場』と呼ばれる、妖精族が住まう土地である。(名前が変なのは妖精族のネーミングセンスの所為せいだと言っておく)最初に俺が住んでいた場所であり、契約の際に妖精族に貸与した土地でもある。世界樹のレプリカを中心に妖精族が好き勝手した為、下手に近寄ると命を落としかねない危険地帯となっているので注意が必要だ。

 人工僅か百名程度、しかも全員が子供の様な性質を持った妖精族しか住んでいない場所なので実質的には社会として成り立っていない。だがそこに住まう全員が生活には困る事無く過ごしているという特異な地でもある。名目上はフェスカを代表に据えた妖精族の領地である。

 最後に最近出来た都市エルランドである。代表はグランベル翁、ノワールの父であり元エルランド王国の王でもある吸血鬼の街であり、住んでいる人間は全員吸血鬼である。人口数は6000余り、まだまだ発展途上、畑と小屋が立ち並ぶ未開発の地を都市と呼んでいいのか些か疑問だが。


 彼らには俺から貸与と言う形でアンダーコアを貸し出されている。その能力を使って街を発展させてくれと言う事だ。人口数や治安、発展状況などにより使えるDP量が増減するのでおのずと俺が望んだ形の統治をしてくれるようになっている。

 一応個人に対してでなく、都市の代表者に対しての貸与なので役職を引退したりする場合は一度こちらに返却し、その後に新たにその地位に就いた人に再び貸し出すといった形となっている。


 そして都市の代表とは別に種族の代表と呼ばれる役職がある。これは種族ごとによる対立、問題を解決するために設置された役職で、定期的に種族ごとの代表が集まり会議を行う為である。

 目的は種族間の諍いの防止のためだ。健全な競争なら望む所だが現実にはそうはいかないだろう。それだけ種族間の溝は深い、種族を跨ぐ問題が起きた際や種族間の取り決めを決める場である、

 代表にはその種族で最も信用がある人物がなる事となっていて、実質的な権力は存在しないがその影響力は計り知れない。内容として都市の代表との関連性も深い為兼任は可能である。現にグランベル翁もフェスカもこれを兼任している。

 だが、これまでは人族にはこの役職の責務をまともに仕事を果たせそうな人物が居なかったために俺が代理を果していたのである。この国の最高権力者、種族間の会議では中立の立場で参加しなければならない筈の俺が代理に入ると言う事はその意見が最終決定になるという反則である。それでも俺が出なければならなかったのはそうしなければ人族が一方的に不利になり続ける事が目に見えていたからだが……

 だからせめての猶予期間としてクルトには参考資料として会議の内容が映し出された映像と、そのための資料などを渡して勉強の機会を与えておいたのだ。だがそれも今回グランベル翁がその代表に就任する事で猶予期間の終わりを告げた。今までは吸血鬼の代表としての仕事はノワールが行っていたのだが、俺が代表を務めるなどと言う反則技が許されたのはただ単に、代表者が全員身内だったからに過ぎない。

 これらの事を事細かに伝えていった所、苦虫をかみ殺したような表情でクルトが返事をしてきた。


「……それで俺なのか」

「前もって話は伝えてあっただろ。後、急で悪いが人族だけの都市もつくるべきだという意見が出てるみたいだから、それの対処もよろしくな」

「はぁ!?」

「これ見てくれよ。理想を語るのはいいんだが、肝心の内容が空っぽだとただの妄言だろ……せめて最低限の管理体制だけでも決めてから出して欲しいよな」


 都市エルランドが生まれた事で人族の不満が溜まりつつある。人口数で言うならばこの国最大なのにかなりのものなのに、種族固有の都市を持たない事に不満があるようだ。

 俺からしたら別に固有の都市を持ちたいと言うのは構わない。だが具体的な内容をすべてこちら任せの癖に完成させた後の身分だけ寄越せと言ううふざけた要求には答えようが無いとしか言いようが無い。

 そもそもの問題として急な人口の増加とそれに合わせた管理体制の整理だけで膨大な量の仕事が発生しているのだ。それなのにこんな自分勝手な要求になど答えられるわけが無い。


「……酷いな」

「だろ? しかも要求に応じなかったら暴動を起こすととか言う脅し文句まで入ってる。これを送って来た奴を捕まえるのは決定だが、それとは別に同種の不満を抱えてる奴が一定数居るのも問題なんだよな」

「……それで俺に何しろと」


 警戒心に溢れた表情でこちらを見つめてくるクルト。察しが良くなってきて何よりだ。


「その街の領主を……」

「無理!!絶対無理だからな!!ただでさえ責任重大な役職を押し付けられたんだ。これ以上は俺の手に余る!!」

「冗談だ。いや、半分くらい本気だったが……まあクルトにやって欲しいのは許可証を発行するからそれを持って、街を作りたいって連中を集めてくれ」

「て事は話を受けるのか?」

「承認して吸血鬼と同じだけの援助をするだけだ。最低限の畑と小屋のみ、それだけで正しい管理体制を作り上げ社会として成立させたなら都市として認めようってだけだ。都市の代表になりたいならそれ相応の実力を示させないと」


 ちなみにグランベル翁も全く同じ条件で行っている。最低限の食事と住居のみが約束された地で、都市と呼べるまでの社会の基礎を作り上げる事がその地の領主になる条件だからだ。

 細かく言うと、もっと色々と取り決めがあるのだが今はいいだろう。


 彼の場合6000人もの人間が未開発の地でもあるにも関わらず彼についていき、それらを見事統率する事で一月も経たないうちにしっかりとした社会を作り上げた。元王様として多くの人間に慕われていたからこその成果である。

 他の人が真似するにはまず、それだけの人を雇うだけのお金を稼ぐ必要がある。それと安定した生活を捨ててついて来てくれる人を集める事……端的に言って非常に難しい。




 その後もガンガニア王国からやってくる技術者たちの受け入れ準備、国に来たばかりの難民の対応などの激務をこなし、ようやくダンジョン養殖場化計画の実行に移る事が出来た。

 これが上手く行かなければ定期的にDPを消費して稀少素材の交易品としなければならないので、出来れば成功させたい計画だ。

 交渉の際には定期的に素材を卸せる。としか言っていないのでこの計画が成功しなくても体面上は問題無いのだが、成功した際に起こるであろう経済効果を考えると是非とも成功させたい。上手く行けば高額の稀少素材を安定供給する事が出来るようになるのだから。いや、いずれは稀少素材が希少では無くなるかもしれない。


「お互い顔を知っている人間も多いが改めて自己紹介をしていこうか。まず俺はゼロ、今回の作戦の根本となるダンジョン制作の実作業を担当する事になる。この国の王様も兼業だから顔を出せる機会は少ないかもしれないが出来る限りの協力はするつもりだ」

「アルテリオです。この度へステア王国の財務大臣に命じられました。今回の作戦では収益率の計算などを任されました」

「クリストンです。ダンジョンの難易度の確認する役割を果たすよう命じられました。ダンジョンがある程度形になってからの参加となっていますが、今回は顔合わせでの参加となります」


 まずは俺と前から顔見知りである二人だ。今回の計画は多くの分野の知識を必要とする計画なので軍事と経済、それぞれの分野の代表を務めている二人に声を掛けたのだ。

 この場に呼ばれたそして最後の一人、


「ノートンと申します。エルランド王からの紹介で来ました。今回の事は何分初めての事ですので何処まで力あ及ぶかは分かりませんが最善を尽くさせて頂きたいと思います」


 彼がグランベル翁から紹介された生態研究家だ。モンスターの生態の研究を行い本として出版され有名となったという経歴を持つ男である。

 種族は吸血鬼、正確な年齢は不明だが見た目は20代半ばの理知的な男性といった様相で片眼鏡を掛けている学者然とした人物である。

 今回の件に関してモンスターの生態に関する詳しい知識を求められての参加である。知的好奇心が強いようで今回の件に関してはかなり乗り気である。

 グランベル翁の紹介で来たのだが、国家に所属していた人間では無くフリーの人間だそうだ。騙されたと思ったが思いのほかこちらに気を使ってくれていた様である。

 学者然とした風貌だが実際はフィールドワークも好んでいて、護身としての魔法の力量もかなりのものだとか。ただ自由気ままに生きていて動きが縛られる職にはあまり就きたくない様である。


 ここに集まった人間はそれぞれの分野の代表で、俺を除いたメンバーはそれぞれ部下を率いて今回の作戦にあたる事となっている。俺がするべきは俺が作成した企画書を元に作られた詳細な図面通りにダンジョンを作る事だけである。

 その前提としての俺が出来るであろう能力を各自に説明するのが今回の集まりの目的なのだが……


「ダンジョンマスターとダンジョン、明らかに世界の理とは異なる法則、仕組みですな。もう少し質問してもいいでしょうか?」

「構わないが、俺もまだ全てを理解している訳では無いから程々にして欲しいんだが……」

「ええ、勿論ですとも。ただダンジョンに関する疑問はまだ多く存在していますからせめて今日一日は質問と実験に付き合って頂きたいものです」

「……明日も仕事があるんだが」

「だから今日一日だけです」


 初日はノートンの知的好奇心を満たす為に費やされた。身分差などを理解しつつも相手が気にしないと思ったらグイグイ来る結構厄介なタイプの人間のようだった。

 酷く疲れさせられはしたものの、ダンジョンマスターとは何か、と言う事を深く考えさせられる事にもなった。その副次効果として能力の上手く使えるようにもなったので結果として大きくプラスなのが何とも言えない気持ちにさせられるのであった。

 ただ優秀なのは確かで生態研究家を名乗ってはいるものの、実際は様々な分野で深い知識を身に着けているようだった。

 一緒に仕事をしていくとその知識の深さに驚かされ、ダンジョン計画に大きく貢献してくれるのだった。






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