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第三話 交渉の結末


 ドワーフ王国、ガンガニア王国の王宮の一室にて。

 国家の重鎮、各部門の大臣、また王宮に呼ばれた各地の領主達が集結し会議が行われていた。


「私は是非ともかの国との友好を深めるべきだと思います!!」

「私もです!! かの国と手を組み事で我が国は更なる発展を迎える事になるでしょう!!」


 いや、既に会議と呼ぶには些か程度の低いものとなっている。数日前までは真面目な討論になっていたのだが、ここ数日は連日このような有様となってしまったのだ。

 ガンガニア王は頭を抱えたい気持ちになる。

 欲に駆られた俗物が声を荒げてかの国との友好を、と叫ぶ。彼らがゼロと名乗る青年と何かしらの取引を行い、その結果としてこのような声を上げるようになったのは理解している。問題はその人数だ。賛同者は会議に参加した人間の凡そ三割近い。

 取り引きの内容は把握している。どうもへステア王国は稀少なモンスターの養殖に成功しているらしく協力してくれた者にはその取引の優先的に行うように話を通しているようなのだ。

 ガンガニア王国でもそれなりの種類のモンスターの養殖には成功しているが、稀少なモンスターの養殖に関しては成功していない。稀少なモンスターと言うのは生態が不明なものも多く、また数が少ないために番いを揃える事だけで一苦労だ。稀少な素材と言うのは試すことが情報がが少ないと言う事であり、多くの可能性が眠っている事でもある。それに目が眩んだ結果、このような状態になる事も分からなくはない。

 だが、だからと言って容易にその選択を選ぶとは……とガンガニア王は内心ため息をついた。


 事の始まりはへステア王国を名乗る未知なる勢力からの妖精族の使者が訪れた事に始まる。強力な力を持ち思うが儘に生きる妖精族が何処かしらの勢力に身を寄せた。それを知ったガンガニア王は直ちに情報を集めるよう命じたのだ。

 だがその報告が入るよりも先にへステア王国の王を名乗るゼロと言う人物が此方に連絡を繋いで来たのだ。直接会って話す機会を設けないかと?

 連絡には使者として訪れた妖精族に預けられていた連絡用のマジックアイテムを用いて行われた。遠距離での通話を可能とするマジックアイテムの類はガンガニア王国でもそう多くは無い。それを一使者に貸与して他国に渡すとは……と内心警戒を強めながら非公式での会談を行ったのだ。

 そして何度かの通話の末、会談の日程が決まった。ガンガニア王としては少しでも情報を集める為に極力時間を遅らせたかったのだが、ゼロは時間が経つほど情報面での優位が失われると考え早々に会談を行いたがった為、お互い万全では無い時間での会談となったのだ。

 場所はガンガニア王国で行われる事となった。使者として訪れた妖精族の使者をあの手この手で厚遇し、引き留め、それを出しに使い自らが優位な場所での会談を行う様に仕向けたのだ。


 会談当日、やって来たのは20かそこらの人族と思われる男だった。黒い髪を短く切り揃え見るからにマジックアイテムだと思わしき服で全身に纏っていた。そしてその身を守る様に周囲に立つ騎士達、身に纏う鎧は違えどその立ち振る舞いから一目見て直ぐに分かった。彼らはエルランド王国に居た吸血鬼の騎士団の人間なのだと。

 ゼロを名乗る青年の隣にいたエルランド王国の姫君の存在もその確証を得るのに一役買った。どうやら前の戦いで死んでいたと思われた吸血鬼たちはへステア王国に身を寄せているのだと察したのだ。


 そこまで考えてガンガニア王の思考にある事が思い浮かんだ。

 消息不明である吸血鬼の英雄、オスカ・ハートンもへステア王国の住民と化している可能性が高いと。実際は足止めの為に敵陣に残りその後の消息は本当に不明なのだが、そこまでの情報は時間が足りなかったためガンガニア王は知る事が出来なかったのだ。

 ゼロが一人になった時にかまを掛け、予想外の質問に動揺したゼロの様子からガンガニア王には真実とは掛け離れたものを真実だと思い込んでしまったのだ。へステア王国がドラゴンを仕留めたと告げた事がその勘違いに拍車を掛けた。古城兵器を搭載した砦ならドラゴンを撃退する事は可能だが討伐には高い幸運も必要とするからだ、現にガンガニア王の治世でドラゴンの撃退経験は何度かあったが討伐した事は一度も無かった。翼に損傷を与え機動力を奪い、全身傷だらけにしても殺し切れず、攻撃の手を緩めれば僅かな時間で自然治癒してしまう程の生命力を持つドラゴンを討伐したのだ。そこに英雄の存在が隠れている可能性は否定できないと。

 ガンガニア王に取ってドラゴンの外殻を貫く常識外の一撃を放てるゼロの存在は常識の外だったのだ。普通人間はこれまでの常識から物事を考える、ガンガニア王もその例外では無かっただけなのだ。


 勘違いを加速させたガンガニア王は慎重に情報を得る方向に方針を変えた。英雄を名乗る存在が一人、本人の言を含むなら二人もいるへステア王国は油断ならないと判断したからだ。

 昼間の内はゼロを精神的に疲れさせて失言を誘い。夜に重鎮たちと会議を重ねて情報のすり合わせていったのだ。

 だがその行動は臣下たちの身勝手な行動により失敗に終わる。つい最近までガンガニア王の方針に従い慎重に事を進めていた臣下の一部がへステア王国と手を組むようにとの声明を明らかにするようになったのだ。ガンガニア王は有能であった、慎重に事を進め自国を発展させるだけの先見の明を持った存在だったのだ。だが完全な独裁者という訳でも無かった。ガンガニア王国は王制国家だが全てを王の独断で決める事ができるわけでも無いのだ。それがへステア王国の明暗を分けた。


 ガンガニア王は慎重に事を進めながらもへステア王国を多少無理矢理でも傘下に収めるつもりでいたのだ。英雄と呼ばれる存在を警戒した結果だ。英雄とは自らの理違いの外、理不尽な存在だとガンガニア王は考えていた。多少の不利をものともせず戦術的勝利をもたらす常識外の存在だと。

 そんな人物が二人も居るかもしれない国、警戒し国力に差がある内に上下関係を決め逆らえない様にしまわなくては、ガンガニア王はそう考えたのだ。

 これまでの会談でガンガニア王はへステア王国の戦力を何となくだが読み取っていた。ゼロは必死に隠そうとしていたがガンガニア王と比べると流石に年季が違う。表情の僅かな機微、予測していたからこそおきる早すぎる反応など様々な要素を使い分け、見事へステア王国の勢力を見抜いていたのだ。

 流石にゼロがダンジョンマスターであり、予想した戦力が頭数で言うなら数倍になる。などとはガンガニア王も予測出来なかったようだが、それでも十分すぎる程鋭い洞察力である。


 へステア王国を傘下に加えるべき、そう思いつつも多くの臣下の言葉により結局ガンガニア王は意見を変えることにした。

 長年今の体制で上手く行っていた、それをたった一つ自らの意見を曲げる事で変わらずに続くとなればそれを選んでしまうのも仕方が無かったのかも知れない。

 それに数年程度なら問題無いだろうとの打算があった事も否めない。周りがもう少しだけ危機感を抱いてから方針を変えても間に合うだろうと考えていたのだ。

 一応言わせて貰えば一概に臣下たちの判断が間違っていたともいえない。彼らは臣下である前にそれぞれの領土を持つ領主である。自らの領土を富ませると言うのは領主の義務であるし責務だ。自領を富ませる事が出来る交渉は進んでやるべきだし、この話を断るようなら愛国者ではあっても良い領主とは呼ぶことは出来ないだろう。戦争で属国にすることが出来たとしてもその成果は多くの人に分配されてしまう。彼らは同じ国の仲間だが同時に競争相手でもあるのだ。無条件で信用し合えるような関係では無い。陥れる事もあれば協力する事もある。今回の件では如何にゼロに恩を売り自領を優先させるかと考えていた。

 それにゼロには領土的野心は無い。自国を富ませようと言った意志はあるがダンジョンマスターの能力により時間が経てばそれは可能だと考えているし、その恩恵を最も受ける事が出来るダンジョン以外の土地を手に入れても旨味は薄いと本気で考えているからだ。

 答えは近い未来の内に現れる。ガンガニア王国の戦力をへステア王国の戦力が上回ると言った形で……誰かが決定的に間違えた訳でも無い、だがそれでも結果として現れてしまうのが歴史と言うものだ。


「そうだな、今回の話受ける事にしよう」


 ガンガニア王はへステア王国との同盟を受け入れた。それが結果だ。



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 ガンガニア王国との交渉を終えた帰路。


「何とか上手く行ったな……」

「そうね、これで理由なくガンガニア王国はへステア王国に手出しは出来ない。ゼロが考えていたあの計画がこんな所で役に立つとはね……」

「ああ、俺も予想外だった。上手く行って良かったよ」


 実際それなりに危ない橋を渡るような交渉であった。へステア王国側の勝利条件はガンガニア王国との不戦条約を結ぶ事だ。サンドニア王国の事を考えるとガンガニア王国と争っている場合では無い。ダンジョンマスターの能力が優秀だが限界は存在し対処できる戦力にも限りがある。ガンガニア王国とサンドニア王国の両国と同時に敵に回したら流石に困る。

 両国が敵対していると言ってもそれを過信する事は出来ない。ダンジョンマスターの能力の有用性から脅威と認識されて一時的にでも手を組むと言う可能性も無くは無いのだから。

 それでも確実に負けると思わない所がダンジョンマスターの能力の異常な所だな。本気で基準が狂ってるとしか思えないような性能だ。何か変なリスクを抱えていなければいいが……


 それにガンガニア王国は四カ国同盟の同盟国の一つだ。ガンガニア王国と敵対すると他の国にどのような情報を流されるか分かったもんじゃない。もし仮に今回の交渉が決裂し、ガンガニア王国がへステア王国を潰そうと考えたなら他国に悪評を流すだろう。本気で潰すとなれば逃げ道を塞ぐのは基本だからだ。

 そうなるとへステア王国が同盟に加わる難易度は跳ね上がる。高い技術力を持った国と言うのは同盟内での立場も必然的に大きくなる。へステア王国の同盟加入を拒否する程度の事はそう難しい事では無いだろう。

 真実はどうあれ、ガンガニア王国とは表面上は友好を保つ程度の関係性は維持したいと言うのが俺の考えだ。現実的には無理だろうが、技術力が売りのガンガニア王国と、それをコピーに近い形で生み出してしまう俺の能力は決定的なまでに相性が悪い。俺の能力がバレた時点で敵対は確定するだろう。今まで独占出来ていた分野に他国が加入されるのはどう考えてもいい思いはしないだろう。敵対するのはこの際仕方が無いとして後はそれまでにどれ程時間が稼げるかだな。


「|ダンジョン養殖場化計画・・・・・・・・、普通は実行不可能なぶっ飛んだ計画よね。それを出発前日の忙しい時期にこれみがしに計画書を見せてきて、この策は上手く行くだろうかと聞いて来といて、何処に予想外があると言うのよ」

「あそこまで簡単に裏切ってくれるのは本当に予想外だったぞ?それにノワールも計画書を見せた時点で同じような発想に至ってただろ。」

「それはそうだけど……でも普通は思いつかないわよ。|攻略される前提のダンジョンを創り出してそこを養殖場として扱おう《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》だなんて」

「能力を手段として考えれば割と思いつきそうな事だとは思うがな」


 ダンジョン養殖場化計画、読んで字のごとくダンジョンを養殖場にしようと言う計画だ。略称としては『ダンジョン計画』と呼んでいる。

 一般的なダンジョンは多くの人が想像する通り、巨大な迷路のような空間にモンスターや罠が大量に湧いているといったものである。まあ馬鹿みたいに広く、まともに攻略する気がおきないようないが。

 『ダンジョン計画』はそれを限りなく人間側の事情に合わせると言うのが今回の計画のコンセプトである。巨大な隔離された空間にモンスターを自生させる。そしてそれを定期的に狩る事で資源として活用させようといった計画である。一度でも倒したモンスターならば召喚する事が可能となるので発見したモンスター全ての素材を大量生産可能となるのだ。普通の国なら切れたくなるほどのふざけた内容の計画である。

 稀少モンスターの素材が高騰しまくっているガンガニア王国ではその素材の安定供給と言うのは美味しい餌となると考えて自らの領土を持った人間、より正確に言うならば王宮での政治や立場より自領の発展を優先させる人間を味方側に引き込む為に考えた策である。

 交渉の際には稀少なモンスターの養殖が試作段階だが進行していると述べ、お近づきの印にとそれらを一定数ばら撒く。詳しい品種は秘密にしてあるが稀少な素材を、それこそ話を持ち掛けた全員に渡すなどと言う行為は俺の発言に信憑性を持たせただろう。

 その後に協力を持ち掛ければ優先的に自領への取引を求める代わりに高確率で協力を受け入れてくれる。ガンガニア王国は王制国家だが他の貴族の声を全て無視できるほど力がある訳でも無い。その結果、幾つかの条約を結び事実上の同盟国として扱われる事となったのだ。


「やっぱりゼロは才能あるわよ。今回のが初の外交だなんてとても思えない程の手腕だったわよ?」

「いやいや、ノワールが色々と手を貸してくれたお蔭だよ。俺だとガンガニア王が勘違いしていた事には気付けなかったし、裏切らせる為の話術も見事と言う他なかった。俺だけではああは上手く行かなかっただろ」


 ニヤリと言った擬音が似合いそうな笑みをノワールが浮かべ俺もそれに合わせて口元を歪ませる。計画通りに事態が動く事はやはり気持ちがいい。それはノワールも同様らしい。

 行動だけ見ればかなり献身的な性格をしているように見えるノワールだが、その本質は為政者であり現実主義者だ。吸血鬼と言う種族全体の発展を自分の事よりも高い優先順位に置いているからこそ献身的に見えるだけなのだ。

 そんな裏しか無い様な会話をしていると世話係として体で馬車に相乗りしているハンナから苦言を呈される。


「二人とも外では今の様な会話は控えて下さいよ。一応イメージと言うものがありますから」

「とはいっても外での俺の人物像なんて失笑ものだろ。善良で慈悲深く、強力な力を持った王様なんてどこぞの聖人だよ。何一つ合ってないだろ」

「私の助けに応えて命懸けで人助けをして、付いて来た人間全員に住居と食料を与える。そしてドラゴンに止めを刺したと言う実績持ち、一応そうともとれなくは無いでしょ?」

「どれも打算尽くめで計算尽く行動だがな。ノワールが流したのか? どれだけ好意的に解釈すればそうなるのか……」

「でも悪評よりはよっぽどいいでしょ? 利用できるならその評価も全て利用してしまえばいいのだから」

「ま、そうだな」

「ホントこの二人は……外では聞かせられない会話をこうポンポンと……」

「そうは言われても……今更だろ?」

「今更よね」


 ノワールと二人頷き合う。ハンナが深いため息を着いたがそれもまたよくある事だ。そこまで気にする必要は無い。


「それよりへステア王国の方は大丈夫だろうか。多分今頃難民が押しよしているだろうし」

「流石に少しやり過ぎたかもね」

「そうだな、思いのほか食糧不足で困ってる所が多かったからな」

「そこで思う悩んで助けようとする時点で十分ゼロは善人だと思うわよ?」

「その話まだ引っ張るのか?」


 さあ、帰ろうか。






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