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〜閑話3〜 主と騎士


「はぁはぁはぁ……ッ!!」

「……外れ、ですか」


 呼吸の合間を狙っての奇襲だったのだが、幾重にも張り巡らされた魔法障壁により勢いが殺されその際に出来た僅かな合間に距離を取られる事で一撃を入れるには至らなかった。

 それならばと剣と剣で切り結びながらフェイントを入れ、上体に意識を集中させての下半身への脚撃をと考えたのだが、劣勢でありながらも冷静に観察するような視線に晒され、これは無理だと即座に自らの考えを切り捨てた。

 これでまだ本当に訓練を初めて一年足らずなのかと内心吐き捨てその才能に嫉妬する。確かに剣技は未熟、体さばきも戦術眼も改善すべき点は多々にある。これから先数年どころか数十年訓練を積んだとしてもそれらの点で抜かれる事は無いだろう。

 だが、それでも勝てなくなるのはそう遠くない未来の事ではない。持つべきものと持たざる者、凡人である自分と、そうで無い者、過去にそう理解し、諦めたと思い込んでいたのだが、こうして正面からそれを見せつけられると天に唾を吐きたくなるような気持ちにさせられる。

 何故自分はそちら側に……持つべき側では無かったのか、訓練を積み、実戦を重ね、何度も死線を潜り抜けた。それでも英雄の称号は限りなく遠い。優秀である。優秀止まりである。あくまで常識の範囲内、剣技に優れても、経験を積んでも、一人で戦場をひっくり返せるような存在に自らがなれるとは終ぞ思えなかった。だからこそ嫉妬してしまう。

 確かに剣術のみならず、格闘術、投擲術、全てにおいてその素質は平凡の域を出ない。素質はあるが才人と呼べるほどでは無い。ある程度まで習得する速度は速いがそれまで、多くに手を出している分どれか一つを極める事は無いだろう。一つ一つの技量は精々が二流か三流、それ以上になる事はないだろう。

 その程度の敵ならば何度も退けた。間違っても不覚を取るような相手では無い。だがその身に宿る膨大な魔力はそれらの要素を簡単に覆してしまうような強さを与えてしまうのだ。


 これでその相手が性根の腐った人間ならどれだけ良かった事か、非道な人物ならどれ程良かったと何度思ったか。だがそうでは無いのだ。仕えるべき主である。尊敬できる人物である。だからこそ、自らの醜い内心をこれでもかと見せつけられるのだ。



 奇襲は失敗に終わり、このまま切り結んでの戦いだと平時の訓練と変わらないと考え、改めて戦闘から離脱し木々に身を隠す。その咄嗟な行動にも反応し即座に魔法を構成して追撃を掛ける動作は見事だがその狙いはまだまだ甘い。余裕を持って回避する。

 戦闘を重ねる度、スポンジの如く学んでいく学習能力の高さは見事だが、一つ一つの動作はまだまだ拙い。上手い(うまい)戦いをするが技能としてはまだまだ未熟、戦闘の組み立て方は上手くともそれだけで負けてしまうような軟な鍛え方をしているつもりは無い。


 一定の距離を取り、木々に隠れる事で相手の認識から抜け出し、観察に徹しながら同時に休息を入れる。今回は森での遭遇戦を想定しての模擬戦なのだ。普段の訓練とは違い一度の戦いで勝敗が決するものでは無く、何度も戦闘を重ねながらの持久戦である。

 何時敵に襲われるか分からない状況で如何に体力を減らさずに戦うか、周囲を警戒するには高い集中力を必要とする。それが戦闘に慣れてない人物なら尚更だ。


 相手はこちらを警戒するあまり無駄に疲労を重ねている様だ。戦いの主導権を握っているのはこちら、視界の悪い状況で一方が相手を見失ってしまう事は大きく戦況を不利に傾ける。こういった戦いに慣れていない相手には悪いがこれも戦いだ。持久戦を想定した戦いならそれに応じた戦い方がある。


 時折弓や魔法を用いて適度に緊張感の維持させ続け集中力を削る。遺憾だが自分では相手の防御を正面から突破する事は出来ない。そのための下準備として攻撃だ。魔法は精神的な疲労によって制御能力も低下する。自分でも突破できるように疲労を重ねさせるのだ。

 ある程度削れば自分の一撃で突破できるようになる。いくら膨大な魔力を持っているかと言っても常にそれを最大に展開している訳では無いのだ。集中力を維持するために意識を傾ければその分長期的にこちらが有利になり、逆に温存すれば再び奇襲を掛ける。その際の反応如何によってはそのまま勝負を掛けてもいいし、そうで無いなら再び離脱すればいい。どちらに転んでもこちらが有利に状況は動く。


 だが、そこで相手はとんでもない行動に出た。目を瞑り座り込んでしまったのだ。目視での周囲の警戒を捨て、代わりに全ての防御を障壁に任せる。かなりの振りきった考えだが悪くは無い。優れた魔力とそれを支える緻密な技量、それらにより生み出される障壁の強度を考えるとこれを攻略するだけで一苦労だ。先程は一流と呼べるものは無いと言ったが訂正する。魔力の操作技術なら既に一流の域である。

 正面からの突破が難しいとなれば策に頼る事となる。だがその策も視界を閉じて下手な欲を出さないと示された以上最も単純で効果的なワザと隙を見せて意識を攻撃に向かわせると言うのは難しい。ワザとでも隙を探せばどれだけ決意していたとしても僅かにそれを突く事を考えてしまうのだが、隙を隙と認識しないなどという手段でそれを防がれるのは初めてである。

 本当にこういった心理戦が得意な人だ。奇策と正攻法を上手く使い分けて綺麗にこちらを詰めようとしてくる。技量での優位もそれらが通じない状況を作り上げられてしまえば無意味でしかない。


 しかもこちらを格上として認識いるからであろう油断の無さは相対する身かしてみれば溜まったものでは無い。自分が勝っている面など技量のみ、素の身体能力は勝っていても魔法による補助を含めると大きく離され、魔法の技量に関しては既に上回られている。膨大な魔力量を湯水のように使っての戦闘は鍛錬を重ねた年月の差など簡単に覆してしまうのだ。

 それなのに油断するどころか格上として少しでも勝機を上げようと試行錯誤を重ねてくるのだから手に負えない。今はまだ負けないが戦いの度にいままで鍛えて来た引き出しを出せさせられ、いずれ限界まで引き出されてしまった時は……自分に勝ちは無くなるだろう。


 亀の様に閉じこもってしまったのをどう攻略したらいい事かと頭を悩ませる。自分にあの防御を突破する方法は一つしかない。手元にある魔剣、その最大出力での一撃だ。保有魔力が平均の域を出ない自分では一撃か二撃が限界だが、代わりにあの強固な障壁も超える事が出来る程の威力を出すことが出来るのだ。だがそれは相手も分かっている事だ。そして持つべき手段から手札を切り合うような戦いは相手が最も得意とするところ、相手の土俵で戦っても良いのかと思案する。


 だが考える時間を相手は許してはくれない。ダメ押しと言わんばかりに大量のモンスターを召喚してきたのだ。別にモンスターの召喚は禁止されている事では無い。召喚する際には意識が逸れるので戦闘中は隙にしかならないからだ。

 だがこちらの意表を突く事でその時間をつくり出され、召喚を成功されてしまった。一対一から一対多へ、まだ挽回できない程では無いが、数が増えればそれだけこちらが不利になってしまうだろう。師としてはまだ負けたくない。いずれは勝てなくなるとしても未だ未熟な相手にはまだ負けたくは無いのだ。


 武器を構え、必殺の一撃を準備する。これは見せ札だ。だがただの見せ札では無い。あの防御を突破しうるだけの威力をもった見せ札である。

 こうして構えるだけで警戒心を高めさせ、他の行動への対処を僅かにでも遅らせる事が出来る。スペックで負けている。今更だ。だからどうした相手の方が強いから勝てないなど戦闘者として失笑ものの戯言である。油断しない規格外? それも今更だ。その程度理由で諦める事が出来るなら私は……騎士などにはなっていない!!

 屈しそうになってしまった心を奮い立たせて手に握る武器の存在を強く意識する。勝機はまだ残っているのだ。ここで諦めたりしたら私は私を許すことが出来ない。









 結局、戦いは引き分けに終わった。魔法障壁による鉄壁の構えからの軍勢の召喚、単純ながらにして強力な組み合わせに私は終ぞ攻め切る事は出来ずに時間切れによる引き分けとなった。だが疲労や魔力残量などを考慮すると実質的には私の負けだろう。まだまだ負けるつもりは無かったのだが……


「ふぅ……」

「おう、隊長さんどうしたよ」

「ん、ああ、遂に引き分けてしまってな……」


 言葉は足りないがこれで十分だろう。ゼロ様と模擬戦を行っている事は周知の事実である。逆に騎士団に所属してるメンバーでは行っていない方が珍しいくらいだ。

 訓練を付けて欲しいと頼まれた当初は躊躇ったが、いざ初めて見ると単純作業には文句を言わず、泣き言も言わない。それでいて試行錯誤を重ねるのだから教える側としてはこれ以上無いくらいの相手である。文句ばかりの新人にも見習って欲しいくらいだ。

 確かに自らを超えるであろう人間を育てる事に思う所はあるが、最近だと何処まで強くなるのかと期待していたりもする。嫉妬の念が消えた訳では無いが、その行く末を見てみたいと感じているのも確かなのだ。


「ああ、ゼロ様か、あの人も戦う度に新しい戦術を考えて来るから模擬戦に付き合う側としては溜まったものじゃ無いよな」

「ええ……しかもそのほとんどが初見殺し且つ隙が無いものばかり、大抵は経験不足を逆手に取ってどうにかしてきましたが最近ではそれも通じ難くなってきまして……」

「確かにな。それで今回はどんな戦術だったんだ?」

「一度距離を取ったら障壁で防御を固められ、その後は防御に秀でたモンスターを大量に召喚されていった。その後は鉄壁の構えを維持されたまま魔力を使う事を強いられて……どうにか引き分けには持っていったのだが……」

「……えげつないな。でも隊長はまだ一度も負けないってのは凄いよな。俺なんて最近は勝てる方が少ないなってるくらいだし」

「お前はもう少し頑張れよ。だが勝てない奴が増えてるのは問題だよな……俺達ももっと訓練を積む必要があるか……」

「いや待て、お前そう言って俺達の訓練を二倍近くまで増やしたよな」

「本来守るべき立場であるお前たちが負けてしまうのが問題なのだ」


 「そりゃねーよ」とか部下が呟いているが、無視して先程の戦いを思い浮かべる。

 今回の戦術は厄介だが出先を潰せば十分に勝機はある。今回の戦いの敗因は訓練だからと言ってゼロ様と距離を取ってしまった事が敗因だろう。確かに視界が悪い場での遭遇戦を想定しての戦いだったのであの判断は間違っていないが、だからといって優位であった私の方がこのままだと訓練にならないなどと言う理由で距離を取ったのは、ただの傲慢でしか無かったのだと今考えると思う。むしろあの状況で挽回する事こそ求めるべき成果であり、優位であったならそのまま攻め続けるべきであろう。

 他にも自分の方が上であると言う慢心があったのは事実だ。いずれは抜かれるが今はまだ自分の方が上であるという思考、それこそが慢心に他ならない。今回ゼロ様が使った戦術、それ自体は非常にシンプルで少し考えれば分かるものだったに過ぎない。それなのにそれを許してしまうなどと言う……まだまだ私も甘いな。


 ゼロ様の才能は素直に羨ましく思う。英雄に憧れ、そして挫折した身だがそれを理由に努力を怠った事は無い。私では英雄の名を得るには絶対的に素質が足りない。確かに技量で言うならば近いレベルにあると思うがそれだけでは足りないのだ。他者を圧倒するだけの絶対的な何かが自分は持っていない。

 雑兵に数人同時に襲いかけられても容易に切り抜ける事は出来るが、一人で戦況を変える程の強さは持ちえていない。どうしようもなく中途半端なのだ。だからこそそうなれる素質の持ち主には醜くくも嫉妬してしまう。

 だが、それでも私は騎士だ。醜くとも浅ましくとも私は騎士なのだ。初めて身近に接した主、その身を守り通す程度の事はやって見せなければ醜過ぎるでは無いか。醜悪で、みっともなく主に嫉妬を向けてしまうような愚かな私だが、その思いだけは本物である。




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