〜閑話2〜 デート?
「姫様、ゼロ様と出掛けたりはしないのですか?」
「え、必要ある?」
従者の言葉に思わず反射的にそう返してしまった。でも全く持って必要性を感じない提案なのも確かよね。視察にならゼロが定期的に出ているし、その報告も毎回受けているので私が直接出掛ける必要性を全く持って感じない。
それに私はゼロみたいに魔法障壁を常時展開し続けるような真似は出来ない。短時間ならともかく片手間で、しかも視察を兼ねながらだと流石に厳しいものがある。あれは馬鹿げた魔力量と思考能力の両方が必要になるから出来る方がおかしいのだけど……
それなら護衛をつけて……とも考えたのだけど人員不足の現状でそこまでして私が出向く必要があるかと言われたら首を傾げざるを得ない。
そう告げるとハンナは難しそうな表情をした後、確認するような口調で問いかけて来た。
「えっと……ほら、二人は婚約者と言う立場になりましたよね」
「そうね」
「それならもう少し恋人らしい事をしてもいいのではないかと思うのですよ。私の見ている限りですと二人とも仕事仕事でまともに休みが取れてない上に、休みが取れたとしても別々ではないですか。しかも会話の内容までほとんど仕事関係の話しとか正直どうかと思いますよ?」
「そう? お互いそれなりに楽しんでるのだから特に問題無いと思うけど」
「ああもう! そんなんだから仕事中毒ってみんなから言われるんですよ!! 取りあえず今日の仕事は私が何とかしますから今日は二人で出掛けて下さい!!」
「えっ、まだ今日の分の仕事は終わって無いのだけど……後私ってそんな呼び方されるの?」
「ほらほら、早く出掛ける用意してください」
「ねえ、聞いてよ……」
反論するがハンナは全く聞き耳持たず。自室に引っ張りだされ半ば無理やり服を着替えさせられた。その後も抵抗したが最後には押し切られる形でゼロと一緒に出掛ける事となってしまったのだった。
ほんと、何でこうなったのかしら?
「何でこうなったのかしら……」
「ノワールが休みの日でも全く外に出ようとしなかったからじゃ無いのか? ノワールも少しは身体を動かした方がいいと思うぞ?」
「ゼロと一緒にしないでよ。第一ゼロは何でそんな平気そうな顔してるの? 毎朝訓練に参加して終わってからは一日中仕事で正直休んでる暇なんて無いでしょ?」
「そこは疲労を回復させる魔法とポーションの併用だな。訓練の方は半分趣味が入ってるから特に辛いとは感じないしな」
ゼロはそう言ったのだけど半分強がりで言っているに決まってる。訓練内容を見させてもらったけど大半が格上との模擬戦なのだ、最近は勝ちも増えている様だけど、大抵は地べたを転がされまくっているのだという。
「正直ゼロが戦う必要性なんて全く無いのだけどね。寧ろ戦わないといけない状況にならないようにしないと」
一応無茶しないように遠回しに言ってみるけど……
「まあ、そうなんだけどな……他に比べると戦力的に劣ってるのは事実だし、そうなると俺が後方からの支援をしてくる可能性があると思わせるだけで十分役に立つはずだ。それに何をどう間違えたのか俺の事を英雄とか呼ぶ人も増え始めたからな……」
まあ無理よね。これで割と頑固な性格だし基本的には自己完結してしまう人だもの。人の意見を聞いた結果、意見が変わる事はあっても意思に反するけど意見を受け入れる事は無い。ゼロは嫌がりそうだけど独裁者の才能があるわね。
「『竜殺しの英雄』でしたっけ、まあ確かにゼロ一人でそれを成し遂げられるたかと言われたら難しいわよね」
「そうだな。でも前回みたいに異常強化された固体で無ければ遠距離から一方的に殺す事も可能かもしれないな。あそこまでの硬さが無ければ多少命中の補正に魔法の構成を振ってもいいし、逆に手数で勝負して動きを封じにいく事もできる。結論としては先手を取れればほぼ確実に勝てるけど、正面切っての戦いや、不意の遭遇戦などでは勝てないといった所か……」
「自信があるのか無いのか分からない発現ね。もっと頑張るとか、そういうのは無いの?」
「俺にそういうのを求めるなよ」
状況さえ揃えればドラゴンをほぼ封殺できると言った癖に、正面切っての戦いなら勝ち目が無いと言い切ってしまう。戦いに身を置く人は誰でも自負の様なものを持っているのだけどゼロにはそんなもの欠片も無いみたいだ。
これはゼロが自分の魔力量の多さからくる強さを自分の強さとは別のものとして考えてるからでしょうね。よく『後付けされた才能』とか、『自分の力では無い』とか言ってるものね。天狗になられて無茶されるよりはいいけど、それを十全に扱う為にゼロがしている努力を知ってる身からすると何とも言い難いのよね……
「そう言えばゼロは仕事は大丈夫なの?」
「一応今日は休日の予定だったからな。ノワールの方こそ大丈夫なのか? 確かそれなりに残ってたように思えるが……」
「何だから知らないけどハンナに奪われてね……どうせ後で見直さなければならないから結局二度手間なのに」
「まあそれでも好意は素直に受け取っておいたら。こうして二人で出掛ける機会なんて滅多に無いんだから」
「それもそうね。それで今日は何処に行くつもりなの?」
「商業区の方を見て回ろうと考えてる。最近発展が著しいから問題が起きて無いかの視察も兼ねてだがな。ノワールの意見を聞けるのは貴重だし」
「別に割と話してるじゃない」
「それでもノワールが外に出る機会は少ないから、実物を見ながら話すのは貴重だろ?」
「それもそうかもね。でも人を引き籠もりみたいに言わないで欲しいのだけど」
「事実だろ」
バッサリそう言われてしまうと流石の私も少しムッとしてしまう。確かにあまり外に出ないかもしれないけど、それは安全上の問題であって私が出不精という訳では無いのだと切に言いたい。少々やり返したくなったので先程からきになっていたのを少しきつめに告げる事にした。
「ゼロも外に出ないって面では人の事言えないじゃない。それにその服、視察とか言いながら完全に遊びに行く服装じゃない」
「休日なんだから構わないだろ。それに見た目はともかく素材自体はそれなりにいい物を使ってるから問題無い筈だ」
「そうね。でもその見立ては誰にして貰ったの? ゼロの好みと少し違うわよね?」
ただ少し加減を間違えてしまう。これだと完全に喧嘩になってしまう。何だかんだいってゼロと二人で出掛けるのは嫌では無く、偶にはゆっくり過ごすのもいいと考えていたのに……
最近などうも感情の制御が甘くなっている気がする。そのせいでハンナに『ポンコツ姫様』とか呼ばれる羽目になるのだ……
確かに今日のゼロの服装は本人の好みとは少し違う。どちらかと言うと『ゼロに似合いそうな服を他の女性が選んだ』と思われる服装である。
でも多分だけど犯人はハンナだろう。何故か知らないが今日の外出に無駄に張り切っていた様子だからゼロの方にも何か迷惑を掛けたに違いが無い。ただこの不穏な状況をどうしましょうか……少しムッとしたのは事実だけど現実に喧嘩を売ったのは確実に私だ。だけど直ぐに謝るのも難しいし……
「……はぁ、悪かったな」
「こっちも大した事でも無いのに少しムキになってたわね」
些細な事で始まってしまった軽い口喧嘩はゼロが素直に謝った事であっけなく終わりを迎えた。元々お互い特に怒っていた訳でも無く、軽い言い合いをした後はせっかくの休日をこんな事で潰すのはどうなんだろう……とお互い漠然とそう考えた結果、先に切っ掛けを作ったゼロが謝り、私もそれにつられた形で謝る事で収束したのだった。
「……ほら、お詫びの品じゃ無いけど」
「ええと……ありがとう?」
ゼロが渡して来たのは銀色装飾がされたブレスレットだった。酷いと思うけど、そこまで気が利くタイプでは無いと思っていたゼロの予想外なプレゼントに驚き反応が遅れてしまった。でも確実に実用品の類でしょうね。ゼロだもの。
「これは自動発動型の障壁魔法が内蔵されたマジックアイテムだ。使用者の魔力を強制的に吸い上げるから限度はあるが、まあ無いよりはマシの筈だ」
ほら、やっぱり。
本人は無いよりはマシと本人は言っているけど、完全に国宝級の代物よ? 身を守るタイプのマジックアイテムは稀少で自動発動ともなれば各国の王ですら持っているが疑問である。多分というか確実にダンジョンコアを使って作ったのでしょうけど……今更ながらダンジョンマスターっておかしいわよね。ゼロと一緒に居ると私まで感覚が狂いそうで困るわ。
でも嬉しいと感じるのは事実なので頬が緩みそうになるのを押し殺してお礼を言って置く。それに対して素っ気なく返されてしまったけど、内心がバレずに済んで安心と言った所か。
上手く和解できたので改めて二人で商業区の方に向かった。そこからは普通に外出を楽しんだ。基本やりたい事は屋敷内で済んでしまうと言っても偶には外で買い物を楽しんだりしたいと思う事もある。
色々見て回ったり、独自の商業を始めたりしてるのを聞いてみたりとそれなりに楽しんだ。勿論視察の件も忘れた訳では無く片手間ながらしっかりとこなした。二人で討論しながらの視察と言うのも新鮮で中々に楽しかった。
最近では勧誘も活発化して人も増えてきたので珍しいものが多くなってきた。この様子だと近い将来お父様を始めとする人たちも勧誘できそうね。
「次はここにするか」
「ここは酒場……だったわよね」
「まあでも時間帯もあって今は空いてるだろうから少し話を聞こうと思ってな」
「いいかもね。確かここってゼロがお酒を卸してる所だったでしょ?」
「まあな。まだ国内で酒造できるような状況じゃあ無いからな……」
「急激すぎる発展による歪みね。まだ満足に生産出来ていない作物も多いものね……」
歩いていく中、ゼロの意向で建てられた酒場を見つけたので少し話を聞いてみようという話しになり店に入った。そして店長を任せているに人に店の収益や客層、問題など無いかの話を聞いてから、店長の好意で少し休ませて貰う事になったのだ。
まあ店長からしてみても店を任されてる限り生活に困る事は無いのだからゼロの機嫌を取る意図もあるのでしょうけどね。
そして店内でしばらく休憩していると、少し離れた所の席で座ってるグループが俄かに騒がしくなり始めた。どうやら麻雀をしているようだ。
そうなるとゼロが少しだけそわそわしだしたのでもう少し休んでるから見て来たら?と言っておく。ゼロは麻雀に限らず盤上遊戯全般が好きなようだから気になったのでしょうね。
私もゼロと二人しか居なかった頃にはそれなりにやったけど、全然勝てなかったわね。まあ初心者なのだから仕方が無いとも思うけど。
それで麻雀は四人用の遊戯だから私はやったことは無いのよ……二人用の遊戯ならゼロに付き合ってメジャーなのは一通りやったと思うのだけどね。
でも確かゼロが「点数計算以前に数字を覚えさせることから始めないといけないとは……」とか呟いてたわね。ゼロがそういった遊戯を広める理由は単純に対戦相手が欲しい。などという少し不純な考えが理由だけなのだ。まあとは言っても実際にした行動は道具と説明本を安値で売った事くらいしか無いのだから、大した問題では無いのだけどね。
それにダンジョンマスターと言う悪いイメージが付き纏うゼロに人間味を持たせると言った意味では悪くは無いし……っとこれは少し話がズレてるわね。
席で出された飲み物(お酒では無い)を飲みながら周囲を眺めていると難しい顔をしたゼロが戻って来た。
「どうかしたの?」
「いや……どうも奥の男がイカサマしてるみたいでな……」
「大丈夫なの?」
「大丈夫じゃ無い。別にそれが悪いとは思わないが賭け事でのそれをやると完全に遺恨が残るだろ……はぁ、世界が変わっても人が考える事は基本変わらないんだな」
どこか呆れた風にゼロはそう言うけど、下手したら争い事にも発展しかねない。どうするのかをゼロに問うと少し気まずそうな雰囲気を出して私に参加しても良いかと聞いて来た。こうやって提案して来ると言う事は上手く解決する方法があるのでしょう。でも不満なのは確かなので少し不満そうな雰囲気を出しながら許可しておいた。
これならイカサマの件はゼロに任せておけばいいわね。そうなると問題なのは私が終わるまでどうすればいいか、麻雀がどの程度の時間で終わるかは分からないけど少しの間暇になる事は確かだ。
そうして少し考えた末に出たのはゼロの様子を見に行くと言う事だった。思えば麻雀がどのような物なのか実際には見たことは無かったのでいい機会だと考える事にしたのだ。
まだゼロが立ち去ってから飲み物を一杯飲む程度の時間しか経っていない。麻雀が一ゲームどの程度の時間が掛かるかは知らないが、流石にまだ終わっては無いだろう。
「それだロン。大三元役満、32000」
「なっ……それは……」
「どうしたんだ?」
と、思ったのだが既に終わってしまったようだ、見た感じだとゼロが勝ったみたいね。まああの様子だと負けるとは思って無かったけど。
「終わったの?」
「ん、ああ、いきなり大きなのを仕掛けて来たから思いのほか早く終わったよ」
「っ!!」
ゼロの発言に男がゼロの事を凝視する。今の発言から察するに多分何かしらの方法を使ってゼロは男が仕組んだ手を奪ったのでしょう。男の方は忌々しそうにゼロの事を睨むがゼロの方はどこ吹く風だ。まるっきり眼中に無さそう。
まあ終わったみたいだしもういいでしょう。そこまで長居した空気では無いし早く外に出ましょうか。
「そう、ならそろそろ行きましょうか」
「そうだな……ああ、ちょっと待ってくれ。そっちの、そうお前、話があるからついて来てくれ」
立ち上がったゼロが近くで男を睨んでた子供に声を掛け席を立つ。そう言えばこの子は? 酒場に居るにしては若すぎる気もするし……
素直に着いて来るみたいだしその時に話を聞きましょうか。
「で、お前名前は?」
「…………テアン」
「そうかテアン。まずはこれだな。さっき取られた分のお金」
「……チッ」
「まずは『ありがとう』だろ」
「痛ッ」
ゼロがテアンの頭を軽くはたく。そうすると余計不機嫌になったようでゼロまで睨み始める。それにしても目つきが悪い子供ね。ゼロだから平気だけど普通なら不興を買って何を言われるか分からないわよ。
「こいつはさっきの奴にカモにされてたんだ。……それでお前は何で賭けなんてやってたんだ? 後街では見かけない顔だな。何処から入って来た?」
前半は私に、後半はテアンって子に対しての言葉だ。それにしてもいつもより少し言葉が荒いわね。同性が相手だから?
聞いている内容は、遠回しだがこの子供の身元に関する事みたいだ。ホントに素直じゃ無いと言うか偽悪的と言うか……
「うるせぇ! お前には関係ないだろ!!」
「関係はある。勝手に入って来られると困るし、その侵入経路は確認しないといけないからな。答えない様ならこのまま詰め所に連れて行くから」
「……ッ、扉だよ扉! 変な扉があったから入ったらここに繋がってたんだよ!!」
「……扉? ああドラゴンが攻めてきた際に作った非常口か。見張りは立ててた筈だがそれは?」
「兵士のおっさんなら、忙しそうにしてたから簡単に入れたよ!! それよりもういいだろ!! さっさと離せ!!」
「……断る。もう一つの質問にも答えて貰わないとな」
「ああもう!! 金が要るんだよ!! 金がねぇと飯が食えないんだから!!」
ゼロに拘束されたまま話を聞くと、この子が居た村が不作と前回の戦争が理由で口減らしが行われ、村を追い出されたらしい。その際、村での噂で近くにダンジョンマスターが街を作ってるという話を聞いて、『このまま野垂れ死ぬくらいなら』と噂を頼りにここまで来たのだと言う。最近難民の受け入れが多いから見張りの方も人手が足りていないみたいね……
「……そうか、でお前は今何か仕事をしてるのか?」
「……幾つかの店で雑用をさせて貰ってる。だけど全く足りねぇ」
「足りない? 賃金が低いのか?」
「……俺以外にも何人か似たような奴が居るんだよ。そいつらは俺より小さいから俺が面倒を見ないと生きてけねぇし」
「……そうか」
「何だよ。同情なら要らねぇからな」
「別に同情する気は無い。ただお前みたいのが増えると治安が悪くなるんだよ」
凄いめんどくさそうにゼロが告げるとテアンは『なんなんだよ……』と呟いた。分かりにくいけどゼロのこれは演技だからね。まあ自分では本気でそう考えてると思い込んでいるのでしょうけど。まあこの子の性格からして下手にそういった感情を見せるとヘソを曲げそうだしこの対応で間違ってないでしょ。
「で、お前ら何人くらい居るんだ?」
「……6人」
「そうか、なら孤児院を建てるからお前らそこに住めよ。街の裏なんかで寝泊まりしてるようなら捕まえるから」
「勝手に決めるなよ!!」
「俺の方が偉いからな。それより管理の人間をどうするか……はぁ、まだ街に浮浪児なんて居なかったから孤児院については後回しで良かったのにな」
「聞けよ!!」
テアンはそのまま屋敷まで連れられ風呂に投げ込まれ、薄汚れた格好と身体をどうにかしてから話し合いと言う名の聞き取りを強行され、そのまま孤児院に住む事を強制されるのだった。
まあ結果としては食事と住処については困る事は無くなったのだから悪い事では無いでしょう。
「それにしてもトラブル続きで全くゆっくり出来なかったな」
「仕方が無いでしょ。それに結果としてそれなりに楽しかったのだから悪くは無かったと思うわよ?」
「まあそれもそうか」
全くの余談だけど、帰った後街で聞いた話を纏めた紙を見せたら盛大に呆れられた。何で二人そろって休日まで仕事をしてるのかだそうだ。……ゼロはともかく私は本来休みの予定では無かったのだから、別に悪い事じゃ無いでしょ。だから仕事中毒扱いは辞めて欲しいのだけど……




